巨体の人外に助けられて世話される話
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それから秘書代行のような仕事が始まった。
ルドガーが前線に出る魔物討伐は、週一回から二回の頻度らしい。
そのほかにも作戦会議や追跡調査などを行い、ほぼ毎日騎士団本部とは関わっているようだ。
とにかく彼は自分のやることに集中しており、他のことは気にしていない。
事務仕事なんてもってのほからしかった。
「ええと、今日は湿地帯で異常発生した巨大沼トカゲを約40匹討伐。その際、貴重な樹木をなぎ倒してしまったが、下敷きになりそうな騎士を二人救出した……と」
あなたは彼の報告通り、書類に丁寧に書きこんだ。
作戦名と日付も入れ、彼にサインをもらって完成する。
団長が言ったようにシンプルな仕事内容で今のところ問題はない。
「ルドガー、今日もお疲れ様。あなたも怪我はなかった?」
「ああ、ないぞ。お前のほうがお疲れ様だ。手伝ってくれてありがとうな、名無し」
風呂上りの彼と笑みを交わし、平和な気持ちで労り合った。
あなたは仕事には口出しせず、ただ作業をするだけだ。
彼には彼のやり方があるし、自分なりに見守ろうと思っていた。
それに、ルドガーの報告書を何度か書いてみて、彼が毎日いかに真剣に職務へ向き合っているのかを知り、尊敬の念でいっぱいになっていた。
一度、戦闘の最中にゼイランに召喚されたのを間近で見たが、あのとき初めて、彼自身が落ち着くまでには時間を要することを知った。
だが、こうして一緒に暮らしてみると、どんな任務のあとでも、帰宅した彼はいつも穏やかにあなたとの再会を喜んでくれる。
そこに彼の気遣いと、精神の頑強さを感じていた。
報告書は昼の時間に、ルドガーの従者が部屋まで回収しに来てくれる。
ドア前に現れた彼は魔族にしてはさほど背は高くなく、柔和な顔立ちの青年だ。
「マルグさん、いつもありがとうございます」
「いえ、名無しさんこそ。こちらとしてはとても助かっているんです、本当に感謝します。ルドガーさん、僕の言うことはほとんど聞いてくれませんから。……あっでもこの間、数年ぶりにちゃんと会話をしたんです。低い声で『俺の番に手間をかけるなよ』と念押しをされてしまって。彼の性格が少しわかった気がします」
苦笑する従者に、あなたも申し訳ない微笑みを向けるしかなかった。
「もうルドガーってば。本当にすみません。私も出来ることは協力しますので、マルグさんもなんでも遠慮なく言ってくださいね。本当は彼も、騎士さんたちに感謝してると思うんですよ。自由に戦えるのは支援があってのことだと思いますし」
何度か報告書を書いただけの身で偉そうに言えないとは思いつつも、そう声をかける。
するとマルグは初めて理解者を得たように、感動して瞳を輝かせていた。
「ありがとうございます……! 本当にあなたのようなお話の分かる方が騎士団に入団してくださって嬉しいです! では、これからもよろしくお願いします、名無しさん!」
「は、はあ。入団したかは分からないんですけれども、こちらこそよろしくお願いします」
彼は背筋を伸ばして礼をし、満足気にきびきびと歩いて行ってしまった。
出過ぎたことを言ってしまっただろうか。
しかしルドガーはもちろんのこと、できるだけ両者に寄り添えるようになりたいとあなたは考えていた。
そんな充実した日々が過ぎ、あなたは魔術の訓練と並行して彼のサポートをしていた。
すると騎士団領内においても、少しずつ変化が現れた。
なんと騎士たちに声をかけられるようになったのだ。
「ルドガー殿の奥方。おはようございます」
「……えっ? おはようございます! ……ふふっ」
外周を走り込みしているときも、前とは違い見知らぬ騎士が挨拶してくれたり。
もっとすごいのは、紙を手にした騎士らに、時折こんな要請を受けたりした。
「お手数をおかけして申し訳ないのですが、これをルドガー殿に渡してくださいますか。戦闘中の連携についての要望なのです」
「あっはい、もちろん渡しておきますね。ありがとうございます」
ぺこりと小柄なあなたが礼をすると、二人組の若騎士は表情を柔らかくし、礼をして去っていった。
こんなことがあるのだろうか。
女性のあなたは今までほぼ無視されていたのに、確実にルドガーのおかげで少しは役立つことが出来ているように感じた。
だが当のルドガーは、その要望書を見ても、あまりぴんとこないようだった。
「これをお前に? そうか、分かった。目を通しておく。ありがとうな」
そっけなく言われ、仕事を家に持ち込まないタイプの彼は、家ではあなたにくっつき、完全にリラックスした顔でのんびりしていた。
あなたも彼がどうするかは任せているため、自分のすることは果たしたと、とくに気にしないで彼と過ごしていた。
自分には戦う人の気持ちは分からないし、危険性もすべては理解できない。
無力な人間で、戦場に出たこともないからだ。
けれど騎士たちとルドガーの橋渡しをしていると、騎士らは思ったよりもルドガーの動向に注目しているのだと知った。
それは力のある獣の彼に対する、期待の表れなのかもしれない。
騎士団本部一階の事務局に寄り、従者のマルグと話していた時のこと。
最近要望書が多いことを伝えると、彼は驚かずに、こんな提案をしてきた。
「えっ。ルドガーへの意見箱を設置するんですか!?」
「はい。実は僕も従者になり始めたころ、同じように騎士たちからたくさんの意見要望をもらったんですよ。でもルドガーさんは全く取り合いませんでしたから、皆諦めたんです。でも今なら、何か役に立つんじゃないでしょうか」
そう言われ、あなたはそれもいいのかもと頭を巡らす。
でもまずはルドガーに聞いてみようと、夜に話をした。
すると彼には「好きにしていい。でも俺には必要ない」と言われてしまった。
なのであなたは結局、どんなことになるのだろうという興味のほうを優先し、意見箱を準備することにした。
自分の番であるルドガーのことを、仕事を通してもっと知ることが出来るのではと思ったからだ。
本部一階のロビーにある事務局に、匿名の意見箱を置いてから一週間。
中身を取りにいくと、とんでもないことになっていた。
大小さまざまな紙があふれ、長文やら短文やら、瞬きが止まらなかった。
あなたは困るより先に、嬉しい気持ちがわいた。
皆ルドガーに対してこれほどの熱気をもち、ある意味注目の的なのではないかと。
その書類を抱え、ルドガーが帰ってきたあとに一緒に見ようと考えた。
しかしルドガーはまたもや関心を示さない。
あなたが「見てみて、すごいよ! こんなにたくさん!」と言って開封しても、彼はじとっとした目で意見書を見やった。
「名無し……やっぱり全部捨てろ。ろくなことが書いてないだろ。俺には分かる」
「もう、どうしてそんなこと言うのよ。別に全部聞かなくてもいいんだよ。目を通すだけなんだから」
内容を読んでみると、ルドガーも床の上で隣に座ってくれた。
彼はそんなものよりも、あなたに構ってほしいのだ。
風呂上りの濡れた毛先を指で撫でながら、紙に夢中なあなたのそばに寄り添う。
「えーと、これはいつものやつだね。魔物を鼻で嗅ぎつけて、急に消えるのはやめてほしい。探すのが大変だって」
「あいつらが遅すぎるんだ。俺は俺の仕事をする」
「わかったよ。……あとこれらも、単独行動を控えて協力するようにしてほしい系だ。ほら皆、ほんとはルドガーと一緒に戦いたいんだよ、すごいなぁ〜」
彼に尊敬のまなざしを向けると、彼は少し気恥ずかしそうな、複雑な顔つきをした。
「どうだかな。どうでもいい」
「またそんなこと言って。……あ、でもねルドガー。私、ほんとはこんなふうに仕事に干渉しちゃいけないって思ったりするんだ。つい嬉しくって見てもらいたくなっちゃったけど、騎士さんたちの熱意も伝わるし。……でも、あなたが本当に嫌だったら言ってね。やめるからさ」
気になっていたことを、そっと肩を触り問いかける。
すると彼は、一瞬驚いたように、ゆっくりと首を振った。
「いいや、嫌じゃないぞ。お前に感謝してるのは本当だ。……俺もな、お前に報告書を書いてもらうようになってから、少しは戦い方をマシにしてるんだ。お前に嫌なことを書かせたくないからな」
彼はそうまっすぐに明かしてくれた。
正直あれでマシなほうなのかと驚いたのは内緒だが、あなたは彼の優しい気持ちにほわっと心が温かくなる。
「そうなの? すごいじゃない、ルドガー。偉いね。ありがとうね」
「ふっ。お前がいなかったらこんなことはしていない。……だがな、この前第一部隊長に初めてこう言われたんだ。お前もやれば出来るんだなと。面白いだろう? 絶対に俺を褒めたりしない騎士の幹部だぞ」
ははは、と珍しく無邪気に笑うルドガーの笑顔に、あなたは一人でみるみるうちにときめく。
「なにその話、嬉しいよ…! すごいよルドガー!」
「え? どうしてそんなにお前が喜ぶんだ、名無し」
「あなたがとっても凄いからだよ!」
膝立ちして彼の大きな肩幅に手をまわし、ぎゅうっと抱き着く。
するとルドガーも、すっぽりとあなたの小さな背を包み込んでくれた。
見つめ合って、自然に唇を合わせる。
「ふふっ。これからも、気をつけてねルドガー。無理はしないでね」
「ああ、もちろんだ。無理はしない。俺の一番の仕事は、お前のもとに帰ることなんだからな」
その返事にあなたはさらに喜びに包まれ、しばらく熱々のハグを彼としていた。
――だが、思わぬ事件はここから始まる。
気分がよくなり、意見箱をもう少し見てやってもいいと、ルドガーは思い始めたのだろうか。
彼は大きな手を伸ばし、残りの小さめのメモたちを何気なく拾った。
「なんだこれ、くだらんな」
「なになに? ……ええっ? 恰好いい、とか密かに応援してます、って書いてあるよ!」
なんと意見書には、ルドガーへの応援コメントのようなものも入っていた。
自分と同意見の内容に興奮したあなたは、それらをまじまじと見る。
数は少ないけれど、男としてルドガーに憧れをもったり、戦闘能力を称える騎士たちも存在したのだ。
「すごいすごい! ルドガーへのファンレターだ!」
「……ファンレター、だと…? ばかばかしい。ただの悪戯だろう。そんなもの無視しろ」
呆れた様子で彼はそれらをわし掴み、ゴミ箱に捨てようとした。
だが下のほうに違うメモを見つける。
それが彼の目に触れた瞬間、強く鋭く金の瞳を引きつらせた。
「なんだ、これは……っ」
あなたも気になって手元を覗くと、驚愕的なことが書かれていた。
「˝奥さんが可愛い˝……って。……え? それもしかして、私のこと? うそぉ、もうやだぁ~!」
つい素で喜んでしまったのがまずかった。
彼のファンレターの流れで、単なる応援の一部だと受け取ったのだ。
しかし本能に生きる獣のルドガーは違う。
彼の目元はピクピクと爆発寸前であった。
ルドガーが前線に出る魔物討伐は、週一回から二回の頻度らしい。
そのほかにも作戦会議や追跡調査などを行い、ほぼ毎日騎士団本部とは関わっているようだ。
とにかく彼は自分のやることに集中しており、他のことは気にしていない。
事務仕事なんてもってのほからしかった。
「ええと、今日は湿地帯で異常発生した巨大沼トカゲを約40匹討伐。その際、貴重な樹木をなぎ倒してしまったが、下敷きになりそうな騎士を二人救出した……と」
あなたは彼の報告通り、書類に丁寧に書きこんだ。
作戦名と日付も入れ、彼にサインをもらって完成する。
団長が言ったようにシンプルな仕事内容で今のところ問題はない。
「ルドガー、今日もお疲れ様。あなたも怪我はなかった?」
「ああ、ないぞ。お前のほうがお疲れ様だ。手伝ってくれてありがとうな、名無し」
風呂上りの彼と笑みを交わし、平和な気持ちで労り合った。
あなたは仕事には口出しせず、ただ作業をするだけだ。
彼には彼のやり方があるし、自分なりに見守ろうと思っていた。
それに、ルドガーの報告書を何度か書いてみて、彼が毎日いかに真剣に職務へ向き合っているのかを知り、尊敬の念でいっぱいになっていた。
一度、戦闘の最中にゼイランに召喚されたのを間近で見たが、あのとき初めて、彼自身が落ち着くまでには時間を要することを知った。
だが、こうして一緒に暮らしてみると、どんな任務のあとでも、帰宅した彼はいつも穏やかにあなたとの再会を喜んでくれる。
そこに彼の気遣いと、精神の頑強さを感じていた。
報告書は昼の時間に、ルドガーの従者が部屋まで回収しに来てくれる。
ドア前に現れた彼は魔族にしてはさほど背は高くなく、柔和な顔立ちの青年だ。
「マルグさん、いつもありがとうございます」
「いえ、名無しさんこそ。こちらとしてはとても助かっているんです、本当に感謝します。ルドガーさん、僕の言うことはほとんど聞いてくれませんから。……あっでもこの間、数年ぶりにちゃんと会話をしたんです。低い声で『俺の番に手間をかけるなよ』と念押しをされてしまって。彼の性格が少しわかった気がします」
苦笑する従者に、あなたも申し訳ない微笑みを向けるしかなかった。
「もうルドガーってば。本当にすみません。私も出来ることは協力しますので、マルグさんもなんでも遠慮なく言ってくださいね。本当は彼も、騎士さんたちに感謝してると思うんですよ。自由に戦えるのは支援があってのことだと思いますし」
何度か報告書を書いただけの身で偉そうに言えないとは思いつつも、そう声をかける。
するとマルグは初めて理解者を得たように、感動して瞳を輝かせていた。
「ありがとうございます……! 本当にあなたのようなお話の分かる方が騎士団に入団してくださって嬉しいです! では、これからもよろしくお願いします、名無しさん!」
「は、はあ。入団したかは分からないんですけれども、こちらこそよろしくお願いします」
彼は背筋を伸ばして礼をし、満足気にきびきびと歩いて行ってしまった。
出過ぎたことを言ってしまっただろうか。
しかしルドガーはもちろんのこと、できるだけ両者に寄り添えるようになりたいとあなたは考えていた。
そんな充実した日々が過ぎ、あなたは魔術の訓練と並行して彼のサポートをしていた。
すると騎士団領内においても、少しずつ変化が現れた。
なんと騎士たちに声をかけられるようになったのだ。
「ルドガー殿の奥方。おはようございます」
「……えっ? おはようございます! ……ふふっ」
外周を走り込みしているときも、前とは違い見知らぬ騎士が挨拶してくれたり。
もっとすごいのは、紙を手にした騎士らに、時折こんな要請を受けたりした。
「お手数をおかけして申し訳ないのですが、これをルドガー殿に渡してくださいますか。戦闘中の連携についての要望なのです」
「あっはい、もちろん渡しておきますね。ありがとうございます」
ぺこりと小柄なあなたが礼をすると、二人組の若騎士は表情を柔らかくし、礼をして去っていった。
こんなことがあるのだろうか。
女性のあなたは今までほぼ無視されていたのに、確実にルドガーのおかげで少しは役立つことが出来ているように感じた。
だが当のルドガーは、その要望書を見ても、あまりぴんとこないようだった。
「これをお前に? そうか、分かった。目を通しておく。ありがとうな」
そっけなく言われ、仕事を家に持ち込まないタイプの彼は、家ではあなたにくっつき、完全にリラックスした顔でのんびりしていた。
あなたも彼がどうするかは任せているため、自分のすることは果たしたと、とくに気にしないで彼と過ごしていた。
自分には戦う人の気持ちは分からないし、危険性もすべては理解できない。
無力な人間で、戦場に出たこともないからだ。
けれど騎士たちとルドガーの橋渡しをしていると、騎士らは思ったよりもルドガーの動向に注目しているのだと知った。
それは力のある獣の彼に対する、期待の表れなのかもしれない。
騎士団本部一階の事務局に寄り、従者のマルグと話していた時のこと。
最近要望書が多いことを伝えると、彼は驚かずに、こんな提案をしてきた。
「えっ。ルドガーへの意見箱を設置するんですか!?」
「はい。実は僕も従者になり始めたころ、同じように騎士たちからたくさんの意見要望をもらったんですよ。でもルドガーさんは全く取り合いませんでしたから、皆諦めたんです。でも今なら、何か役に立つんじゃないでしょうか」
そう言われ、あなたはそれもいいのかもと頭を巡らす。
でもまずはルドガーに聞いてみようと、夜に話をした。
すると彼には「好きにしていい。でも俺には必要ない」と言われてしまった。
なのであなたは結局、どんなことになるのだろうという興味のほうを優先し、意見箱を準備することにした。
自分の番であるルドガーのことを、仕事を通してもっと知ることが出来るのではと思ったからだ。
本部一階のロビーにある事務局に、匿名の意見箱を置いてから一週間。
中身を取りにいくと、とんでもないことになっていた。
大小さまざまな紙があふれ、長文やら短文やら、瞬きが止まらなかった。
あなたは困るより先に、嬉しい気持ちがわいた。
皆ルドガーに対してこれほどの熱気をもち、ある意味注目の的なのではないかと。
その書類を抱え、ルドガーが帰ってきたあとに一緒に見ようと考えた。
しかしルドガーはまたもや関心を示さない。
あなたが「見てみて、すごいよ! こんなにたくさん!」と言って開封しても、彼はじとっとした目で意見書を見やった。
「名無し……やっぱり全部捨てろ。ろくなことが書いてないだろ。俺には分かる」
「もう、どうしてそんなこと言うのよ。別に全部聞かなくてもいいんだよ。目を通すだけなんだから」
内容を読んでみると、ルドガーも床の上で隣に座ってくれた。
彼はそんなものよりも、あなたに構ってほしいのだ。
風呂上りの濡れた毛先を指で撫でながら、紙に夢中なあなたのそばに寄り添う。
「えーと、これはいつものやつだね。魔物を鼻で嗅ぎつけて、急に消えるのはやめてほしい。探すのが大変だって」
「あいつらが遅すぎるんだ。俺は俺の仕事をする」
「わかったよ。……あとこれらも、単独行動を控えて協力するようにしてほしい系だ。ほら皆、ほんとはルドガーと一緒に戦いたいんだよ、すごいなぁ〜」
彼に尊敬のまなざしを向けると、彼は少し気恥ずかしそうな、複雑な顔つきをした。
「どうだかな。どうでもいい」
「またそんなこと言って。……あ、でもねルドガー。私、ほんとはこんなふうに仕事に干渉しちゃいけないって思ったりするんだ。つい嬉しくって見てもらいたくなっちゃったけど、騎士さんたちの熱意も伝わるし。……でも、あなたが本当に嫌だったら言ってね。やめるからさ」
気になっていたことを、そっと肩を触り問いかける。
すると彼は、一瞬驚いたように、ゆっくりと首を振った。
「いいや、嫌じゃないぞ。お前に感謝してるのは本当だ。……俺もな、お前に報告書を書いてもらうようになってから、少しは戦い方をマシにしてるんだ。お前に嫌なことを書かせたくないからな」
彼はそうまっすぐに明かしてくれた。
正直あれでマシなほうなのかと驚いたのは内緒だが、あなたは彼の優しい気持ちにほわっと心が温かくなる。
「そうなの? すごいじゃない、ルドガー。偉いね。ありがとうね」
「ふっ。お前がいなかったらこんなことはしていない。……だがな、この前第一部隊長に初めてこう言われたんだ。お前もやれば出来るんだなと。面白いだろう? 絶対に俺を褒めたりしない騎士の幹部だぞ」
ははは、と珍しく無邪気に笑うルドガーの笑顔に、あなたは一人でみるみるうちにときめく。
「なにその話、嬉しいよ…! すごいよルドガー!」
「え? どうしてそんなにお前が喜ぶんだ、名無し」
「あなたがとっても凄いからだよ!」
膝立ちして彼の大きな肩幅に手をまわし、ぎゅうっと抱き着く。
するとルドガーも、すっぽりとあなたの小さな背を包み込んでくれた。
見つめ合って、自然に唇を合わせる。
「ふふっ。これからも、気をつけてねルドガー。無理はしないでね」
「ああ、もちろんだ。無理はしない。俺の一番の仕事は、お前のもとに帰ることなんだからな」
その返事にあなたはさらに喜びに包まれ、しばらく熱々のハグを彼としていた。
――だが、思わぬ事件はここから始まる。
気分がよくなり、意見箱をもう少し見てやってもいいと、ルドガーは思い始めたのだろうか。
彼は大きな手を伸ばし、残りの小さめのメモたちを何気なく拾った。
「なんだこれ、くだらんな」
「なになに? ……ええっ? 恰好いい、とか密かに応援してます、って書いてあるよ!」
なんと意見書には、ルドガーへの応援コメントのようなものも入っていた。
自分と同意見の内容に興奮したあなたは、それらをまじまじと見る。
数は少ないけれど、男としてルドガーに憧れをもったり、戦闘能力を称える騎士たちも存在したのだ。
「すごいすごい! ルドガーへのファンレターだ!」
「……ファンレター、だと…? ばかばかしい。ただの悪戯だろう。そんなもの無視しろ」
呆れた様子で彼はそれらをわし掴み、ゴミ箱に捨てようとした。
だが下のほうに違うメモを見つける。
それが彼の目に触れた瞬間、強く鋭く金の瞳を引きつらせた。
「なんだ、これは……っ」
あなたも気になって手元を覗くと、驚愕的なことが書かれていた。
「˝奥さんが可愛い˝……って。……え? それもしかして、私のこと? うそぉ、もうやだぁ~!」
つい素で喜んでしまったのがまずかった。
彼のファンレターの流れで、単なる応援の一部だと受け取ったのだ。
しかし本能に生きる獣のルドガーは違う。
彼の目元はピクピクと爆発寸前であった。
