巨体の人外に助けられて世話される話
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翌日の昼にあなたは目覚めた。
ゆっくり体を起こし、ぼんやりと上半身裸の彼を見やる。
「ルドガー、……ルドガー」
「……ん……? どうした、トイレか…?」
彼が寝返りを打って、褐色の胸板があらわになった。そうして目をこすり、あなたを映すと、瞳をガッと大きくした。
「名無し、お前……治ったのか……!?」
声を震わせ、ベッドシーツの上に座っているあなたに、勢いよく抱きついて覆いかぶさる。
「んあぁぁっ、まだ完全じゃないみたいっ」
「なんだと!?」
彼の腕の中からもがこうとするが、肘から下と、膝から下はうまく動かせなかった。
でも、だんだんと瞳が潤んでくる。
見つめ合った彼の瞳も、つられるようにじわっとなっていた。
「ルドガー、泣いてるの…?」
「……少しだけな。だってほら、すごいだろう、もう半分回復したんだぞ…!」
「……うん、……うん……っ!!」
半ば一方的にだが、あなた達は紛れもなく強い力で抱きしめ合った。
この2週間、症状はゆっくりと悪化した。
だが昨日の最悪の状態から、たった1日夜が明けただけで、体の中央から四肢の半分まで良くなるとは。
「すごいなぁ、治る時は早いのかな。ねえルドガー」
「絶対そうだ。……ふっ、こうしてお前に服を着せるのももう終わりか。さみしくなるな」
「気が早いってば。そんなにすぐ全快しないでしょ」
軽口を叩き合うが、二人とも喜びを隠せず笑みを浮かべている。
そんな2人でもけっして能天気に過ごしてるわけではなく、頭の中は共通した考えが浮かんでいた。
彼が朝ごはんを用意してくれて、まだゆっくりと食べさせてもらってるとき。
「思ったんだが……まさか俺の、アレか?」
「あ、アレって……なによ?」
「とぼけるなよ。お前も分かっているだろう。昨日はいつもより控えめだったが、量はすごい大量に――」
「わあぁぁっ、食事中だよ、はっきり言わないでっ」
昨夜のことを思い出し、赤面してわめくと、ルドガーは「すまん」と男らしく謝っていた。
「えっ。ちょっと待って。あなたのアレが影響してるかもってことは、魔力が増えてるの?」
「そうだ。回復に繋がるって先生も言ってただろう? それにな……俺は初めてお前から確かな魔力を感じている」
確信的に告げられ、あなたは大きく目を見張らせた。
「本当!?」
「ああ。そこまで多くはないが、今までのゼロからは大違いだ。お前のことを、魔力のある人間として認識できる」
あなたは感動により言葉を失った。
彼にもわかるぐらい、自分の体に変化があったのだと。
「へへ、嬉しいな。私、本当に魔術師になれるかな」
「それはまだまだだな。あいつらの量は異常だ。お前はまだヒヨコレベルだ」
「ええ〜。それも可愛いね」
満足していると、隣に座るルドガーがじっと見てくる。
「どうしてそんなに魔法を使いたいんだ? 俺にも教えろ」
子どものように拗ねた顔で尋ねられたため、あなたはいたずらっぽく「まだ秘密だよ」と答えておいた。
今日は休暇の中で、きりのいい日でもある。数日に1回の、医術師フォロロットゥールによる往診があるのだ。
午後に寮部屋にやって来た医師の前で、あなたはいつもと違い異様にもじもじしていた。
ちなみに彼に体の回復のことを告げると、たいそう喜んでくれた。
「ふむ、本当に素晴らしいね。そろそろかと思ったが、思ったよりも回復の上昇率が高い。それにもっと気になったのは、こうして対面してもわかる、魔力の増大だ。これまではほんの少しずつ上がっていたものが、ここ最近の平均から10倍近く伸びている」
「本当ですか? すごーい」
あなたは純粋に喜び、終始照れていた。
お世話になっている先生に褒められることは、特別に嬉しくもあった。
フォロ医師は昨夜あなたに付き添ってくれた看護師からも話を聞いていたようで、こんなことを言った。
「だが、昨日の時点では前と変わらない量だということだったんだよね。何かあったのかな」
「いやっそれは……」
口ごもったあなたはルドガーに助けを求めた。どうしても自分の口からは言えない。
すると彼は俺に任せろといった顔つきで頷いた。
「先生、実は昨日の夜、10日ぶりに名無しを抱いた。ゆっくりしたから心配はいらない。だがそのせいで、俺の力が名無しに行き渡り、魔力となって蓄えられたのではないかと思ってるんだが」
「……ん? どういうことだ?」
医師はあくまで冷静に、獣の彼の率直な意見に耳を傾けた。
あなたは恥ずかしくてたまらなかったが、フォロ医師は普通に聞いてくれてるし、こんな時だけルドガーのまっすぐさに密かに感謝も生まれた。
「なるほど。君の言っていることは分かるよ。だが医術師としては、私は気のせいではないかと考えるけれどな……」
白い顎髭に触れながら、彼は椅子に深く腰掛ける。
「魔力の循環というのは、たとえば契約関係にある魔術師と使役される対象の間では、ありえる話だ。内容にもよるが、けっして夢物語ではない。……けれど、君たちの間に契約はないだろう? 検査や採血の結果から見ても二人は完全に異種族で、生物学的にも魔術的にも、何も繋がりは見られないんだ」
あなたもその客観的な事実に完全に納得しそうになる。
「とにかく、まず名無しさんの体を診てみよう。もっと詳しく探ってみるからね」
「あっ……先生、あのう。今の話を踏まえて、出来れば何か見てもスルーしてもらえますか? 少し恥ずかしいので」
「えっ? ああ、わかった。そうしようね」
よく分かっていない感じの医師だったが、ひとまずあなたに対してそう約束してくれた。
これまでの真面目な話題よりも、あなたには強く気にしていたことがあった。
ベッドに横になり、いつもどおり服をはだけさせて現れたのは、昨日ルドガーが肌に散らした赤いマークだ。
見ればびっくりするほど、色んなところに目立っている。
本来なら彼の愛情の表れだなと思って嬉しくも思う。
けれど今回はタイミングが悪すぎた。
検査中も必死に羞恥に耐えていたが、フォロはまったく動じずに普通に診察していた。
近くに立って真剣に見守るルドガーも同じだ。
この2人の精神力どうなってるんだろう。
そう思いながら、あなたは視線を別の場所にやってなんとかやり過ごした。
「先生、どうだ? 何か俺由来のものがわかったか?」
「いや……とくに判別できないな。だが、魔力が明らかに増大したのは間違いない。そこでだ。君たちにひとつお願いがある。確認をしたいから、試しに3日間、何もしないでいてもらえるかい?」
若い2人の注目が、逞しい老齢の医師に注がれる。
「――なっ、なんだと? 先生、3日も我慢しろというのか? 俺の休暇はあと3日なのに…!」
「ちょ、ちょっとルドガー、恥ずかしいでしょう。それでフォロ先生、体に変化がないか調べるってことですか?」
医術師は穏やかに頷いた。
「そうだね。その間きちんと回復の度合いと魔力量を測定して見てみよう。大丈夫、君達の頑張りはもうすぐ身を結ぶはずだ。あと少しだよ、二人とも」
医術師からエールを送られ、嬉しさの他にも妙な照れがあったけれど、きっと彼の言う通りだ。
あなたとルドガーの一連の愛と戦いの記録は、終わりに近づいていた。
ゆっくり体を起こし、ぼんやりと上半身裸の彼を見やる。
「ルドガー、……ルドガー」
「……ん……? どうした、トイレか…?」
彼が寝返りを打って、褐色の胸板があらわになった。そうして目をこすり、あなたを映すと、瞳をガッと大きくした。
「名無し、お前……治ったのか……!?」
声を震わせ、ベッドシーツの上に座っているあなたに、勢いよく抱きついて覆いかぶさる。
「んあぁぁっ、まだ完全じゃないみたいっ」
「なんだと!?」
彼の腕の中からもがこうとするが、肘から下と、膝から下はうまく動かせなかった。
でも、だんだんと瞳が潤んでくる。
見つめ合った彼の瞳も、つられるようにじわっとなっていた。
「ルドガー、泣いてるの…?」
「……少しだけな。だってほら、すごいだろう、もう半分回復したんだぞ…!」
「……うん、……うん……っ!!」
半ば一方的にだが、あなた達は紛れもなく強い力で抱きしめ合った。
この2週間、症状はゆっくりと悪化した。
だが昨日の最悪の状態から、たった1日夜が明けただけで、体の中央から四肢の半分まで良くなるとは。
「すごいなぁ、治る時は早いのかな。ねえルドガー」
「絶対そうだ。……ふっ、こうしてお前に服を着せるのももう終わりか。さみしくなるな」
「気が早いってば。そんなにすぐ全快しないでしょ」
軽口を叩き合うが、二人とも喜びを隠せず笑みを浮かべている。
そんな2人でもけっして能天気に過ごしてるわけではなく、頭の中は共通した考えが浮かんでいた。
彼が朝ごはんを用意してくれて、まだゆっくりと食べさせてもらってるとき。
「思ったんだが……まさか俺の、アレか?」
「あ、アレって……なによ?」
「とぼけるなよ。お前も分かっているだろう。昨日はいつもより控えめだったが、量はすごい大量に――」
「わあぁぁっ、食事中だよ、はっきり言わないでっ」
昨夜のことを思い出し、赤面してわめくと、ルドガーは「すまん」と男らしく謝っていた。
「えっ。ちょっと待って。あなたのアレが影響してるかもってことは、魔力が増えてるの?」
「そうだ。回復に繋がるって先生も言ってただろう? それにな……俺は初めてお前から確かな魔力を感じている」
確信的に告げられ、あなたは大きく目を見張らせた。
「本当!?」
「ああ。そこまで多くはないが、今までのゼロからは大違いだ。お前のことを、魔力のある人間として認識できる」
あなたは感動により言葉を失った。
彼にもわかるぐらい、自分の体に変化があったのだと。
「へへ、嬉しいな。私、本当に魔術師になれるかな」
「それはまだまだだな。あいつらの量は異常だ。お前はまだヒヨコレベルだ」
「ええ〜。それも可愛いね」
満足していると、隣に座るルドガーがじっと見てくる。
「どうしてそんなに魔法を使いたいんだ? 俺にも教えろ」
子どものように拗ねた顔で尋ねられたため、あなたはいたずらっぽく「まだ秘密だよ」と答えておいた。
今日は休暇の中で、きりのいい日でもある。数日に1回の、医術師フォロロットゥールによる往診があるのだ。
午後に寮部屋にやって来た医師の前で、あなたはいつもと違い異様にもじもじしていた。
ちなみに彼に体の回復のことを告げると、たいそう喜んでくれた。
「ふむ、本当に素晴らしいね。そろそろかと思ったが、思ったよりも回復の上昇率が高い。それにもっと気になったのは、こうして対面してもわかる、魔力の増大だ。これまではほんの少しずつ上がっていたものが、ここ最近の平均から10倍近く伸びている」
「本当ですか? すごーい」
あなたは純粋に喜び、終始照れていた。
お世話になっている先生に褒められることは、特別に嬉しくもあった。
フォロ医師は昨夜あなたに付き添ってくれた看護師からも話を聞いていたようで、こんなことを言った。
「だが、昨日の時点では前と変わらない量だということだったんだよね。何かあったのかな」
「いやっそれは……」
口ごもったあなたはルドガーに助けを求めた。どうしても自分の口からは言えない。
すると彼は俺に任せろといった顔つきで頷いた。
「先生、実は昨日の夜、10日ぶりに名無しを抱いた。ゆっくりしたから心配はいらない。だがそのせいで、俺の力が名無しに行き渡り、魔力となって蓄えられたのではないかと思ってるんだが」
「……ん? どういうことだ?」
医師はあくまで冷静に、獣の彼の率直な意見に耳を傾けた。
あなたは恥ずかしくてたまらなかったが、フォロ医師は普通に聞いてくれてるし、こんな時だけルドガーのまっすぐさに密かに感謝も生まれた。
「なるほど。君の言っていることは分かるよ。だが医術師としては、私は気のせいではないかと考えるけれどな……」
白い顎髭に触れながら、彼は椅子に深く腰掛ける。
「魔力の循環というのは、たとえば契約関係にある魔術師と使役される対象の間では、ありえる話だ。内容にもよるが、けっして夢物語ではない。……けれど、君たちの間に契約はないだろう? 検査や採血の結果から見ても二人は完全に異種族で、生物学的にも魔術的にも、何も繋がりは見られないんだ」
あなたもその客観的な事実に完全に納得しそうになる。
「とにかく、まず名無しさんの体を診てみよう。もっと詳しく探ってみるからね」
「あっ……先生、あのう。今の話を踏まえて、出来れば何か見てもスルーしてもらえますか? 少し恥ずかしいので」
「えっ? ああ、わかった。そうしようね」
よく分かっていない感じの医師だったが、ひとまずあなたに対してそう約束してくれた。
これまでの真面目な話題よりも、あなたには強く気にしていたことがあった。
ベッドに横になり、いつもどおり服をはだけさせて現れたのは、昨日ルドガーが肌に散らした赤いマークだ。
見ればびっくりするほど、色んなところに目立っている。
本来なら彼の愛情の表れだなと思って嬉しくも思う。
けれど今回はタイミングが悪すぎた。
検査中も必死に羞恥に耐えていたが、フォロはまったく動じずに普通に診察していた。
近くに立って真剣に見守るルドガーも同じだ。
この2人の精神力どうなってるんだろう。
そう思いながら、あなたは視線を別の場所にやってなんとかやり過ごした。
「先生、どうだ? 何か俺由来のものがわかったか?」
「いや……とくに判別できないな。だが、魔力が明らかに増大したのは間違いない。そこでだ。君たちにひとつお願いがある。確認をしたいから、試しに3日間、何もしないでいてもらえるかい?」
若い2人の注目が、逞しい老齢の医師に注がれる。
「――なっ、なんだと? 先生、3日も我慢しろというのか? 俺の休暇はあと3日なのに…!」
「ちょ、ちょっとルドガー、恥ずかしいでしょう。それでフォロ先生、体に変化がないか調べるってことですか?」
医術師は穏やかに頷いた。
「そうだね。その間きちんと回復の度合いと魔力量を測定して見てみよう。大丈夫、君達の頑張りはもうすぐ身を結ぶはずだ。あと少しだよ、二人とも」
医術師からエールを送られ、嬉しさの他にも妙な照れがあったけれど、きっと彼の言う通りだ。
あなたとルドガーの一連の愛と戦いの記録は、終わりに近づいていた。
