巨体の人外に助けられて世話される話
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皆は男を連れて、騎士団領内に帰還した。
本部の地下にある尋問室へ向かい、固い鉄の壁を封鎖する。
囮になってくれた若騎士ターシャは、医務室へ連れていき休息中だ。
今回は極秘事項ではあるが、尋問室の外と中には、それぞれジュリスの部隊の騎士が警護として立っていた。
「さあ始めるか。誰がやる?」
「あの……私、いいですか?」
「名無し、君がやるのかい? 大丈夫?」
「はい! この人には、聞きたいことがたくさんあるんです」
一歩前に出て、立った状態で手足を台に張り付けられている男を見上げた。
彼は意識かあるが、口にテープを貼られて「うぐーっ」ともがいている。
なんだか少し可哀想だ。
話さないと始まらないため、あなたは優しくテープを外した。
「こんにちは、ニット帽の魔術師さん。私は名無しです」
「……ぷはぁっ。俺を妙な名前で呼ぶんじゃねえ! なんだニット帽の魔術師って、ふざけてんのかお前!」
平凡な顔立ちの男は、意外と口が悪く元気だ。
あなたは素直に反省し、笑みを浮かべる。
「すみません。ではよかったらお名前を教えてもらえませんかね」
「誰が教えるか! そんな可愛い面で微笑めば男が落ちると思ったら大間違いなんだよばーかっ」
褒められてるのか貶されてるのか分からないあなたは、彼のニット帽をそっと外した。
するとなんと、驚くべきことが判明する。
「え……!? あなた、耳が尖ってない…! まさか人間なの?」
「だからなんだよ。お前もだろうが。同族差別か? こんな魔族の連中に染まりやがって。いいか姉ちゃん、悪いこと言わないからこっち側に来い。俺が助けてやるからさ――」
そうぺらぺらと誘い始めたところで、彼の小さい頭がルドガーの手のひらにおさまる。
ぐぐっと捕まえられてけたたましい悲鳴をあげた。
「黙れ魔術師。これ以上余計なことを言ったらどうなるか教えてやろうか?」
「わッ、わかったッ、わかったからやめて馬鹿力! ……はぁ、っ、もうつかれた、これだから獣は嫌なんだよ…っ」
彼は声を出し疲れたのか、肩を落としてぐったりする。
「なんだかネズミみたいな人ですね。ピーピーうるさくて落ち着きがなくて、まともに会話も出来ません。さあ名無しさん、続けましょう。根気よくですよ」
「はい師匠!」
連携の取れた尋問により、あなたは気を取り直す。
この魔術師が人間だということに、自分以外とくに驚いてなかったことが気になったが、あなたは興味津々だ。
「なぜ人間のあなたがこの魔界にいるんですか?」
「それは俺の個人情報だ。話したくない」
「どうして守護者さまの小間使いをされてるんですか?」
「……好きでやってんじゃねえ…! あのババアが借金忘れてくれるっつうから仕方なく、こんなやばそうな仕事やってんだよぉ…!」
彼は感情的になると、かなり情報をもらしてくれた。
どうやら守護者とは良好な関係というわけではなく、弱みを利用されていたようだ。
守護者は、そこまで善人でもないようだった。
「彼女は、人間をこき使うような人なんですか…? もしかして私も、なにか彼女に負っているのかな…?」
心細くなり呟くと、ルドガーがそばにやって来た。あなたの手を握り、まっすぐと見下ろしてくる。
「違う。お前は奴に負い目なんかない。もしそうだと言われたら、俺が追い返してやる。気に病むな、名無し」
「……ルドガー……」
あなたは彼を見上げ、ゆっくりと頷く。
皆のしんみりした視線を感じたが、ニット帽を脱いだ魔術師は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「ちげえよ。あんたは可愛がられてるんだろ。他人の俺にこんな回りくどいことやらせて、おびき寄せようとしてんだから。……あの女はな、簡単には身動きが取れないんだよ」
「そうなの…? 動けないって、どういう意味なの?」
「俺と一緒に来たら教えてやる」
結局はそこに行き着き、考えあぐねた。
これまでの守護者の歯切れの悪い対応は、確かに制約のかかった行動にも思えた。
「拉致があきませんね。ではそろそろ、この男の記憶を読みましょうか。ジュリス、いいですよね」
「……ああ。やむを得ないな」
突然ミザロと隊長ジュリスがそう決めたため、あなたは焦る。
「待ってください、何するんですか」
「彼の名前や背景、仲間のこと、そして守護者の情報を引き出すんです。ふふふ……少し強制的にはなりますが、話さないというなら仕方ありません」
彼の深く青い瞳は、明らかに愉悦を浮かべている。それを最初から待っていたようだった。
「だ、だめです。やめましょう」
「何故反対するんですか、名無しさん。……あなたは我々の側ですよね?」
師の顔つきは脅すようなものではなく、わざとらしく困惑している様子だ。
「もちろんそうですよ、でも……精神に影響が出てしまうんですよね? 彼はただの使いパシリなんですし、そこまでやることは――」
「けれど名無し。俺達の騎士に直接手を出されているんだ。事件解明のためには必要なことだよ」
「たっ……確かにそれはそうです…よね」
ターシャを思うと、情は必要ない。
それは理解できる。
隊長ジュリスも、敵には容赦しないらしい。そもそも尋問部屋とはそういう所だし、彼らのやり方としては至極真っ当なのである。
「でも、……でも……」
正直、この魔術師がどうこうというよりも、調べたら守護者のことがわかってしまうかもしれない。
彼女の名前のことも。
あの自分だけに明かした情報が、万が一晒されたら。
それに「記憶を読むな」と言われた言葉が引っかかる。
どうして会ったこともない守護者の言うことを、ここまで信じているのか、自分でもよく分からなかった。
「記憶は読むな。今はこいつを捕らえていろ。名無しが心を開かせる」
「……えっ? ルドガー……」
「それでいいんだ。だろう? 名無し」
ルドガーはあなたの隣に立って、しっかりと肩を支えた。そうして彼のまっすぐな金の瞳に覗き込まれ、じわっと目が霞んでくる。
こんな状況で、自分を信じてくれている、そう感じた。
「何を言ってるんですか……あなた、いつもなら率先して拷問してますよね? 名無しさんをはめようとしてる、憎き魔術師ですよ? それでもいいんですか」
魔術師長ミザロは怪訝に眉をひそめた。
隊長ジュリスも何事かと、大いに驚愕している。
「ルドガー……いいの? 私、ちゃんとこの人の心、開かせるよ…!」
「ああ。お前なら出来る。俺もそばで見張っててやる。二人で頑張るぞ。……だからお前達も、少し時間をくれ」
獣の彼に真面目に頼み事をされるのは、同僚の二人は初めてだった。
「そうか……君がそこまで言うなら、任せてみようか。なんというか、俺は今、感動的なものを見た気がする。ルドガー、君の内側には殺戮だけじゃなく、心の機微もあるんだな。驚いたよ」
すごい言われようだが、ジュリスの吐露にあなたも同意した。
ルドガーは心が通じ合うと、深いところで理解し合ってくれる優しい人だからだ。
ミザロはすぐに答えず、あなた達をあの観察するような淀んだ瞳で見やった。
そして捕らえた魔術師本人に視線を向けた。
人間の彼もまた、事態の変化にびっくりしたようで、きょろきょろしている。
「……えっ? マジで? ……おいあんた、名無し、だっけ? いいとこあんじゃねえかよ。ボロカス言って悪かった。はは……助かったぜ」
彼は焦りを浮かべながらも、急に神妙な顔つきになり、ごくりと喉を鳴らしている。
「お前を助けたわけではない。いいか、俺が隣に張り付いてるからな。俺の番に妙な真似をしたら、この爪ですぐにでも喉を裂いてやる。わかったな」
「こえーよっ!! もういやだこの獣人! 頼むからこいつだけは外に出してくれよッ!」
「俺を二度と獣人と呼ぶな。俺は魔獣だ」
恐ろしい顔で脅すルドガーを見て、あなたはくすりと笑う。
こうしてそばで彼が見守ってくれているから、自然と勇気が出てきた。
「お願いです、師匠。ジュリスさん。私、頑張りますから、少しだけ時間をください。この人と絶対にお友達になって、このゼイラン公爵領騎士団およびルラ・パルセ魔術師団に引き入れてみせます。そうしたら守護者も私達に姿を見せてくれるはずです」
「……はっ? 何怖いこと言ってんのあんた、優しい姿どこいった?」
皆は驚いていたが、あなたは沸々とやる気に満たされていく。
ミザロはあなたがそこまで覚悟を決めた姿を見せると、やがて瞳を面白いように歪ませた。
「ふふふふ……あなた、短期間で変わりましたね。……いいでしょう。弟子の成長に賭けてみるのも悪くありません。とりあえずやってみなさい。……ですが失敗したら、私の出番ですからね。そこは忘れないように」
「はい師匠! 頑張ります!」
あなたは彼に礼をしたあと、ルドガーとがっちり手をつなぐ。
こうして二人の新たな特別任務が始まろうとしていた。
本部の地下にある尋問室へ向かい、固い鉄の壁を封鎖する。
囮になってくれた若騎士ターシャは、医務室へ連れていき休息中だ。
今回は極秘事項ではあるが、尋問室の外と中には、それぞれジュリスの部隊の騎士が警護として立っていた。
「さあ始めるか。誰がやる?」
「あの……私、いいですか?」
「名無し、君がやるのかい? 大丈夫?」
「はい! この人には、聞きたいことがたくさんあるんです」
一歩前に出て、立った状態で手足を台に張り付けられている男を見上げた。
彼は意識かあるが、口にテープを貼られて「うぐーっ」ともがいている。
なんだか少し可哀想だ。
話さないと始まらないため、あなたは優しくテープを外した。
「こんにちは、ニット帽の魔術師さん。私は名無しです」
「……ぷはぁっ。俺を妙な名前で呼ぶんじゃねえ! なんだニット帽の魔術師って、ふざけてんのかお前!」
平凡な顔立ちの男は、意外と口が悪く元気だ。
あなたは素直に反省し、笑みを浮かべる。
「すみません。ではよかったらお名前を教えてもらえませんかね」
「誰が教えるか! そんな可愛い面で微笑めば男が落ちると思ったら大間違いなんだよばーかっ」
褒められてるのか貶されてるのか分からないあなたは、彼のニット帽をそっと外した。
するとなんと、驚くべきことが判明する。
「え……!? あなた、耳が尖ってない…! まさか人間なの?」
「だからなんだよ。お前もだろうが。同族差別か? こんな魔族の連中に染まりやがって。いいか姉ちゃん、悪いこと言わないからこっち側に来い。俺が助けてやるからさ――」
そうぺらぺらと誘い始めたところで、彼の小さい頭がルドガーの手のひらにおさまる。
ぐぐっと捕まえられてけたたましい悲鳴をあげた。
「黙れ魔術師。これ以上余計なことを言ったらどうなるか教えてやろうか?」
「わッ、わかったッ、わかったからやめて馬鹿力! ……はぁ、っ、もうつかれた、これだから獣は嫌なんだよ…っ」
彼は声を出し疲れたのか、肩を落としてぐったりする。
「なんだかネズミみたいな人ですね。ピーピーうるさくて落ち着きがなくて、まともに会話も出来ません。さあ名無しさん、続けましょう。根気よくですよ」
「はい師匠!」
連携の取れた尋問により、あなたは気を取り直す。
この魔術師が人間だということに、自分以外とくに驚いてなかったことが気になったが、あなたは興味津々だ。
「なぜ人間のあなたがこの魔界にいるんですか?」
「それは俺の個人情報だ。話したくない」
「どうして守護者さまの小間使いをされてるんですか?」
「……好きでやってんじゃねえ…! あのババアが借金忘れてくれるっつうから仕方なく、こんなやばそうな仕事やってんだよぉ…!」
彼は感情的になると、かなり情報をもらしてくれた。
どうやら守護者とは良好な関係というわけではなく、弱みを利用されていたようだ。
守護者は、そこまで善人でもないようだった。
「彼女は、人間をこき使うような人なんですか…? もしかして私も、なにか彼女に負っているのかな…?」
心細くなり呟くと、ルドガーがそばにやって来た。あなたの手を握り、まっすぐと見下ろしてくる。
「違う。お前は奴に負い目なんかない。もしそうだと言われたら、俺が追い返してやる。気に病むな、名無し」
「……ルドガー……」
あなたは彼を見上げ、ゆっくりと頷く。
皆のしんみりした視線を感じたが、ニット帽を脱いだ魔術師は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「ちげえよ。あんたは可愛がられてるんだろ。他人の俺にこんな回りくどいことやらせて、おびき寄せようとしてんだから。……あの女はな、簡単には身動きが取れないんだよ」
「そうなの…? 動けないって、どういう意味なの?」
「俺と一緒に来たら教えてやる」
結局はそこに行き着き、考えあぐねた。
これまでの守護者の歯切れの悪い対応は、確かに制約のかかった行動にも思えた。
「拉致があきませんね。ではそろそろ、この男の記憶を読みましょうか。ジュリス、いいですよね」
「……ああ。やむを得ないな」
突然ミザロと隊長ジュリスがそう決めたため、あなたは焦る。
「待ってください、何するんですか」
「彼の名前や背景、仲間のこと、そして守護者の情報を引き出すんです。ふふふ……少し強制的にはなりますが、話さないというなら仕方ありません」
彼の深く青い瞳は、明らかに愉悦を浮かべている。それを最初から待っていたようだった。
「だ、だめです。やめましょう」
「何故反対するんですか、名無しさん。……あなたは我々の側ですよね?」
師の顔つきは脅すようなものではなく、わざとらしく困惑している様子だ。
「もちろんそうですよ、でも……精神に影響が出てしまうんですよね? 彼はただの使いパシリなんですし、そこまでやることは――」
「けれど名無し。俺達の騎士に直接手を出されているんだ。事件解明のためには必要なことだよ」
「たっ……確かにそれはそうです…よね」
ターシャを思うと、情は必要ない。
それは理解できる。
隊長ジュリスも、敵には容赦しないらしい。そもそも尋問部屋とはそういう所だし、彼らのやり方としては至極真っ当なのである。
「でも、……でも……」
正直、この魔術師がどうこうというよりも、調べたら守護者のことがわかってしまうかもしれない。
彼女の名前のことも。
あの自分だけに明かした情報が、万が一晒されたら。
それに「記憶を読むな」と言われた言葉が引っかかる。
どうして会ったこともない守護者の言うことを、ここまで信じているのか、自分でもよく分からなかった。
「記憶は読むな。今はこいつを捕らえていろ。名無しが心を開かせる」
「……えっ? ルドガー……」
「それでいいんだ。だろう? 名無し」
ルドガーはあなたの隣に立って、しっかりと肩を支えた。そうして彼のまっすぐな金の瞳に覗き込まれ、じわっと目が霞んでくる。
こんな状況で、自分を信じてくれている、そう感じた。
「何を言ってるんですか……あなた、いつもなら率先して拷問してますよね? 名無しさんをはめようとしてる、憎き魔術師ですよ? それでもいいんですか」
魔術師長ミザロは怪訝に眉をひそめた。
隊長ジュリスも何事かと、大いに驚愕している。
「ルドガー……いいの? 私、ちゃんとこの人の心、開かせるよ…!」
「ああ。お前なら出来る。俺もそばで見張っててやる。二人で頑張るぞ。……だからお前達も、少し時間をくれ」
獣の彼に真面目に頼み事をされるのは、同僚の二人は初めてだった。
「そうか……君がそこまで言うなら、任せてみようか。なんというか、俺は今、感動的なものを見た気がする。ルドガー、君の内側には殺戮だけじゃなく、心の機微もあるんだな。驚いたよ」
すごい言われようだが、ジュリスの吐露にあなたも同意した。
ルドガーは心が通じ合うと、深いところで理解し合ってくれる優しい人だからだ。
ミザロはすぐに答えず、あなた達をあの観察するような淀んだ瞳で見やった。
そして捕らえた魔術師本人に視線を向けた。
人間の彼もまた、事態の変化にびっくりしたようで、きょろきょろしている。
「……えっ? マジで? ……おいあんた、名無し、だっけ? いいとこあんじゃねえかよ。ボロカス言って悪かった。はは……助かったぜ」
彼は焦りを浮かべながらも、急に神妙な顔つきになり、ごくりと喉を鳴らしている。
「お前を助けたわけではない。いいか、俺が隣に張り付いてるからな。俺の番に妙な真似をしたら、この爪ですぐにでも喉を裂いてやる。わかったな」
「こえーよっ!! もういやだこの獣人! 頼むからこいつだけは外に出してくれよッ!」
「俺を二度と獣人と呼ぶな。俺は魔獣だ」
恐ろしい顔で脅すルドガーを見て、あなたはくすりと笑う。
こうしてそばで彼が見守ってくれているから、自然と勇気が出てきた。
「お願いです、師匠。ジュリスさん。私、頑張りますから、少しだけ時間をください。この人と絶対にお友達になって、このゼイラン公爵領騎士団およびルラ・パルセ魔術師団に引き入れてみせます。そうしたら守護者も私達に姿を見せてくれるはずです」
「……はっ? 何怖いこと言ってんのあんた、優しい姿どこいった?」
皆は驚いていたが、あなたは沸々とやる気に満たされていく。
ミザロはあなたがそこまで覚悟を決めた姿を見せると、やがて瞳を面白いように歪ませた。
「ふふふふ……あなた、短期間で変わりましたね。……いいでしょう。弟子の成長に賭けてみるのも悪くありません。とりあえずやってみなさい。……ですが失敗したら、私の出番ですからね。そこは忘れないように」
「はい師匠! 頑張ります!」
あなたは彼に礼をしたあと、ルドガーとがっちり手をつなぐ。
こうして二人の新たな特別任務が始まろうとしていた。
