巨体の人外に助けられて世話される話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
間もなくして、あなたとルドガーは本当に騎士団長に呼ばれた。
本部棟にある執務室へ向かい、廊下の椅子で順番待ちをしている。
ルドガーは仏頂面で、どこか苛立っているように思えた。
すると室内から二人の男が出てきた。どんよりと両腕を垂らしたセロと、舌打ちをする獣ナザルだ。
「あっセロさん、どうでした? 大丈夫ですか?」
「……もう終わりだよ俺の人生。簡単な仕事なんかないってさ……ここにいたいなら魔術師として獣を使いこなし精鋭任務に当たれってよ……無理だろ人間の俺に……」
いつもの元気は影をひそめ、セロは面談しただけなのにげっそりしていた。
騎士団長はどうやら厳しく真面目な人物のようだ。
気になるのはナザルだった。彼もうんざりした表情でルドガーを見やる。
「すっげえ嫌味な奴。なんだあれ? 面は良いが堅苦しくて何が楽しみに生きてんだ? 女の扱い方も知らねえだろ絶対。そこだけ勝ったわ」
「フッ。後半はお前の妄想だろうが前半は同感だ。あいつと話すのは本当に疲れるんだ。……名無し、お前も気をつけろよ」
ルドガーはなぜか宿敵の獣と意見を合わせ、自分達の名前が呼ばれると、あなたの手を引いて中に入っていった。
軍人の彼はゼイランのときと違い、礼もせずに執務室へ進んだ。
あなたはおずおずと頭を下げ、その後びっくりする。
広く実用的な部屋の奥の書斎に腰掛けていたのは、思わず目を奪われるほど端正な、短く濃い金髪の男性だった。
凛々しく剛健な顔立ちで、年は20代後半だろうか。
青い瞳は透き通っていて、立ち上がるとルドガーと大差ないほどの長身である。
薄灰色の制服を一切の乱れなく着こなし、腕には団長を示す階級章が入っている。
胸元には騎士団の紋章が静かに輝き、その姿は華美さとは無縁だ。
「君か、名無し。俺はこの騎士団の団長キリングだ。よろしくな」
「は、ひゃいっ。よろしくお願いします団長さん!」
あなたは緊張から声が裏返ったが、彼に手を差し出され握手をした。
ものすごく強く握られて泣くかと思った。
けれど彼はルドガーにはそんなことせず、一瞥しただけだ。
まさかお付きの人もおらず、三人きりで面談をするとは思わなかった。
書斎机を挟んでルドガーと並んで座る。
ちらっと見るルドガーの横顔は、まるで無愛想である。
おかしい。自分の闘病のときに休暇届を出してくれた彼は、団長のサインもある!と喜んでいたのに。
「あの、団長さん。その節はどうもありがとうございました。休暇届に許可を出してくださって」
「気にしないでくれ。ただ職務を行っただけだ。今は回復したそうだな。なによりだ」
あなたはそう声をかけられてありがたくお礼を言ったが、彼は冷徹な顔のままぴくりともしない。
笑った顔がまったく想像できない人だと思った。ルドガーも獣で元々表情があまりないが、タイプが違うのは明らかだった。
ルドガーは腕を組んだまま不機嫌そうに口を開く。
「それで、今日はなんの話だ。用件を言え」
「……用件を言えだと? 一連の騒動はお前が発端だろう。総勢206名の騎士全体にかかった調査負担がお前に想像できるか。敷地の警備や結界も強化している。偉そうにするな、獣」
低い声で事実を並べる団長にあなたはひれ伏しそうになった。
「申し訳ありません! すべて私のせいなんです!」
「君のせいだとは言っていない。俺はこいつに態度をいい加減改めろと言っているんだ」
「うるさいな……また説教か。俺の主人でもないくせに偉そうなのはどっちだ……」
ルドガーがはぁ、と人を苛立たせるため息を吐き、目の前の美形のこめかみに筋が立つ。
「あぁぁ! あの、ほんとにすみませんっ。うちの人にはよく言って聞かせますので、どうかお許しください団長さま!」
あなたが頭を下げると、ルドガーが腕をギュッと握り、そんなことしなくていいという困惑した顔をしてくる。
しかしあなたには、団長の怒りの背景には何か積み重なったものがあるような雰囲気を感じたのだ。
「ふっ……君は話がわかる人間のようだな、名無し」
「あ、はい。ルドガーもきちんと説明すれば分かってくれるとは思うんですが…」
「いいや無理だ。この三年、俺は幾度となく任務のあとは報告書を書けと言ってきた。実際に書いたのは、ゼイラン様が同行した大型の任務二度だけだ。……なぜこんなことを言うかというとな、奴はものすごく戦い方が汚い。本当に汚い。物を壊し、建造物を破壊し、文化財にも補修を要することが多々あった。近隣住民からも苦情が頻繁に送られるんだ、それを俺達騎士団は毎回苦労して――」
「……えっ……」
あなたはつらつらと語られる新事実に唖然とする。
ルドガーは拗ねた顔つきで視線をそらす。
「ちょっと、今の話本当なの?」
「こいつの話は大げさだ。戦いのときに他のことなんて構ってられるか。獲物を逃がしたらどうする。他のことは騎士どもがやればいい。俺は知らん」
ぷいっとした態度で開き直り、さすがにあなたも冷や汗が流れた。
「だめだよそれはさすがに……集中してるのは分かるけど、皆に迷惑かけちゃいけないでしょう、ルドガー……」
「……お前も俺が無事に帰ってくればいいと言ってくれただろう? あれは本当じゃなかったのか…?」
まるで心を確かめるようなか弱い眼差しをされて、あなたの心も純粋に揺れ動く。
「本当だよ、それはそう。でもね――」
どう説明すればいいのか。彼の気持ちも分かるし、騎士団側の苦情もわかる。
「報告書を書くっていうのは、ルドガー、難しいの? それとも面倒くさいの?」
「……ぐ……面倒だ。やりたくない」
彼は二人の前で白状した。あなたは団長の怒り顔が爆発しないかと恐れる。
「あの、その報告書、私が代わりに書いてもいいですか? 彼から聞いてまとめれば出来るような気がして」
そう申し出ると、団長は微かに眉を上げる。同時に隣から、ルドガーも目を丸くした。
「えっ……? いいのか…?」
彼が素直にそうもらしてしまうのを、あなたは聞き逃さなかった。
だがもちろんいいよ、とこちらが答える前に、彼は焦って自分の反応を撤回する。
「いや、お前にそんなことはさせられない……俺の仕事だ。面倒事を引き受けたりしなくていい」
「面倒事って、必要な書類なんでしょう。大丈夫だよ、聞いて書くだけだから。……それとも、戦闘中のことまったく覚えてないの?」
心配になり尋ねると彼は否定した。
記憶力はいいがそれを平常時の精神に戻ったときに文章にするのが大嫌いなのだそうだ。
「そっか、ふふ。仕事中のあなたのこと何も知らないから、新鮮だね。じゃあ言葉では教えてくれる? 要約でいいんですよね、団長」
「ああ、構わない。君が担当してくれるなら助かるよ」
さらりと許可を出したキリングに、あなたも安堵し頷く。
だがルドガーは違った不安をにじませた。
「お前が助けてくれるなら、正直ありがたい。……だが、血なまぐさいことをしていると、お前に知られるのは、怖い……」
軍人の鎧をとき、ぽつりと弱音をこぼすルドガーに、あなたは心が震わされた。
「ルドガーっ……」
思わず彼の胸元の近くで見上げ、頬をそっと触った。
「平気だよ、どんな話でもちゃんと聞くから。あなたが恐れることなんてないんだから。……まあそんなにアレだったら、最初から内容をシンプルにしてくれてもいいんだから。ねっ?」
若干我に返ってきたため提案すると、ルドガーの金の瞳は感激に瞬いた。
決心してくれたのか、やがてゆっくりと頷く。
「……わかった。ありがとう、名無し。お前ほどのいい女はいない。最高の番だ」
「ふふ。あなたもだよ、ルドガー」
二人の世界で微笑み確かめ合っていると、前から微動だにしない男の視線が突き刺さっていることに気づいた。
あなたは慌てて身だしなみを整え、団長の話に戻る。
「ではそうしてくれ。……獣。彼女にお前の秘書をやってもらえばいいんじゃないか?」
「……秘書ぉっ!? なんですかそれ、難しそうですよそんなの!」
「難しくはない。こいつの従者は一応いるんだが、奴と意思疎通が出来ず困っているんだ。君が代わりに努めてくれれば騎士団としても助かる」
そうはっきり言われてしまえばあなたは迷いで揺らぐ。
内容は本当に大変なものではないようで、報告書を提出したり、他の団員との架け橋のような存在を目指せばいいらしい。
「名無しを単なる秘書扱いするな。俺の番なんだぞ」
「公私ともに支えてもらえばいいだろう。お前の仕事は高難易度の部類だが、騎士のように多忙なわけではない。秘書としての仕事は多くないぞ。それにな、お前が彼女の負担にならないように職務を全うすればいいだけの話だ。わかったか、獣」
言葉尻を厳しくし、団長キリングは正論で制圧した。
ルドガーは黙り、あなたを見やる。
あなたは彼の肩をぽんぽんと叩き、微笑みを向けた。
自分にどこまで出来るか分からないけれど、ルドガーを支えていこうと思っていた。
本部棟にある執務室へ向かい、廊下の椅子で順番待ちをしている。
ルドガーは仏頂面で、どこか苛立っているように思えた。
すると室内から二人の男が出てきた。どんよりと両腕を垂らしたセロと、舌打ちをする獣ナザルだ。
「あっセロさん、どうでした? 大丈夫ですか?」
「……もう終わりだよ俺の人生。簡単な仕事なんかないってさ……ここにいたいなら魔術師として獣を使いこなし精鋭任務に当たれってよ……無理だろ人間の俺に……」
いつもの元気は影をひそめ、セロは面談しただけなのにげっそりしていた。
騎士団長はどうやら厳しく真面目な人物のようだ。
気になるのはナザルだった。彼もうんざりした表情でルドガーを見やる。
「すっげえ嫌味な奴。なんだあれ? 面は良いが堅苦しくて何が楽しみに生きてんだ? 女の扱い方も知らねえだろ絶対。そこだけ勝ったわ」
「フッ。後半はお前の妄想だろうが前半は同感だ。あいつと話すのは本当に疲れるんだ。……名無し、お前も気をつけろよ」
ルドガーはなぜか宿敵の獣と意見を合わせ、自分達の名前が呼ばれると、あなたの手を引いて中に入っていった。
軍人の彼はゼイランのときと違い、礼もせずに執務室へ進んだ。
あなたはおずおずと頭を下げ、その後びっくりする。
広く実用的な部屋の奥の書斎に腰掛けていたのは、思わず目を奪われるほど端正な、短く濃い金髪の男性だった。
凛々しく剛健な顔立ちで、年は20代後半だろうか。
青い瞳は透き通っていて、立ち上がるとルドガーと大差ないほどの長身である。
薄灰色の制服を一切の乱れなく着こなし、腕には団長を示す階級章が入っている。
胸元には騎士団の紋章が静かに輝き、その姿は華美さとは無縁だ。
「君か、名無し。俺はこの騎士団の団長キリングだ。よろしくな」
「は、ひゃいっ。よろしくお願いします団長さん!」
あなたは緊張から声が裏返ったが、彼に手を差し出され握手をした。
ものすごく強く握られて泣くかと思った。
けれど彼はルドガーにはそんなことせず、一瞥しただけだ。
まさかお付きの人もおらず、三人きりで面談をするとは思わなかった。
書斎机を挟んでルドガーと並んで座る。
ちらっと見るルドガーの横顔は、まるで無愛想である。
おかしい。自分の闘病のときに休暇届を出してくれた彼は、団長のサインもある!と喜んでいたのに。
「あの、団長さん。その節はどうもありがとうございました。休暇届に許可を出してくださって」
「気にしないでくれ。ただ職務を行っただけだ。今は回復したそうだな。なによりだ」
あなたはそう声をかけられてありがたくお礼を言ったが、彼は冷徹な顔のままぴくりともしない。
笑った顔がまったく想像できない人だと思った。ルドガーも獣で元々表情があまりないが、タイプが違うのは明らかだった。
ルドガーは腕を組んだまま不機嫌そうに口を開く。
「それで、今日はなんの話だ。用件を言え」
「……用件を言えだと? 一連の騒動はお前が発端だろう。総勢206名の騎士全体にかかった調査負担がお前に想像できるか。敷地の警備や結界も強化している。偉そうにするな、獣」
低い声で事実を並べる団長にあなたはひれ伏しそうになった。
「申し訳ありません! すべて私のせいなんです!」
「君のせいだとは言っていない。俺はこいつに態度をいい加減改めろと言っているんだ」
「うるさいな……また説教か。俺の主人でもないくせに偉そうなのはどっちだ……」
ルドガーがはぁ、と人を苛立たせるため息を吐き、目の前の美形のこめかみに筋が立つ。
「あぁぁ! あの、ほんとにすみませんっ。うちの人にはよく言って聞かせますので、どうかお許しください団長さま!」
あなたが頭を下げると、ルドガーが腕をギュッと握り、そんなことしなくていいという困惑した顔をしてくる。
しかしあなたには、団長の怒りの背景には何か積み重なったものがあるような雰囲気を感じたのだ。
「ふっ……君は話がわかる人間のようだな、名無し」
「あ、はい。ルドガーもきちんと説明すれば分かってくれるとは思うんですが…」
「いいや無理だ。この三年、俺は幾度となく任務のあとは報告書を書けと言ってきた。実際に書いたのは、ゼイラン様が同行した大型の任務二度だけだ。……なぜこんなことを言うかというとな、奴はものすごく戦い方が汚い。本当に汚い。物を壊し、建造物を破壊し、文化財にも補修を要することが多々あった。近隣住民からも苦情が頻繁に送られるんだ、それを俺達騎士団は毎回苦労して――」
「……えっ……」
あなたはつらつらと語られる新事実に唖然とする。
ルドガーは拗ねた顔つきで視線をそらす。
「ちょっと、今の話本当なの?」
「こいつの話は大げさだ。戦いのときに他のことなんて構ってられるか。獲物を逃がしたらどうする。他のことは騎士どもがやればいい。俺は知らん」
ぷいっとした態度で開き直り、さすがにあなたも冷や汗が流れた。
「だめだよそれはさすがに……集中してるのは分かるけど、皆に迷惑かけちゃいけないでしょう、ルドガー……」
「……お前も俺が無事に帰ってくればいいと言ってくれただろう? あれは本当じゃなかったのか…?」
まるで心を確かめるようなか弱い眼差しをされて、あなたの心も純粋に揺れ動く。
「本当だよ、それはそう。でもね――」
どう説明すればいいのか。彼の気持ちも分かるし、騎士団側の苦情もわかる。
「報告書を書くっていうのは、ルドガー、難しいの? それとも面倒くさいの?」
「……ぐ……面倒だ。やりたくない」
彼は二人の前で白状した。あなたは団長の怒り顔が爆発しないかと恐れる。
「あの、その報告書、私が代わりに書いてもいいですか? 彼から聞いてまとめれば出来るような気がして」
そう申し出ると、団長は微かに眉を上げる。同時に隣から、ルドガーも目を丸くした。
「えっ……? いいのか…?」
彼が素直にそうもらしてしまうのを、あなたは聞き逃さなかった。
だがもちろんいいよ、とこちらが答える前に、彼は焦って自分の反応を撤回する。
「いや、お前にそんなことはさせられない……俺の仕事だ。面倒事を引き受けたりしなくていい」
「面倒事って、必要な書類なんでしょう。大丈夫だよ、聞いて書くだけだから。……それとも、戦闘中のことまったく覚えてないの?」
心配になり尋ねると彼は否定した。
記憶力はいいがそれを平常時の精神に戻ったときに文章にするのが大嫌いなのだそうだ。
「そっか、ふふ。仕事中のあなたのこと何も知らないから、新鮮だね。じゃあ言葉では教えてくれる? 要約でいいんですよね、団長」
「ああ、構わない。君が担当してくれるなら助かるよ」
さらりと許可を出したキリングに、あなたも安堵し頷く。
だがルドガーは違った不安をにじませた。
「お前が助けてくれるなら、正直ありがたい。……だが、血なまぐさいことをしていると、お前に知られるのは、怖い……」
軍人の鎧をとき、ぽつりと弱音をこぼすルドガーに、あなたは心が震わされた。
「ルドガーっ……」
思わず彼の胸元の近くで見上げ、頬をそっと触った。
「平気だよ、どんな話でもちゃんと聞くから。あなたが恐れることなんてないんだから。……まあそんなにアレだったら、最初から内容をシンプルにしてくれてもいいんだから。ねっ?」
若干我に返ってきたため提案すると、ルドガーの金の瞳は感激に瞬いた。
決心してくれたのか、やがてゆっくりと頷く。
「……わかった。ありがとう、名無し。お前ほどのいい女はいない。最高の番だ」
「ふふ。あなたもだよ、ルドガー」
二人の世界で微笑み確かめ合っていると、前から微動だにしない男の視線が突き刺さっていることに気づいた。
あなたは慌てて身だしなみを整え、団長の話に戻る。
「ではそうしてくれ。……獣。彼女にお前の秘書をやってもらえばいいんじゃないか?」
「……秘書ぉっ!? なんですかそれ、難しそうですよそんなの!」
「難しくはない。こいつの従者は一応いるんだが、奴と意思疎通が出来ず困っているんだ。君が代わりに努めてくれれば騎士団としても助かる」
そうはっきり言われてしまえばあなたは迷いで揺らぐ。
内容は本当に大変なものではないようで、報告書を提出したり、他の団員との架け橋のような存在を目指せばいいらしい。
「名無しを単なる秘書扱いするな。俺の番なんだぞ」
「公私ともに支えてもらえばいいだろう。お前の仕事は高難易度の部類だが、騎士のように多忙なわけではない。秘書としての仕事は多くないぞ。それにな、お前が彼女の負担にならないように職務を全うすればいいだけの話だ。わかったか、獣」
言葉尻を厳しくし、団長キリングは正論で制圧した。
ルドガーは黙り、あなたを見やる。
あなたは彼の肩をぽんぽんと叩き、微笑みを向けた。
自分にどこまで出来るか分からないけれど、ルドガーを支えていこうと思っていた。
