巨体の人外に助けられて世話される話
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ゼイランの客室から出たあと、あなた達はホテル一階のロビーへ向かった。
送迎の執事が来てくれるまで少し時間があったのだ。
白と黄金色のきらびやかな博物館みたいな場所で、つい高い天井を見上げてしまう。
「ねえねえ、位の高そうな人たちもだけど、軍人さんもたくさんいるね。ルドガーの制服に似てる」
「ああ。ゼイラン様の護衛部隊もだが、他の貴族も大勢ここに宿泊しているからな」
濃色の軍服を着たルドガーがラウンジを見渡すと、確かに貫禄のある魔族の男性たちが座っている。
ゼイランのように若い人は珍しく思えた。
小柄なあなたがルドガーのそばでかしこまり気味に佇んでいると、遠くの軍人らはたまに彼に視線を投げた。
そして互いに目で合図し、軽く頷きあう。
今は職務中だが、きっと知り合いなのかもしれない。
「あ。ちょっと今のうちにお手洗い行ってきてもいい?」
「いいぞ。待て、俺も一緒に行こう。外で待ってるからな」
ここはある意味もっとも安全な場所だが、迷ったりしたらいけないのでルドガーはついてきてくれた。
あなたは女性用の化粧ルームへ入る。
そこもまた休憩のソファやらメイク用のスペースがあり、部屋のように美しい場所だった。
済ませたあと大理石張りの鏡の前で、じっと顔を見つめる。
他には人がおらず、あなたは小さい鞄から淡いピンク色の口紅をだして塗り直した。
「はぁ~。こんなホテルに泊まってるなんて、偉い人達はすごいよねぇ~」
ゼイランの部屋はその中でもひときわ豪華なのだろうが、思い出しただけで身分の差を感じる。
その後もう一度手を洗い、タオルを探していたときだった。
隣にいつの間にか、女性がいることに気づいた。
鏡でちらっと見ると、黒いレースのケープをかぶった、薄紫色のゆるい髪の人だ。
肌は白く大きな瞳で、二十代後半のお姉さんみたいだった。
――綺麗な人。超美人だな。
背が高く黒のロングドレスをまとい、黒のハイヒールを履いている。
彼女は目が合うと、薄く瞳を笑ませた。
あなたもにこっと微笑んだところ、彼女はハンカチを差し出してきた。
「えっ。あ、大丈夫ですよ! ありがとうございます」
「いえいえ、どうぞ」
「いえいえいえ、そんな、綺麗なハンカチもったいないですし!」
手を振って遠慮すると、彼女は一歩こちらへ近づき、柔らかい表情のままこう言った。
「どうぞ。名無しさん」
名前を呼ばれて、あなたは目を見開き時間が止まる。
黒い服の彼女はあなたの手をそっと取り、ハンカチを持たせた。
「あの、どうして名前……」
「守護者様からです」
妖艶な声音でそう告げられて、心臓がどくっと鳴った。
瞳が揺れ、まるで魔法がかかったようにまっすぐ見つめる。
「本当ですか? あなたはいったい……守護者さまも近くにいるんですかっ?」
尋ねても彼女は答えずにこりとしたままだ。
あなたは状況に混乱し焦っていたが、伝えなければいけないことを思い出した。
「あのっ、セロさんとナザルさん、騎士団にいます! 勝手なことをしてすみません!」
彼女は穏やかな表情を変えず「大丈夫ですよ」とだけ答えた。
ほっとするものの、彼女は明らかに状況を知る、守護者の関係者なのだと悟った。
まだ会話をしたかったのだが、徐々に距離が離れていき、去ろうとしているのだと思った。
「待って、守護者さまは……!」
「もうすぐです」
それだけ言って、その人は笑みを浮かべて軽くお辞儀をし、化粧ルームから出て行ってしまった。
あなたはその後もひとりその場に佇む。
渡された白く手触りのいいハンカチを見下ろし、なんともいえない温かい気持ちに包まれた。
手元もじわりと温もりを感じる。
守護者に会ったことはないのに、本当に実在したのだという感動が漂っていた。
お手洗いから出て廊下を歩き、その出口にルドガーの後ろ姿があった。
あなたは彼の腕の後ろから顔をひょこっと出し、彼を驚かせる。
「名無し、もう済んだのか? 大丈夫か」
「うん! ……ねえねえ、あのね。ものすごいことがあったよ!」
顔は上気して興奮を隠せず、表情も満面の笑みだ。
不思議そうにするルドガーに対し、あのハンカチを見せた。
「これ、今知らない女の人にもらったの! きっと守護者さまの関係者だよ、私の名前も知ってたんだよ!」
「…ちょ、ちょっとまて、どういうことだ?」
混乱する彼にすべてを話した。
するとだんだんと理解をしてきたようだった。
「黒い服の女……? お前以外に、誰も出てこなかったぞ」
ルドガーの動揺する瞳に見下され、あなたも驚くが、もしかして彼女は魔術師なのではないかと思った。
微笑みから女性の優しさは感じたけれど、黒衣に身を包んでいたし、たたずまいも気配も、なにかただ者ではない気がしたのだ。
「魔術師か……。だが、ここはそう簡単に入れる場所じゃない。今は魔界一警護が厳しいと言っても過言ではない所だぞ」
疑いをぬぐえない彼にあなたも神妙に同意する。
「でも、見てこのハンカチ。ちゃんと存在してるよね?」
「ああ。……触ってもいいか?」
「もちろん!」
彼に渡すと、獣らしく鼻を近づけて探ろうとしている。
あの女性からはいい香りがしたが、なんとこのハンカチは無臭だと言われた。
気配や痕跡を残さない所はまるでミザロのようだ。
「でも綺麗だよね……上質な布で肌ざわりもいいし。ふふ。守護者さまからの贈り物なのかな。嬉しいなぁ……」
「……ああ、そうだよな……」
ルドガーは状況に困惑しつつも、喜ぶあなたのことを慎重に見守っている様子だった。
だがハンカチの飾りについて、彼は気に留める。
「なあこれって、紋章のようだ」
「えっ、そうなの? この刺繍?」
ハンカチの模様だと思っていたが、角の隅には曲線と茨のようなデザインがなされている。
その上ルドガーが折りたたまれたハンカチを裏返すと、もうひとつの記号も発見した。
「おい、これを見てみろ。これは俺の名前の頭文字と、お前の名前の頭文字だ」
「ええっ!」
よく見てみると、小さく華麗な様式で、確かに二つの文字が結ばれるように刺繍で刻まれている。
あなたはそれを見て、気持ちがこみあげるように感激した。
「やっぱり! 守護者さまって、私達の応援団なんだよ! これで分かったでしょうっ?」
「……お、応援団?」
あなたの勢いにルドガーは若干腰が引けていたが、彼もじっくりとその文字を見つめた。
「そう、なのか……? よく分からんが……なぜこんなことをするんだ。俺達を本当に見守っているということなのか……?」
もしそうならば、あなたはとても嬉しかった。
色々な不安や心配がきれいさっぱり消えてしまうかのようだ。
「そうだよ絶対! それにね、その紫色の髪の女の人、もうすぐですって言ってたの。もうすぐ会えるってことじゃない? どうしよう、ドキドキするよ~」
あなたがはしゃぎ始めると、ルドガーは瞳を揺らし、腕の中にあなたの体を抱き寄せる。
遠くに人々がくつろぐラウンジがあるが、彼はそうした。
あなたもほっとして嬉しくなり、腕の中に甘える。
「もし守護者さまに会えるなら、ルドガーも一緒に来てくれるでしょう? だって二人の守護者だもん、もう」
「……そうなのか? わからんが、もちろん一緒だぞ。当然だ」
彼はあなたの頭を優しく撫でながら、大事に抱え続けた。
「名無し、油断をするなとは言わないが、もう少し調べたい。安全のためだ。このハンカチを、ミザロに見せてもいいか?」
「えっ……う、うん。大丈夫だよ。そうだよね、調べるのはいいことだと思う」
ルドガーが見て痕跡がないならば容易ではないのかもしれない。
けれどあなたも、守護者からの接触に喜びがわいたとしても、ただ待っているだけのつもりはなかった。
自分にできることがあるならしたいし、彼女はただでさえルドガー以上の秘密主義だから、もっと知りたいと思ったのだ。
「じゃあ帰ったら師匠にもお話してみよう。あとセロさんたちにも」
「ああ、そうしよう。これはお前への大切な贈り物だが、同時に重要な手がかりにもなるからな」
ルドガーがそう言ってくれて安堵する。
二人は騎士団に戻り、これからのことをまた考え始めることにした。
送迎の執事が来てくれるまで少し時間があったのだ。
白と黄金色のきらびやかな博物館みたいな場所で、つい高い天井を見上げてしまう。
「ねえねえ、位の高そうな人たちもだけど、軍人さんもたくさんいるね。ルドガーの制服に似てる」
「ああ。ゼイラン様の護衛部隊もだが、他の貴族も大勢ここに宿泊しているからな」
濃色の軍服を着たルドガーがラウンジを見渡すと、確かに貫禄のある魔族の男性たちが座っている。
ゼイランのように若い人は珍しく思えた。
小柄なあなたがルドガーのそばでかしこまり気味に佇んでいると、遠くの軍人らはたまに彼に視線を投げた。
そして互いに目で合図し、軽く頷きあう。
今は職務中だが、きっと知り合いなのかもしれない。
「あ。ちょっと今のうちにお手洗い行ってきてもいい?」
「いいぞ。待て、俺も一緒に行こう。外で待ってるからな」
ここはある意味もっとも安全な場所だが、迷ったりしたらいけないのでルドガーはついてきてくれた。
あなたは女性用の化粧ルームへ入る。
そこもまた休憩のソファやらメイク用のスペースがあり、部屋のように美しい場所だった。
済ませたあと大理石張りの鏡の前で、じっと顔を見つめる。
他には人がおらず、あなたは小さい鞄から淡いピンク色の口紅をだして塗り直した。
「はぁ~。こんなホテルに泊まってるなんて、偉い人達はすごいよねぇ~」
ゼイランの部屋はその中でもひときわ豪華なのだろうが、思い出しただけで身分の差を感じる。
その後もう一度手を洗い、タオルを探していたときだった。
隣にいつの間にか、女性がいることに気づいた。
鏡でちらっと見ると、黒いレースのケープをかぶった、薄紫色のゆるい髪の人だ。
肌は白く大きな瞳で、二十代後半のお姉さんみたいだった。
――綺麗な人。超美人だな。
背が高く黒のロングドレスをまとい、黒のハイヒールを履いている。
彼女は目が合うと、薄く瞳を笑ませた。
あなたもにこっと微笑んだところ、彼女はハンカチを差し出してきた。
「えっ。あ、大丈夫ですよ! ありがとうございます」
「いえいえ、どうぞ」
「いえいえいえ、そんな、綺麗なハンカチもったいないですし!」
手を振って遠慮すると、彼女は一歩こちらへ近づき、柔らかい表情のままこう言った。
「どうぞ。名無しさん」
名前を呼ばれて、あなたは目を見開き時間が止まる。
黒い服の彼女はあなたの手をそっと取り、ハンカチを持たせた。
「あの、どうして名前……」
「守護者様からです」
妖艶な声音でそう告げられて、心臓がどくっと鳴った。
瞳が揺れ、まるで魔法がかかったようにまっすぐ見つめる。
「本当ですか? あなたはいったい……守護者さまも近くにいるんですかっ?」
尋ねても彼女は答えずにこりとしたままだ。
あなたは状況に混乱し焦っていたが、伝えなければいけないことを思い出した。
「あのっ、セロさんとナザルさん、騎士団にいます! 勝手なことをしてすみません!」
彼女は穏やかな表情を変えず「大丈夫ですよ」とだけ答えた。
ほっとするものの、彼女は明らかに状況を知る、守護者の関係者なのだと悟った。
まだ会話をしたかったのだが、徐々に距離が離れていき、去ろうとしているのだと思った。
「待って、守護者さまは……!」
「もうすぐです」
それだけ言って、その人は笑みを浮かべて軽くお辞儀をし、化粧ルームから出て行ってしまった。
あなたはその後もひとりその場に佇む。
渡された白く手触りのいいハンカチを見下ろし、なんともいえない温かい気持ちに包まれた。
手元もじわりと温もりを感じる。
守護者に会ったことはないのに、本当に実在したのだという感動が漂っていた。
お手洗いから出て廊下を歩き、その出口にルドガーの後ろ姿があった。
あなたは彼の腕の後ろから顔をひょこっと出し、彼を驚かせる。
「名無し、もう済んだのか? 大丈夫か」
「うん! ……ねえねえ、あのね。ものすごいことがあったよ!」
顔は上気して興奮を隠せず、表情も満面の笑みだ。
不思議そうにするルドガーに対し、あのハンカチを見せた。
「これ、今知らない女の人にもらったの! きっと守護者さまの関係者だよ、私の名前も知ってたんだよ!」
「…ちょ、ちょっとまて、どういうことだ?」
混乱する彼にすべてを話した。
するとだんだんと理解をしてきたようだった。
「黒い服の女……? お前以外に、誰も出てこなかったぞ」
ルドガーの動揺する瞳に見下され、あなたも驚くが、もしかして彼女は魔術師なのではないかと思った。
微笑みから女性の優しさは感じたけれど、黒衣に身を包んでいたし、たたずまいも気配も、なにかただ者ではない気がしたのだ。
「魔術師か……。だが、ここはそう簡単に入れる場所じゃない。今は魔界一警護が厳しいと言っても過言ではない所だぞ」
疑いをぬぐえない彼にあなたも神妙に同意する。
「でも、見てこのハンカチ。ちゃんと存在してるよね?」
「ああ。……触ってもいいか?」
「もちろん!」
彼に渡すと、獣らしく鼻を近づけて探ろうとしている。
あの女性からはいい香りがしたが、なんとこのハンカチは無臭だと言われた。
気配や痕跡を残さない所はまるでミザロのようだ。
「でも綺麗だよね……上質な布で肌ざわりもいいし。ふふ。守護者さまからの贈り物なのかな。嬉しいなぁ……」
「……ああ、そうだよな……」
ルドガーは状況に困惑しつつも、喜ぶあなたのことを慎重に見守っている様子だった。
だがハンカチの飾りについて、彼は気に留める。
「なあこれって、紋章のようだ」
「えっ、そうなの? この刺繍?」
ハンカチの模様だと思っていたが、角の隅には曲線と茨のようなデザインがなされている。
その上ルドガーが折りたたまれたハンカチを裏返すと、もうひとつの記号も発見した。
「おい、これを見てみろ。これは俺の名前の頭文字と、お前の名前の頭文字だ」
「ええっ!」
よく見てみると、小さく華麗な様式で、確かに二つの文字が結ばれるように刺繍で刻まれている。
あなたはそれを見て、気持ちがこみあげるように感激した。
「やっぱり! 守護者さまって、私達の応援団なんだよ! これで分かったでしょうっ?」
「……お、応援団?」
あなたの勢いにルドガーは若干腰が引けていたが、彼もじっくりとその文字を見つめた。
「そう、なのか……? よく分からんが……なぜこんなことをするんだ。俺達を本当に見守っているということなのか……?」
もしそうならば、あなたはとても嬉しかった。
色々な不安や心配がきれいさっぱり消えてしまうかのようだ。
「そうだよ絶対! それにね、その紫色の髪の女の人、もうすぐですって言ってたの。もうすぐ会えるってことじゃない? どうしよう、ドキドキするよ~」
あなたがはしゃぎ始めると、ルドガーは瞳を揺らし、腕の中にあなたの体を抱き寄せる。
遠くに人々がくつろぐラウンジがあるが、彼はそうした。
あなたもほっとして嬉しくなり、腕の中に甘える。
「もし守護者さまに会えるなら、ルドガーも一緒に来てくれるでしょう? だって二人の守護者だもん、もう」
「……そうなのか? わからんが、もちろん一緒だぞ。当然だ」
彼はあなたの頭を優しく撫でながら、大事に抱え続けた。
「名無し、油断をするなとは言わないが、もう少し調べたい。安全のためだ。このハンカチを、ミザロに見せてもいいか?」
「えっ……う、うん。大丈夫だよ。そうだよね、調べるのはいいことだと思う」
ルドガーが見て痕跡がないならば容易ではないのかもしれない。
けれどあなたも、守護者からの接触に喜びがわいたとしても、ただ待っているだけのつもりはなかった。
自分にできることがあるならしたいし、彼女はただでさえルドガー以上の秘密主義だから、もっと知りたいと思ったのだ。
「じゃあ帰ったら師匠にもお話してみよう。あとセロさんたちにも」
「ああ、そうしよう。これはお前への大切な贈り物だが、同時に重要な手がかりにもなるからな」
ルドガーがそう言ってくれて安堵する。
二人は騎士団に戻り、これからのことをまた考え始めることにした。
