巨体の人外に助けられて世話される話
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魔術師塔にセロが来るまで、あなたは赤髪の男に話しかけようと努める。
皆がテーブルを囲んで座る中、男は正面のソファに腰を下ろし、悠々と腕をかけていた。
「あのう、そろそろお名前を……それと、ちゃんと服を着てくれませんかね。持ってないんですか?」
「あのよ、姉ちゃん。俺に一気にお願いしすぎだろ。どれかひとつにしろよ」
引き締まった肉体美をさらす下着姿の男は、にやりと流し目をする。
「じゃあ服でお願いします」
「…ちっ。しょうがねえな。そんなに刺激的か? 俺の裸は」
どうせ名前はあとで分かるだろうしと思っていると、赤髪は一瞬で姿をがらりと変えた。
彼に季節は関係ないらしく、派手な柄シャツは最後のボタンひとつしか留めていない。
白いズボンに金ぴかの腕時計、じゃらじゃらした金のアクセサリーまで身につけていた。
長めの髪の毛も後ろに流すようにセットしていて、どこからどう見ても、軽薄そうな若い色男である。
「わあすごい、人間みたいですね。どうやってやったんですか」
「魔法だよ。人間つうより魔族に近いけどな。……くくく、俺に興味深々だな。あんたになら色々教えてやるぜ? ほら、そんなつまんねえ男の隣じゃなく、俺んとこ来いよ……」
態度のでかい獣が誘い出したとき、あなたの横でずっと黙っていた獣は、とうとう堪忍袋の緒が切れそうな表情をした。
「お前……俺達がお前に話をさせてやってるんだ。はき違えるな。殺すぞ」
「バカのひとつ覚えみたいに殺す殺すってなあ、お前いくつ? 人生の先輩が言葉を教えてやろうか?」
これはまずい。
彼らはまったくタイプも育った環境も違ってみえる。
あなたはいきり立つルドガーの膝の手をぎゅっと握り、男に視線を向けた。
「彼を挑発しないでください。あなたの立場は何も変わりませんよ、毛玉さん」
「……おい。俺は毛玉じゃねえ。……くくっ、どうせならもっとエロい名前で呼んでくれよ、姉ちゃんよぉ」
この人はまったく話が通じない。
からかわれてるだけなのかもしれないが、彼のペースを崩すのが大変に思えた。
するとちょうど、ミザロの部屋の扉がすーっと開く。
皆の注目が集まると、怯えた様子のセロが顔を出しており、背後の背の高い騎士が礼をして去った。
「セロさん! 待ってたんですよ!」
「あー……悪い悪い。……いや、ほんと悪い……」
珍しくしおらしく現れ、彼は言葉少なに皆の席へ入って来た。
自ら赤髪の男の隣に座ったとたん、相手を鬼の形相のように睨みつけている。
「あなた、我々を騙しましたね。あんな兎をここに潜り込ませて、何が目的だったんですか」
「いや、あんたが勝手に取り上げたんでしょう、俺はこうやって問題にならないように手元に置こうとしたのに!」
セロは身を乗り出して潔白を主張する。
あなたはやや同情気味にセロを見やる。
「彼、問題児なんですか? なんとなくわかりますけど……私にもさっきからずっとセクハラしてくるんですよ」
「えっ。やっぱり? ……バカ野郎てめえっ、この女だけはやめろ! 隣の巨体が見えねえのか、あいつはマジでヤバいんだぞッ」
セロが仲間の赤髪の胸倉を掴もうとするが、非力でちゃんと出来ていない。
男はだるそうにされるがままになり、ため息をはいた。
「うっせえな、セロ。何がやべえんだよ、ただのお堅い軍人じゃねえか。…あっ、俺のほうがあっちは硬いぞ? くくっ」
「だからセクハラやめろって言ってんだろ! ここでは問題起こすな! 俺らの進退かかってんだぞっ」
獣の言動に女性のあなたはすっかり引いている。
しかし少しだけ、彼らの関係性が垣間見えた気がした。
「わりいな、名無し……こいつは馬鹿でスケベで戦闘狂の獣なんだ……俺の手にも余ってんだよ……」
「セロさん……苦労してきたんですね」
「……そうだよ、分かってくれるかっ? お前なら俺らの理解者になってくれると思ってたんだ!」
彼はなぜか一瞬ルドガーをちら見し、あなたに救いの手を求める。
同じ人間として、本来獣である彼らと接するのは、確かに簡単なことではないのかもしれない。
あなたには最初から、二人に寄り添う気持ちはあった。
「お二人はいつも一緒なんですよね? どういう出会いなんですか?」
「それはあれだよ。……師匠に押し付けられてな。こんな獣、俺が捕まえられるわけないだろう、普通に考えて」
セロは斜め上を見て頬をかく。
すると冷静に観察していたミザロが口を開いた。
「ですがセロさん。彼は魔界由来の魔獣ですよね? あなたの師匠は人間なのでは?」
「そ、そうだけど。なに? 人間が魔獣持っちゃいけないわけ? あの人の力なら魔界ぐらい来たことあんだろ、知らねーけど」
彼の口ぶりはいつもに増して怪しかった。
この獣に何か秘密があるのだろうか。
「ふふふ……あなたよりもあなたの師のほうが興味湧いてきましたよ。誰なんですかねえ、本当の主人は……」
「そうですね……毛玉さん、話してはくれませんか」
あなたが赤髪の男にもう一度目を合わせると、彼はにっこりと笑い、上機嫌に口元を緩める。
「俺はナザルだ。名無し。お前が一対一で会ってくれるっつうなら、いろんなことを話してやるよ」
初めて名を告げた彼は、一瞬だけあなたの心を動かしそうになる。
それが本当なら迷うが、一対一は嫌だった。
そしてルドガーも黙ってはいない。
「おい、獣。お前は本気なのか?」
「何がだよ。お前も獣だろうが」
「俺の番を本気で狙っているなら、決闘をするか」
……えっ?
ずっと敵をじりじりと見つめていたルドガーは、もうそんなところまで考えるに至っていたのだ。
「ちょっ、ルドガー? 決闘なんてダメだよ。やめてねそんなの」
「なぜだ。俺は我慢ならない。ずっとお前にちょっかいをかけられ、俺達を侮辱されて……こいつは消し去るべき存在だ。名無し」
金色の瞳はあなたをじっと映す。
闘争心に燃えるというよりも、あなたを守るという純粋で透明な色だ。
そこには彼のわずかな焦燥も漂っていた。
あなたは迷わずルドガーを抱きしめる。
腕が簡単には回らない大きな体を、ぎゅうっと包み込むように。
「まだそんなこと決めないで。急いで結論出さなくていいよ。喧嘩してほしくないの。あなたに傷ついてほしくない」
「俺は絶対にこんなやつに負けない。信じろ、名無し」
「信じてるよ、でもね……」
あなた達が人前で見つめ合っていると、セロがゆっくり手をあげた。
「あのさ、お前、ルドガー。たぶんこいつに勝つから、ほんとやめてほしい。こんなんでも俺の用心棒なんだ。殺られたら俺が困る。頼む許してくれ。……ほらナザル、お前も一緒にルドガーさんに頭さげやがれ!」
「……いってえな何すんだよてめえ! お前それでも俺の主人かっ? なっさけねえこと言うんじゃねえよ!」
二人の空気が険悪になり、あなたはおろおろした。
「黙れ淫乱獣! あの男をよく見てみろ、あいつは軍の教育を受けた筋金入りの殺戮獣だぞ、野生児のお前とは違うんだよ! ぜってえ負けるから! 幻想は捨てろ!」
「うっせえ非力な魔術師が! 俺は幻獣だぞ、負けるわけねえだろ! お前がいつも弱気だから俺までこんな位置に下がっちまってんだよ、自覚持てこの野郎!」
「……ま、まあまあ、喧嘩しないで、セロさん、ナザルさん」
こうして素の姿を見てみると、憎めない二人組だと思ったが、ルドガーとゼイランとはかなり異なる関係だ。
赤髪の獣、ナザルはソファにどすっと背を預ける。
小うるさい主人に疲れ切った様子だ。
彼は我関せずといったふうに静観しているルドガーのことを、不快そうに睨みつけた。
これまでとは違い、怒りが混じっているようだ。
「お前はいいよな……強者の主に、可愛い彼女までもらってよ……どんだけ幸運なんだよ。俺なんか、これだぞ? 憐れだと思わねえか」
ルドガーはその台詞に、一瞬だけ眉をひそめた。
相手の素性を探るようにじろりと見返し、やがて頷く。
「ああ。思うな」
「……こんの、クソ軍人が……ッ」
ナザルはこめかみに青筋を立てて苛立っていたが、隣のセロの「これって俺のこと? もの扱いしたの今?」という緊張を壊す発言により、脱力していく。
彼はだらりとソファにもたれ、疲れたようだった。
「もういいわ……登場に力を使いすぎた。せっかく久々のタイプの女の前で格好つけたかったのによ……」
もう一人の獣のつぶやきは、彼の本心からくるものだ。
こうして混沌とした仲間同士の顔合わせは、ひとまず幕を閉じる。
皆がテーブルを囲んで座る中、男は正面のソファに腰を下ろし、悠々と腕をかけていた。
「あのう、そろそろお名前を……それと、ちゃんと服を着てくれませんかね。持ってないんですか?」
「あのよ、姉ちゃん。俺に一気にお願いしすぎだろ。どれかひとつにしろよ」
引き締まった肉体美をさらす下着姿の男は、にやりと流し目をする。
「じゃあ服でお願いします」
「…ちっ。しょうがねえな。そんなに刺激的か? 俺の裸は」
どうせ名前はあとで分かるだろうしと思っていると、赤髪は一瞬で姿をがらりと変えた。
彼に季節は関係ないらしく、派手な柄シャツは最後のボタンひとつしか留めていない。
白いズボンに金ぴかの腕時計、じゃらじゃらした金のアクセサリーまで身につけていた。
長めの髪の毛も後ろに流すようにセットしていて、どこからどう見ても、軽薄そうな若い色男である。
「わあすごい、人間みたいですね。どうやってやったんですか」
「魔法だよ。人間つうより魔族に近いけどな。……くくく、俺に興味深々だな。あんたになら色々教えてやるぜ? ほら、そんなつまんねえ男の隣じゃなく、俺んとこ来いよ……」
態度のでかい獣が誘い出したとき、あなたの横でずっと黙っていた獣は、とうとう堪忍袋の緒が切れそうな表情をした。
「お前……俺達がお前に話をさせてやってるんだ。はき違えるな。殺すぞ」
「バカのひとつ覚えみたいに殺す殺すってなあ、お前いくつ? 人生の先輩が言葉を教えてやろうか?」
これはまずい。
彼らはまったくタイプも育った環境も違ってみえる。
あなたはいきり立つルドガーの膝の手をぎゅっと握り、男に視線を向けた。
「彼を挑発しないでください。あなたの立場は何も変わりませんよ、毛玉さん」
「……おい。俺は毛玉じゃねえ。……くくっ、どうせならもっとエロい名前で呼んでくれよ、姉ちゃんよぉ」
この人はまったく話が通じない。
からかわれてるだけなのかもしれないが、彼のペースを崩すのが大変に思えた。
するとちょうど、ミザロの部屋の扉がすーっと開く。
皆の注目が集まると、怯えた様子のセロが顔を出しており、背後の背の高い騎士が礼をして去った。
「セロさん! 待ってたんですよ!」
「あー……悪い悪い。……いや、ほんと悪い……」
珍しくしおらしく現れ、彼は言葉少なに皆の席へ入って来た。
自ら赤髪の男の隣に座ったとたん、相手を鬼の形相のように睨みつけている。
「あなた、我々を騙しましたね。あんな兎をここに潜り込ませて、何が目的だったんですか」
「いや、あんたが勝手に取り上げたんでしょう、俺はこうやって問題にならないように手元に置こうとしたのに!」
セロは身を乗り出して潔白を主張する。
あなたはやや同情気味にセロを見やる。
「彼、問題児なんですか? なんとなくわかりますけど……私にもさっきからずっとセクハラしてくるんですよ」
「えっ。やっぱり? ……バカ野郎てめえっ、この女だけはやめろ! 隣の巨体が見えねえのか、あいつはマジでヤバいんだぞッ」
セロが仲間の赤髪の胸倉を掴もうとするが、非力でちゃんと出来ていない。
男はだるそうにされるがままになり、ため息をはいた。
「うっせえな、セロ。何がやべえんだよ、ただのお堅い軍人じゃねえか。…あっ、俺のほうがあっちは硬いぞ? くくっ」
「だからセクハラやめろって言ってんだろ! ここでは問題起こすな! 俺らの進退かかってんだぞっ」
獣の言動に女性のあなたはすっかり引いている。
しかし少しだけ、彼らの関係性が垣間見えた気がした。
「わりいな、名無し……こいつは馬鹿でスケベで戦闘狂の獣なんだ……俺の手にも余ってんだよ……」
「セロさん……苦労してきたんですね」
「……そうだよ、分かってくれるかっ? お前なら俺らの理解者になってくれると思ってたんだ!」
彼はなぜか一瞬ルドガーをちら見し、あなたに救いの手を求める。
同じ人間として、本来獣である彼らと接するのは、確かに簡単なことではないのかもしれない。
あなたには最初から、二人に寄り添う気持ちはあった。
「お二人はいつも一緒なんですよね? どういう出会いなんですか?」
「それはあれだよ。……師匠に押し付けられてな。こんな獣、俺が捕まえられるわけないだろう、普通に考えて」
セロは斜め上を見て頬をかく。
すると冷静に観察していたミザロが口を開いた。
「ですがセロさん。彼は魔界由来の魔獣ですよね? あなたの師匠は人間なのでは?」
「そ、そうだけど。なに? 人間が魔獣持っちゃいけないわけ? あの人の力なら魔界ぐらい来たことあんだろ、知らねーけど」
彼の口ぶりはいつもに増して怪しかった。
この獣に何か秘密があるのだろうか。
「ふふふ……あなたよりもあなたの師のほうが興味湧いてきましたよ。誰なんですかねえ、本当の主人は……」
「そうですね……毛玉さん、話してはくれませんか」
あなたが赤髪の男にもう一度目を合わせると、彼はにっこりと笑い、上機嫌に口元を緩める。
「俺はナザルだ。名無し。お前が一対一で会ってくれるっつうなら、いろんなことを話してやるよ」
初めて名を告げた彼は、一瞬だけあなたの心を動かしそうになる。
それが本当なら迷うが、一対一は嫌だった。
そしてルドガーも黙ってはいない。
「おい、獣。お前は本気なのか?」
「何がだよ。お前も獣だろうが」
「俺の番を本気で狙っているなら、決闘をするか」
……えっ?
ずっと敵をじりじりと見つめていたルドガーは、もうそんなところまで考えるに至っていたのだ。
「ちょっ、ルドガー? 決闘なんてダメだよ。やめてねそんなの」
「なぜだ。俺は我慢ならない。ずっとお前にちょっかいをかけられ、俺達を侮辱されて……こいつは消し去るべき存在だ。名無し」
金色の瞳はあなたをじっと映す。
闘争心に燃えるというよりも、あなたを守るという純粋で透明な色だ。
そこには彼のわずかな焦燥も漂っていた。
あなたは迷わずルドガーを抱きしめる。
腕が簡単には回らない大きな体を、ぎゅうっと包み込むように。
「まだそんなこと決めないで。急いで結論出さなくていいよ。喧嘩してほしくないの。あなたに傷ついてほしくない」
「俺は絶対にこんなやつに負けない。信じろ、名無し」
「信じてるよ、でもね……」
あなた達が人前で見つめ合っていると、セロがゆっくり手をあげた。
「あのさ、お前、ルドガー。たぶんこいつに勝つから、ほんとやめてほしい。こんなんでも俺の用心棒なんだ。殺られたら俺が困る。頼む許してくれ。……ほらナザル、お前も一緒にルドガーさんに頭さげやがれ!」
「……いってえな何すんだよてめえ! お前それでも俺の主人かっ? なっさけねえこと言うんじゃねえよ!」
二人の空気が険悪になり、あなたはおろおろした。
「黙れ淫乱獣! あの男をよく見てみろ、あいつは軍の教育を受けた筋金入りの殺戮獣だぞ、野生児のお前とは違うんだよ! ぜってえ負けるから! 幻想は捨てろ!」
「うっせえ非力な魔術師が! 俺は幻獣だぞ、負けるわけねえだろ! お前がいつも弱気だから俺までこんな位置に下がっちまってんだよ、自覚持てこの野郎!」
「……ま、まあまあ、喧嘩しないで、セロさん、ナザルさん」
こうして素の姿を見てみると、憎めない二人組だと思ったが、ルドガーとゼイランとはかなり異なる関係だ。
赤髪の獣、ナザルはソファにどすっと背を預ける。
小うるさい主人に疲れ切った様子だ。
彼は我関せずといったふうに静観しているルドガーのことを、不快そうに睨みつけた。
これまでとは違い、怒りが混じっているようだ。
「お前はいいよな……強者の主に、可愛い彼女までもらってよ……どんだけ幸運なんだよ。俺なんか、これだぞ? 憐れだと思わねえか」
ルドガーはその台詞に、一瞬だけ眉をひそめた。
相手の素性を探るようにじろりと見返し、やがて頷く。
「ああ。思うな」
「……こんの、クソ軍人が……ッ」
ナザルはこめかみに青筋を立てて苛立っていたが、隣のセロの「これって俺のこと? もの扱いしたの今?」という緊張を壊す発言により、脱力していく。
彼はだらりとソファにもたれ、疲れたようだった。
「もういいわ……登場に力を使いすぎた。せっかく久々のタイプの女の前で格好つけたかったのによ……」
もう一人の獣のつぶやきは、彼の本心からくるものだ。
こうして混沌とした仲間同士の顔合わせは、ひとまず幕を閉じる。
