巨体の人外に助けられて世話される話
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翌日になると、さっそくルドガーは軍と騎士団に休暇届を提出した。
あなたの診断書を添えて、きちんと緊急の理由も明記している。
体調はといえば、今のところゆっくり移動も出来るし、フォロ医師からもらった薬を飲んだら、だるさは消えたのだ。
筋力が弱いのは厄介だけれど、あなたはルドガーの知らせをドキドキしながら待っていた。
「――名無し、届けが受理されて、特別休暇が取れたぞ!!」
「うそっ! やったー!!」
昼頃帰ってきたルドガーは、紙を握りしめて居間のあなたのもとへ駆け込んでくる。
二人は吉報に大喜びし抱き合った。あなたも気持ちだけは飛び跳ねそうだ。
「嬉しいよ〜ありがとうルドガー、職場の皆さんも!」
「ああ、思ったよりスムーズに済んだんだ、見てみろ、団長とゼイラン様のサインもある」
確かに書類の下部には偉い人達の署名も並び、感動もさることながら、びしっと身が引き締まった。
「ねえねえ、本当に任務は大丈夫?」
「大丈夫なんだが、もし重大な討伐命令が下されたら、それには向かわなければいけなくなっている。だから、その時だけはすまない、名無し。誰かの手を借りることになるだろう。ないことを祈るが……」
彼は悔やむ表情で告げた。あなたは当然のことだと慌てて頷き、仕事を優先してほしいと伝えた。
ルドガーはいつも大活躍していて、皆に必要とされてるすごい獣なのだから。
「よし、もうこれで安心だな。俺はすごく嬉しいんだ。お前のそばにずっといられるからな。なんでも言うんだぞ、必要なことは全部やってやる」
そんなすごい彼なのに、家で一緒にいる時は、そう言って瞳を柔らかくする。
二人きりの日々はまだ始まったばかりだけれど、心はじわじわと緩まっていくのを感じた。
彼の胸に隠れてお礼を言い、しばらく素直に甘えていた。
休暇は普通は二週間ほど取れるようだ。
開始から数日間はあなたも手足を動かせたが、だんだんときつくなってきた。
ルドガーはご飯も作ってくれるし、トイレも連れていってくれるし、一緒にお風呂も入って洗ってくれる。
小屋にいたときは、瘴気が深い場所だったからだろうか。
体はもっと脱力が強く、当初は彼との関係も微妙だったため、やってもらうのが当たり前感があった。
しかし今は、だんだん申し訳なくなってくる。
風呂上りに服を着せてもらい、居間のソファに運んでもらうと、あなたは肩を落とした。
「なんかごめん……私、すごいお荷物……」
「どうしてそんなことを言うんだ。こんな可愛い荷物があるか? だったら毎日背負って仕事に行くぞ」
「……ふふふっ、なにそれ!」
シリアスに言ったのに、彼の返しのほうがかわいらしい冗談に聞こえた。
気づけば笑っていて、自分が大きな背中に背負われて出勤する姿を想像する。
……なんだか、ルドガーなら本気でやりそうな気がした。
けれど体は明るい気持ちにお構いなしに、少しずつ動きが鈍くなっていく。
二人きりで過ごして5日が経つと、とうとう自分では立ち上がれなくなっていた。
あの塗り薬の効力を嫌でも全身に感じてくる。
「ううう……なんでぇ……」
自分で決めたことなのに、クリームさえ塗れば元通りになるかもと時々考える。
ルドガーは医師と三人で決めた時以来、薬のことは何も言わない。意志を尊重してくれているのだ。
だからこそ、諦めるわけにはいかなかった。
「今日はお前の好きなオムライスを作ったんだ。俺の苦手なエビ入りだぞ」
「ええっ、ありがとう〜! いい匂い、美味しそう! でもルドガーはなに食べるの?」
「普通の肉入りのを別に作ってある。……だが名無し、俺の料理はお前のに比べておおざっぱな味付けだ。それでいいのか? 食堂でテイクアウトも出来るが」
彼はテーブルに食事を並べてくれて、あなたを椅子に座らせたあと、心配げに真向かいに座る。
「あなたのご飯すごく美味しくて大好きだよ。気持ちもこもってて。でも大変だろうから、テイクアウトできるならそれも嬉しいよ」
「いや大変じゃない。お前がそう言ってくれて俺も嬉しいぞ、もっとやる気が出る」
ゆっくり立ち上がったルドガーは、あなたの隣の席に座った。
そろそろ手の動きもおぼつかなくなっていたため、スプーンを持って口に運んでくれた。
そのときのやたらと優しい眼差しが、こそばゆくなる。
あなたはもそもそと口に入れて、よく噛んで飲み込んだ。
「お前が俺に毎日ご飯を作ってくれるだろう? 普通のメシより、力がみなぎるんだ。お前が作ってくれた愛情深いメシだからな。……だから俺も、お前にもっと元気になってほしくて、俺のメシを作る。効くかは分からないが」
鼻をかいて、照れくさそうに笑う様子を見ていると、あなたは続々と運ばれる口元より、目元を気にしなければならなくなった。
「ティッシュちょうだい、垂れる!」
「えっ? おい、どうして泣くんだ! 悲しいのか!?」
「ううん、嬉しいの!」
ぼろぼろ流れる滴を、忙しなく拭ってもらった。
この人と番になってよかった。
自分は愛されてるんだな。
そんなふうに、シンプルな思いだけがあなたの心と目元を温かく湿らせていた。
十日目になっても、体の調子は変わらず横ばいだ。
正直、悪くなればあとは上がるだけだと楽観視していたため、焦りが出ていた。
それに買い物以外、彼をずっとこの寮部屋に閉じ込めている。
戦うことも体を動かすことも出来ないし、獣でなくとも一人の男性として、申し訳なさがつのった。
「ルドガー、外に出かけていいよ。そうだ、森に行ってきたら? 運動したほうがいいんじゃないかな」
「なぜだ? 太ったか? 家で鍛えてはいるぞ。ほら見てみろ、力こぶだ」
袖をまくり、まったく衰えてない筋肉自慢をしてくる。
そういうことではないのだが。
あなたがたどたどしく撫でて褒めていると、彼は思いついたように部屋のバルコニーの窓を開けた。
「外は寒いからあまり良くないかと思ったが、少し出てみるか。今日はわりと日が照っているな」
それは良い案だと思い、ぱっと顔を上げる。
彼はあなたに分厚い服を着せ、広いバルコニーのチェアに座らせてくれた。
騎士用だから大きく、縦に寝そべられる心地よいスペースだ。
ルドガーは二席をくっつけて、大柄な体躯がはみ出す勢いであなたを抱き寄せ、一緒に寝そべる。
持ってきたブランケットで二人の体を包み、ぬくぬくして嬉しくなった。
「ねえ、これ最高。もっとしようよ」
「そうだな。でもお前が風邪引いたら大変だ」
「大丈夫だよ、あなたがいるからあったかいし」
顔を彼の胸元にこすりつけて、思う存分匂いを吸い込んだ。
濃い紫に変わるきれいな夕暮れよりも、彼の包容感に夢中だった。
「ねえキスして、ルドガー」
「……ん? いいぞ……」
彼の精悍な顔がこっちを向き、唇が近づいてくる。
優しく触れるようなキスを何度かされて、自然と笑顔になる。
けれど彼は、少しせつなげにあなたの頬を撫でたあと、そこにちゅっとキスをしてまた抱きしめた。
実は最近、気になっていることがあった。
ルドガーは毎日抱きしめてくれて、キスもしてくれる。だが不思議なことに、休暇に入ってから、彼はそれ以上求めてこないのだ。
これはどういうことなのだろう。
「ルドガーは……大丈夫なの?」
「何がだ?」
ぴたりと密着しても、上目遣いで見つめても、彼の金の瞳は興奮に色を変えたりしない。
いったい何が起きてるんだろうと思った。
「何でもないけど…」
でもこれ以上わがままは言えず、あなたは黙って彼の胸に耳を置いて、目をつぶっていた。
もしかして、こんな状態だから、そういう気分にもならなくなっちゃったかな。
早く治ればいいのにな。
そんなことを考えながら、しばらくして、部屋に戻ったとき。
どこかで予期していた出来事が、とうとう起きた。
部屋の扉を強く叩く音がする。
ルドガーがすぐに向かった。
すると濃色の制服を着た見知らぬ騎士が立っていた。
「ルドガーさん、任務要請です。出られますか」
「ああ、わかった。すぐに用意する。看護師を派遣してもらえるか?」
「はい、すぐに」
短いやり取りをして、彼は戻って来た。一転して苦渋の瞳だ。
「すまん、任務だ。なるべく早く帰る。看護師が来るが、大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ、ありがとう、ルドガーも気をつけてね!」
あなたが元気よく声をかけると、彼は「心配するな」と柔らかく笑って頭を撫でた。
制服に着替え、素早く出発の準備をし、別れを告げる。
なぜだか、彼が任務に参加するのはいつものことなのに、あんなふうに向かうのは初めて見たからか、心臓がバクバクする。
あなたは彼のことを、いつも以上に無事を祈って送り出した。
あなたの診断書を添えて、きちんと緊急の理由も明記している。
体調はといえば、今のところゆっくり移動も出来るし、フォロ医師からもらった薬を飲んだら、だるさは消えたのだ。
筋力が弱いのは厄介だけれど、あなたはルドガーの知らせをドキドキしながら待っていた。
「――名無し、届けが受理されて、特別休暇が取れたぞ!!」
「うそっ! やったー!!」
昼頃帰ってきたルドガーは、紙を握りしめて居間のあなたのもとへ駆け込んでくる。
二人は吉報に大喜びし抱き合った。あなたも気持ちだけは飛び跳ねそうだ。
「嬉しいよ〜ありがとうルドガー、職場の皆さんも!」
「ああ、思ったよりスムーズに済んだんだ、見てみろ、団長とゼイラン様のサインもある」
確かに書類の下部には偉い人達の署名も並び、感動もさることながら、びしっと身が引き締まった。
「ねえねえ、本当に任務は大丈夫?」
「大丈夫なんだが、もし重大な討伐命令が下されたら、それには向かわなければいけなくなっている。だから、その時だけはすまない、名無し。誰かの手を借りることになるだろう。ないことを祈るが……」
彼は悔やむ表情で告げた。あなたは当然のことだと慌てて頷き、仕事を優先してほしいと伝えた。
ルドガーはいつも大活躍していて、皆に必要とされてるすごい獣なのだから。
「よし、もうこれで安心だな。俺はすごく嬉しいんだ。お前のそばにずっといられるからな。なんでも言うんだぞ、必要なことは全部やってやる」
そんなすごい彼なのに、家で一緒にいる時は、そう言って瞳を柔らかくする。
二人きりの日々はまだ始まったばかりだけれど、心はじわじわと緩まっていくのを感じた。
彼の胸に隠れてお礼を言い、しばらく素直に甘えていた。
休暇は普通は二週間ほど取れるようだ。
開始から数日間はあなたも手足を動かせたが、だんだんときつくなってきた。
ルドガーはご飯も作ってくれるし、トイレも連れていってくれるし、一緒にお風呂も入って洗ってくれる。
小屋にいたときは、瘴気が深い場所だったからだろうか。
体はもっと脱力が強く、当初は彼との関係も微妙だったため、やってもらうのが当たり前感があった。
しかし今は、だんだん申し訳なくなってくる。
風呂上りに服を着せてもらい、居間のソファに運んでもらうと、あなたは肩を落とした。
「なんかごめん……私、すごいお荷物……」
「どうしてそんなことを言うんだ。こんな可愛い荷物があるか? だったら毎日背負って仕事に行くぞ」
「……ふふふっ、なにそれ!」
シリアスに言ったのに、彼の返しのほうがかわいらしい冗談に聞こえた。
気づけば笑っていて、自分が大きな背中に背負われて出勤する姿を想像する。
……なんだか、ルドガーなら本気でやりそうな気がした。
けれど体は明るい気持ちにお構いなしに、少しずつ動きが鈍くなっていく。
二人きりで過ごして5日が経つと、とうとう自分では立ち上がれなくなっていた。
あの塗り薬の効力を嫌でも全身に感じてくる。
「ううう……なんでぇ……」
自分で決めたことなのに、クリームさえ塗れば元通りになるかもと時々考える。
ルドガーは医師と三人で決めた時以来、薬のことは何も言わない。意志を尊重してくれているのだ。
だからこそ、諦めるわけにはいかなかった。
「今日はお前の好きなオムライスを作ったんだ。俺の苦手なエビ入りだぞ」
「ええっ、ありがとう〜! いい匂い、美味しそう! でもルドガーはなに食べるの?」
「普通の肉入りのを別に作ってある。……だが名無し、俺の料理はお前のに比べておおざっぱな味付けだ。それでいいのか? 食堂でテイクアウトも出来るが」
彼はテーブルに食事を並べてくれて、あなたを椅子に座らせたあと、心配げに真向かいに座る。
「あなたのご飯すごく美味しくて大好きだよ。気持ちもこもってて。でも大変だろうから、テイクアウトできるならそれも嬉しいよ」
「いや大変じゃない。お前がそう言ってくれて俺も嬉しいぞ、もっとやる気が出る」
ゆっくり立ち上がったルドガーは、あなたの隣の席に座った。
そろそろ手の動きもおぼつかなくなっていたため、スプーンを持って口に運んでくれた。
そのときのやたらと優しい眼差しが、こそばゆくなる。
あなたはもそもそと口に入れて、よく噛んで飲み込んだ。
「お前が俺に毎日ご飯を作ってくれるだろう? 普通のメシより、力がみなぎるんだ。お前が作ってくれた愛情深いメシだからな。……だから俺も、お前にもっと元気になってほしくて、俺のメシを作る。効くかは分からないが」
鼻をかいて、照れくさそうに笑う様子を見ていると、あなたは続々と運ばれる口元より、目元を気にしなければならなくなった。
「ティッシュちょうだい、垂れる!」
「えっ? おい、どうして泣くんだ! 悲しいのか!?」
「ううん、嬉しいの!」
ぼろぼろ流れる滴を、忙しなく拭ってもらった。
この人と番になってよかった。
自分は愛されてるんだな。
そんなふうに、シンプルな思いだけがあなたの心と目元を温かく湿らせていた。
十日目になっても、体の調子は変わらず横ばいだ。
正直、悪くなればあとは上がるだけだと楽観視していたため、焦りが出ていた。
それに買い物以外、彼をずっとこの寮部屋に閉じ込めている。
戦うことも体を動かすことも出来ないし、獣でなくとも一人の男性として、申し訳なさがつのった。
「ルドガー、外に出かけていいよ。そうだ、森に行ってきたら? 運動したほうがいいんじゃないかな」
「なぜだ? 太ったか? 家で鍛えてはいるぞ。ほら見てみろ、力こぶだ」
袖をまくり、まったく衰えてない筋肉自慢をしてくる。
そういうことではないのだが。
あなたがたどたどしく撫でて褒めていると、彼は思いついたように部屋のバルコニーの窓を開けた。
「外は寒いからあまり良くないかと思ったが、少し出てみるか。今日はわりと日が照っているな」
それは良い案だと思い、ぱっと顔を上げる。
彼はあなたに分厚い服を着せ、広いバルコニーのチェアに座らせてくれた。
騎士用だから大きく、縦に寝そべられる心地よいスペースだ。
ルドガーは二席をくっつけて、大柄な体躯がはみ出す勢いであなたを抱き寄せ、一緒に寝そべる。
持ってきたブランケットで二人の体を包み、ぬくぬくして嬉しくなった。
「ねえ、これ最高。もっとしようよ」
「そうだな。でもお前が風邪引いたら大変だ」
「大丈夫だよ、あなたがいるからあったかいし」
顔を彼の胸元にこすりつけて、思う存分匂いを吸い込んだ。
濃い紫に変わるきれいな夕暮れよりも、彼の包容感に夢中だった。
「ねえキスして、ルドガー」
「……ん? いいぞ……」
彼の精悍な顔がこっちを向き、唇が近づいてくる。
優しく触れるようなキスを何度かされて、自然と笑顔になる。
けれど彼は、少しせつなげにあなたの頬を撫でたあと、そこにちゅっとキスをしてまた抱きしめた。
実は最近、気になっていることがあった。
ルドガーは毎日抱きしめてくれて、キスもしてくれる。だが不思議なことに、休暇に入ってから、彼はそれ以上求めてこないのだ。
これはどういうことなのだろう。
「ルドガーは……大丈夫なの?」
「何がだ?」
ぴたりと密着しても、上目遣いで見つめても、彼の金の瞳は興奮に色を変えたりしない。
いったい何が起きてるんだろうと思った。
「何でもないけど…」
でもこれ以上わがままは言えず、あなたは黙って彼の胸に耳を置いて、目をつぶっていた。
もしかして、こんな状態だから、そういう気分にもならなくなっちゃったかな。
早く治ればいいのにな。
そんなことを考えながら、しばらくして、部屋に戻ったとき。
どこかで予期していた出来事が、とうとう起きた。
部屋の扉を強く叩く音がする。
ルドガーがすぐに向かった。
すると濃色の制服を着た見知らぬ騎士が立っていた。
「ルドガーさん、任務要請です。出られますか」
「ああ、わかった。すぐに用意する。看護師を派遣してもらえるか?」
「はい、すぐに」
短いやり取りをして、彼は戻って来た。一転して苦渋の瞳だ。
「すまん、任務だ。なるべく早く帰る。看護師が来るが、大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ、ありがとう、ルドガーも気をつけてね!」
あなたが元気よく声をかけると、彼は「心配するな」と柔らかく笑って頭を撫でた。
制服に着替え、素早く出発の準備をし、別れを告げる。
なぜだか、彼が任務に参加するのはいつものことなのに、あんなふうに向かうのは初めて見たからか、心臓がバクバクする。
あなたは彼のことを、いつも以上に無事を祈って送り出した。
