巨体の人外に助けられて世話される話
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街歩きの時とは違い、あなたは今日ルドガーの手にがっちりと繋がれていた。
黒ローブもなく、動きやすいパンツと防寒着で騎士団領内を歩いている。
灰色の要塞のような建造物に囲まれ、近代的ではあるが冷たいイメージだ。
「わあぁ、寒いけど、すごく綺麗なところだね。大きすぎる公園……ううん、もう街みたいだね。お馬さんもいるし」
黒馬に似た脚力のたくましい動物が闊歩する中、きょろきょろと好奇心たっぷりに見回す。
「気に入ったか? もうすぐ俺達の部屋に着くぞ。今日は休みを取っているから、お前の好きなように過ごすといい」
「本当? やったあ」
無邪気に喜ぶ姿は子供のようで、実際に遠くを行き交う大柄な騎士たちと比べれば、あなたはかなり小さい。
女性だし、その姿は目立っていた。
「ルドガー。なんかさっきから、私見られてない? 誰も話しかけてこないけど…」
「ああ、安心しろ。俺が一人でも話しかけられることはない」
彼はあっさりとそう言い、歩みを進める。
そして「注目されるのは仕方がない」と呟いた。
この騎士団は、王都に隣接する都市ルラ・パルセを守る軍事的な要所だ。
二百人ほどの精鋭騎士が所属しており、公爵のゼイランが指揮している。
彼は普段姿を現さないらしいが、あなたの存在は公に認められており、領内に住む許可もあった。
「女なのに、太っ腹だよねえ。私なんかいても、別に気にならない存在ってことなのかな?」
彼とお喋りしながら、意気揚々と建物へ入り、階段を上っていく。
そこはひときわ静かな場所だった。
ルドガーによると、地位が上の者達の住居らしい。
五階建ての四階に着いたら、広い廊下には三つ大きなドアがあった。
そのうちのひとつがあなた達の新しい住まいだ。
「わあ~結構広いね。でも殺風景。何も置いてないじゃない」
「ここには帰って寝るだけだったからな。でもこれからは違う。好きに飾っていいぞ」
部屋に帰るなり、ルドガーはあなたをふわっと腕の中に抱き上げる。
目線が少し上になり、まじまじと金色の瞳を見つめた。
二人きりになると、彼の瞳はすぐに柔らかく変化し、愛情を示してくれる。
「ふふ。じゃあもっと温かみのある部屋になるよ。そうだ、荷物ほどこう!」
もう少しあなたと触れ合いたそうな彼の腕から下り、さっそく届いていた箱を開けていく。
近くのベッド脇の棚には、まず大切な花のガラスケースを飾り、満悦した。
ここは白を基調とした落ち着いた造りで、暖炉も木彫りの家具もなかったが、間取りは前とよく似ていた。
リビングから仕切られた場所に大きすぎる彼用のベッドがあるだけで、小屋を思い出して落ち着く。
「そういえば、もうあの小屋には帰らないんだなぁ。ちょびっとだけ寂しくもなるね」
「そうだな。二人で初めて過ごした場所だからな」
獣なので情緒的な思いは伝わらないと思ったが、彼も感慨深げに頷いてくれて、あなたは嬉しくなる。
「だがここはもっと安全だ。仕事が終わったら、俺は早めに帰ることもできる」
「それ一番嬉しい~」
「ふっ、素直なやつだな。……だが、安全じゃない奴らもいる。気をつけろよ、名無し」
あなたの頭を撫でる彼の顔つきが、一瞬険しくなる。
「……えっ? 怖いこと言わないでよ。誰それ?」
「今は知らなくていい」
そっけなく述べた彼の表情が気になった。
いつもこうして秘密主義になるのだ。
それはあなたを一番に考えているからだと、分かってはいるのだが。
「あの、すみません。隣に引っ越してきたルドガーと名無しです。誰かいますか?」
「おい、そんなことはしなくていい。俺は前からここに住んでいる」
でも自分は初めてだしと、初日に挨拶ぐらいしておきたいあなたは、律義に菓子折りを持って立っていた。
「ここに住んでいるのはさっき言った良くない奴だ。近づくなと教えただろ」
「――それは俺のことかな? 君、そんなふうに思っていたんだ」
突然ドアの向こうから出てきた男性を見て、あなたは目を剥いた。
ゼイランもびっくりなほど、シャツを異常にはだけさせた肌白い、明るい金髪の美男子だった。
タレ目がちの彼は午後の気怠げさを醸しながら笑む。尖った耳をぴくりと揺らし、二人を見つめていた。
「……あっ。お休みのところすみません。ちょっとご挨拶に来ただけなんです。これどうぞ。じゃっ」
「逃げないでくれよ。……ルドガー、こちらが彼女なのかい? 団内で噂になっていたが」
背丈のある筋肉質な男性は、「俺はジュリス。よろしくね」とあなたにウインクした。
対してルドガーは、嫌そうな顔で頷く。
「そうだ。名無しがしようと言うから仕方なくお前に挨拶しただけだ。ではな。俺達にかまうな」
「ふふふっ。そっちから来たくせに、ずいぶんと勝手だな。名無し、この堅物の彼と付き合えるなんて、君はそうとう柔軟な女性に違いない」
フレンドリーに名を呼んだ彼は、上から下まであなたのことを色っぽく眺め、なんだかゾクッとしてきた。
危険人物なのは間違いないのかもしれない。
でもあなたは魔族で騎士の彼が、普通に喋ってくれることに感謝が湧く。
だからこの機会を逃すまいと顔を上向かせた。
「ルドガーって真面目なんですか?」
「そうだよ。戦闘以外は興味を示さない、いい意味で冷たい男だ。こうして長く喋ったのも初めてだしな。……彼のことを知りたいなら、いつでも俺のところにおいで。歓迎しよ――」
そう言いかけたところで、ルドガーが強引にドアを閉めた。
内側から明るい笑い声が聞こえたが、驚いたあなたは彼を見上げる。
「ちょっと、失礼でしょう、まだ喋ってたのに!」
「失礼なのはどっちだ? お前は誰にでも甘い顔をしすぎだ。もっと警戒しろ」
心外なことを言われて憤慨したが、初日から喧嘩してもしょうがないと思い、頬を膨らませながらも彼と一緒に去った。
もうひとつのドアには、違う人が住んでいるが、不在なようだ。
今のジュリスのことを尋ねると、ルドガーは興味なさそうに「第二部隊の隊長だ」と言った。
職務について多くを語らない彼は、自分も部隊に所属していると以前話していた。
あの小屋に来た獣人族の男達との隊である。
それは都市周辺を守る騎士団とは違い、ゼイラン直属の軍らしい。
そのため、なぜ今はここに住んでいるのか、あなたは首を傾げていた。
その日は日が暮れるまで騎士団内を案内してもらい、あなたは心が躍っていた。
無機質で荘厳なムードの本部棟に、美味しそうなお惣菜が並ぶ食堂。
騎士たちが汗を流す訓練場は遠目から見ただけだったが、人々の活気に触れて最高の気分だった。
「楽しいー! 魔界でもこんな風に、普通に人々が生活してたんだね。それに皆すごいねえ、仕事ない日も訓練して」
「ははっ。訓練も大事な仕事のうちだ。いざという時に体がなまっていては力が発揮できないからな」
ルドガーも騎士をディスることなく、朗らかな笑みを見せている。
彼は職務を隠すわりに、体を動かして戦うのは本能的に好きなのかもしれない。
もっと彼のことを知りたい。
番として、この場所でも自分が支えていけるように。
そう決心したあなたは、帰宅後も部屋の片づけをし、機能的なキッチンを確かめたりしていた。
ルドガーは本部で誰かと話す予定があると言い、しばらく帰ってこない。
だからあなたは、こっそりと部屋の隅にしゃがみ、声を出してみた。
「守護者さま、聞こえますか? また相談なんですけど。おすすめの食料品店とかってありますかね」
そう言えばなんでも教えてくれると思ったわけじゃないが、彼女の世話心に甘えようとしていた。
しかし、またもや応答はない。
「なんか最近、答えてくれないなぁ。守護者さまも忙しいのかな…」
魔界に住んでるのだとしたら、ここに暮らす人々と同じように、向こうにも生活があるのだろう。
だがらこそ、どうして自分に話しかけてきたのか、腑に落ちなかった。
早く本当のことを知りたいのに。
悶々としながらも、あなたは数日間を大人しく過ごしていた。
そしてある日。ルドガーは任務に出かけていて、あなたは一人で領内にいた。
気をつけろと念を押されてはいるが、彼はここに閉じ込めているわけではない。
自由に出歩いていいと言われたし、公園のような広場に佇んだり、食堂にでも行ってみようかと思ったのだ。
「わぁ、ドキドキする〜。でもここは安全だもんね。誰も近づいてこないし」
まだお洒落はしておらず、動きやすい服装だが、あなたは時々ぴたりと立ち止まって周りを見渡す。
すると濃色の制服の騎士たちが、こちらを見ていたかと思ったら、さっと瞳をそらした。
「やっぱり……なんか見られてるよね」
ぼそっと呟き、何も気にしてない風に装い、また歩き出した。
話しかけられない一方で、屈強な男達の視線はなんだか気まずい。
少なからず異分子の自分が警戒されてるみたいだ。
そのまま外を歩いていると、不気味な空気が漂う暗い建物を見つけた。
うまく言えないが、薄紫色の空に向かって、尖塔から黒い霧のようなものが立ち上ってる感覚がする。
「ここ、なんだろう……?」
「そこは、魔術師塔ですよ。名無しさん」
突然後ろから声をかけられ、あなたは反射的に振り向いた。
気配なく立っていたのは、黒ローブをかぶった陰のある男性だ。
顔は青白く、目の隈が深い。フードの隙間から、白っぽい瞳ににやりと見つめられて肩がすくんだ。
「あの……誰でしょうか」
「失礼。ミザロと申します。私のことを覚えていませんか? あなたと獣の彼を街まで転移魔法で送った者です」
彼はそう明かすと、手を腹の前におき、仰々しくお辞儀をした。
あなたは影の薄かったあの時よりも、彼から強い自我を感じ取り、目を逸らせないでいた。
黒ローブもなく、動きやすいパンツと防寒着で騎士団領内を歩いている。
灰色の要塞のような建造物に囲まれ、近代的ではあるが冷たいイメージだ。
「わあぁ、寒いけど、すごく綺麗なところだね。大きすぎる公園……ううん、もう街みたいだね。お馬さんもいるし」
黒馬に似た脚力のたくましい動物が闊歩する中、きょろきょろと好奇心たっぷりに見回す。
「気に入ったか? もうすぐ俺達の部屋に着くぞ。今日は休みを取っているから、お前の好きなように過ごすといい」
「本当? やったあ」
無邪気に喜ぶ姿は子供のようで、実際に遠くを行き交う大柄な騎士たちと比べれば、あなたはかなり小さい。
女性だし、その姿は目立っていた。
「ルドガー。なんかさっきから、私見られてない? 誰も話しかけてこないけど…」
「ああ、安心しろ。俺が一人でも話しかけられることはない」
彼はあっさりとそう言い、歩みを進める。
そして「注目されるのは仕方がない」と呟いた。
この騎士団は、王都に隣接する都市ルラ・パルセを守る軍事的な要所だ。
二百人ほどの精鋭騎士が所属しており、公爵のゼイランが指揮している。
彼は普段姿を現さないらしいが、あなたの存在は公に認められており、領内に住む許可もあった。
「女なのに、太っ腹だよねえ。私なんかいても、別に気にならない存在ってことなのかな?」
彼とお喋りしながら、意気揚々と建物へ入り、階段を上っていく。
そこはひときわ静かな場所だった。
ルドガーによると、地位が上の者達の住居らしい。
五階建ての四階に着いたら、広い廊下には三つ大きなドアがあった。
そのうちのひとつがあなた達の新しい住まいだ。
「わあ~結構広いね。でも殺風景。何も置いてないじゃない」
「ここには帰って寝るだけだったからな。でもこれからは違う。好きに飾っていいぞ」
部屋に帰るなり、ルドガーはあなたをふわっと腕の中に抱き上げる。
目線が少し上になり、まじまじと金色の瞳を見つめた。
二人きりになると、彼の瞳はすぐに柔らかく変化し、愛情を示してくれる。
「ふふ。じゃあもっと温かみのある部屋になるよ。そうだ、荷物ほどこう!」
もう少しあなたと触れ合いたそうな彼の腕から下り、さっそく届いていた箱を開けていく。
近くのベッド脇の棚には、まず大切な花のガラスケースを飾り、満悦した。
ここは白を基調とした落ち着いた造りで、暖炉も木彫りの家具もなかったが、間取りは前とよく似ていた。
リビングから仕切られた場所に大きすぎる彼用のベッドがあるだけで、小屋を思い出して落ち着く。
「そういえば、もうあの小屋には帰らないんだなぁ。ちょびっとだけ寂しくもなるね」
「そうだな。二人で初めて過ごした場所だからな」
獣なので情緒的な思いは伝わらないと思ったが、彼も感慨深げに頷いてくれて、あなたは嬉しくなる。
「だがここはもっと安全だ。仕事が終わったら、俺は早めに帰ることもできる」
「それ一番嬉しい~」
「ふっ、素直なやつだな。……だが、安全じゃない奴らもいる。気をつけろよ、名無し」
あなたの頭を撫でる彼の顔つきが、一瞬険しくなる。
「……えっ? 怖いこと言わないでよ。誰それ?」
「今は知らなくていい」
そっけなく述べた彼の表情が気になった。
いつもこうして秘密主義になるのだ。
それはあなたを一番に考えているからだと、分かってはいるのだが。
「あの、すみません。隣に引っ越してきたルドガーと名無しです。誰かいますか?」
「おい、そんなことはしなくていい。俺は前からここに住んでいる」
でも自分は初めてだしと、初日に挨拶ぐらいしておきたいあなたは、律義に菓子折りを持って立っていた。
「ここに住んでいるのはさっき言った良くない奴だ。近づくなと教えただろ」
「――それは俺のことかな? 君、そんなふうに思っていたんだ」
突然ドアの向こうから出てきた男性を見て、あなたは目を剥いた。
ゼイランもびっくりなほど、シャツを異常にはだけさせた肌白い、明るい金髪の美男子だった。
タレ目がちの彼は午後の気怠げさを醸しながら笑む。尖った耳をぴくりと揺らし、二人を見つめていた。
「……あっ。お休みのところすみません。ちょっとご挨拶に来ただけなんです。これどうぞ。じゃっ」
「逃げないでくれよ。……ルドガー、こちらが彼女なのかい? 団内で噂になっていたが」
背丈のある筋肉質な男性は、「俺はジュリス。よろしくね」とあなたにウインクした。
対してルドガーは、嫌そうな顔で頷く。
「そうだ。名無しがしようと言うから仕方なくお前に挨拶しただけだ。ではな。俺達にかまうな」
「ふふふっ。そっちから来たくせに、ずいぶんと勝手だな。名無し、この堅物の彼と付き合えるなんて、君はそうとう柔軟な女性に違いない」
フレンドリーに名を呼んだ彼は、上から下まであなたのことを色っぽく眺め、なんだかゾクッとしてきた。
危険人物なのは間違いないのかもしれない。
でもあなたは魔族で騎士の彼が、普通に喋ってくれることに感謝が湧く。
だからこの機会を逃すまいと顔を上向かせた。
「ルドガーって真面目なんですか?」
「そうだよ。戦闘以外は興味を示さない、いい意味で冷たい男だ。こうして長く喋ったのも初めてだしな。……彼のことを知りたいなら、いつでも俺のところにおいで。歓迎しよ――」
そう言いかけたところで、ルドガーが強引にドアを閉めた。
内側から明るい笑い声が聞こえたが、驚いたあなたは彼を見上げる。
「ちょっと、失礼でしょう、まだ喋ってたのに!」
「失礼なのはどっちだ? お前は誰にでも甘い顔をしすぎだ。もっと警戒しろ」
心外なことを言われて憤慨したが、初日から喧嘩してもしょうがないと思い、頬を膨らませながらも彼と一緒に去った。
もうひとつのドアには、違う人が住んでいるが、不在なようだ。
今のジュリスのことを尋ねると、ルドガーは興味なさそうに「第二部隊の隊長だ」と言った。
職務について多くを語らない彼は、自分も部隊に所属していると以前話していた。
あの小屋に来た獣人族の男達との隊である。
それは都市周辺を守る騎士団とは違い、ゼイラン直属の軍らしい。
そのため、なぜ今はここに住んでいるのか、あなたは首を傾げていた。
その日は日が暮れるまで騎士団内を案内してもらい、あなたは心が躍っていた。
無機質で荘厳なムードの本部棟に、美味しそうなお惣菜が並ぶ食堂。
騎士たちが汗を流す訓練場は遠目から見ただけだったが、人々の活気に触れて最高の気分だった。
「楽しいー! 魔界でもこんな風に、普通に人々が生活してたんだね。それに皆すごいねえ、仕事ない日も訓練して」
「ははっ。訓練も大事な仕事のうちだ。いざという時に体がなまっていては力が発揮できないからな」
ルドガーも騎士をディスることなく、朗らかな笑みを見せている。
彼は職務を隠すわりに、体を動かして戦うのは本能的に好きなのかもしれない。
もっと彼のことを知りたい。
番として、この場所でも自分が支えていけるように。
そう決心したあなたは、帰宅後も部屋の片づけをし、機能的なキッチンを確かめたりしていた。
ルドガーは本部で誰かと話す予定があると言い、しばらく帰ってこない。
だからあなたは、こっそりと部屋の隅にしゃがみ、声を出してみた。
「守護者さま、聞こえますか? また相談なんですけど。おすすめの食料品店とかってありますかね」
そう言えばなんでも教えてくれると思ったわけじゃないが、彼女の世話心に甘えようとしていた。
しかし、またもや応答はない。
「なんか最近、答えてくれないなぁ。守護者さまも忙しいのかな…」
魔界に住んでるのだとしたら、ここに暮らす人々と同じように、向こうにも生活があるのだろう。
だがらこそ、どうして自分に話しかけてきたのか、腑に落ちなかった。
早く本当のことを知りたいのに。
悶々としながらも、あなたは数日間を大人しく過ごしていた。
そしてある日。ルドガーは任務に出かけていて、あなたは一人で領内にいた。
気をつけろと念を押されてはいるが、彼はここに閉じ込めているわけではない。
自由に出歩いていいと言われたし、公園のような広場に佇んだり、食堂にでも行ってみようかと思ったのだ。
「わぁ、ドキドキする〜。でもここは安全だもんね。誰も近づいてこないし」
まだお洒落はしておらず、動きやすい服装だが、あなたは時々ぴたりと立ち止まって周りを見渡す。
すると濃色の制服の騎士たちが、こちらを見ていたかと思ったら、さっと瞳をそらした。
「やっぱり……なんか見られてるよね」
ぼそっと呟き、何も気にしてない風に装い、また歩き出した。
話しかけられない一方で、屈強な男達の視線はなんだか気まずい。
少なからず異分子の自分が警戒されてるみたいだ。
そのまま外を歩いていると、不気味な空気が漂う暗い建物を見つけた。
うまく言えないが、薄紫色の空に向かって、尖塔から黒い霧のようなものが立ち上ってる感覚がする。
「ここ、なんだろう……?」
「そこは、魔術師塔ですよ。名無しさん」
突然後ろから声をかけられ、あなたは反射的に振り向いた。
気配なく立っていたのは、黒ローブをかぶった陰のある男性だ。
顔は青白く、目の隈が深い。フードの隙間から、白っぽい瞳ににやりと見つめられて肩がすくんだ。
「あの……誰でしょうか」
「失礼。ミザロと申します。私のことを覚えていませんか? あなたと獣の彼を街まで転移魔法で送った者です」
彼はそう明かすと、手を腹の前におき、仰々しくお辞儀をした。
あなたは影の薄かったあの時よりも、彼から強い自我を感じ取り、目を逸らせないでいた。
