巨体の人外に助けられて世話される話
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赤兎をセロに預けてから、数日が経った。
今日はルドガーが朝から任務で不在だ。
なので尋問室へはミザロと同行した。
今や師というだけでなく、上司の立場である彼に経過を見てもらうのだ。
灰壁に囲われた空間で、灰色の上下服を着たセロは、いつも通りベッドで肘をついて寝転がっていた。
だがあなた達が現れると、飛び起きてすぐに姿勢を正す。
「おお〜魔術師長のミザロさんじゃないですか! どうぞどうぞ、汚いところですが。名無し、お茶をお出ししてくれ」
「あっはい。わかりました」
なぜか捕虜のセロに言われるがまま、テーブルに3つの紅茶を用意する。
実力も境遇も異なる魔術師3人が向き合った。
赤兎を膝においてのほほんと佇む捕虜に、ミザロは不審顔だ。
「……あなた、自分の立場分かってます? 我々はあなたの尋問官ですよ。茶飲み友達じゃありません」
「まあそんなツンケンせずに。もうすぐ仲間になるんじゃないですか、俺達」
テーブルに手を出し、したり顔で言うもミザロの表情には冷たい壁がある。
「師匠、セロさんは親しみやすい方なんですよ。仲間といえば、そういえばセロさんのお仲間は今何をしてるんですかね。きっと心配してると思いますけど」
彼とは距離が近づいた気がしているが、この特別任務の目的もあなたは忘れていなかった。
そろそろ核心に触れていかなければ。
「仲間ぁ? そんなやついたっけ。別にいいんだよ、俺はここでのんびりやってんだからさ。それより、こっちに寝返っても俺の待遇よくしてくれるんだろ?」
セロは焦りを浮かべて尋ねる。自分の進退に必死の様子だ。
「待遇ですか。あなたがこちらの条件を飲めば考えますよ。守護者の情報を渡しなさい」
「……だからあ、それは俺の命が危険すぎるんだよ。何度言ったら分かってくれるんだ」
「あなたの命はお仲間ともども守りますよ。一度仲間になればね。……それよりも、当初の目的はいいんですか? あなた方は名無しさんを守護者に会わせたかったんでしょう」
ミザロが初っ端からずばずばと切り込んでいく。
その手腕にあなたは自分にはない貫禄と圧を感じた。
しかしセロは深いため息を吐いた。
「いいや、今となっては会わせたくないね。俺はここにいたいんだ、帰りたくねえんだよ、頼むあのババアから守ってくれ!」
のらりくらりとした性格に見える彼だが、この話になると、いつも本気の形相である。
「うーん。師匠。この気持ちだけは本当だと思うんですよねえ。どうしましょうか。……セロさん、普段どうやって守護者さまと連絡取ってるんですか? 私にも最近、まったく連絡ないんですよ。あなたを捕まえたこと、やっぱりバレましたかね?」
さらりと尋ね、仕事モードの顔をみせるあなたに、セロも唸りそうになる。
「そ、そうだね。バレてないんじゃね? 俺のことなんてどうでもいいんだから。あのババア今忙しいんだよ」
「忙しい? 仕事ですか?」
「まあ……いや、旅行みたいな…?」
彼はまた斜め上を見て言葉を濁した。
――旅行?
人がこんなに彼女のことで一生懸命になってるときに。
「名無しさん、どうしました? 珍しいですね、あなたの周りから淀んだ空気が出てますよ」
「ははっほんとだ。お前も俺らの仲間らしくなってきたじゃねえか。無視されてむかつくか? ん?」
「別に……そんなことないですし」
なぜだろうか。
最近守護者のことを考えると、よく分からない感情がわく。
数日前、ルドガーが赤兎に嫉妬していたのを思い出した。
彼の感情も独自に強いものがあるが、この思いとは少し違う気がする。
彼女にほうっておかれると、本能的に暴走してしまいそうな気持ちが生まれるのだ。
「はあ。なんでだろう。たぶん早く会いたいんだろうな。悪い人でも、いい人でも…」
魔界に来て、初めてルドガー以外で自分のことを何もないところから気にしてくれた存在だからかもしれない。
素直にこぼすと、二人の立場の違う魔術師は、なんだかよく分からない眼差しで眺めていた。
「ちっしょうがねえな。じゃあひとつだけ教えてやるよ。俺達はな、あんたらの敵じゃない。むしろ守ろうとしてるんだ。敵対する気持ちはこれっぽちもない。だが名無しに会うことをあいつは切望している。それしか言えねえ」
彼は突然、誠実さのにじむ台詞を発した。
あなたは一瞬で心が照らされ開けた気持ちになる。
「ほ、ほんとうですか? セロさん、信じていいんですね?」
「おう、今のは嘘じゃねえ。こんな嘘ついたら逆に俺の命がヤバい。……それに、俺も仲間になりてえからな」
セロが鼻をかいて素っ気なく言う。
あなたは思わず彼の手をぎゅっと握り、潤んだ瞳で頷いた。
「ふふふ。今の、すごく大事なことですよ。やれば出来るじゃないですか、セロさん」
「うっせえな。本当のこと言える範囲で言ったんだから、約束守れよ。とりあえず普通の部屋で生活させろ。逃げたりしねえから絶対」
彼は騎士団とあなたの無事は断言したが、自らの安全はまだ信じられていない様子だった。
こうなれば、一致団結した皆は、新たな方向へ向かっていくことになる。
「ではあなたを信じるとして、当面の目的は守護者に安全な環境で接触してもらうことですね」
「い、いいんですか師匠。私が言うのもなんですけど、そこまで騎士団が許してくれますかね? 騎士さんもあんな目に合わせたのに…」
まだ会ったことはないが、これまでの姿勢から、騎士団長も当然厳しそうな人だと想像した。
「そこは我々に任せてください。あなたの仕事はまだこれからですよ、名無しさん」
「はい! 何をすればいいでしょうか」
「まずセロさんとお仲間の方に寮の部屋を手配してあげてください。当分は調査が済むまで騎士団領内から出ることは禁じます」
あなたは輝く瞳で師を見やる。セロも異論はないようで、同じ顔をしている。
「おっしゃああミザロ先輩、ありがとうございますッ! はぁ~っこれで俺も憧れのルラ・パルセ魔術師団に飛び級入団かぁ~! やっべえこんな幸運あんだな~最高っ!」
拳を上げて喜ぶ年上の青年魔術師は、膝からぽろっと赤い兎を落とした。
あなたが微笑ましく思いそれを拾いあげようとすると、ミザロが先に手に取る。
まるで慣れたように、首根を掴んで持ち上げ、裏返して見ていた。
「あの師匠、そんな持ち方したら可哀想ですよ」
「可哀想? 獣にそんな感情必要ありませんよ。それにこの兎、当たり前のようにこの部屋にいますけど、一体どういう状況で持ち込んだんですか」
気づかれてしまい、あなたは散歩のときに拾ったことを説明した。
ミザロの視線は訝しんでいて、まったく嬉しくなさそうである。
「それ、俺のだよ。可愛がってるんだから、返してくれよ」
「……ほう。名前は? つけたんでしょう?」
「な……名前? そんなんねえよ。毛玉だよ、毛玉」
彼はまるで興味がわかないように、無表情で述べた。
動物好きなあなたは若干困惑する。
「セロさん、もうちょっといい名前つけてあげてくださいよ。それにターシャさんからもらった人参、ちゃんとあげてますか? あそこに山積みになってますけど」
定期的に訪れている医務室で偶然騎士のターシャと会い、彼からなんと野菜をおすそ分けしてもらったのだ。
実家が農家で、いつも大量に送られてくるらしい。
「あーあいつか、あの術耐性がすげえ弱いやつ。優しいよな、こんなことした俺らに対して。お礼言っといてくれよ、うめえなこの人参」
「それは伝えますけど、この子にもあげてくださいよ」
「へーへー分かったよ。あのなあ、お前らがそもそも飼えないのを俺が引き取ってやってんだぞ? そういう恩人に対して飼育環境文句つける人間なの? お前」
「それは感謝してますってば!」
彼のオープンな人柄のおかげですっかり打ち解けている二人だが、喧噪が嫌いな年長者のミザロが制止した。
「なんだか問題になってるようですね、この兎。ふふふ……では私がしばらく面倒みてあげますよ。貸しなさい」
「「……えっ?」」
あなた達はゆっくり彼に振り向く。
もう髪はほとんど黒く戻り、深海のような青を湛えた瞳の、暗さと神秘を併せ持つ独特の黒魔術師ミザロ。
だが彼に動物を愛する心など、正直欠片もないように感じた。
「それは先輩、大丈夫ですから。勘弁してください」
「なぜですか? 私に渡さないのなら、あなた方の入団を取り消しますよ」
非情に宣告され、セロは言葉に詰まり青ざめる。
二人は互いをこの空間から押し出すようにじっと見つめ合っていた。
するとミザロの手の中で、赤兎が暴れ出した。
彼の手から飛び降り、床の上でダン!ダン!と足を踏み鳴らして狂ったように回りだす。
「ほら! こいつも嫌だって! ここがいいんだってさ!」
セロが大喜びするが、兎はそのままあなたの膝の上に飛び込んできた。
「きゅうっ、きゅうっ」
「わあっ。どうしたの、こらこら」
一人で激しく動きまわる兎の背を撫でてなだめるが、あなたは残念そうに微笑む。
「ごめんね、うちも無理なの。ルドガーが大事だからね」
そこははっきり言うと、ふわふわの丸い毛玉はあなたの胸に再度もぐりこみ、頬をぐりぐりとこすりつけてきた。
「はあ~やっぱり可愛い。なんでこんなに可愛いんだろう、ごめんねえ。また会えるから」
しばし二人の世界に浸り、あなたはミザロにそっと手渡す。
「おい、マジでやめろ! それだけはよくないって……!」
「もう大人気だね~毛玉ちゃん。ひとまず師匠に見てもらいましょうよ、セロさん」
あなたが彼を優しく諭すと、彼は魂が抜けたように呆然としていた。
ミザロは表情を変えず、自身の手の上で震える赤兎を見下ろしていた。
今日はルドガーが朝から任務で不在だ。
なので尋問室へはミザロと同行した。
今や師というだけでなく、上司の立場である彼に経過を見てもらうのだ。
灰壁に囲われた空間で、灰色の上下服を着たセロは、いつも通りベッドで肘をついて寝転がっていた。
だがあなた達が現れると、飛び起きてすぐに姿勢を正す。
「おお〜魔術師長のミザロさんじゃないですか! どうぞどうぞ、汚いところですが。名無し、お茶をお出ししてくれ」
「あっはい。わかりました」
なぜか捕虜のセロに言われるがまま、テーブルに3つの紅茶を用意する。
実力も境遇も異なる魔術師3人が向き合った。
赤兎を膝においてのほほんと佇む捕虜に、ミザロは不審顔だ。
「……あなた、自分の立場分かってます? 我々はあなたの尋問官ですよ。茶飲み友達じゃありません」
「まあそんなツンケンせずに。もうすぐ仲間になるんじゃないですか、俺達」
テーブルに手を出し、したり顔で言うもミザロの表情には冷たい壁がある。
「師匠、セロさんは親しみやすい方なんですよ。仲間といえば、そういえばセロさんのお仲間は今何をしてるんですかね。きっと心配してると思いますけど」
彼とは距離が近づいた気がしているが、この特別任務の目的もあなたは忘れていなかった。
そろそろ核心に触れていかなければ。
「仲間ぁ? そんなやついたっけ。別にいいんだよ、俺はここでのんびりやってんだからさ。それより、こっちに寝返っても俺の待遇よくしてくれるんだろ?」
セロは焦りを浮かべて尋ねる。自分の進退に必死の様子だ。
「待遇ですか。あなたがこちらの条件を飲めば考えますよ。守護者の情報を渡しなさい」
「……だからあ、それは俺の命が危険すぎるんだよ。何度言ったら分かってくれるんだ」
「あなたの命はお仲間ともども守りますよ。一度仲間になればね。……それよりも、当初の目的はいいんですか? あなた方は名無しさんを守護者に会わせたかったんでしょう」
ミザロが初っ端からずばずばと切り込んでいく。
その手腕にあなたは自分にはない貫禄と圧を感じた。
しかしセロは深いため息を吐いた。
「いいや、今となっては会わせたくないね。俺はここにいたいんだ、帰りたくねえんだよ、頼むあのババアから守ってくれ!」
のらりくらりとした性格に見える彼だが、この話になると、いつも本気の形相である。
「うーん。師匠。この気持ちだけは本当だと思うんですよねえ。どうしましょうか。……セロさん、普段どうやって守護者さまと連絡取ってるんですか? 私にも最近、まったく連絡ないんですよ。あなたを捕まえたこと、やっぱりバレましたかね?」
さらりと尋ね、仕事モードの顔をみせるあなたに、セロも唸りそうになる。
「そ、そうだね。バレてないんじゃね? 俺のことなんてどうでもいいんだから。あのババア今忙しいんだよ」
「忙しい? 仕事ですか?」
「まあ……いや、旅行みたいな…?」
彼はまた斜め上を見て言葉を濁した。
――旅行?
人がこんなに彼女のことで一生懸命になってるときに。
「名無しさん、どうしました? 珍しいですね、あなたの周りから淀んだ空気が出てますよ」
「ははっほんとだ。お前も俺らの仲間らしくなってきたじゃねえか。無視されてむかつくか? ん?」
「別に……そんなことないですし」
なぜだろうか。
最近守護者のことを考えると、よく分からない感情がわく。
数日前、ルドガーが赤兎に嫉妬していたのを思い出した。
彼の感情も独自に強いものがあるが、この思いとは少し違う気がする。
彼女にほうっておかれると、本能的に暴走してしまいそうな気持ちが生まれるのだ。
「はあ。なんでだろう。たぶん早く会いたいんだろうな。悪い人でも、いい人でも…」
魔界に来て、初めてルドガー以外で自分のことを何もないところから気にしてくれた存在だからかもしれない。
素直にこぼすと、二人の立場の違う魔術師は、なんだかよく分からない眼差しで眺めていた。
「ちっしょうがねえな。じゃあひとつだけ教えてやるよ。俺達はな、あんたらの敵じゃない。むしろ守ろうとしてるんだ。敵対する気持ちはこれっぽちもない。だが名無しに会うことをあいつは切望している。それしか言えねえ」
彼は突然、誠実さのにじむ台詞を発した。
あなたは一瞬で心が照らされ開けた気持ちになる。
「ほ、ほんとうですか? セロさん、信じていいんですね?」
「おう、今のは嘘じゃねえ。こんな嘘ついたら逆に俺の命がヤバい。……それに、俺も仲間になりてえからな」
セロが鼻をかいて素っ気なく言う。
あなたは思わず彼の手をぎゅっと握り、潤んだ瞳で頷いた。
「ふふふ。今の、すごく大事なことですよ。やれば出来るじゃないですか、セロさん」
「うっせえな。本当のこと言える範囲で言ったんだから、約束守れよ。とりあえず普通の部屋で生活させろ。逃げたりしねえから絶対」
彼は騎士団とあなたの無事は断言したが、自らの安全はまだ信じられていない様子だった。
こうなれば、一致団結した皆は、新たな方向へ向かっていくことになる。
「ではあなたを信じるとして、当面の目的は守護者に安全な環境で接触してもらうことですね」
「い、いいんですか師匠。私が言うのもなんですけど、そこまで騎士団が許してくれますかね? 騎士さんもあんな目に合わせたのに…」
まだ会ったことはないが、これまでの姿勢から、騎士団長も当然厳しそうな人だと想像した。
「そこは我々に任せてください。あなたの仕事はまだこれからですよ、名無しさん」
「はい! 何をすればいいでしょうか」
「まずセロさんとお仲間の方に寮の部屋を手配してあげてください。当分は調査が済むまで騎士団領内から出ることは禁じます」
あなたは輝く瞳で師を見やる。セロも異論はないようで、同じ顔をしている。
「おっしゃああミザロ先輩、ありがとうございますッ! はぁ~っこれで俺も憧れのルラ・パルセ魔術師団に飛び級入団かぁ~! やっべえこんな幸運あんだな~最高っ!」
拳を上げて喜ぶ年上の青年魔術師は、膝からぽろっと赤い兎を落とした。
あなたが微笑ましく思いそれを拾いあげようとすると、ミザロが先に手に取る。
まるで慣れたように、首根を掴んで持ち上げ、裏返して見ていた。
「あの師匠、そんな持ち方したら可哀想ですよ」
「可哀想? 獣にそんな感情必要ありませんよ。それにこの兎、当たり前のようにこの部屋にいますけど、一体どういう状況で持ち込んだんですか」
気づかれてしまい、あなたは散歩のときに拾ったことを説明した。
ミザロの視線は訝しんでいて、まったく嬉しくなさそうである。
「それ、俺のだよ。可愛がってるんだから、返してくれよ」
「……ほう。名前は? つけたんでしょう?」
「な……名前? そんなんねえよ。毛玉だよ、毛玉」
彼はまるで興味がわかないように、無表情で述べた。
動物好きなあなたは若干困惑する。
「セロさん、もうちょっといい名前つけてあげてくださいよ。それにターシャさんからもらった人参、ちゃんとあげてますか? あそこに山積みになってますけど」
定期的に訪れている医務室で偶然騎士のターシャと会い、彼からなんと野菜をおすそ分けしてもらったのだ。
実家が農家で、いつも大量に送られてくるらしい。
「あーあいつか、あの術耐性がすげえ弱いやつ。優しいよな、こんなことした俺らに対して。お礼言っといてくれよ、うめえなこの人参」
「それは伝えますけど、この子にもあげてくださいよ」
「へーへー分かったよ。あのなあ、お前らがそもそも飼えないのを俺が引き取ってやってんだぞ? そういう恩人に対して飼育環境文句つける人間なの? お前」
「それは感謝してますってば!」
彼のオープンな人柄のおかげですっかり打ち解けている二人だが、喧噪が嫌いな年長者のミザロが制止した。
「なんだか問題になってるようですね、この兎。ふふふ……では私がしばらく面倒みてあげますよ。貸しなさい」
「「……えっ?」」
あなた達はゆっくり彼に振り向く。
もう髪はほとんど黒く戻り、深海のような青を湛えた瞳の、暗さと神秘を併せ持つ独特の黒魔術師ミザロ。
だが彼に動物を愛する心など、正直欠片もないように感じた。
「それは先輩、大丈夫ですから。勘弁してください」
「なぜですか? 私に渡さないのなら、あなた方の入団を取り消しますよ」
非情に宣告され、セロは言葉に詰まり青ざめる。
二人は互いをこの空間から押し出すようにじっと見つめ合っていた。
するとミザロの手の中で、赤兎が暴れ出した。
彼の手から飛び降り、床の上でダン!ダン!と足を踏み鳴らして狂ったように回りだす。
「ほら! こいつも嫌だって! ここがいいんだってさ!」
セロが大喜びするが、兎はそのままあなたの膝の上に飛び込んできた。
「きゅうっ、きゅうっ」
「わあっ。どうしたの、こらこら」
一人で激しく動きまわる兎の背を撫でてなだめるが、あなたは残念そうに微笑む。
「ごめんね、うちも無理なの。ルドガーが大事だからね」
そこははっきり言うと、ふわふわの丸い毛玉はあなたの胸に再度もぐりこみ、頬をぐりぐりとこすりつけてきた。
「はあ~やっぱり可愛い。なんでこんなに可愛いんだろう、ごめんねえ。また会えるから」
しばし二人の世界に浸り、あなたはミザロにそっと手渡す。
「おい、マジでやめろ! それだけはよくないって……!」
「もう大人気だね~毛玉ちゃん。ひとまず師匠に見てもらいましょうよ、セロさん」
あなたが彼を優しく諭すと、彼は魂が抜けたように呆然としていた。
ミザロは表情を変えず、自身の手の上で震える赤兎を見下ろしていた。
