巨体の人外に助けられて世話される話
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後日、実際にセロに散歩の許可が下り、あなた達は外にいた。
もちろん騎士団の敷地内だけだが、緑豊かな自然に触れあえるし、きっと彼も気分転換になるだろう。
「ん〜今日もいい天気。セロさん、ここ走ると気持ちいいんですよ」
「あ、俺運動無理。研究肌の魔術師だから」
普通捕虜ならば体を動かしたいはずなのに、彼は歩いて空気を吸うだけで満足げだった。
あなたはセロと並び歩き、後ろから護衛のようにルドガーがついてくる。
「そういえば私、見習いから新米魔術師に進級したんです。すごくないですか?」
「へーすげえじゃん。じゃあ俺のおかげだな。なんかボーナスくれよ」
彼が立ち止まり、しゃがんで花壇をいじりながら軽口をたたく。
「お前のおかげじゃない。名無しの実力だ」
「はいはい。でもさ、お前魔術師嫌いなんだろ? 彼女が俺らみたいになって本当にいいのかねえ。変なやつ」
魔術師特有のねっとりした笑みで指摘すると、ルドガーはあからさまに嫌な顔をした。
「名無しはお前らみたいには絶対にならない。優しくていい女だ」
「はは、確かにな。俺を散歩させるために上にかけあってくれて、うまいメシも食わせてくれる。優しい女なのは間違いないな。……ただ、そういう魔術師は普通、いねえけどな。お前、感謝しとけよ。お前みたいなやばそうな獣の相手してくれる女も、そういねえぞ」
「ふっ。それは俺だって理解している。だからこそ俺は番として名無しを愛し抜くんだ。それを邪魔する奴は、誰であろうと粉砕してやる」
「だから最後にぶっそうな台詞つけんじゃねえっつうの」
またセロを引かせてしまったが、ルドガーは自信満々で誇らしげだ。
あなたは普通に話す二人を見て、微笑みを浮かべている。
こうしてみると、もうすっかり友達のようだと。
このままセロも仲間になってくれたら、きっと楽しい日々になる。
そんな風に前向きに考えてしまっていた。
こうして午後の緩やかな時間が過ぎ、あなた達はそろそろ帰ろうとしていた。
だが、領内を囲む石壁の内側に、ある動物を発見した。
草むらからぴょんと顔をだす、短い耳の野兎だ。
「えっ、かわいい~うそ~兎がいるよ!」
あなたは初めて見る赤いふさふさの毛玉に近づいて行った。
「おい、駆けだすな、名無し」
ルドガーの声が後ろから聞こえたが、もう手が伸びてしまい、それを思わず胸の中に抱き込む。
「見てみて、やだ~すっごい可愛い~っ。どうしたのおチビちゃん、お母さんは? 迷子?」
どこから入り込んだのか、丸い茶色の瞳にくりっと見上げられ、すでにあなたはメロメロである。
後ろからザクっ、ザクっと草を固い革靴で踏み近づいてくるルドガーは、それをぎろりと不快感たっぷりに見下ろした。
「……そんなものから手を離せ、けがらわしい」
「けがらわしいっ!? ちょっとちょっと、どうしてひどいこと言うの、かわいいでしょう〜」
あなたがしゃがんで抱っこしたまま振り返ると、ルドガーはなぜか小さな生き物に対し我慢ならないといった面持ちで、奥歯を噛んでいた。
彼は大型の獣だし、小動物が嫌いなのだろうか。
ふとそう思ったが、セロがのほほんと近づいてくる。
「お~めずらしいな、野兎じゃん。赤褐色かぁ。食べたらうめえかな」
「それはいいな、食うか。お前もたまにはいいこと言うんだな」
「ちょっやめてよ二人とも! こんな愛らしくか弱い兎になんてこと言うのよ!」
腕の中の赤兎は「きゅうきゅう」と危険を察知したのか、あなたの胸にもぐりこんで鳴く。
するとルドガーはそれを大きな手で掴み、向こうの地面に放り投げた。
「ぎゃんっ」
あなたは唖然として、彼の前で眉を上げて怒った。
「もう! いじわるしないで!」
「どちらがだ。お前のほうが意地悪だろ」
「は? なにが?」
大柄でたくましい体つきの精悍な男が、むすっとした顔をして間違いを認めない。
そんな二人を、セロはにやにやと眺めている。
「まあまあ。子供じみた喧嘩すんなよ。こんな踏んだら死にそうな兎ひとつで。なあ、これどうすんだ? あんた持って帰るのか? 迷子みてえだし」
「俺達が持って帰ることはない」
「も~。わかったってば。ルドガーが嫌いなのは。……そうだなぁ、どうしよう。でもこんな小さくて、外で一人で生きていけないよねえ」
転がったままの兎を拾いあげ、あなたはルドガーの気持ちも考えて迷った。
するとセロが手を差し出す。
「俺にくれよ。食い物さえ持ってきてくれたら、世話してやるから。独房で一人はやっぱ少し寂しいからさ」
「……えっ。そうですよね。……いいんですか? じゃあお願いします!」
彼の思いがけぬ申し出に、あなたは感謝をした。
どうしてかこの兎が外の世界で心細く見えて、放っておけなかったのだ。
「お前、獣は嫌いだと思ったが」
「嫌いだよ。でもな、お前らの喧嘩のタネを排除してやろうという俺の優しさだろう。そのほうがお前も助かるんじゃないか? ん?」
まるで恩を着せるようにセロは小ずるい顔をする。
ルドガーは好意的な態度にはならなかったが、彼の好きにさせた。
そして三人とも、この無害な兎に関しては、別に許可を取るほどのことでもないと考えていた。
その後セロはこっそり服の中にいれて持ち帰ったのだった。
仕事が終わり部屋に帰ったあとも、なんとなくルドガーは不貞腐れているようだ。
一緒に風呂に入り、ご飯も食べ、寝るまでのスキンシップもいつもより多いぐらいだが。
あなたのことをじっと見つめては、無言で何か言いたげな顔をする。
「もう、まだ怒ってるの。小動物可愛がったただけじゃない」
「だけ? お前は獣の危機感を知らないんだな。あいつはお前の胸に顔を押しつけていた。俺が許せると思うか」
「えっ」
そんな風に正面から申し立てられれば、あなたも「大げさだよ」なんて笑うことはできない。
「うーん、小さい動物ってそんなものじゃない? ママが恋しかったのかも」
「……ママだと? さらにおぞましいことを言うな」
彼は筋肉質な分厚い肉体を震わせ、あなたの体を自分のほうに引き寄せた。
居間のラグを敷いた床の上で、すっぽりと肩の中に覆い、首に黒髪をこすりつけてくる。
そんなふうにされると、小動物を抱いたときとは全然違う、心の底から愛らしさと愛しい気持ちがわきあがってくる。
「可愛い、ルドガー……甘えてるの? よしよし」
「……俺はれっきとしたオスだ。子供扱いするな」
「分かったよ。あなたがすっごい格好良くて強いオスなの知ってるもん」
するなと言われたので、あなたが彼の胸元に強引にもぐりこみ、頭を差し出す。
すると彼はため息交じりに、優しく撫でてくれた。
自分が弱ってるときは頼もしい背中と胸で、全身を使ってお世話してくれた。
彼と触れあっていると、それを忘れるときがない。
でもそんな頼れるルドガーは、こうして自分の感情をまっすぐに見せてくれるようになった。
だから毎日、どんどん、さらに大好きになっていくのだ。
「ルドガーだけだよ。こんなに愛しているの。私、あなたがいないとダメなんだから。知ってるでしょう」
「……知ってるぞ。俺もお前がいないとダメだ。……ダメになってしまった」
彼はそう呟き、あなたを抱きこんだまま倒れ込む。
じっと顔を見つめて、唇を重ねてきた。
様子を伺いながら、甘噛みするような、くすぐったく甘いキスだ。
「ルドガー……」
温かな体温に抱きすくめられ、天井を見ながら彼の頭をまた撫でる。
黒い角は普段は勇ましいけれど、触れるとわずかに動く気がする。
「……じゃあ私たち、お似合いでぴったりの番じゃない?」
「そうだな」
「ふふ、嬉しい。……機嫌、治った?」
「まだだ……今夜は長いぞ、名無し」
「ええっ。うそぉっ」
あなたの嬉しい悲鳴は、他の誰にも引き出すことの出来ない、ルドガーだけのものである。
もちろん騎士団の敷地内だけだが、緑豊かな自然に触れあえるし、きっと彼も気分転換になるだろう。
「ん〜今日もいい天気。セロさん、ここ走ると気持ちいいんですよ」
「あ、俺運動無理。研究肌の魔術師だから」
普通捕虜ならば体を動かしたいはずなのに、彼は歩いて空気を吸うだけで満足げだった。
あなたはセロと並び歩き、後ろから護衛のようにルドガーがついてくる。
「そういえば私、見習いから新米魔術師に進級したんです。すごくないですか?」
「へーすげえじゃん。じゃあ俺のおかげだな。なんかボーナスくれよ」
彼が立ち止まり、しゃがんで花壇をいじりながら軽口をたたく。
「お前のおかげじゃない。名無しの実力だ」
「はいはい。でもさ、お前魔術師嫌いなんだろ? 彼女が俺らみたいになって本当にいいのかねえ。変なやつ」
魔術師特有のねっとりした笑みで指摘すると、ルドガーはあからさまに嫌な顔をした。
「名無しはお前らみたいには絶対にならない。優しくていい女だ」
「はは、確かにな。俺を散歩させるために上にかけあってくれて、うまいメシも食わせてくれる。優しい女なのは間違いないな。……ただ、そういう魔術師は普通、いねえけどな。お前、感謝しとけよ。お前みたいなやばそうな獣の相手してくれる女も、そういねえぞ」
「ふっ。それは俺だって理解している。だからこそ俺は番として名無しを愛し抜くんだ。それを邪魔する奴は、誰であろうと粉砕してやる」
「だから最後にぶっそうな台詞つけんじゃねえっつうの」
またセロを引かせてしまったが、ルドガーは自信満々で誇らしげだ。
あなたは普通に話す二人を見て、微笑みを浮かべている。
こうしてみると、もうすっかり友達のようだと。
このままセロも仲間になってくれたら、きっと楽しい日々になる。
そんな風に前向きに考えてしまっていた。
こうして午後の緩やかな時間が過ぎ、あなた達はそろそろ帰ろうとしていた。
だが、領内を囲む石壁の内側に、ある動物を発見した。
草むらからぴょんと顔をだす、短い耳の野兎だ。
「えっ、かわいい~うそ~兎がいるよ!」
あなたは初めて見る赤いふさふさの毛玉に近づいて行った。
「おい、駆けだすな、名無し」
ルドガーの声が後ろから聞こえたが、もう手が伸びてしまい、それを思わず胸の中に抱き込む。
「見てみて、やだ~すっごい可愛い~っ。どうしたのおチビちゃん、お母さんは? 迷子?」
どこから入り込んだのか、丸い茶色の瞳にくりっと見上げられ、すでにあなたはメロメロである。
後ろからザクっ、ザクっと草を固い革靴で踏み近づいてくるルドガーは、それをぎろりと不快感たっぷりに見下ろした。
「……そんなものから手を離せ、けがらわしい」
「けがらわしいっ!? ちょっとちょっと、どうしてひどいこと言うの、かわいいでしょう〜」
あなたがしゃがんで抱っこしたまま振り返ると、ルドガーはなぜか小さな生き物に対し我慢ならないといった面持ちで、奥歯を噛んでいた。
彼は大型の獣だし、小動物が嫌いなのだろうか。
ふとそう思ったが、セロがのほほんと近づいてくる。
「お~めずらしいな、野兎じゃん。赤褐色かぁ。食べたらうめえかな」
「それはいいな、食うか。お前もたまにはいいこと言うんだな」
「ちょっやめてよ二人とも! こんな愛らしくか弱い兎になんてこと言うのよ!」
腕の中の赤兎は「きゅうきゅう」と危険を察知したのか、あなたの胸にもぐりこんで鳴く。
するとルドガーはそれを大きな手で掴み、向こうの地面に放り投げた。
「ぎゃんっ」
あなたは唖然として、彼の前で眉を上げて怒った。
「もう! いじわるしないで!」
「どちらがだ。お前のほうが意地悪だろ」
「は? なにが?」
大柄でたくましい体つきの精悍な男が、むすっとした顔をして間違いを認めない。
そんな二人を、セロはにやにやと眺めている。
「まあまあ。子供じみた喧嘩すんなよ。こんな踏んだら死にそうな兎ひとつで。なあ、これどうすんだ? あんた持って帰るのか? 迷子みてえだし」
「俺達が持って帰ることはない」
「も~。わかったってば。ルドガーが嫌いなのは。……そうだなぁ、どうしよう。でもこんな小さくて、外で一人で生きていけないよねえ」
転がったままの兎を拾いあげ、あなたはルドガーの気持ちも考えて迷った。
するとセロが手を差し出す。
「俺にくれよ。食い物さえ持ってきてくれたら、世話してやるから。独房で一人はやっぱ少し寂しいからさ」
「……えっ。そうですよね。……いいんですか? じゃあお願いします!」
彼の思いがけぬ申し出に、あなたは感謝をした。
どうしてかこの兎が外の世界で心細く見えて、放っておけなかったのだ。
「お前、獣は嫌いだと思ったが」
「嫌いだよ。でもな、お前らの喧嘩のタネを排除してやろうという俺の優しさだろう。そのほうがお前も助かるんじゃないか? ん?」
まるで恩を着せるようにセロは小ずるい顔をする。
ルドガーは好意的な態度にはならなかったが、彼の好きにさせた。
そして三人とも、この無害な兎に関しては、別に許可を取るほどのことでもないと考えていた。
その後セロはこっそり服の中にいれて持ち帰ったのだった。
仕事が終わり部屋に帰ったあとも、なんとなくルドガーは不貞腐れているようだ。
一緒に風呂に入り、ご飯も食べ、寝るまでのスキンシップもいつもより多いぐらいだが。
あなたのことをじっと見つめては、無言で何か言いたげな顔をする。
「もう、まだ怒ってるの。小動物可愛がったただけじゃない」
「だけ? お前は獣の危機感を知らないんだな。あいつはお前の胸に顔を押しつけていた。俺が許せると思うか」
「えっ」
そんな風に正面から申し立てられれば、あなたも「大げさだよ」なんて笑うことはできない。
「うーん、小さい動物ってそんなものじゃない? ママが恋しかったのかも」
「……ママだと? さらにおぞましいことを言うな」
彼は筋肉質な分厚い肉体を震わせ、あなたの体を自分のほうに引き寄せた。
居間のラグを敷いた床の上で、すっぽりと肩の中に覆い、首に黒髪をこすりつけてくる。
そんなふうにされると、小動物を抱いたときとは全然違う、心の底から愛らしさと愛しい気持ちがわきあがってくる。
「可愛い、ルドガー……甘えてるの? よしよし」
「……俺はれっきとしたオスだ。子供扱いするな」
「分かったよ。あなたがすっごい格好良くて強いオスなの知ってるもん」
するなと言われたので、あなたが彼の胸元に強引にもぐりこみ、頭を差し出す。
すると彼はため息交じりに、優しく撫でてくれた。
自分が弱ってるときは頼もしい背中と胸で、全身を使ってお世話してくれた。
彼と触れあっていると、それを忘れるときがない。
でもそんな頼れるルドガーは、こうして自分の感情をまっすぐに見せてくれるようになった。
だから毎日、どんどん、さらに大好きになっていくのだ。
「ルドガーだけだよ。こんなに愛しているの。私、あなたがいないとダメなんだから。知ってるでしょう」
「……知ってるぞ。俺もお前がいないとダメだ。……ダメになってしまった」
彼はそう呟き、あなたを抱きこんだまま倒れ込む。
じっと顔を見つめて、唇を重ねてきた。
様子を伺いながら、甘噛みするような、くすぐったく甘いキスだ。
「ルドガー……」
温かな体温に抱きすくめられ、天井を見ながら彼の頭をまた撫でる。
黒い角は普段は勇ましいけれど、触れるとわずかに動く気がする。
「……じゃあ私たち、お似合いでぴったりの番じゃない?」
「そうだな」
「ふふ、嬉しい。……機嫌、治った?」
「まだだ……今夜は長いぞ、名無し」
「ええっ。うそぉっ」
あなたの嬉しい悲鳴は、他の誰にも引き出すことの出来ない、ルドガーだけのものである。
