巨体の人外に助けられて世話される話
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あれからルドガーには、守護者と会話したことを伝えた。
彼は驚いていたが、あなたの満たされた表情から、不穏なことは起こらなかったと安心したようだ。
「では、いつか守護者とも会えそうなんだな。よかったな、名無し」
「うんっ。なんだか独特な立場にいそうな人だけど、だいぶ打ち解けてきたし、怖くはないと思うよ」
守護者との会話で感じた信頼から、そんなふうに楽しく話す。
暖炉前に横たわるルドガーの毛並みに寄りかかり、すっかりのんびりしていた。
「……確かに俺達の時間を、まあまあ尊重してくれているような雰囲気はあるよな」
「でしょうっ? だからきっとうまくいくよね」
あなたがまとう幸せなオーラは、二人の幸せな未来への想像に基づいている。
そんな感情が、そばにいるルドガーにも確かに伝わっていた。
このログハウスでの生活も十日が過ぎた頃。今日は特別なゲストが来てくれるという。
あなたは部屋を掃除し、綺麗な服に着替える。ルドガーもブラッシングをして身だしなみを整え、二人で彼の到着を待った。
別荘の外に馬車が停まり、笑顔で歓迎する。
上品な所作で降りてきたのは、ベージュの軍服姿の虎獣人セヴァである。
彼はあなた達を見るなり、青く丸い瞳を細めて手を上げた。
綺麗に整った白毛に、虎の丸い耳。背が高くがっしりした体格で、軍服の後ろからは細くふわっとした尻尾が器用に立っている。
「やあ名無しさん、ルドガー。久しぶりだね。元気だったかい?」
「セヴァさん! 元気ですよ、またお会いできてうれしいです。本当にどうもありがとうございました、こんなに素敵なお家に泊まらせていただいて!」
明るく挨拶すると、彼も二人の滞在が滞りないことを喜んでくれた。
「セヴァ。世話になったな。ここは素晴らしい場所だ。俺達が安全に過ごせる」
「そうだろう、よかったよ。なに、二人の大切な友人のためだ、いくらでも力になろう」
そんな風に言ってもらい、あなたは感激に瞳を揺らした。
多忙な彼は軍での職務の合間に立ち寄ってくれたらしく、森を散策がてら話をすることになった。
どうやらセヴァは、二人に見せたいものがあったようだ。
天気のよい日に深い森を三人でゆっくり進んでいく。
人間に大型獣、虎族という面白い組み合わせだったが、会うのは数回目だしあなたは楽しく過ごせていた。
「二人が騎士団の寮で暮らしていると聞いて驚いたよ。本当は俺の屋敷で話したように、ゼイラン様に謁見の手筈を整えていたんだが、あの人の自由さは止められないよな、ルドガー」
「ああ。相手の隙を突くのが好きだからな。だがそれが彼の良さでもある。戦闘では見習いたいところだ」
ルドガーが落ち着いた声でそう言うと、同じ軍人のセヴァは小気味よく笑った。
「ねえルドガー、軍と騎士団って、雰囲気が違うの?」
道が狭まり、葉を避けるために前を歩いてくれるルドガーに、ふと後ろから話しかけた。
すると彼は立ち止まり、獣の顔を頷かせる。
「そうだぞ。その二つは仲が悪い」
「ええっ」
「おいおい、ストレートに言いすぎだぞ。隊長としてはフォローが難しくなるだろう」
「本当のことだろ。…名無し、簡単に言うとな。軍の奴らはもっと顔が怖い。規律も厳しく、騎士の連中がぬるま湯の坊ちゃんたちに見えるんだ」
ルドガーが皮肉めいて言うと、セヴァは苦笑した。だが否定もしないらしい。
だが何も知らないあなたは、くすくすと笑った。
「坊ちゃんって。ルドガーもセヴァさんも立派なおうちの坊ちゃんじゃないの? 優しくて、紳士的な振る舞いは騎士さんたちと同じに見えるけどね」
遠慮なく返すと、セヴァは大きな声で吹き出していた。
ルドガーは何も言えず、反応に困っているようだ。
「くくくっ……名無しさん、君は鋭いな。今の意見は全員に聞かせてやりたいよ」
大人で落ち着いた物腰の彼の笑いを誘い、あなた自身も肩を揺らす。
ゼイラン軍は多種族が所属していて、ほとんどが貴族の男性らによって成り立っているらしい。
騎士団はもう少し柔軟で、魔族の中でも精鋭が集まっているが、ゼイラン軍の軍人達は、さらに帰属意識が高いのだそうだ。
「ふっ、まあいい。名無しは軍人のほうが好きなんじゃないか?」
誰よりも誇り高いルドガーが、狼や獅子にも似た凛々しい顔立ちを構え、あなたに正面から尋ねてくる。
「うーんそうだね。軍人っていうより、ルドガーが好き。もし騎士だとしても、関係ないかも。だってあなたなんだもん」
結局あなたはそれが言いたくて、ルドガーの艶のある長毛にぎゅっと抱きつく。
人前だったけれど、気持ちは抑えきれなかった。
するとルドガーは、また静かになった。
瞳をぱちぱちと動かして、黒いまつげが少し伏せられる。
いつもは立っている三角の獣耳は、くたっと下がった。
「……嬉しいぞ。だがこいつがいると、照れづらい。そういうことは後で言ってくれ」
完全に照れてしまっているルドガーに、あなたが笑う。
腕を組んで二人を眺めているセヴァも、優しい年長者の顔つきをしていた。
やがて森の少し歩いたところに、泉を発見する。
数メートルほどの高さから滝が落ちてきて、その水流も周りの幻想的な草花も、一目見て心が奪われた。
「わああー、綺麗なとこだ~! 見てみてルドガー、水も透き通って綺麗だよ、ここ最高だねえ」
「本当だな。まるで絵本の中みたいだ。セヴァ、お前はよくここでメスを口説いているのか?」
普通に疑問を聞いてきたルドガーに、セヴァはゴホゴホとせき込む。
「そんなわけないだろう。ただ二人に見せたかっただけだよ、この季節はとくに美しいからな」
気を取り直し、彼は真面目な顔で理由を話す。
もうルドガーとあなたは、新しい場所を見つけた喜びで、仲良く水際で遊んでいた。
「ふふふっ、たのしー! ぱしゃぱしゃできるよ!」
「ははっ、こっちにかけすぎだぞ。……あっ、おい名無し、足元に気をつけろ」
景色にはしゃいだあなたは、少し彼から離れたところで手を水にもぐらせ、両手で跳ねさせていた。
すると靴が後ろの小石に当たり、背後によろけそうになった。
「わああ」
やばい、転んでしまう――
そう思ったとき、ルドガーはすぐに駆けだして自分が下敷きになってでもあなたを助けようとした。
だが実際は、近くにいたセヴァがとっさに腕を伸ばし、あなたの腰付近をそっと支えて抱き起こした。
「す、すみません~はしゃぎすぎちゃった」
「大丈夫かい? 怪我はないかな」
まさに紳士的に声をかけ、微笑んだセヴァに、あなたは頭をかきながら自分のドジを反省する。
たったそれだけの出来事だったが、二人の対面で獣のルドガーは、その場に立ち尽くしていた。
小柄なあなたの体格を軽々と支える、長い手足と逞しい体躯。
今は彼が持っていないものだ。
「…………」
自分の獣の体を見下ろし、悔しい気持ちがわいてきた。
だがルドガーはじっと我慢し、決意をする。
もうすぐだ。
もうすぐあなたの小さな肩を、この腕で支えられる。
そしてやっと、この両腕で抱きしめられる。
そう信じて、ルドガーは耐え忍んでいた。
彼は驚いていたが、あなたの満たされた表情から、不穏なことは起こらなかったと安心したようだ。
「では、いつか守護者とも会えそうなんだな。よかったな、名無し」
「うんっ。なんだか独特な立場にいそうな人だけど、だいぶ打ち解けてきたし、怖くはないと思うよ」
守護者との会話で感じた信頼から、そんなふうに楽しく話す。
暖炉前に横たわるルドガーの毛並みに寄りかかり、すっかりのんびりしていた。
「……確かに俺達の時間を、まあまあ尊重してくれているような雰囲気はあるよな」
「でしょうっ? だからきっとうまくいくよね」
あなたがまとう幸せなオーラは、二人の幸せな未来への想像に基づいている。
そんな感情が、そばにいるルドガーにも確かに伝わっていた。
このログハウスでの生活も十日が過ぎた頃。今日は特別なゲストが来てくれるという。
あなたは部屋を掃除し、綺麗な服に着替える。ルドガーもブラッシングをして身だしなみを整え、二人で彼の到着を待った。
別荘の外に馬車が停まり、笑顔で歓迎する。
上品な所作で降りてきたのは、ベージュの軍服姿の虎獣人セヴァである。
彼はあなた達を見るなり、青く丸い瞳を細めて手を上げた。
綺麗に整った白毛に、虎の丸い耳。背が高くがっしりした体格で、軍服の後ろからは細くふわっとした尻尾が器用に立っている。
「やあ名無しさん、ルドガー。久しぶりだね。元気だったかい?」
「セヴァさん! 元気ですよ、またお会いできてうれしいです。本当にどうもありがとうございました、こんなに素敵なお家に泊まらせていただいて!」
明るく挨拶すると、彼も二人の滞在が滞りないことを喜んでくれた。
「セヴァ。世話になったな。ここは素晴らしい場所だ。俺達が安全に過ごせる」
「そうだろう、よかったよ。なに、二人の大切な友人のためだ、いくらでも力になろう」
そんな風に言ってもらい、あなたは感激に瞳を揺らした。
多忙な彼は軍での職務の合間に立ち寄ってくれたらしく、森を散策がてら話をすることになった。
どうやらセヴァは、二人に見せたいものがあったようだ。
天気のよい日に深い森を三人でゆっくり進んでいく。
人間に大型獣、虎族という面白い組み合わせだったが、会うのは数回目だしあなたは楽しく過ごせていた。
「二人が騎士団の寮で暮らしていると聞いて驚いたよ。本当は俺の屋敷で話したように、ゼイラン様に謁見の手筈を整えていたんだが、あの人の自由さは止められないよな、ルドガー」
「ああ。相手の隙を突くのが好きだからな。だがそれが彼の良さでもある。戦闘では見習いたいところだ」
ルドガーが落ち着いた声でそう言うと、同じ軍人のセヴァは小気味よく笑った。
「ねえルドガー、軍と騎士団って、雰囲気が違うの?」
道が狭まり、葉を避けるために前を歩いてくれるルドガーに、ふと後ろから話しかけた。
すると彼は立ち止まり、獣の顔を頷かせる。
「そうだぞ。その二つは仲が悪い」
「ええっ」
「おいおい、ストレートに言いすぎだぞ。隊長としてはフォローが難しくなるだろう」
「本当のことだろ。…名無し、簡単に言うとな。軍の奴らはもっと顔が怖い。規律も厳しく、騎士の連中がぬるま湯の坊ちゃんたちに見えるんだ」
ルドガーが皮肉めいて言うと、セヴァは苦笑した。だが否定もしないらしい。
だが何も知らないあなたは、くすくすと笑った。
「坊ちゃんって。ルドガーもセヴァさんも立派なおうちの坊ちゃんじゃないの? 優しくて、紳士的な振る舞いは騎士さんたちと同じに見えるけどね」
遠慮なく返すと、セヴァは大きな声で吹き出していた。
ルドガーは何も言えず、反応に困っているようだ。
「くくくっ……名無しさん、君は鋭いな。今の意見は全員に聞かせてやりたいよ」
大人で落ち着いた物腰の彼の笑いを誘い、あなた自身も肩を揺らす。
ゼイラン軍は多種族が所属していて、ほとんどが貴族の男性らによって成り立っているらしい。
騎士団はもう少し柔軟で、魔族の中でも精鋭が集まっているが、ゼイラン軍の軍人達は、さらに帰属意識が高いのだそうだ。
「ふっ、まあいい。名無しは軍人のほうが好きなんじゃないか?」
誰よりも誇り高いルドガーが、狼や獅子にも似た凛々しい顔立ちを構え、あなたに正面から尋ねてくる。
「うーんそうだね。軍人っていうより、ルドガーが好き。もし騎士だとしても、関係ないかも。だってあなたなんだもん」
結局あなたはそれが言いたくて、ルドガーの艶のある長毛にぎゅっと抱きつく。
人前だったけれど、気持ちは抑えきれなかった。
するとルドガーは、また静かになった。
瞳をぱちぱちと動かして、黒いまつげが少し伏せられる。
いつもは立っている三角の獣耳は、くたっと下がった。
「……嬉しいぞ。だがこいつがいると、照れづらい。そういうことは後で言ってくれ」
完全に照れてしまっているルドガーに、あなたが笑う。
腕を組んで二人を眺めているセヴァも、優しい年長者の顔つきをしていた。
やがて森の少し歩いたところに、泉を発見する。
数メートルほどの高さから滝が落ちてきて、その水流も周りの幻想的な草花も、一目見て心が奪われた。
「わああー、綺麗なとこだ~! 見てみてルドガー、水も透き通って綺麗だよ、ここ最高だねえ」
「本当だな。まるで絵本の中みたいだ。セヴァ、お前はよくここでメスを口説いているのか?」
普通に疑問を聞いてきたルドガーに、セヴァはゴホゴホとせき込む。
「そんなわけないだろう。ただ二人に見せたかっただけだよ、この季節はとくに美しいからな」
気を取り直し、彼は真面目な顔で理由を話す。
もうルドガーとあなたは、新しい場所を見つけた喜びで、仲良く水際で遊んでいた。
「ふふふっ、たのしー! ぱしゃぱしゃできるよ!」
「ははっ、こっちにかけすぎだぞ。……あっ、おい名無し、足元に気をつけろ」
景色にはしゃいだあなたは、少し彼から離れたところで手を水にもぐらせ、両手で跳ねさせていた。
すると靴が後ろの小石に当たり、背後によろけそうになった。
「わああ」
やばい、転んでしまう――
そう思ったとき、ルドガーはすぐに駆けだして自分が下敷きになってでもあなたを助けようとした。
だが実際は、近くにいたセヴァがとっさに腕を伸ばし、あなたの腰付近をそっと支えて抱き起こした。
「す、すみません~はしゃぎすぎちゃった」
「大丈夫かい? 怪我はないかな」
まさに紳士的に声をかけ、微笑んだセヴァに、あなたは頭をかきながら自分のドジを反省する。
たったそれだけの出来事だったが、二人の対面で獣のルドガーは、その場に立ち尽くしていた。
小柄なあなたの体格を軽々と支える、長い手足と逞しい体躯。
今は彼が持っていないものだ。
「…………」
自分の獣の体を見下ろし、悔しい気持ちがわいてきた。
だがルドガーはじっと我慢し、決意をする。
もうすぐだ。
もうすぐあなたの小さな肩を、この腕で支えられる。
そしてやっと、この両腕で抱きしめられる。
そう信じて、ルドガーは耐え忍んでいた。
