巨体の人外に助けられて世話される話
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あのあと、二人は騎士団の本部棟にある食堂へやって来た。
紋章入りの団旗や剣盾が飾られる一方で、高級なテーブルクロスには可憐な花が置かれ、まるで洗練されたレストランだ。
「このおっきなシュークリーム美味しい〜チョコケーキも!」
「名無し、クリームが口に大量についてるぞ。もっと落ち着いて食え」
「はは、ついかき込んじゃった。だってこんなチャンス中々ないんだもん〜」
隣のルドガーに指で拭われながら、あなたはとろける笑顔を向ける。
デートなのに色気のない台詞だったかな、そう浮かんだ反省を吹き飛ばすように、彼も楽しそうに笑っていた。
「お前を見てるだけで俺も嬉しいぞ。そんなに喜んでくれるなら、もっと連れてくればよかったな。悪い」
肩を抱き寄せて囁かれ、あなたはぽっと赤くなる。
食堂ホールは騎士達の熱気に満ち、にぎやかだ。
でもルドガーは二人の時間を大切にし、終始リラックスして甘やかなムードだった。
「いいよ全然。たまにでも嬉しいし。もっと特別感あるでしょう?」
「そうだな。今日は特別なデートだからな。お前の腰がキュッとしたワンピースも似合ってるぞ。可愛いな」
さらっと何を言い出すのかと思い、あなたは耳まで赤面していく。
「どうした? 名無し」
「えっと……ありがとう。ルドガーも黒スーツとシャツ格好いいよ。ボディガードみたい」
そう言うと彼はホールに響く大きさの声で笑った。騎士達の短髪頭が思わず振り返るほどである。
「ひっ。見られちゃった、声大きいよルドガーっ」
「見せておけ。ふふ、お前のボディガードか。その仕事のほうが俺は好きだろうな。…気は休まらないかもしれないが」
そう言って、じっと穏やかな顔立ちで見つめてくる。
どうしちゃったのだろう。最近のルドガーは、小屋に居た時のように柔らかくなった。
その上、仕事モードのストイックさも混ざり、あなたをドキドキさせている。
「でも大丈夫だ。もうすぐ加護を授けられる。そうすればお前と自由にどこでも出かけよう」
「本当っ? でもその加護って、いったいどうやって――」
二人で親密に喋っていると、食堂内が急に静まり返った。また何かしただろうかと焦り見やる。
ルドガーが突然立ち上がり、背筋を伸ばした。
あなたも前方に目を凝らす。
すると騎士達が一斉に起立し、壁に背を向けて手を後ろに組んだ。
開けた道を歩いてくるのは、淡色のジャケットを着た背の高い男だった。
センター分けの銀髪が白肌に映える、彫りの深い美男子だ。耳には銀のピアスをつけ、口元に笑みを浮かべて向かってくる。
「あっ、ゼイラン様〜! お久しぶりです!」
あなたは場の空気も読まず、つい大きく手を振ってしまった。
皆はざわついたが、公爵ゼイランの反応に注目している。
「名無し。公の場だぞ」
「あっごめん、どうしよう」
ルドガーに注意され我に返ると、ゼイランは怒ることなく、二人の席の椅子を引いてどさっと腰を下ろした。
「俺に手を振る女はお前ぐらいだよ」
「申し訳ございません!」
「いい、座れ。――おい、お前達は出ていけ」
従者もつけず、また一人で現れたゼイランは、後ろを振り返り騎士達に命じた。
すると規律の取れた動作で彼らは綺麗にいなくなった。
その挙動を見て、やばいことをしたとあなたは手に汗がにじむ。
「なんだ? 仲良くデートしてたのか。お前たちはほんとにお気楽だな、名無し」
「はいっ」
「そう硬くなるな。お前の天真爛漫な持ち味が台無しだ。さあ好きなものを好きなだけ頼め。俺の奢りだぞ。この間は美味い飯を馳走になったからな」
彼は長い脚を組み、魔族何十人分ぐらいの存在感でにやりと笑った。
だがルドガーは姿勢よく腰掛けているものの、いつも通りである。
「ゼイラン様、ここは誰でも無料で食える」
「そうだったか? ハハハッ、さすが俺の騎士団だな!」
彼のよく通る高笑いが反響した。
なんだか今日は上機嫌で、底知れぬ活力を感じる。これが仕事モードなのか?
透き通った肌の美しい人なのに、黒いオーラは常に纏っているようだけれど。
ゼイランはウェイターにワインを頼み、あなた達二人も頂いた。
「で、どうだ。ここでの暮らしは。うまくいっているか? ルドガー」
「ああ、何も問題はない。俺は名無しと二人暮らしが出来て、毎日幸せだ。魔術師達とも前より上手くやっている」
「ほう、凄いじゃないか。ミザロにも聞いたんだが、名無し。魔術の勉強をしているんだって?」
あなたは彼のやたらと優しげな顔つきに、こくこくと頷いた。
「そうなんです。ミザロ師匠はこんな初心者の私に丁寧に教えてくださって。ほんとに何から何まで、皆さんに感謝です。もちろんゼイラン様にも!」
「そうかそうか。俺もな、お前の頑張りを受けて、そろそろ加護を授けてやってもいいんじゃないかと考えている」
ドキッと鼓動が跳ねる。
そのために現れたのだと二人は感じていた。
「だがなぁ。俺の加護は強力で、魔界にいればほとんどの魔族がひれ伏すような代物だ。お前がそれにふさわしいか見極めなくてはな」
そんなに凄いものなのかと、何も知らなかったあなたは恐れおののいた。
責任も大きそうだし、何かテストでもあるのだろうか。
「素晴らしそうですね。認めてもらえるように頑張りたいです! 何をすればいいんでしょうか? あと、一応聞きますけど、これって奴隷契約とかじゃないですよね?」
街で間違えられた経験から、あなたは咄嗟に尋ねてしまった。
ルドガーでさえも、その質問に焦って振り向くほどだ。
にこやかだったゼイランが、すっと瞳を細めて見据えてくる。背筋が凍る思いがした。
「いいかよく聞け。俺は自分のペットに、奴隷と婚姻はさせない」
「……あっはい……そうですよね、もちろん」
震える声で相槌を打つと、彼はまた食えない笑みを浮かべた。
ゼイランの意志の強い銀の瞳と同じく、はっきり鮮明な言葉を、あなたは重く受け取った。
「名無し、心配するな。加護は契約ではない。お前を守護するためのものだ」
「……そうなの? ルドガーには加護はないの?」
「ないぞ。俺はゼイラン様と主従の契約を結んでいる。彼に仕え、使役される獣なんだ」
その違いを段々と理解してきた。
ルドガーは単体でも強いが、契約によりゼイランの力の影響を受け、強化もされる。
彼らはある意味相互的な関係だが、あなたはただ加護の力を得るだけのようだ。
もっとも説明された通り、魔界ではまず不自由なく暮らせるほどの効力を持つらしいけれど。
「そこまでしてもらって、いいんですかね……私、無力ですし」
「ふふっ、だからこそだ。お前のようにか弱い人間は、この世界に放り出されたら速攻であの世行きだぞ。だから俺はお前らのために、守ってやろうと言ってるんだ」
ゼイランは椅子にふんぞり返り、自信満々の表情で述べた。
ペットのため、だけでなくあなたも含めた呼び方をされて、じわっと瞳が緩む。
「ゼイラン様…! ありがとうございます! 一生ついていきます、きっと!」
「きっとってなんだお前、舐めてるのか? 調子のいい女だな。ふっ、まあいい。そのぐらいの精神でなければ、俺の力は重すぎて潰れてしまうだろうよ」
髪を色っぽくかきあげ、彼はグラスを飲み干して立ち上がる。
「とにかく、時期が決まったら教える。それまで番を守っておけよ、ルドガー」
「わかった。あなたに感謝する、ゼイラン様」
二人で深々とお辞儀をし、主人を見送った。
考えたら結構失礼な振る舞いをしてしまったのだが、小屋で昼寝をした仲だしと、高貴な人なのに、すでに他人に思えないでいた。
ゼイランが去ったあとも、しばらく二人で食堂にいた。
騎士達は戻ってこず、貸し切りみたいな状態だ。
「すごいことになっちゃったね、ルドガー。私、ちゃんと加護もらえるのかな」
「お前ならきっと大丈夫だ。彼があんなふうに言ってくれるのは珍しいことなんだぞ。加護を授けたのだって、これまで数人しかいないはずだ」
「えっそうなの? じゃあ本当に名誉なことなんだね。でも、全部ルドガーのおかげだよ。すごく愛されてるんだもんね」
高さの違う肩を肩で小突くようにすると、ルドガーは若干困惑した顔つきになる。
「愛……? そんなのは分からない。あの方が俺に愛情など持っているのかどうか」
「持ってるでしょう、あなたを愛してる私がそう感じるんだから、絶対だよ!」
太鼓判を押すと、ルドガーは照れくさそうにしていた。
あなたにとって理由はそれだけでなく、ゼイランの言動を見れば明らかだ。
「ねえねえ。どうしてルドガーは彼と契約をしたの? 拾われたときに自動的に? まだ小さかったんだよね」
「そうだ。だが、俺は彼に拾われたんじゃない。違う場所にしばらくいたんだ」
初めて聞く話にあなたは驚く。
ルドガーは重苦しい表情で明かした。
森で生後間もない彼を拾ったのは別の人物で、当初はアジトのような複合施設に入っていたらしい。
「広い草原のある敷地だった。だが俺以外にもたくさん獣がいて、俺達は毎日戦闘訓練をさせられた」
「……えっ……」
元々戦闘種族ではあったが、親の顔も知らず見知らぬ魔術師たちにしごかれ、闘いの作法を身につけたのだという。
まだ幼いルドガーが必死に訓練する姿を想像し、あなたは瞳をうるませ胸が苦しくなった。
「そんなことがあったの……かわいそうだよぅ……」
「泣くな、名無し。大昔の話だ」
彼は今は強く逞しい男となって、あなたの肩を支えている。
「ふっ……だから俺はきっと魔術師が嫌いなんだろうな。ゼイラン様がある日救い出してくれた時には、ものすごく感謝をしたんだ。彼は俺を家に持ち帰って、初めて自由に過ごさせてくれた」
遠い目をしていたルドガーの瞳が、だんだんと希望に染まり明るくなっていく。
「自分の好きに動くのが戦いの喜びだと教えてくれた。彼は戦闘では強く恐ろしい方だが、普段は厳しくないし優しいんだ。だから俺は、おのずと強くなろうと思えた」
獣の自分に強制しなかった主のために。
契約という強力な力があるのに、ルドガーが窮屈さを感じたことがなかったのは、ゼイランなりの愛情深い育て方だったようだ。
「うぅっ……よかった、よかった……。あの人、ほんとに良い人なんだね。ルドガーが幸せになって嬉しいよ」
「はは、ありがとうな、名無し。だが俺をもっともっと幸せにしてくれたのは、お前だ。お前しかいないぞ。それを覚えていてくれ」
ルドガーは優しく笑み、あなたの頬を手で包み込む。そうして唇を重ねた。
あなたは彼の胸に触れ、温かい心で受け取る。
そんな風に生きてきたルドガーのことを、今度は自分が、自分なりの方法で守りたいという気持ちが募っていった。
紋章入りの団旗や剣盾が飾られる一方で、高級なテーブルクロスには可憐な花が置かれ、まるで洗練されたレストランだ。
「このおっきなシュークリーム美味しい〜チョコケーキも!」
「名無し、クリームが口に大量についてるぞ。もっと落ち着いて食え」
「はは、ついかき込んじゃった。だってこんなチャンス中々ないんだもん〜」
隣のルドガーに指で拭われながら、あなたはとろける笑顔を向ける。
デートなのに色気のない台詞だったかな、そう浮かんだ反省を吹き飛ばすように、彼も楽しそうに笑っていた。
「お前を見てるだけで俺も嬉しいぞ。そんなに喜んでくれるなら、もっと連れてくればよかったな。悪い」
肩を抱き寄せて囁かれ、あなたはぽっと赤くなる。
食堂ホールは騎士達の熱気に満ち、にぎやかだ。
でもルドガーは二人の時間を大切にし、終始リラックスして甘やかなムードだった。
「いいよ全然。たまにでも嬉しいし。もっと特別感あるでしょう?」
「そうだな。今日は特別なデートだからな。お前の腰がキュッとしたワンピースも似合ってるぞ。可愛いな」
さらっと何を言い出すのかと思い、あなたは耳まで赤面していく。
「どうした? 名無し」
「えっと……ありがとう。ルドガーも黒スーツとシャツ格好いいよ。ボディガードみたい」
そう言うと彼はホールに響く大きさの声で笑った。騎士達の短髪頭が思わず振り返るほどである。
「ひっ。見られちゃった、声大きいよルドガーっ」
「見せておけ。ふふ、お前のボディガードか。その仕事のほうが俺は好きだろうな。…気は休まらないかもしれないが」
そう言って、じっと穏やかな顔立ちで見つめてくる。
どうしちゃったのだろう。最近のルドガーは、小屋に居た時のように柔らかくなった。
その上、仕事モードのストイックさも混ざり、あなたをドキドキさせている。
「でも大丈夫だ。もうすぐ加護を授けられる。そうすればお前と自由にどこでも出かけよう」
「本当っ? でもその加護って、いったいどうやって――」
二人で親密に喋っていると、食堂内が急に静まり返った。また何かしただろうかと焦り見やる。
ルドガーが突然立ち上がり、背筋を伸ばした。
あなたも前方に目を凝らす。
すると騎士達が一斉に起立し、壁に背を向けて手を後ろに組んだ。
開けた道を歩いてくるのは、淡色のジャケットを着た背の高い男だった。
センター分けの銀髪が白肌に映える、彫りの深い美男子だ。耳には銀のピアスをつけ、口元に笑みを浮かべて向かってくる。
「あっ、ゼイラン様〜! お久しぶりです!」
あなたは場の空気も読まず、つい大きく手を振ってしまった。
皆はざわついたが、公爵ゼイランの反応に注目している。
「名無し。公の場だぞ」
「あっごめん、どうしよう」
ルドガーに注意され我に返ると、ゼイランは怒ることなく、二人の席の椅子を引いてどさっと腰を下ろした。
「俺に手を振る女はお前ぐらいだよ」
「申し訳ございません!」
「いい、座れ。――おい、お前達は出ていけ」
従者もつけず、また一人で現れたゼイランは、後ろを振り返り騎士達に命じた。
すると規律の取れた動作で彼らは綺麗にいなくなった。
その挙動を見て、やばいことをしたとあなたは手に汗がにじむ。
「なんだ? 仲良くデートしてたのか。お前たちはほんとにお気楽だな、名無し」
「はいっ」
「そう硬くなるな。お前の天真爛漫な持ち味が台無しだ。さあ好きなものを好きなだけ頼め。俺の奢りだぞ。この間は美味い飯を馳走になったからな」
彼は長い脚を組み、魔族何十人分ぐらいの存在感でにやりと笑った。
だがルドガーは姿勢よく腰掛けているものの、いつも通りである。
「ゼイラン様、ここは誰でも無料で食える」
「そうだったか? ハハハッ、さすが俺の騎士団だな!」
彼のよく通る高笑いが反響した。
なんだか今日は上機嫌で、底知れぬ活力を感じる。これが仕事モードなのか?
透き通った肌の美しい人なのに、黒いオーラは常に纏っているようだけれど。
ゼイランはウェイターにワインを頼み、あなた達二人も頂いた。
「で、どうだ。ここでの暮らしは。うまくいっているか? ルドガー」
「ああ、何も問題はない。俺は名無しと二人暮らしが出来て、毎日幸せだ。魔術師達とも前より上手くやっている」
「ほう、凄いじゃないか。ミザロにも聞いたんだが、名無し。魔術の勉強をしているんだって?」
あなたは彼のやたらと優しげな顔つきに、こくこくと頷いた。
「そうなんです。ミザロ師匠はこんな初心者の私に丁寧に教えてくださって。ほんとに何から何まで、皆さんに感謝です。もちろんゼイラン様にも!」
「そうかそうか。俺もな、お前の頑張りを受けて、そろそろ加護を授けてやってもいいんじゃないかと考えている」
ドキッと鼓動が跳ねる。
そのために現れたのだと二人は感じていた。
「だがなぁ。俺の加護は強力で、魔界にいればほとんどの魔族がひれ伏すような代物だ。お前がそれにふさわしいか見極めなくてはな」
そんなに凄いものなのかと、何も知らなかったあなたは恐れおののいた。
責任も大きそうだし、何かテストでもあるのだろうか。
「素晴らしそうですね。認めてもらえるように頑張りたいです! 何をすればいいんでしょうか? あと、一応聞きますけど、これって奴隷契約とかじゃないですよね?」
街で間違えられた経験から、あなたは咄嗟に尋ねてしまった。
ルドガーでさえも、その質問に焦って振り向くほどだ。
にこやかだったゼイランが、すっと瞳を細めて見据えてくる。背筋が凍る思いがした。
「いいかよく聞け。俺は自分のペットに、奴隷と婚姻はさせない」
「……あっはい……そうですよね、もちろん」
震える声で相槌を打つと、彼はまた食えない笑みを浮かべた。
ゼイランの意志の強い銀の瞳と同じく、はっきり鮮明な言葉を、あなたは重く受け取った。
「名無し、心配するな。加護は契約ではない。お前を守護するためのものだ」
「……そうなの? ルドガーには加護はないの?」
「ないぞ。俺はゼイラン様と主従の契約を結んでいる。彼に仕え、使役される獣なんだ」
その違いを段々と理解してきた。
ルドガーは単体でも強いが、契約によりゼイランの力の影響を受け、強化もされる。
彼らはある意味相互的な関係だが、あなたはただ加護の力を得るだけのようだ。
もっとも説明された通り、魔界ではまず不自由なく暮らせるほどの効力を持つらしいけれど。
「そこまでしてもらって、いいんですかね……私、無力ですし」
「ふふっ、だからこそだ。お前のようにか弱い人間は、この世界に放り出されたら速攻であの世行きだぞ。だから俺はお前らのために、守ってやろうと言ってるんだ」
ゼイランは椅子にふんぞり返り、自信満々の表情で述べた。
ペットのため、だけでなくあなたも含めた呼び方をされて、じわっと瞳が緩む。
「ゼイラン様…! ありがとうございます! 一生ついていきます、きっと!」
「きっとってなんだお前、舐めてるのか? 調子のいい女だな。ふっ、まあいい。そのぐらいの精神でなければ、俺の力は重すぎて潰れてしまうだろうよ」
髪を色っぽくかきあげ、彼はグラスを飲み干して立ち上がる。
「とにかく、時期が決まったら教える。それまで番を守っておけよ、ルドガー」
「わかった。あなたに感謝する、ゼイラン様」
二人で深々とお辞儀をし、主人を見送った。
考えたら結構失礼な振る舞いをしてしまったのだが、小屋で昼寝をした仲だしと、高貴な人なのに、すでに他人に思えないでいた。
ゼイランが去ったあとも、しばらく二人で食堂にいた。
騎士達は戻ってこず、貸し切りみたいな状態だ。
「すごいことになっちゃったね、ルドガー。私、ちゃんと加護もらえるのかな」
「お前ならきっと大丈夫だ。彼があんなふうに言ってくれるのは珍しいことなんだぞ。加護を授けたのだって、これまで数人しかいないはずだ」
「えっそうなの? じゃあ本当に名誉なことなんだね。でも、全部ルドガーのおかげだよ。すごく愛されてるんだもんね」
高さの違う肩を肩で小突くようにすると、ルドガーは若干困惑した顔つきになる。
「愛……? そんなのは分からない。あの方が俺に愛情など持っているのかどうか」
「持ってるでしょう、あなたを愛してる私がそう感じるんだから、絶対だよ!」
太鼓判を押すと、ルドガーは照れくさそうにしていた。
あなたにとって理由はそれだけでなく、ゼイランの言動を見れば明らかだ。
「ねえねえ。どうしてルドガーは彼と契約をしたの? 拾われたときに自動的に? まだ小さかったんだよね」
「そうだ。だが、俺は彼に拾われたんじゃない。違う場所にしばらくいたんだ」
初めて聞く話にあなたは驚く。
ルドガーは重苦しい表情で明かした。
森で生後間もない彼を拾ったのは別の人物で、当初はアジトのような複合施設に入っていたらしい。
「広い草原のある敷地だった。だが俺以外にもたくさん獣がいて、俺達は毎日戦闘訓練をさせられた」
「……えっ……」
元々戦闘種族ではあったが、親の顔も知らず見知らぬ魔術師たちにしごかれ、闘いの作法を身につけたのだという。
まだ幼いルドガーが必死に訓練する姿を想像し、あなたは瞳をうるませ胸が苦しくなった。
「そんなことがあったの……かわいそうだよぅ……」
「泣くな、名無し。大昔の話だ」
彼は今は強く逞しい男となって、あなたの肩を支えている。
「ふっ……だから俺はきっと魔術師が嫌いなんだろうな。ゼイラン様がある日救い出してくれた時には、ものすごく感謝をしたんだ。彼は俺を家に持ち帰って、初めて自由に過ごさせてくれた」
遠い目をしていたルドガーの瞳が、だんだんと希望に染まり明るくなっていく。
「自分の好きに動くのが戦いの喜びだと教えてくれた。彼は戦闘では強く恐ろしい方だが、普段は厳しくないし優しいんだ。だから俺は、おのずと強くなろうと思えた」
獣の自分に強制しなかった主のために。
契約という強力な力があるのに、ルドガーが窮屈さを感じたことがなかったのは、ゼイランなりの愛情深い育て方だったようだ。
「うぅっ……よかった、よかった……。あの人、ほんとに良い人なんだね。ルドガーが幸せになって嬉しいよ」
「はは、ありがとうな、名無し。だが俺をもっともっと幸せにしてくれたのは、お前だ。お前しかいないぞ。それを覚えていてくれ」
ルドガーは優しく笑み、あなたの頬を手で包み込む。そうして唇を重ねた。
あなたは彼の胸に触れ、温かい心で受け取る。
そんな風に生きてきたルドガーのことを、今度は自分が、自分なりの方法で守りたいという気持ちが募っていった。
