巨体の人外に助けられて世話される話
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体が全快してから一週間後。
あなたはすっかり普通の生活を取り戻していた。
ミザロと魔術の訓練も少しずつ再開したし、体も新しくトレーニングを開始した。
騎士団領内を邪魔にならないように走り、体力をつけようと思ったのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。……あっ、おはようございまーす!」
元気よく外周をジョギングし、仲間と歩く騎士らに挨拶をする。
彼らはぎょっとした顔つきで会釈してくれたが、あなたは微笑みを浮かべて走り抜ける。
自分でもよく分からないほど、元気が有り余っていた。
「ふぅーっ。今日も走ったなぁ。明日はもう少し長めに挑戦してみようかな」
「……名無し! 何をしているんだ…?」
「きゃあっ!」
騎士団本部内のお手洗いから出てきたあと、廊下で後ろから声をかけられた。
驚いたあなたが振り返ると、制服姿のルドガーがそこに立ち、瞳を揺らしている。
「びっくりした、ルドガー! 今日は領内にいるの?」
「ああ、事務用があってな。……だがお前、運動しているのか? 最近走り回っていると、部下から聞いたんだが…」
部下いるんだ。
そう思いながら、あなたは秘密にしていたことが見つかってしまい、照れくさそうに髪を触る。
「そうなの。ちょっと運動したいなと思って。せっかく元気出たからさ」
「そうか……。だが、まだ無理するなよ。心配だ。治ったばかりなんだから」
彼は間近に立ち、あなたのことを広い腕にしまって抱きしめる。
人はいないが、外でそんなことをされて鼓動が静まらなくなった。
「ご、ごめんねルドガー。心配させちゃって。つい動きが止まらなくて…」
「いいんだ。元気なのは嬉しいぞ。ただ、お前の近くにずっといたから、まだ慣れなくてな」
悩ましく吐露されて、あなたははっとなり顔を上げた。
彼の表情を見ればわかる。
ずっとお世話をしてくれていたのに、急な変化についていけないのは当然なはずだった。
「そうだよね、ごめん……。私も、自分でもなにかおかしいなと思いながら、我欲のままに行動しちゃって。最近そうなんだ。なんでだろう」
別に張り切って運動してるだけだが、妙なモチベーションの上昇は感じていた。
「そんなことはない。お前は温かくて、優しいままだ。俺は分かってるぞ。……だが、あいつからの接触はまだないか?」
金色の瞳が、心配の中に鋭い感情を滲ませる。
守護者のことだとすぐに悟った。
「ううん、まだないよ。もう忘れたんじゃないかな」
あなたが半ば投げやりに言うと、彼は答えなかったが、その目つきはけっして信じていない様子だった。
二人はひとまず、またあとで会おうと約束する。
仕事頑張ってね、と背中に声をかけると、ルドガーも振り返り笑みを浮かべて去っていった。
あなたはひとり、守護者のことを考えた。
思い出すと、苛立ちがわいてくる。
正直に言うと、大きな反発心である。
「なによ。加護を与えるとか言って、私のことなんかどうでもいいんじゃない」
そんな風に素直な悪態が出ることは、自分でも驚きだった。
帰宅して夕飯の支度をする。
もうすっかり頭の中は落ち着いて、鼻歌を歌いながらルドガーの帰りを待っていた。
魔術の訓練だってうまくいってるし、体力もこの調子ならもっとつきそうだ。
なにより、愛する彼といつも一緒に過ごすことが出来るし。
「あーあー。もう忘れよう。一方的な関係なんて、続くわけないんだから」
妙に感傷的な気分が漂ってきたが、食卓に皿を並べているときに、異変が起きた。
頭の中で、一か月ぶりぐらいに声がしたのだ。
『……名無し、私だ』
あなたはびくっと肩を動かして、瞬時に気がつく。
けれど視線をまっすぐに戻し、無視をした。
『聞こえないか? 私だと言っているだろう』
「…………」
凄みのある表情で答えないでいると、彼女のはあ、と疲れたようなため息が聞こえた。
その吐息の残酷さに、あなたはカッとなり口を開く。
「何ですか。私って誰ですか」
『ああ、やっと答えてくれたな。守護者の私だ』
「そんな人知りません。好きなときに声かけてきて、思わせぶりに喋って、また消えるんでしょう!」
まれにみる感情表現は、彼女をも驚かせたようだった。
『どうしたのだ、そんなに怒って。お前を放っておいたのは悪かったが、騎士団の防御が強化されていてな。お前にはわからんだろうが』
「…はぁっ? そのぐらい気づきますけど! 私だって魔力増大したんです、瘴気だって今は浴び放題なんですからねっ」
近況報告をすると、守護者は軽く驚いていた。
『すごいではないか。褒めてやろう。だが、ずいぶん時間がかかったな』
その尊大な言いぶりに、開いた口が塞がらなくなる。
「あのねえ! 私の苦労も知らないで、何様なの!? 全然気にしてなかったくせに! ゼイラン様はお見舞いに来てくれましたよ?
でもあなたは? ほんとうに守護者!?」
興奮して声を荒げるたびに、なんだが溜まっていた気分が発散されて心のボルテージが上がってくる。
その様子を、守護者も奇妙に受け取ったようだ。
『あの男が? それはいいことじゃないか。……だが名無し、お前の様子がなにやらおかしく感じる……魔に染まりすぎたのでは』
その言葉だけは、ドキっとした。
確かに最近精神的に、力や感情が抑えられない時があった。
「……とにかく、もうほっといてください! 加護はゼイラン様に頂くし、もうすぐなんです! 邪魔しないで!」
そうはっきり口にすると、なぜだか胸がわずかに痛んだ。
『そんな冷たいことを言うな……私だって、お前の身を案ずる者だ。けっして悪者ではない』
「な、なによ。そんなの信じられないし。だいたい、名乗りもしないで目的もあいまいにして、こっちはどうすればいいの? せめて名前だけでも教えてよ!」
そう突きつけると、彼女は静かにこう告げた。
『わかった。特別だ、お前には私の真名を教えよう。名は˝ネメニア˝という』
「……えっ? そうなの……? か、可愛い名前ですね」
とっさにそう答えると、彼女の鼻で笑う声が聞こえた。
『お前の無知は本当に尊いものだ。私の名は恐ろしい。いいか、誰にも告げるなよ。この言葉をあるものが使えば、殺せるほどの威力があるのだからな』
「えぇーっ!! 嘘でしょう、そんなこと教えちゃだめですよ!」
『お前だから教えたのだ。その妙な黒魔術師にも言うでないぞ。それと、記憶も読ませるな』
……え?
また変なことを言っていたが、あなたは彼女の迫真的な声のトーンから、その話を信じた。
とにかく守護者が言うには、重大な情報さえ漏らさなければ、あとはあまり気にしないらしい。
「あの、ネメニア様、それで加護のことですけど――」
『名前を言うなと言っただろう! お前は馬鹿なのか!?』
「すみません守護者さまっ! 言いませんから! ……それであのう、やっぱり加護をあなたにお願いするのは無理そうです。もう決まっちゃってるんで」
はっきりとそこだけは譲れない旨を伝えると、また頭の向こうで笑い声がした。
『それはお前が決めるといい。お前は私を選ぶことになるだろうがな。ふふふ……』
「どういうことですか!」
『また接触する。ではな』
「すぐにしてください!」
『わかっている、すぐだ。騎士をよく見ておけ』
そう言ってぷつっと会話は途絶えた。
あなたは久々に脱力する。
騎士……?
なんの関係があるのだろうか。
もう彼女の謎解きに付き合うのは、疲れ果てた。
あなたは食卓の椅子に腰を落とし、顔を突っ伏す。
「騎士さんが何なのよ……まったく接点ないんだけど」
だが話す前と比べて、今のあなたは、もうこうなったら守護者に付き合うしかないような気がしていた。
あなたはすっかり普通の生活を取り戻していた。
ミザロと魔術の訓練も少しずつ再開したし、体も新しくトレーニングを開始した。
騎士団領内を邪魔にならないように走り、体力をつけようと思ったのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。……あっ、おはようございまーす!」
元気よく外周をジョギングし、仲間と歩く騎士らに挨拶をする。
彼らはぎょっとした顔つきで会釈してくれたが、あなたは微笑みを浮かべて走り抜ける。
自分でもよく分からないほど、元気が有り余っていた。
「ふぅーっ。今日も走ったなぁ。明日はもう少し長めに挑戦してみようかな」
「……名無し! 何をしているんだ…?」
「きゃあっ!」
騎士団本部内のお手洗いから出てきたあと、廊下で後ろから声をかけられた。
驚いたあなたが振り返ると、制服姿のルドガーがそこに立ち、瞳を揺らしている。
「びっくりした、ルドガー! 今日は領内にいるの?」
「ああ、事務用があってな。……だがお前、運動しているのか? 最近走り回っていると、部下から聞いたんだが…」
部下いるんだ。
そう思いながら、あなたは秘密にしていたことが見つかってしまい、照れくさそうに髪を触る。
「そうなの。ちょっと運動したいなと思って。せっかく元気出たからさ」
「そうか……。だが、まだ無理するなよ。心配だ。治ったばかりなんだから」
彼は間近に立ち、あなたのことを広い腕にしまって抱きしめる。
人はいないが、外でそんなことをされて鼓動が静まらなくなった。
「ご、ごめんねルドガー。心配させちゃって。つい動きが止まらなくて…」
「いいんだ。元気なのは嬉しいぞ。ただ、お前の近くにずっといたから、まだ慣れなくてな」
悩ましく吐露されて、あなたははっとなり顔を上げた。
彼の表情を見ればわかる。
ずっとお世話をしてくれていたのに、急な変化についていけないのは当然なはずだった。
「そうだよね、ごめん……。私も、自分でもなにかおかしいなと思いながら、我欲のままに行動しちゃって。最近そうなんだ。なんでだろう」
別に張り切って運動してるだけだが、妙なモチベーションの上昇は感じていた。
「そんなことはない。お前は温かくて、優しいままだ。俺は分かってるぞ。……だが、あいつからの接触はまだないか?」
金色の瞳が、心配の中に鋭い感情を滲ませる。
守護者のことだとすぐに悟った。
「ううん、まだないよ。もう忘れたんじゃないかな」
あなたが半ば投げやりに言うと、彼は答えなかったが、その目つきはけっして信じていない様子だった。
二人はひとまず、またあとで会おうと約束する。
仕事頑張ってね、と背中に声をかけると、ルドガーも振り返り笑みを浮かべて去っていった。
あなたはひとり、守護者のことを考えた。
思い出すと、苛立ちがわいてくる。
正直に言うと、大きな反発心である。
「なによ。加護を与えるとか言って、私のことなんかどうでもいいんじゃない」
そんな風に素直な悪態が出ることは、自分でも驚きだった。
帰宅して夕飯の支度をする。
もうすっかり頭の中は落ち着いて、鼻歌を歌いながらルドガーの帰りを待っていた。
魔術の訓練だってうまくいってるし、体力もこの調子ならもっとつきそうだ。
なにより、愛する彼といつも一緒に過ごすことが出来るし。
「あーあー。もう忘れよう。一方的な関係なんて、続くわけないんだから」
妙に感傷的な気分が漂ってきたが、食卓に皿を並べているときに、異変が起きた。
頭の中で、一か月ぶりぐらいに声がしたのだ。
『……名無し、私だ』
あなたはびくっと肩を動かして、瞬時に気がつく。
けれど視線をまっすぐに戻し、無視をした。
『聞こえないか? 私だと言っているだろう』
「…………」
凄みのある表情で答えないでいると、彼女のはあ、と疲れたようなため息が聞こえた。
その吐息の残酷さに、あなたはカッとなり口を開く。
「何ですか。私って誰ですか」
『ああ、やっと答えてくれたな。守護者の私だ』
「そんな人知りません。好きなときに声かけてきて、思わせぶりに喋って、また消えるんでしょう!」
まれにみる感情表現は、彼女をも驚かせたようだった。
『どうしたのだ、そんなに怒って。お前を放っておいたのは悪かったが、騎士団の防御が強化されていてな。お前にはわからんだろうが』
「…はぁっ? そのぐらい気づきますけど! 私だって魔力増大したんです、瘴気だって今は浴び放題なんですからねっ」
近況報告をすると、守護者は軽く驚いていた。
『すごいではないか。褒めてやろう。だが、ずいぶん時間がかかったな』
その尊大な言いぶりに、開いた口が塞がらなくなる。
「あのねえ! 私の苦労も知らないで、何様なの!? 全然気にしてなかったくせに! ゼイラン様はお見舞いに来てくれましたよ?
でもあなたは? ほんとうに守護者!?」
興奮して声を荒げるたびに、なんだが溜まっていた気分が発散されて心のボルテージが上がってくる。
その様子を、守護者も奇妙に受け取ったようだ。
『あの男が? それはいいことじゃないか。……だが名無し、お前の様子がなにやらおかしく感じる……魔に染まりすぎたのでは』
その言葉だけは、ドキっとした。
確かに最近精神的に、力や感情が抑えられない時があった。
「……とにかく、もうほっといてください! 加護はゼイラン様に頂くし、もうすぐなんです! 邪魔しないで!」
そうはっきり口にすると、なぜだか胸がわずかに痛んだ。
『そんな冷たいことを言うな……私だって、お前の身を案ずる者だ。けっして悪者ではない』
「な、なによ。そんなの信じられないし。だいたい、名乗りもしないで目的もあいまいにして、こっちはどうすればいいの? せめて名前だけでも教えてよ!」
そう突きつけると、彼女は静かにこう告げた。
『わかった。特別だ、お前には私の真名を教えよう。名は˝ネメニア˝という』
「……えっ? そうなの……? か、可愛い名前ですね」
とっさにそう答えると、彼女の鼻で笑う声が聞こえた。
『お前の無知は本当に尊いものだ。私の名は恐ろしい。いいか、誰にも告げるなよ。この言葉をあるものが使えば、殺せるほどの威力があるのだからな』
「えぇーっ!! 嘘でしょう、そんなこと教えちゃだめですよ!」
『お前だから教えたのだ。その妙な黒魔術師にも言うでないぞ。それと、記憶も読ませるな』
……え?
また変なことを言っていたが、あなたは彼女の迫真的な声のトーンから、その話を信じた。
とにかく守護者が言うには、重大な情報さえ漏らさなければ、あとはあまり気にしないらしい。
「あの、ネメニア様、それで加護のことですけど――」
『名前を言うなと言っただろう! お前は馬鹿なのか!?』
「すみません守護者さまっ! 言いませんから! ……それであのう、やっぱり加護をあなたにお願いするのは無理そうです。もう決まっちゃってるんで」
はっきりとそこだけは譲れない旨を伝えると、また頭の向こうで笑い声がした。
『それはお前が決めるといい。お前は私を選ぶことになるだろうがな。ふふふ……』
「どういうことですか!」
『また接触する。ではな』
「すぐにしてください!」
『わかっている、すぐだ。騎士をよく見ておけ』
そう言ってぷつっと会話は途絶えた。
あなたは久々に脱力する。
騎士……?
なんの関係があるのだろうか。
もう彼女の謎解きに付き合うのは、疲れ果てた。
あなたは食卓の椅子に腰を落とし、顔を突っ伏す。
「騎士さんが何なのよ……まったく接点ないんだけど」
だが話す前と比べて、今のあなたは、もうこうなったら守護者に付き合うしかないような気がしていた。
