巨体の人外に助けられて世話される話
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それから数日間で、あなたの生活はがらりと変わった。
まず功労者の騎士ターシャは回復し、またもや反省と情けなさに見舞われていた。
しかしあなたが慈愛にみちた瞳でお礼を言うと、彼は嬉しそうな笑顔で「また何かあればなんでも言ってください」と志願していた。
そして尋問の日々が始まる。
ルドガーによると、ゼイランに事情を伝えたところ魔術師を見張れと命じられたらしい。
なので彼も外任務のない午前中には、あなたと行動をすることになった。
「びっくりだよねえ。ゼイラン様、守護者さまのこと聞いても怒ってなかった?」
「それは知らん。彼は今大事な地方の会合に出ていて、俺もしばらく会ってないんだ。だから彼の執事と連絡を介している」
公爵のゼイランも忙しく仕事をしているようだ。
なにはともあれ、今の事態を認めてもらえてとても有難かった。
今日は捕らえた魔術師の、三日目の尋問日である。
制服姿のルドガーと地下階段を下りていき、厳重に警護している騎士らと会釈する。
重要な任務を担っているあなただが、服装は普段着だし、手にはランチパックの籠を持っていた。
「お前、また弁当を作ってきたのか? あいつにそんなことする必要ないだろう」
「いいじゃない、皆で食べるの楽しいし。あの人も喜んでたよ」
鉄の扉前の騎士に挨拶し開けてもらう。
すると眼前には灰壁に囲われた空間が広がった。
尋問台のはりつけの壁は、今は使われておらず立てかけてある。
家具は快適とは言えない大きいだけのベッドと椅子、テーブルがあるのみだが、中の住人はのんきに寝転がっていた。
ベッドから起き上がり、あなたを見ると晴れやかな顔をする。
「セロさーん、こんにちは~。また来ましたよ~」
「おお、名無し! 待ってたよ、今日はなんのメシだ? 嬉しいぜ~もうそれだけが楽しみでな、この監禁生活」
すでに名前を教えてくれた黒髪の魔術師は、あまり特徴のない童顔ぽい顔立ちを笑ませて呼び込む。
テーブルクロスを広げた上に、色とりどりの食材を使った料理が並んだ。
ここは窓もない閉鎖的な空間だが、まるでピクニックのようだ。
「はいどうぞ、お酒は出せないですがそれふうのカクテルもありますよ」
「悪いね~。ああ最高! うまいメシ三食と昼寝つき、俺、今魔界に来て一番いい生活してるわ」
はっはっはっと上機嫌に笑いながら、上下灰色の捕虜服を着た魔術師は、完全にくつろいでいる。
「そんなに普段大変なんですか? セロさんって」
「まあな。あのババアに馬車馬のごとく働かされてるからな、俺の自由なんてないんだよ」
彼は舌打ちまじりに明かす。
ババアというのは守護者のことで、正直彼と話を始めてから、あなたの守護者に対するイメージはどんどん落ちている。
だが顔には出さずに、いつも穏やかに話を聞いていた。
「そんなに毎日一生懸命働いて、セロさん偉いですよ。借金って結構減りました?」
「ぜんっぜん。ババアが言うには、俺の師匠が出した損害は一生働いても取り返せない分らしくてさ。……まああいつは嫌な野郎だけど、言ってることは正しいんだ。俺の師匠、人間なんだけどな、めちゃくちゃ破天荒な男でな。今も行方不明だし、俺が人間界で捕まって代わりに保証人やらされてんだ」
「……えっ……」
あなたは思わずルドガーを見やるが、彼はまるで興味なさそうに弁当を食べていた。
そんな過酷な人生をこの青年が歩んでいるとは、想像もしていなかった。
「セロさん、偉すぎですよ。自分のせいじゃないのに。逃げられないんですか」
「無理だね。あんた、あいつの恐ろしさ知らないだろ。捕まったら終わりだよ」
親指を立てた手で首をかっきる動作をされ、縮み上がりそうになる。
自分には「見守る」とか「加護を与える」などと言っていたが、果たして本当にそんな人物なのだろうか。
「ルドガー、守護者さまって、いったいどっちの顔が真実なんだろう」
「……そうだな。どっちもかもしれないぞ。ゼイラン様だって、優しい顔と恐ろしい顔がある。俺はそのどちらも知っている」
そうか……。
あなたはシンプルな彼の見方に、妙に納得をする。
自分はこれまでゼイランのルドガー思いの面しか見ていないが。この前だって歩けない自分を助けてくれたのだ。
「そうだよね、トイレに連れていってくれたし、優しいよね。ルドガーの主人って」
「なんだと? お前を抱いてか? 俺はそんな話知らないぞ」
「え、そうだっけ? ごめんごめん、忘れてたよ」
ついずっと忙しかったあなたは、悪戯っぽく謝る。
彼はあなたに接触する者に、すぐ焼きもちを妬いてしまうのである。
「おいおい、今痴話喧嘩とかやめてくれよ。いいじゃねえかそんぐらいよ、ほんと獣って本能で生きてるよな。あんたよく話通じるな、名無し。……つうか、世話されてたのか? なんで?」
あなたは同じ人間の彼に、最近瘴気を浴びるようになり、闘病と回復をした経緯を説明した。
「あーそれか。俺もなったよ。あれつらいよな。俺は元々魔力あったから一週間だけだったけど。あんたよく頑張ったな、偉いじゃん」
その時、やけに柔和な顔立ちでにっと笑まれ、まるで人生の先輩に声をかけられたような思いがした。
「あ、ありがとうございます。私はルドガーがずっと助けてくれたから」
「へえ。お前もただの馬鹿力男かと思ったら、いいとこあんだな。見直したわ」
彼はご飯をぱくぱくと食べながら、二人を褒めてくれた。
あなたは自分が彼の心を開かせるのが目的なのに、おのずとセロに対して心を開いてしまっていっているのを感じた。
「あなたこそすごいですよ、信じられません、同じ経験をした人がいるなんて。どうやって克服したんですか? つらいに決まってますよね」
「そうだよなー。まあ俺にも一応世話してくれたやついたからさ…」
彼はあまり話したくない様子で斜めを見た。
ルドガーは二人とは違う、少しだけ尖った耳をぴくりと動かす。
「お前の相棒か? そいつに世話されたか。それなのに今、見捨てられたのか」
「……うるせえ! そんなんじゃねえよ! 相棒とかじゃねえし!」
セロはむきになって言い張り、腹を立てる。
図星を突かれたことよりも、今の状況を思い出して苛立ちを浮かべている様子だ。
「だ、大丈夫ですよ、もうすぐ来てくれますって。気長に待ちましょうよ」
「……あんたそれどういう立場で言ってんだ? ……ここに来るわけねえだろ。敵の巣窟だぞ。それにな、のほほんと暮らしているが、この騎士団はマジでやばいんだぜ。第一部隊長は冷酷な殺人マシーンとして恐れられてるし、魔術師団も魔界で随一と言われるほどの手練れ揃いだ。そして最近では、見たものすべてを血祭りにあげる召喚獣の殺りく兵器を投入したと言われててな――」
「それは俺のことだ」
「お前かよッ! こええから俺のこと見ないでくれる!? 俺まだお前になんもしてないよね? 頼むから記憶から消して!」
騒がしいセロはひときしりルドガーに突っ込んだあと、疲れた様子であなたを見やった。
「はあ。……もう俺にはあんたしか命綱がないのかもしんねえな……なあ頼む。ここでしばらく俺をかくまってくれ」
「……はい? どういう意味ですか? ここにいたいなら私も大歓迎ですけど」
「ほんとかっ? よっしゃぁ! じゃあ頼むわ。ここのほうが俺のんびり暮らせそうなんだ。ババアの目もないし。できれば散歩の権利も欲しいけどなぁ」
ちらちらあなたを見つめてくるので、「相談してみますね」と言ったら彼は喜んでいた。
一方のルドガーは難色を示す。
「名無し、こいつの話を安易に信用するな。すべて嘘だったらどうする」
「ええっ。こんなに面白くていいところもありそうな人なのに、嘘つきの可能性あるかな?」
「あるぞ。魔術師は全員嘘つきだ」
その言葉を彼から聞いたのは初めてじゃない。でも今はあなたは前とは違う気持ちで受け取った。
なぜならルドガーは、主人に引き取られる前は、戦闘施設に入れられ魔術師達から毎日無理やり戦わされていたのだ。
「あなたの気持ちわかるよ。嘘つきもいっぱいいるだろうね。そういう仕事なのかもしれない。魔に染まる職業的にも……」
彼の頬をそっと撫でる。すると彼は角が取れたように、柔らかい表情を見せる。
「でも私は違うよ。あなたに絶対ひどいことはしないよ」
「……それは知っている。お前がたとえ魔術師になったとしても、お前は奴らとは違うんだ」
あなたの手を握り、二人は相手を想う眼差しで見つめ合った。
そんな様子を我関せずといったふうに流していたセロに、ルドガーは視線を向けた。
「お前はどうだ? 嘘をつかないか」
「……へっ。信用した奴にはな」
セロはそれだけを言い、あなたが作ったご飯に最後まで黙々とがっついていた。
まず功労者の騎士ターシャは回復し、またもや反省と情けなさに見舞われていた。
しかしあなたが慈愛にみちた瞳でお礼を言うと、彼は嬉しそうな笑顔で「また何かあればなんでも言ってください」と志願していた。
そして尋問の日々が始まる。
ルドガーによると、ゼイランに事情を伝えたところ魔術師を見張れと命じられたらしい。
なので彼も外任務のない午前中には、あなたと行動をすることになった。
「びっくりだよねえ。ゼイラン様、守護者さまのこと聞いても怒ってなかった?」
「それは知らん。彼は今大事な地方の会合に出ていて、俺もしばらく会ってないんだ。だから彼の執事と連絡を介している」
公爵のゼイランも忙しく仕事をしているようだ。
なにはともあれ、今の事態を認めてもらえてとても有難かった。
今日は捕らえた魔術師の、三日目の尋問日である。
制服姿のルドガーと地下階段を下りていき、厳重に警護している騎士らと会釈する。
重要な任務を担っているあなただが、服装は普段着だし、手にはランチパックの籠を持っていた。
「お前、また弁当を作ってきたのか? あいつにそんなことする必要ないだろう」
「いいじゃない、皆で食べるの楽しいし。あの人も喜んでたよ」
鉄の扉前の騎士に挨拶し開けてもらう。
すると眼前には灰壁に囲われた空間が広がった。
尋問台のはりつけの壁は、今は使われておらず立てかけてある。
家具は快適とは言えない大きいだけのベッドと椅子、テーブルがあるのみだが、中の住人はのんきに寝転がっていた。
ベッドから起き上がり、あなたを見ると晴れやかな顔をする。
「セロさーん、こんにちは~。また来ましたよ~」
「おお、名無し! 待ってたよ、今日はなんのメシだ? 嬉しいぜ~もうそれだけが楽しみでな、この監禁生活」
すでに名前を教えてくれた黒髪の魔術師は、あまり特徴のない童顔ぽい顔立ちを笑ませて呼び込む。
テーブルクロスを広げた上に、色とりどりの食材を使った料理が並んだ。
ここは窓もない閉鎖的な空間だが、まるでピクニックのようだ。
「はいどうぞ、お酒は出せないですがそれふうのカクテルもありますよ」
「悪いね~。ああ最高! うまいメシ三食と昼寝つき、俺、今魔界に来て一番いい生活してるわ」
はっはっはっと上機嫌に笑いながら、上下灰色の捕虜服を着た魔術師は、完全にくつろいでいる。
「そんなに普段大変なんですか? セロさんって」
「まあな。あのババアに馬車馬のごとく働かされてるからな、俺の自由なんてないんだよ」
彼は舌打ちまじりに明かす。
ババアというのは守護者のことで、正直彼と話を始めてから、あなたの守護者に対するイメージはどんどん落ちている。
だが顔には出さずに、いつも穏やかに話を聞いていた。
「そんなに毎日一生懸命働いて、セロさん偉いですよ。借金って結構減りました?」
「ぜんっぜん。ババアが言うには、俺の師匠が出した損害は一生働いても取り返せない分らしくてさ。……まああいつは嫌な野郎だけど、言ってることは正しいんだ。俺の師匠、人間なんだけどな、めちゃくちゃ破天荒な男でな。今も行方不明だし、俺が人間界で捕まって代わりに保証人やらされてんだ」
「……えっ……」
あなたは思わずルドガーを見やるが、彼はまるで興味なさそうに弁当を食べていた。
そんな過酷な人生をこの青年が歩んでいるとは、想像もしていなかった。
「セロさん、偉すぎですよ。自分のせいじゃないのに。逃げられないんですか」
「無理だね。あんた、あいつの恐ろしさ知らないだろ。捕まったら終わりだよ」
親指を立てた手で首をかっきる動作をされ、縮み上がりそうになる。
自分には「見守る」とか「加護を与える」などと言っていたが、果たして本当にそんな人物なのだろうか。
「ルドガー、守護者さまって、いったいどっちの顔が真実なんだろう」
「……そうだな。どっちもかもしれないぞ。ゼイラン様だって、優しい顔と恐ろしい顔がある。俺はそのどちらも知っている」
そうか……。
あなたはシンプルな彼の見方に、妙に納得をする。
自分はこれまでゼイランのルドガー思いの面しか見ていないが。この前だって歩けない自分を助けてくれたのだ。
「そうだよね、トイレに連れていってくれたし、優しいよね。ルドガーの主人って」
「なんだと? お前を抱いてか? 俺はそんな話知らないぞ」
「え、そうだっけ? ごめんごめん、忘れてたよ」
ついずっと忙しかったあなたは、悪戯っぽく謝る。
彼はあなたに接触する者に、すぐ焼きもちを妬いてしまうのである。
「おいおい、今痴話喧嘩とかやめてくれよ。いいじゃねえかそんぐらいよ、ほんと獣って本能で生きてるよな。あんたよく話通じるな、名無し。……つうか、世話されてたのか? なんで?」
あなたは同じ人間の彼に、最近瘴気を浴びるようになり、闘病と回復をした経緯を説明した。
「あーそれか。俺もなったよ。あれつらいよな。俺は元々魔力あったから一週間だけだったけど。あんたよく頑張ったな、偉いじゃん」
その時、やけに柔和な顔立ちでにっと笑まれ、まるで人生の先輩に声をかけられたような思いがした。
「あ、ありがとうございます。私はルドガーがずっと助けてくれたから」
「へえ。お前もただの馬鹿力男かと思ったら、いいとこあんだな。見直したわ」
彼はご飯をぱくぱくと食べながら、二人を褒めてくれた。
あなたは自分が彼の心を開かせるのが目的なのに、おのずとセロに対して心を開いてしまっていっているのを感じた。
「あなたこそすごいですよ、信じられません、同じ経験をした人がいるなんて。どうやって克服したんですか? つらいに決まってますよね」
「そうだよなー。まあ俺にも一応世話してくれたやついたからさ…」
彼はあまり話したくない様子で斜めを見た。
ルドガーは二人とは違う、少しだけ尖った耳をぴくりと動かす。
「お前の相棒か? そいつに世話されたか。それなのに今、見捨てられたのか」
「……うるせえ! そんなんじゃねえよ! 相棒とかじゃねえし!」
セロはむきになって言い張り、腹を立てる。
図星を突かれたことよりも、今の状況を思い出して苛立ちを浮かべている様子だ。
「だ、大丈夫ですよ、もうすぐ来てくれますって。気長に待ちましょうよ」
「……あんたそれどういう立場で言ってんだ? ……ここに来るわけねえだろ。敵の巣窟だぞ。それにな、のほほんと暮らしているが、この騎士団はマジでやばいんだぜ。第一部隊長は冷酷な殺人マシーンとして恐れられてるし、魔術師団も魔界で随一と言われるほどの手練れ揃いだ。そして最近では、見たものすべてを血祭りにあげる召喚獣の殺りく兵器を投入したと言われててな――」
「それは俺のことだ」
「お前かよッ! こええから俺のこと見ないでくれる!? 俺まだお前になんもしてないよね? 頼むから記憶から消して!」
騒がしいセロはひときしりルドガーに突っ込んだあと、疲れた様子であなたを見やった。
「はあ。……もう俺にはあんたしか命綱がないのかもしんねえな……なあ頼む。ここでしばらく俺をかくまってくれ」
「……はい? どういう意味ですか? ここにいたいなら私も大歓迎ですけど」
「ほんとかっ? よっしゃぁ! じゃあ頼むわ。ここのほうが俺のんびり暮らせそうなんだ。ババアの目もないし。できれば散歩の権利も欲しいけどなぁ」
ちらちらあなたを見つめてくるので、「相談してみますね」と言ったら彼は喜んでいた。
一方のルドガーは難色を示す。
「名無し、こいつの話を安易に信用するな。すべて嘘だったらどうする」
「ええっ。こんなに面白くていいところもありそうな人なのに、嘘つきの可能性あるかな?」
「あるぞ。魔術師は全員嘘つきだ」
その言葉を彼から聞いたのは初めてじゃない。でも今はあなたは前とは違う気持ちで受け取った。
なぜならルドガーは、主人に引き取られる前は、戦闘施設に入れられ魔術師達から毎日無理やり戦わされていたのだ。
「あなたの気持ちわかるよ。嘘つきもいっぱいいるだろうね。そういう仕事なのかもしれない。魔に染まる職業的にも……」
彼の頬をそっと撫でる。すると彼は角が取れたように、柔らかい表情を見せる。
「でも私は違うよ。あなたに絶対ひどいことはしないよ」
「……それは知っている。お前がたとえ魔術師になったとしても、お前は奴らとは違うんだ」
あなたの手を握り、二人は相手を想う眼差しで見つめ合った。
そんな様子を我関せずといったふうに流していたセロに、ルドガーは視線を向けた。
「お前はどうだ? 嘘をつかないか」
「……へっ。信用した奴にはな」
セロはそれだけを言い、あなたが作ったご飯に最後まで黙々とがっついていた。
