巨体の人外に助けられて世話される話
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「あ、この間はお世話になりました! あの…ミザロさんの、雰囲気が少し変わったような気がして……すぐに分からなかったのかもしれません、ははは」
頭に手をやって謝ると、彼はじっとりとした薄笑みで佇んでいる。
顔立ちは綺麗だが、なんだか怖い。
それに、フードから覗く髪の毛が真っ白だ。この間は黒く見えたが。
「この髪の毛、本当は黒いんです。でも先日の任務で――ルドガーと一緒だったんですが、私が敵に呪いをかけていたら、彼が突進して割り込んできましてね。それで敵に呪詛返しを食らい、この瞳も髪も、色が抜けてしまったんですよ」
「……えっ!? ほ、本当なんですかそれ。やばいじゃないですか」
強烈な話に慄くと、彼は「ご心配なく。魔力が溜まれば元通りになるので」と目を細めた。
何気にルドガーへの不満を漏らされた気もするが、あなたは気まずく思いつつも、せっかくなので彼を広場のベンチに誘った。
お互い時間がありそうに思えたのだ。
ミザロはふと素になった顔つきで「喜んで」とほほ笑んだ。
「ルドガーのこと、すみませんでした。彼ってちょっと猪突猛進なところがあるのかも。普段はとても優しい人なんですけど」
「そうですか。彼がここに来てもう三年になりますが、優しい顔は見たことがありませんね。とくに私に対しては」
丁寧に告げられ、あなたは申し訳なさがつのる。
ルドガーの過去は知らないけれど、今は自分も彼のそばに属しているという自覚があった。
するといつの間にか、ミザロの透き通った瞳が隣から見つめていた。
「名無しさん。あなたはこの騎士団において、稀にみる常識人のようです」
「え。そんなことは。普通ですよ」
「謙遜しないでください。人間とはいえ、魔力もまあまああるようですし」
その何気ない一言に、あなたは驚き前のめりになった。
「魔力? 私に? 本当ですか!?」
「すごい食いつきようですね。本当ですよ。私はその道のプロですから」
「じゃ、じゃあ、私もいつか転移魔法使えるようになりますかね」
至近距離で問うと、彼は表情を変えず、首をひねった。
「それは……難しいでしょう。転移魔法は簡単に見えますが、上位魔法の一種ですよ。あなたが出来るのはせいぜい暖炉に小さな火を灯すぐらいです」
「ええ……なんだ……期待したのに」
しょんぼり肩を落とすと、ミザロは興味がわいたように理由を尋ねてきた。
あなたは照れくさそうに、誰にも言ってなかった思いを明かす。
「ミザロさんの前で言うのも失礼かもしれないんですけど、ルドガーは魔術師が苦手らしくて。私が転移魔法を覚えれば、どこでも送ってあげられますよね?」
「ふふふ……なるほど。彼を大事に思っているのですね。そんな可愛らしい願いをお持ちだとは……」
褒められてこそばゆくなっていると、黒ローブの魔術師はある提案をした。
「魔術を教えてさしあげましょうか」
「……えっ。本当ですか?」
「ええ。でもルドガーには内緒ですよ。びっくりさせてあげましょう」
「内緒……それはちょっと。彼、焼きもち妬きなんです。あとで面倒なことになりますよ」
現実的に教えるが、ミザロは口元を不気味に笑ませたまま、そのトラブルさえも楽しんでいるような表情である。
「では心に留めておいてください。大事なのはあなたのやる気ですから。私はいつでもお待ちしています。ああ、もうひとつ聞きたかったことが」
ミザロがベンチから立ち上がり、あなたは見上げる。
だが彼が次の台詞を口にしたとき、心臓がざわついた。
「あなたにその魔力を与えたのは――」
スッと冷たい顔に囚われ、動けないでいると。
遠くから大きな音が轟いてきた。
「名無し!」
ルドガーの太く雄々しい声だ。
呼ばれて振り向くと、彼は怒りの形相で走り近づいてくる。
「おや。もう来たんですか。こんにちは、ルドガー。この間の任務ぶりですね」
「お前、何を話していた。名無しを解放しろ」
「……ふう。相変わらず話の通じない方だ。私達はただ、知り合った機会にお話をしていただけですよ。ねえ名無しさん」
「あ、はい」
ルドガーの登場は嬉しかったが、さっきの台詞の違和感が消えない。
魔力を与えた――?
どういう意味なのだろう。自分という存在は一体。
「おい、大丈夫か? ぼうっとしているぞ。こいつに何か術でもかけられたか」
「ううん、かけられてないよ、たぶん」
ルドガーは人前でも構わずあなたを抱きしめ、頭に鼻を近づけて匂いを確かめている。
そんな様子をミザロにじっと見られていたが、彼はにこりと隈のある瞳で笑んだ。
「では私はこれで。名無しさん、また」
「あっはい。また…」
会釈をして、ゆっくりとルドガーに向き直る。
あなたは少し心もとない眼差しで、いつもと同じように彼に身を預けていた。
「匂い、ついたの? またそんなにクンクンして」
「いいや……無臭だ。だからあいつはきな臭いんだ」
舌打ちをしたルドガーの腕の力が強まる。
匂いも残さず、気配もほとんどないとは。
おそらくとても強い、不可思議な魔術師である。
「まあ大丈夫だよ。いい人だと思うし、たぶん……」
「良い奴ではないぞ。あの魔術師はゼイラン様の犬だ」
吐き捨てるように言ったあと、彼は一瞬複雑な表情になった。
それを見逃さなかったあなたは、大きな背中をさするように撫でる。
「そうなの? じゃあ味方だよね」
自然に言葉が出ると、ルドガーははっとなってあなたを見つめる。
曇っていた瞳が、少しだけ落ち着きを取り戻し、澄んでいくようだった。
「……ああ、そうだな。味方だ……」
頭上から軽い息が届き、あなたも呼応して頷く。
ルドガーには主人に対しての忠誠心と誇りがある。
それはもう十分に感じてきたことだ。
だからこの、魔術師や騎士がいて本来居心地の悪そうな騎士団にも、大人しく滞在しているのだろう。
ゼイランはそんな彼に対し、家族のような愛情を持っているように見えた。
だから自分のことも、もしかしたらまだ怪しんでいるのかもしれない。
少しドキドキしていたが、自分の過去については、あなたが教えてほしいぐらいだった。
それにここにいれば、いつか何か分かるかも。
そんなふうに少しだけ楽観的に、考えることにした。
頭に手をやって謝ると、彼はじっとりとした薄笑みで佇んでいる。
顔立ちは綺麗だが、なんだか怖い。
それに、フードから覗く髪の毛が真っ白だ。この間は黒く見えたが。
「この髪の毛、本当は黒いんです。でも先日の任務で――ルドガーと一緒だったんですが、私が敵に呪いをかけていたら、彼が突進して割り込んできましてね。それで敵に呪詛返しを食らい、この瞳も髪も、色が抜けてしまったんですよ」
「……えっ!? ほ、本当なんですかそれ。やばいじゃないですか」
強烈な話に慄くと、彼は「ご心配なく。魔力が溜まれば元通りになるので」と目を細めた。
何気にルドガーへの不満を漏らされた気もするが、あなたは気まずく思いつつも、せっかくなので彼を広場のベンチに誘った。
お互い時間がありそうに思えたのだ。
ミザロはふと素になった顔つきで「喜んで」とほほ笑んだ。
「ルドガーのこと、すみませんでした。彼ってちょっと猪突猛進なところがあるのかも。普段はとても優しい人なんですけど」
「そうですか。彼がここに来てもう三年になりますが、優しい顔は見たことがありませんね。とくに私に対しては」
丁寧に告げられ、あなたは申し訳なさがつのる。
ルドガーの過去は知らないけれど、今は自分も彼のそばに属しているという自覚があった。
するといつの間にか、ミザロの透き通った瞳が隣から見つめていた。
「名無しさん。あなたはこの騎士団において、稀にみる常識人のようです」
「え。そんなことは。普通ですよ」
「謙遜しないでください。人間とはいえ、魔力もまあまああるようですし」
その何気ない一言に、あなたは驚き前のめりになった。
「魔力? 私に? 本当ですか!?」
「すごい食いつきようですね。本当ですよ。私はその道のプロですから」
「じゃ、じゃあ、私もいつか転移魔法使えるようになりますかね」
至近距離で問うと、彼は表情を変えず、首をひねった。
「それは……難しいでしょう。転移魔法は簡単に見えますが、上位魔法の一種ですよ。あなたが出来るのはせいぜい暖炉に小さな火を灯すぐらいです」
「ええ……なんだ……期待したのに」
しょんぼり肩を落とすと、ミザロは興味がわいたように理由を尋ねてきた。
あなたは照れくさそうに、誰にも言ってなかった思いを明かす。
「ミザロさんの前で言うのも失礼かもしれないんですけど、ルドガーは魔術師が苦手らしくて。私が転移魔法を覚えれば、どこでも送ってあげられますよね?」
「ふふふ……なるほど。彼を大事に思っているのですね。そんな可愛らしい願いをお持ちだとは……」
褒められてこそばゆくなっていると、黒ローブの魔術師はある提案をした。
「魔術を教えてさしあげましょうか」
「……えっ。本当ですか?」
「ええ。でもルドガーには内緒ですよ。びっくりさせてあげましょう」
「内緒……それはちょっと。彼、焼きもち妬きなんです。あとで面倒なことになりますよ」
現実的に教えるが、ミザロは口元を不気味に笑ませたまま、そのトラブルさえも楽しんでいるような表情である。
「では心に留めておいてください。大事なのはあなたのやる気ですから。私はいつでもお待ちしています。ああ、もうひとつ聞きたかったことが」
ミザロがベンチから立ち上がり、あなたは見上げる。
だが彼が次の台詞を口にしたとき、心臓がざわついた。
「あなたにその魔力を与えたのは――」
スッと冷たい顔に囚われ、動けないでいると。
遠くから大きな音が轟いてきた。
「名無し!」
ルドガーの太く雄々しい声だ。
呼ばれて振り向くと、彼は怒りの形相で走り近づいてくる。
「おや。もう来たんですか。こんにちは、ルドガー。この間の任務ぶりですね」
「お前、何を話していた。名無しを解放しろ」
「……ふう。相変わらず話の通じない方だ。私達はただ、知り合った機会にお話をしていただけですよ。ねえ名無しさん」
「あ、はい」
ルドガーの登場は嬉しかったが、さっきの台詞の違和感が消えない。
魔力を与えた――?
どういう意味なのだろう。自分という存在は一体。
「おい、大丈夫か? ぼうっとしているぞ。こいつに何か術でもかけられたか」
「ううん、かけられてないよ、たぶん」
ルドガーは人前でも構わずあなたを抱きしめ、頭に鼻を近づけて匂いを確かめている。
そんな様子をミザロにじっと見られていたが、彼はにこりと隈のある瞳で笑んだ。
「では私はこれで。名無しさん、また」
「あっはい。また…」
会釈をして、ゆっくりとルドガーに向き直る。
あなたは少し心もとない眼差しで、いつもと同じように彼に身を預けていた。
「匂い、ついたの? またそんなにクンクンして」
「いいや……無臭だ。だからあいつはきな臭いんだ」
舌打ちをしたルドガーの腕の力が強まる。
匂いも残さず、気配もほとんどないとは。
おそらくとても強い、不可思議な魔術師である。
「まあ大丈夫だよ。いい人だと思うし、たぶん……」
「良い奴ではないぞ。あの魔術師はゼイラン様の犬だ」
吐き捨てるように言ったあと、彼は一瞬複雑な表情になった。
それを見逃さなかったあなたは、大きな背中をさするように撫でる。
「そうなの? じゃあ味方だよね」
自然に言葉が出ると、ルドガーははっとなってあなたを見つめる。
曇っていた瞳が、少しだけ落ち着きを取り戻し、澄んでいくようだった。
「……ああ、そうだな。味方だ……」
頭上から軽い息が届き、あなたも呼応して頷く。
ルドガーには主人に対しての忠誠心と誇りがある。
それはもう十分に感じてきたことだ。
だからこの、魔術師や騎士がいて本来居心地の悪そうな騎士団にも、大人しく滞在しているのだろう。
ゼイランはそんな彼に対し、家族のような愛情を持っているように見えた。
だから自分のことも、もしかしたらまだ怪しんでいるのかもしれない。
少しドキドキしていたが、自分の過去については、あなたが教えてほしいぐらいだった。
それにここにいれば、いつか何か分かるかも。
そんなふうに少しだけ楽観的に、考えることにした。
