巨体の人外に助けられて世話される話
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「よし、皆揃ったな。今から作戦内容を確認する。ターシャ、お前は普段通りの休日歩きを遂行しろ。魔術師長ミザロによれば、術にかかりやすく場にとけこみやすいお前のことを、敵は必ず再び狙ってくるという。心してかかれよ」
「はっ了解です! 今度こそ皆さんのお役に立ってみせます!」
ジュリスが団内の控室で命じ、部下の返事も頼もしい。
隊長の美麗な瞳が自分にさっと向けられたとき、あなたは騎士のように背筋と指先をぴんと伸ばした。
「名無し、そしてルドガー。君達の顔は割れてないようだから、今日は仲睦まじいカップルとしていつも通りのデートをしてくれ。つかず離れずの距離で。耳は隠すようにね」
「はい隊長っ!」
「わかった。だがお前は何をするんだジュリス」
「俺も皆と同様、私服で周囲に目を光らせるよ。武器は携帯するから、何か起きたら俺達で対応しよう」
二人は男同士目線をがっちりと交わす。
最後は黒ローブをまとい、後ろで気配薄く佇むミザロに注目が集まった。
「もういいですか。こういう騎士特有の暑苦しい空気苦手なんですよね。私は望遠魔法で皆さんの様子を遠くから伺っていますから。――名無しさん、騎士団から支給された通話魔石、持ってますね?」
「はい! これで連絡係もばっちりです。魔力生まれてよかったぁ」
最近この細長い通話装置を使えるようになり、魔力が十分増えたことに本当に感謝していた。
作戦隊長ジュリスは団長にすでに話を通し、任務の許可も得ている。
あとは皆で協力をして、騎士を操った魔術師らを捕まえるだけだ。
こうして気合の入ったメンバーは、ミザロの転移魔法により街へと旅立った。
騎士団が守護する都市ルラ・パルセの中心街に到着すると、皆ばらばらで行動を始めた。
騎士ターシャは若者らしい軽装にリュックを背負い、普段通りのルートを歩いていく。
後方にいるあなたとルドガーは手を繋ぎ、人々でにぎわう商店街を進んでいた。
「名無し、俺から離れるなよ」
「うん! でもルドガー、手の力ちょっと強いよ。もう少し優しくして」
「えっ? 悪い。きつかったか」
彼は険しかった顔つきから一瞬、鎧が取れたように素で驚いた。
そしてあなたの手をそっと握り直し、優しく笑む。
ルドガーも少し緊張しているようだ。
標的を気にしながらも、隣の小柄なあなたを見やった。
「……今日はずいぶん可愛い格好しているな」
「気づいた? まさかこのコートとブーツ、任務で着ると思わなかったよ。あなたの服も決まってて素敵だね、いつもの制服姿も格好いいけど」
今日の彼は革の上着とシャツを着ていて大人っぽく、ドキドキする。
にこりと笑って褒めると、彼はなぜか瞳をそらして鼻を触った。
「ありがとな。……ああ、お前がいるとやっぱり任務に集中ができん」
「えぇっ、どうしてよ! 頑張ってるのに〜」
「デートとかいう私情を挟みやすい状況だからだ。……くそっ、これが終わったら本当のデートをお前とするからな。覚えておけよ、名無し」
あなたはまさか彼にそんな甘いことを今言われると思わず、頬を赤らめたのだった。
だがそんなときに、魔石が紫色に点滅して光り始めた。
「ルドガー、師匠だ!」
「ああ、出ろ。あいつもちょうど露天商の前で立ち止まってる」
騎士ターシャが白いテント前でしゃがみこみ、店主に靴を勧められているようだ。
「――もしもし、どうしましたか」
『半径50メートル以内に魔術師が三人います。あなた達の付近と向かいの洋服屋、奥にある本屋です』
「わ、わかりました。注意します!」
簡潔な報告を受け、ルドガーに伝える。
通話魔石は魔力がないとかけることが出来ないが、受け取るほうは誰でも可能なのだ。
だからあなたは、すぐにジュリスにも通話をかけ、同じように伝えた。
彼は囮のターシャを挟むように向かい側で行動しており、背の高い同士ルドガーと目で合図をした。
「露天の近くへ行ってみよう」
「うんっ」
小声で話しながら、あなた達も隣の店で品物を見るフリをするが、店主は異国の風貌をした老人で、怪しいところはない。
あなたの催眠術によると、標的は若い魔術師とのことだったので、周囲に目を配った。
ターシャに近づいてくる不審者はおらず、そのあと彼は本屋に入った。
体格のよい健康的な男子の騎士は、読書家でもあり、中で本を選び、会計に向かった。
エプロンをした店員はニット帽から黒髪がのぞく、平凡な顔立ちだ。
少しやる気のなさそうな接客をしている。
「いらっしゃいませ〜。お兄さん、これちょっと角折れてるよ? いいの?」
「あっ、じゃあ代えてもらえますか」
「はいよ」
ごく普通の慣れた手つきで新しい本を取り出し、袋に詰めている。
あなたは他の客にも気をつけていた。
しかしルドガーが頭上から怪訝な声を出す。
「おい、あの店員……なにかぶつぶつ言ってないか? 微かにしか聞こえないが」
「えっ?」
あなたはエプロン姿の店員をじっと見る。すると確かに、紙袋を渡す前になにかを騎士に告げているように見えた。
しかもあのじとっとした陰鬱な目つきは、どこか師のミザロに重なったのだ。
「なんかおかしいかも、長くない?」
「ああ、行くぞ!」
思ったより早く飛び出してしまったルドガーは、二人のもとに向かっていく。獣の鼻が利いたのだろうか、どん!とカウンターを拳で叩いた。
「お前、今何をしていた」
「……はっ? なんなんですかあんた、何って、接客ですよ」
「嘘をつけ、お前魔術師だろう、詠唱をしていたな?」
「なっ、意味不明なこと言わないでくれるか? 俺はただポイントカードの説明してただけだぞ!」
言い合いになる二人を前に、もしや勘違いかと思ったが、あなたは静かになったターシャを唖然と見やる。
「ルドガー、彼の目が虚ろになってる! この人だよ!」
「…くっ、やはりか!」
催眠をかけられた者の表情が、もうあなたには判別できていた。そして同時に、後ろからジュリスの大きな声が響いた。
「おい、裏で店員が気を失っている! ルドガー、そいつを捕らえろ!」
彼が抱えていたのは、同じエプロン姿の男性店員だ。
なりすましていたニット帽の男は、途端に真っ青になり、くるりと背を向けて素早く逃げ出そうとした。
「ジュリス、名無しを見ていろ!」
「ああ!」
ルドガーは店から出ていこうとする偽店員を追いかけ、あっという間に捕まえた。
店先で彼の上半身を背後から持ち上げてそのまま羽交い締めにする。
「ぁ゛っ、あぁッ、まて、ストップ、ストップ! 死ぬッ゛!」
「黒幕はどこだッ! 吐け!」
ルドガーの腕が締まる中、魔術師はこんなことを口走った。
「早くっ、助けろ! おい、どこ行った、あの野郎ぉ……ッ!!」
もう一人の仲間のことだろうか。
ルドガーが魔術師の逃走を防ぐため、詠唱しようとする彼の口を塞ぐ。
中肉中背の体は、じたばたもがいていた。
すると本屋の入口から、堂々と黒ローブの魔術師が入ってくる。
望遠魔法で状況を確認していたミザロは、捕縛を見届けると転移してきたようだった。
彼はルドガーが捕らえた魔術師をじろりと眺め、つまらなそうな顔をした。
「おい、こいつじゃないのか!」
「その方ですよ。平凡な魔力量も想定の通りです。殺さないでくださいね、気絶するぐらいにとどめてください」
ただ一人落ち着いている師は、ジュリスとあなたに介抱されている若騎士を見下ろした。
床に沈みこみ、完全に脱力してしまっている。
「本当に術にかかりやすい体質の方ですね。どれどれ」
体に手をかざし、何かを調べているようだ。
「師匠、なにか分かりますか?」
「……いいえ。魔術師の魔力しか感じられません。あなたの守護者の力はなにも……」
術をかけられたばかりの新鮮な被験体から、残念そうに手を外し、彼は立ち上がった。
やはり守護者の直接的な情報は、そう簡単には得られないみたいだ。
気づけばルドガーが捕らえた若い男の魔術師も、気を失ってしまっている。
「さあ皆さん。領内に戻り、この男を尋問しましょうか」
彼自身としてはあまり収穫を感じられなかったのか、対象にはあまり興味のなさそうにミザロは言った。
「おい。もう一人はどうする。逃がすのか」
「周辺に怪しい者はいなかったが……」
ルドガーとジュリスが話し合うが、ミザロは落ち着いている。
「彼から情報を引き出せば十分ですよ。どうやら置いて逃げたようですし、今は放っておきましょう」
淡々と結論づけ、皆もひとまずそれを受け入れたのだった。
「はっ了解です! 今度こそ皆さんのお役に立ってみせます!」
ジュリスが団内の控室で命じ、部下の返事も頼もしい。
隊長の美麗な瞳が自分にさっと向けられたとき、あなたは騎士のように背筋と指先をぴんと伸ばした。
「名無し、そしてルドガー。君達の顔は割れてないようだから、今日は仲睦まじいカップルとしていつも通りのデートをしてくれ。つかず離れずの距離で。耳は隠すようにね」
「はい隊長っ!」
「わかった。だがお前は何をするんだジュリス」
「俺も皆と同様、私服で周囲に目を光らせるよ。武器は携帯するから、何か起きたら俺達で対応しよう」
二人は男同士目線をがっちりと交わす。
最後は黒ローブをまとい、後ろで気配薄く佇むミザロに注目が集まった。
「もういいですか。こういう騎士特有の暑苦しい空気苦手なんですよね。私は望遠魔法で皆さんの様子を遠くから伺っていますから。――名無しさん、騎士団から支給された通話魔石、持ってますね?」
「はい! これで連絡係もばっちりです。魔力生まれてよかったぁ」
最近この細長い通話装置を使えるようになり、魔力が十分増えたことに本当に感謝していた。
作戦隊長ジュリスは団長にすでに話を通し、任務の許可も得ている。
あとは皆で協力をして、騎士を操った魔術師らを捕まえるだけだ。
こうして気合の入ったメンバーは、ミザロの転移魔法により街へと旅立った。
騎士団が守護する都市ルラ・パルセの中心街に到着すると、皆ばらばらで行動を始めた。
騎士ターシャは若者らしい軽装にリュックを背負い、普段通りのルートを歩いていく。
後方にいるあなたとルドガーは手を繋ぎ、人々でにぎわう商店街を進んでいた。
「名無し、俺から離れるなよ」
「うん! でもルドガー、手の力ちょっと強いよ。もう少し優しくして」
「えっ? 悪い。きつかったか」
彼は険しかった顔つきから一瞬、鎧が取れたように素で驚いた。
そしてあなたの手をそっと握り直し、優しく笑む。
ルドガーも少し緊張しているようだ。
標的を気にしながらも、隣の小柄なあなたを見やった。
「……今日はずいぶん可愛い格好しているな」
「気づいた? まさかこのコートとブーツ、任務で着ると思わなかったよ。あなたの服も決まってて素敵だね、いつもの制服姿も格好いいけど」
今日の彼は革の上着とシャツを着ていて大人っぽく、ドキドキする。
にこりと笑って褒めると、彼はなぜか瞳をそらして鼻を触った。
「ありがとな。……ああ、お前がいるとやっぱり任務に集中ができん」
「えぇっ、どうしてよ! 頑張ってるのに〜」
「デートとかいう私情を挟みやすい状況だからだ。……くそっ、これが終わったら本当のデートをお前とするからな。覚えておけよ、名無し」
あなたはまさか彼にそんな甘いことを今言われると思わず、頬を赤らめたのだった。
だがそんなときに、魔石が紫色に点滅して光り始めた。
「ルドガー、師匠だ!」
「ああ、出ろ。あいつもちょうど露天商の前で立ち止まってる」
騎士ターシャが白いテント前でしゃがみこみ、店主に靴を勧められているようだ。
「――もしもし、どうしましたか」
『半径50メートル以内に魔術師が三人います。あなた達の付近と向かいの洋服屋、奥にある本屋です』
「わ、わかりました。注意します!」
簡潔な報告を受け、ルドガーに伝える。
通話魔石は魔力がないとかけることが出来ないが、受け取るほうは誰でも可能なのだ。
だからあなたは、すぐにジュリスにも通話をかけ、同じように伝えた。
彼は囮のターシャを挟むように向かい側で行動しており、背の高い同士ルドガーと目で合図をした。
「露天の近くへ行ってみよう」
「うんっ」
小声で話しながら、あなた達も隣の店で品物を見るフリをするが、店主は異国の風貌をした老人で、怪しいところはない。
あなたの催眠術によると、標的は若い魔術師とのことだったので、周囲に目を配った。
ターシャに近づいてくる不審者はおらず、そのあと彼は本屋に入った。
体格のよい健康的な男子の騎士は、読書家でもあり、中で本を選び、会計に向かった。
エプロンをした店員はニット帽から黒髪がのぞく、平凡な顔立ちだ。
少しやる気のなさそうな接客をしている。
「いらっしゃいませ〜。お兄さん、これちょっと角折れてるよ? いいの?」
「あっ、じゃあ代えてもらえますか」
「はいよ」
ごく普通の慣れた手つきで新しい本を取り出し、袋に詰めている。
あなたは他の客にも気をつけていた。
しかしルドガーが頭上から怪訝な声を出す。
「おい、あの店員……なにかぶつぶつ言ってないか? 微かにしか聞こえないが」
「えっ?」
あなたはエプロン姿の店員をじっと見る。すると確かに、紙袋を渡す前になにかを騎士に告げているように見えた。
しかもあのじとっとした陰鬱な目つきは、どこか師のミザロに重なったのだ。
「なんかおかしいかも、長くない?」
「ああ、行くぞ!」
思ったより早く飛び出してしまったルドガーは、二人のもとに向かっていく。獣の鼻が利いたのだろうか、どん!とカウンターを拳で叩いた。
「お前、今何をしていた」
「……はっ? なんなんですかあんた、何って、接客ですよ」
「嘘をつけ、お前魔術師だろう、詠唱をしていたな?」
「なっ、意味不明なこと言わないでくれるか? 俺はただポイントカードの説明してただけだぞ!」
言い合いになる二人を前に、もしや勘違いかと思ったが、あなたは静かになったターシャを唖然と見やる。
「ルドガー、彼の目が虚ろになってる! この人だよ!」
「…くっ、やはりか!」
催眠をかけられた者の表情が、もうあなたには判別できていた。そして同時に、後ろからジュリスの大きな声が響いた。
「おい、裏で店員が気を失っている! ルドガー、そいつを捕らえろ!」
彼が抱えていたのは、同じエプロン姿の男性店員だ。
なりすましていたニット帽の男は、途端に真っ青になり、くるりと背を向けて素早く逃げ出そうとした。
「ジュリス、名無しを見ていろ!」
「ああ!」
ルドガーは店から出ていこうとする偽店員を追いかけ、あっという間に捕まえた。
店先で彼の上半身を背後から持ち上げてそのまま羽交い締めにする。
「ぁ゛っ、あぁッ、まて、ストップ、ストップ! 死ぬッ゛!」
「黒幕はどこだッ! 吐け!」
ルドガーの腕が締まる中、魔術師はこんなことを口走った。
「早くっ、助けろ! おい、どこ行った、あの野郎ぉ……ッ!!」
もう一人の仲間のことだろうか。
ルドガーが魔術師の逃走を防ぐため、詠唱しようとする彼の口を塞ぐ。
中肉中背の体は、じたばたもがいていた。
すると本屋の入口から、堂々と黒ローブの魔術師が入ってくる。
望遠魔法で状況を確認していたミザロは、捕縛を見届けると転移してきたようだった。
彼はルドガーが捕らえた魔術師をじろりと眺め、つまらなそうな顔をした。
「おい、こいつじゃないのか!」
「その方ですよ。平凡な魔力量も想定の通りです。殺さないでくださいね、気絶するぐらいにとどめてください」
ただ一人落ち着いている師は、ジュリスとあなたに介抱されている若騎士を見下ろした。
床に沈みこみ、完全に脱力してしまっている。
「本当に術にかかりやすい体質の方ですね。どれどれ」
体に手をかざし、何かを調べているようだ。
「師匠、なにか分かりますか?」
「……いいえ。魔術師の魔力しか感じられません。あなたの守護者の力はなにも……」
術をかけられたばかりの新鮮な被験体から、残念そうに手を外し、彼は立ち上がった。
やはり守護者の直接的な情報は、そう簡単には得られないみたいだ。
気づけばルドガーが捕らえた若い男の魔術師も、気を失ってしまっている。
「さあ皆さん。領内に戻り、この男を尋問しましょうか」
彼自身としてはあまり収穫を感じられなかったのか、対象にはあまり興味のなさそうにミザロは言った。
「おい。もう一人はどうする。逃がすのか」
「周辺に怪しい者はいなかったが……」
ルドガーとジュリスが話し合うが、ミザロは落ち着いている。
「彼から情報を引き出せば十分ですよ。どうやら置いて逃げたようですし、今は放っておきましょう」
淡々と結論づけ、皆もひとまずそれを受け入れたのだった。
