巨体の人外に助けられて世話される話
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あなたのサポートにより、最近のルドガーは変化していた。
騎士たちの意見も少しは聞くようになり、任務での器物破損もまあまあ減ったようだ。
そして一番は、彼が自分で報告書を書くようになったことだった。
任務からの帰宅後、彼は机に向かい、真剣な顔で書類作成をしている。
横で見ていたあなたは、仕上がりを褒め称えた。
「わあすごい~。簡潔で分かりやすい! それにルドガーって、意外と字うまいよねえ」
「意外と……? 昔ゼイラン様の屋敷でみっちり教育を受けたからな。普段は字なんて書かないが」
それでどうやって生活してきたのだろうと思ったが、彼も仕事を終えたことに満足気だ。
「お前のおかげだ、名無し。ああいう感じなら俺にも書けそうだと思った。今までは難しく考えすぎてたのかもしれないな」
素直にそう言い、晴れやかな表情であなたを自分の膝の上に乗せる。
後ろから抱きしめられて、彼の気持ちの変化にとても嬉しくなった。
あなたもまだ騎士から時折要望を受けたりして、橋渡しとしての役割は続けていくと思うが、一番はルドガーが納得して仕事に向き合えることが大事なのだ。
「ふふっ。よかったなぁ。これからも頑張ろうね、ルドガー」
「ああ、一緒に頑張るぞ」
そう頷いた彼の笑顔は、騎士団で一人で働いていた頃からは、想像ができないものだっただろう。
彼の変化はもうひとつあり、ある日出発する前にこんなことを言った。
「今日は討伐任務があってな、帰るのはきっと遅くなるはずだ。先に寝ていていいからな」
「そうなの? わかったよ、でも気をつけてね」
そう言われてぎゅっとハグをする。
今までは任務のことはなるべく秘密にしていた彼だが、あなたにも教えてくれるようになった。
彼が強いといっても心配は残るけれど、毎日ちゃんと帰ってくるし、そんな日々の経験があなたの心も強くしていた。
だが、その日は異変が起きた。
日付が変わってもルドガーは帰宅せず、少しだけ不安がつのる。
彼は軍人で、主人のゼイランも前に「命を脅かすほどの強敵はしばらく現れていない」と言っていた。
騎士団ではそもそも皆強い魔族の精鋭たちが一緒なのだから、問題はないだろうけれど。
「うーん、うーん。……寝れないや……」
広いベッドで何度も寝返りをうち、寝間着姿のあなたは起き上がってガウンを羽織った。
寮は静かだが他の騎士も住んでいるため、怖くはない。
でもあなたはひとりでにルドガーの姿を探した。
濃い紫がかった闇夜のバルコニーに出て、冷たい息を吐く。
こんな寒い夜に、ルドガーは戦っているのかな。
しんみりとして、ちょうど建物の下に広がる手入れの行き届いた芝生を見つめた。
するとそこに、普通あるはずのない黒い物体の影が見えた。
「ん……? なにあれ……」
疲れ目をこらすと、大きな塊はじっとそこに座っていて、ピンと三角の耳みたいなものが立っている。
その時だった。
いきなり部屋のドアをドンドン!と強く叩かれたのは。
あなたは心臓が止まりそうになり、急いで踵を返して玄関へ向かう。
思い出したのは自分の病気の休暇中のときに、騎士がやってきてルドガーに任務要請をした時のことだ。
それよりも強く叩く音に聞こえた。
「は、はい、どうしたんですか。まさかルドガーになにか……っ」
「名無しさん、大変です! 来てください!」
前のめりに立っていたのは従者のマルグだ。
あなたはガウン姿で、わけがわからぬままついていった。
どうしよう、大切な彼に何か起こったのかもしれない。
涙ぐみながら、あなたはそのまま寮舎の外に出た。裏側にまわり、さっきまでバルコニーから見下ろしていた芝生に出る。
広々としたそこは真っ暗闇で、マルグが明かりを持って近づくと、信じがたいものを映し出した。
黒くキラキラと輝く長毛が、荘厳とした筋肉質な体躯を包んでいる。
凛々しい黒角とともに三角の獣耳がピンと立ち、こちらをじっと大型の獣が見つめていた。
「え…………ルドガー……なのっ!?」
あなたはなぜ獣姿の彼がここにいるのか混乱したが、とにかく彼に飛びつき、一生懸命大きな体を触って確かめようとした。
「どうしたの! 任務で獣になったの!? 怪我したとかっ? 大丈夫なの!?」
手探りで深く潜るように毛の中を触るが、恐ろしいことが起きた。
自分の小さな手のひらに、ごっそりと深青の毛の塊があったのだ。
「ああああっ! 毛が取れちゃったよ、ごめんっ!!」
そんなに弱っているのだと、あなたは完全に青ざめて騒ぎ出す。
すると近くで金色の暗く丸い瞳に見つめられた。
まつげが長い神秘的な姿だが、どこか寂し気だ。
「名無し……。それは俺の毛だ。落ち着け、病気じゃない」
大きな獣からルドガーの声が聞こえてきて、一気に安堵する。
だが彼は続けてこんなことを明かした。
「すまん。この姿から戻れないんだ」
「……どうして!?」
「これから毛がたくさん抜ける。獣の毛が生え変わる、換毛期に入ってしまった」
くっ、と無念な感じに述べられ、あなたはぱっちりと目を開けたままになった。
それは予想外の言葉だった。
手に掴んだ上質な絹糸のような獣毛を見下ろし、じわじわと胸を撫で下ろしていく。
「な、なんだ……そうだったの。ごめん、全然知らなくて。これって、普通? よくあることなの?」
動物の生態に詳しくないあなたは、彼に落ち着いて尋ねる。
「ああ、一年に一回こうなる。普段はもうすぐかと察知するんだが、今年は急に来てしまった。今日は任務で獣化していてな。暴れると抜け始めたから、気づいたんだ」
大きな頭を垂らし、狼に似た細い鼻先を悔いるように擦りつけてくる。
あなたは瞳を柔らかくして、彼の鼻筋に優しく触れた。
「そっか……びっくりしたよね。……でもよかったよ。あなたが無事で」
「ああ……ちゃんと帰ってきたぞ。……だが、問題があるんだ。部屋にもこのままじゃ入れない」
そういえば、さっき彼が「この姿から戻れない」と言っていた。
話を聞くと、魔力を体に巡らせ、毛の生え代わりを安定させるために、換毛期の時期はずっと獣化していなければならないそうだ。
その長さは、二週間以上にも及ぶらしかった。
「え! じゃあルドガー、どこにいるの? 騎士団って人化してないと歩いたりできないんだよね」
「そうだ。だから俺は毎年、ゼイラン様に特別休暇を与えられて森へこもるんだ。それが終わればまた戻ってくる」
衝撃の事実にあなたは愕然とし、胸騒ぎがまたぶり返した。
「え、でもまさか一人で行かないよね? 行っちゃやだよ!」
「……し、しかし、俺はその間人化が出来ない。こんな姿で過ごしても、お前はつまらないだろう?」
くーんと鳴きそうな瞳で見つめられ、心がしめつけられる。
「つまらないわけないでしょう、私はあなたの番なんだよ。どんな姿だって一緒にいるもん。一人で行くなんて絶対ダメだからね」
自分の体が何人分も入ってしまいそうな広い体躯に、あなたは掴まって離れないようにする。
「…………名無しっ! ……だが本当に、いいのか? お前を抱きしめたりすることも出来ないんだぞ」
「ふふ、それは少し寂しいけど、私が抱きしめてあげるから大丈夫だよ。ね?」
笑顔で伝えると、獣の彼もだんだんと力が抜けるように、表情が和らいだ気がした。
そんな二人の心温まる姿を、邪魔にならない位置でマルグが明かりを照らし、待っていてくれていた。
あなたが我に返り振り向くと、彼は優しい笑みで佇んでいる。
「あっ!! お待たせしてすみません、マルグさん!」
「いえ、全然大丈夫ですよ。本当によかったです。……あの、ではどうしましょうか。ルドガーさん、今回はどこで過ごされますか?」
「そうだな……俺がいつも行く魔界の森は、名無しを連れていくには危険すぎる。……ゼイラン軍の部隊長のセヴァに頼んで、休暇用の別荘を借りるか。……すまん、マルグ。彼に連絡を取ってくれるか?」
ルドガーからほぼ初めて頼られ、従者のマルグは顔を一段と明るく輝かせた。
「はい、もちろんです! すぐに要請してみましょう!」
彼はあなたに明かりを渡してくれ、さっそく事務局に駆け戻って行った。
急なことにも対応してくれて、本当に感謝しかない。
だが残されたあなたとルドガーは、互いを見つめ合い、また悩み始めた。
「ルドガー、まさか今日は外にいるの?」
「そうだぞ。仕方がないからな。俺は厩舎にでも行って寝てくるさ」
四つ足を起こし、優雅に立ち上がると、彼の身長はさらに大きくなりあなたは息を呑んで見上げる。
人化したルドガーもかなりの巨体だが、本物の獣はスケールが違った。
だがまったく怖くはない。
獣化した彼は求婚のときに一度見せてもらったきりだけれど、あのときの気高く優しい印象と、一緒にいたときの安心感は消えることはないのだ。
「やだやだ。私も同じとこで寝る。待って、明日からの荷物準備したら戻ってくるね」
「だめだ、名無し。お前はちゃんと人間のベッドで寝ろ。俺に合わせることはない」
「やだってば、そんなこと言わないで。絶対一緒に寝るもん」
だだをこねられたルドガーは困り果てていたが、なぜだか、あなたは今この姿になった彼と離れたくなかった。
毛並みにもう一度抱きついて微笑みを合わせ、なんとかOKをもらう。
そうして彼が騎士団領内の厩舎に向かうと、自分は部屋に戻り、服などの私物を鞄に詰めた。
荷造りを済ませ、隊長セヴァにもしお願いを聞いてもらえたときのために、準備万端にしておく。
そして防寒着に着替え、あなたは再び外に出た。
厩舎には初めて来たが、領内の端っこにある緑豊かなスペースの木造の平屋だ。
馬に似た脚力の強そうな動物たちは、大人しく夜の眠りについていた。
起こさないようにそうっと中へ入り、一番奥の藁がしきつめられた場所に、ルドガーを発見する。
彼が目を閉じて、手足を曲げて休んでいる姿を見て、温かくほっとする気持ちになった。
「へへ。来ちゃったよ。一緒に休もうね、ルドガー」
あなたはそばに寝転がり、彼の毛並みに体を寄せて、安心してから眠りについた。
騎士たちの意見も少しは聞くようになり、任務での器物破損もまあまあ減ったようだ。
そして一番は、彼が自分で報告書を書くようになったことだった。
任務からの帰宅後、彼は机に向かい、真剣な顔で書類作成をしている。
横で見ていたあなたは、仕上がりを褒め称えた。
「わあすごい~。簡潔で分かりやすい! それにルドガーって、意外と字うまいよねえ」
「意外と……? 昔ゼイラン様の屋敷でみっちり教育を受けたからな。普段は字なんて書かないが」
それでどうやって生活してきたのだろうと思ったが、彼も仕事を終えたことに満足気だ。
「お前のおかげだ、名無し。ああいう感じなら俺にも書けそうだと思った。今までは難しく考えすぎてたのかもしれないな」
素直にそう言い、晴れやかな表情であなたを自分の膝の上に乗せる。
後ろから抱きしめられて、彼の気持ちの変化にとても嬉しくなった。
あなたもまだ騎士から時折要望を受けたりして、橋渡しとしての役割は続けていくと思うが、一番はルドガーが納得して仕事に向き合えることが大事なのだ。
「ふふっ。よかったなぁ。これからも頑張ろうね、ルドガー」
「ああ、一緒に頑張るぞ」
そう頷いた彼の笑顔は、騎士団で一人で働いていた頃からは、想像ができないものだっただろう。
彼の変化はもうひとつあり、ある日出発する前にこんなことを言った。
「今日は討伐任務があってな、帰るのはきっと遅くなるはずだ。先に寝ていていいからな」
「そうなの? わかったよ、でも気をつけてね」
そう言われてぎゅっとハグをする。
今までは任務のことはなるべく秘密にしていた彼だが、あなたにも教えてくれるようになった。
彼が強いといっても心配は残るけれど、毎日ちゃんと帰ってくるし、そんな日々の経験があなたの心も強くしていた。
だが、その日は異変が起きた。
日付が変わってもルドガーは帰宅せず、少しだけ不安がつのる。
彼は軍人で、主人のゼイランも前に「命を脅かすほどの強敵はしばらく現れていない」と言っていた。
騎士団ではそもそも皆強い魔族の精鋭たちが一緒なのだから、問題はないだろうけれど。
「うーん、うーん。……寝れないや……」
広いベッドで何度も寝返りをうち、寝間着姿のあなたは起き上がってガウンを羽織った。
寮は静かだが他の騎士も住んでいるため、怖くはない。
でもあなたはひとりでにルドガーの姿を探した。
濃い紫がかった闇夜のバルコニーに出て、冷たい息を吐く。
こんな寒い夜に、ルドガーは戦っているのかな。
しんみりとして、ちょうど建物の下に広がる手入れの行き届いた芝生を見つめた。
するとそこに、普通あるはずのない黒い物体の影が見えた。
「ん……? なにあれ……」
疲れ目をこらすと、大きな塊はじっとそこに座っていて、ピンと三角の耳みたいなものが立っている。
その時だった。
いきなり部屋のドアをドンドン!と強く叩かれたのは。
あなたは心臓が止まりそうになり、急いで踵を返して玄関へ向かう。
思い出したのは自分の病気の休暇中のときに、騎士がやってきてルドガーに任務要請をした時のことだ。
それよりも強く叩く音に聞こえた。
「は、はい、どうしたんですか。まさかルドガーになにか……っ」
「名無しさん、大変です! 来てください!」
前のめりに立っていたのは従者のマルグだ。
あなたはガウン姿で、わけがわからぬままついていった。
どうしよう、大切な彼に何か起こったのかもしれない。
涙ぐみながら、あなたはそのまま寮舎の外に出た。裏側にまわり、さっきまでバルコニーから見下ろしていた芝生に出る。
広々としたそこは真っ暗闇で、マルグが明かりを持って近づくと、信じがたいものを映し出した。
黒くキラキラと輝く長毛が、荘厳とした筋肉質な体躯を包んでいる。
凛々しい黒角とともに三角の獣耳がピンと立ち、こちらをじっと大型の獣が見つめていた。
「え…………ルドガー……なのっ!?」
あなたはなぜ獣姿の彼がここにいるのか混乱したが、とにかく彼に飛びつき、一生懸命大きな体を触って確かめようとした。
「どうしたの! 任務で獣になったの!? 怪我したとかっ? 大丈夫なの!?」
手探りで深く潜るように毛の中を触るが、恐ろしいことが起きた。
自分の小さな手のひらに、ごっそりと深青の毛の塊があったのだ。
「ああああっ! 毛が取れちゃったよ、ごめんっ!!」
そんなに弱っているのだと、あなたは完全に青ざめて騒ぎ出す。
すると近くで金色の暗く丸い瞳に見つめられた。
まつげが長い神秘的な姿だが、どこか寂し気だ。
「名無し……。それは俺の毛だ。落ち着け、病気じゃない」
大きな獣からルドガーの声が聞こえてきて、一気に安堵する。
だが彼は続けてこんなことを明かした。
「すまん。この姿から戻れないんだ」
「……どうして!?」
「これから毛がたくさん抜ける。獣の毛が生え変わる、換毛期に入ってしまった」
くっ、と無念な感じに述べられ、あなたはぱっちりと目を開けたままになった。
それは予想外の言葉だった。
手に掴んだ上質な絹糸のような獣毛を見下ろし、じわじわと胸を撫で下ろしていく。
「な、なんだ……そうだったの。ごめん、全然知らなくて。これって、普通? よくあることなの?」
動物の生態に詳しくないあなたは、彼に落ち着いて尋ねる。
「ああ、一年に一回こうなる。普段はもうすぐかと察知するんだが、今年は急に来てしまった。今日は任務で獣化していてな。暴れると抜け始めたから、気づいたんだ」
大きな頭を垂らし、狼に似た細い鼻先を悔いるように擦りつけてくる。
あなたは瞳を柔らかくして、彼の鼻筋に優しく触れた。
「そっか……びっくりしたよね。……でもよかったよ。あなたが無事で」
「ああ……ちゃんと帰ってきたぞ。……だが、問題があるんだ。部屋にもこのままじゃ入れない」
そういえば、さっき彼が「この姿から戻れない」と言っていた。
話を聞くと、魔力を体に巡らせ、毛の生え代わりを安定させるために、換毛期の時期はずっと獣化していなければならないそうだ。
その長さは、二週間以上にも及ぶらしかった。
「え! じゃあルドガー、どこにいるの? 騎士団って人化してないと歩いたりできないんだよね」
「そうだ。だから俺は毎年、ゼイラン様に特別休暇を与えられて森へこもるんだ。それが終わればまた戻ってくる」
衝撃の事実にあなたは愕然とし、胸騒ぎがまたぶり返した。
「え、でもまさか一人で行かないよね? 行っちゃやだよ!」
「……し、しかし、俺はその間人化が出来ない。こんな姿で過ごしても、お前はつまらないだろう?」
くーんと鳴きそうな瞳で見つめられ、心がしめつけられる。
「つまらないわけないでしょう、私はあなたの番なんだよ。どんな姿だって一緒にいるもん。一人で行くなんて絶対ダメだからね」
自分の体が何人分も入ってしまいそうな広い体躯に、あなたは掴まって離れないようにする。
「…………名無しっ! ……だが本当に、いいのか? お前を抱きしめたりすることも出来ないんだぞ」
「ふふ、それは少し寂しいけど、私が抱きしめてあげるから大丈夫だよ。ね?」
笑顔で伝えると、獣の彼もだんだんと力が抜けるように、表情が和らいだ気がした。
そんな二人の心温まる姿を、邪魔にならない位置でマルグが明かりを照らし、待っていてくれていた。
あなたが我に返り振り向くと、彼は優しい笑みで佇んでいる。
「あっ!! お待たせしてすみません、マルグさん!」
「いえ、全然大丈夫ですよ。本当によかったです。……あの、ではどうしましょうか。ルドガーさん、今回はどこで過ごされますか?」
「そうだな……俺がいつも行く魔界の森は、名無しを連れていくには危険すぎる。……ゼイラン軍の部隊長のセヴァに頼んで、休暇用の別荘を借りるか。……すまん、マルグ。彼に連絡を取ってくれるか?」
ルドガーからほぼ初めて頼られ、従者のマルグは顔を一段と明るく輝かせた。
「はい、もちろんです! すぐに要請してみましょう!」
彼はあなたに明かりを渡してくれ、さっそく事務局に駆け戻って行った。
急なことにも対応してくれて、本当に感謝しかない。
だが残されたあなたとルドガーは、互いを見つめ合い、また悩み始めた。
「ルドガー、まさか今日は外にいるの?」
「そうだぞ。仕方がないからな。俺は厩舎にでも行って寝てくるさ」
四つ足を起こし、優雅に立ち上がると、彼の身長はさらに大きくなりあなたは息を呑んで見上げる。
人化したルドガーもかなりの巨体だが、本物の獣はスケールが違った。
だがまったく怖くはない。
獣化した彼は求婚のときに一度見せてもらったきりだけれど、あのときの気高く優しい印象と、一緒にいたときの安心感は消えることはないのだ。
「やだやだ。私も同じとこで寝る。待って、明日からの荷物準備したら戻ってくるね」
「だめだ、名無し。お前はちゃんと人間のベッドで寝ろ。俺に合わせることはない」
「やだってば、そんなこと言わないで。絶対一緒に寝るもん」
だだをこねられたルドガーは困り果てていたが、なぜだか、あなたは今この姿になった彼と離れたくなかった。
毛並みにもう一度抱きついて微笑みを合わせ、なんとかOKをもらう。
そうして彼が騎士団領内の厩舎に向かうと、自分は部屋に戻り、服などの私物を鞄に詰めた。
荷造りを済ませ、隊長セヴァにもしお願いを聞いてもらえたときのために、準備万端にしておく。
そして防寒着に着替え、あなたは再び外に出た。
厩舎には初めて来たが、領内の端っこにある緑豊かなスペースの木造の平屋だ。
馬に似た脚力の強そうな動物たちは、大人しく夜の眠りについていた。
起こさないようにそうっと中へ入り、一番奥の藁がしきつめられた場所に、ルドガーを発見する。
彼が目を閉じて、手足を曲げて休んでいる姿を見て、温かくほっとする気持ちになった。
「へへ。来ちゃったよ。一緒に休もうね、ルドガー」
あなたはそばに寝転がり、彼の毛並みに体を寄せて、安心してから眠りについた。
