美オヤジを誘って囲われて救われる話
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後日、あなたは悶々としていた。
物件の話は、エージェントからまた連絡が来るという流れになっていたのだが。
自分がきっかけで物事がトントン拍子に進んでしまったらどうしようと、落ち着かなかったのだ。
「あのさ、ヴィクトル」
「ん? なんだい名無しちゃん」
彼の自宅で食事の後、キッチンで片付けを一緒にしていたとき。
何気なく彼のそばに立ち、背伸びをしてこっそり耳打ちをした。
「今度の内見の話なんだけど⋯⋯あの私が言っちゃったやつ、海とかそういう⋯」
「ああ、うん。あったね」
どうしてそんな内緒声なの?という不思議な顔をされたが、彼は穏やかに向き合ってくれた。
「あれって、すぐ決まったりしないよね?」
「もちろん。どうしてだい、もしかして不安になった? 大丈夫だよ、すぐ買ったりしないから」
ヴィクトルは一瞬驚いた顔つきをしたものの、あなたを安心させるように述べた。
ほわっとその温かな風が包みこんできて、肩の荷が驚くほど下りていく。
「ほんと? よかった⋯」
「ああやっぱり。ごめんね。俺があんな風に喜んじゃったから、怖くなっちゃったかな。まさか買うのかって。大丈夫だよ、あの規模は即決はしないから普通」
「あはは⋯だよね。いやそんなことないんだけど⋯少しだけ。だってさ、ヴィクトル目が本気に見えたんだもん」
深く息を吐きながら明かすと、彼はくつくつと喉を鳴らした。
なんだか段々と恥ずかしくなってくる。
「いやまあ本気だったよ。だってそれは、君に本気で欲しいって願われたら、きっとなんでも手に入れるからな俺は」
「ちょっ、だめだよそんなこと言ったらっ。じゃあどうするの? 私がヴィクトル〜ベンツほしいよ〜とか腕を揺すぶってきたら」
あなたが冗談っぽく尋ねると、彼は顎に手を当てて、妙に真剣に考える素振りをし始めた。
「もう、冗談だからね!」
「ははは! いや可愛いなぁと思ってさ。やっぱり君は俺にもっと甘えるべきだ。それが俺は一番嬉しいんだから」
大人の妖艶な笑みでまとめられると、どこまで彼の本気なのか見分けがつかない。
でも今回のことはひとまず、思いきって尋ねてみて心から安堵したのだった。
とはいえ、あなたの悩みが全部解決したわけではない。
ヴィクトルは甘えてと言ってくれたけど、時として困難な場合もある。
「はー、店は涼しいなぁ。最近外暑いもんなぁ⋯⋯」
5月に入り、冷房の効いたブティックで一人、あなたは店内を見回りながら呟いた。
欧州でも南に位置するこの国は、すっかり夏のような日差しと気温だ。
働いてるときも頭の中は忙しかったが、仕事に邁進することが結婚生活にも必ず役立つと信じて、いつも通り努めていた。
勤務が夜に終わり、あなたは最寄り駅から自宅アパートメントに帰ってきた。
石造りの階段を上がって玄関扉を開けると、むわっとした空気が流れ込んでくる。
「うわ⋯⋯シャッター全部閉めておいても暑っ⋯⋯やっぱり屋根下は熱がこもるよね」
靴を脱ぎ、だるい体を起こしながらリビングへ荷物を置いた。
夜は少しは涼しくなるため、家中の窓を開け放ち、すぐにシャワーを浴びる。
戻ってきてからも生温い空気の中、料理を作る気にはなれず、冷凍庫にあった残り物を温めて食べた。
「はあ、こんな姿見せられないな」
まだ仕事中であろうヴィクトルのことを思いながら、あなたは食卓でスマホを見つつ口に運ぶ。
結婚をしたら、色々生活は変わるはずだ。
恋人の立場では、彼との違いを少し遠くから受け入れられていた面がある。
しかし生活を共にするとなれば、自分の役割をどう担っていけるのか、まだ考えあぐねていた。
そしてそんな思いを、彼にどんな風に言葉にすればいいのか、あなたはまだ決めることが出来ないでいた。
「ああ、あっつ……もうだめかも……」
それからしばらく経った頃、気温が下がるどころか、このまま真夏へ向かいそうな天気が続いた。
ここは比較的新しいセキュリティのしっかりしたアパートだが、設置工事が必要なエアコンなんていう高級品は備え付けられていない。
申し訳ないためヴィクトルも最近招いていないし、週末はあなたが彼の自宅へ行くことが多かった。
まだ週の初めである今日は、仕事から帰ってきてすぐシャワーを浴び、髪にドライヤーをかけた。
「はあ、はあ、お風呂入っても汗だくで意味ないや」
仕方ないので最近は朝もシャワーを浴びている。人前に出る仕事なため、身だしなみは重要である。
適当に出来合いのものを食べたあと、あなたは倒れるようにベッドに大の字になった。
「あ……ヴィクトルからメールだ……」
暗がりでスマホの画面だけがまぶしい。
『名無しちゃん、お疲れ様。俺は今帰ってきたよ。最近暑いよね、部屋大丈夫? うちにいつでも来てね😟』
彼からの優しい文面があなたの疲れた心身に浸透する。
安心したら強い眠気がきて、そのまま寝落ちしてしまった。
朝になって飛び起き、彼に急いで返信をしたが、もう朝メールも入っていた。
「はあバカだ私……ヴィクトルいつも優しい……。ええっと、私は大丈夫だよ、っと。……ヴィクトル、ちゃんとエアコンつけて寝てるかな」
彼の誘いの言葉はありがたかったが、こんな例年のことで家に押しかけるのも何か違う気がした。
それにもうすぐ再び涼しくなると思っていた。
そう考えたあなたの期待を、雲一つなく照らす太陽は今日も裏切ることになる。
数日間、昼も夜も暑い日が続き、とうとう限界が近づく。
最近は夜も十分に眠れず、寝汗で起きてしまっていた。
今日は木曜日で、彼に会う週末まで時間はある。
朝にニュースを見ようとテレビをつけると、あなたの顔が激しく引きつった。
「……はぁっ!? ここから二週間ずっと35度!? ……ありえないでしょ、太陽のばかっ!!」
怒っても仕方ない対象に憤怒し、地団駄を踏む。
あなたは恋しいヴィクトルの顔がよぎった。
『我慢してないで、早くうちにおいで』
と優しく愛情深い顔つきで呼び寄せる彼のことが。
まだ熱のこもった室内で、あなたの表情が段々と溶かされるように穏やかに変化し、とうとう決意を固める。
簡単に荷造りをして、職場にも大きなカバンを持っていくことにした。
午後七時にはブティックを出て、ヴィクトルのマンションへ向かう。
今日も帰宅が遅くなるはずの彼には、メールで事情を伝えておいた。
ロビーを抜けて最上階へ向かい、玄関コードを入れて室内へ入った。
「おじゃましまーす…」
明かりがつく廊下をひたひた歩き、がらんとしたリビングへ荷物を置いた。
あなたは申し訳ないと思いながらも、疲労と汗でふらふらの体を、先にシャワーで流すことにした。
体が綺麗に整うと、寝室の冷房をつけて、綺麗にベッドメイクされたシーツへ寝そべる。
「ああ~最高……ごめん、ヴィクトル……」
先にご飯を作ろうと思ったけど、少しだけ休もう。
そう考え、あなたはすーすーと寝入ってしまった。
物件の話は、エージェントからまた連絡が来るという流れになっていたのだが。
自分がきっかけで物事がトントン拍子に進んでしまったらどうしようと、落ち着かなかったのだ。
「あのさ、ヴィクトル」
「ん? なんだい名無しちゃん」
彼の自宅で食事の後、キッチンで片付けを一緒にしていたとき。
何気なく彼のそばに立ち、背伸びをしてこっそり耳打ちをした。
「今度の内見の話なんだけど⋯⋯あの私が言っちゃったやつ、海とかそういう⋯」
「ああ、うん。あったね」
どうしてそんな内緒声なの?という不思議な顔をされたが、彼は穏やかに向き合ってくれた。
「あれって、すぐ決まったりしないよね?」
「もちろん。どうしてだい、もしかして不安になった? 大丈夫だよ、すぐ買ったりしないから」
ヴィクトルは一瞬驚いた顔つきをしたものの、あなたを安心させるように述べた。
ほわっとその温かな風が包みこんできて、肩の荷が驚くほど下りていく。
「ほんと? よかった⋯」
「ああやっぱり。ごめんね。俺があんな風に喜んじゃったから、怖くなっちゃったかな。まさか買うのかって。大丈夫だよ、あの規模は即決はしないから普通」
「あはは⋯だよね。いやそんなことないんだけど⋯少しだけ。だってさ、ヴィクトル目が本気に見えたんだもん」
深く息を吐きながら明かすと、彼はくつくつと喉を鳴らした。
なんだか段々と恥ずかしくなってくる。
「いやまあ本気だったよ。だってそれは、君に本気で欲しいって願われたら、きっとなんでも手に入れるからな俺は」
「ちょっ、だめだよそんなこと言ったらっ。じゃあどうするの? 私がヴィクトル〜ベンツほしいよ〜とか腕を揺すぶってきたら」
あなたが冗談っぽく尋ねると、彼は顎に手を当てて、妙に真剣に考える素振りをし始めた。
「もう、冗談だからね!」
「ははは! いや可愛いなぁと思ってさ。やっぱり君は俺にもっと甘えるべきだ。それが俺は一番嬉しいんだから」
大人の妖艶な笑みでまとめられると、どこまで彼の本気なのか見分けがつかない。
でも今回のことはひとまず、思いきって尋ねてみて心から安堵したのだった。
とはいえ、あなたの悩みが全部解決したわけではない。
ヴィクトルは甘えてと言ってくれたけど、時として困難な場合もある。
「はー、店は涼しいなぁ。最近外暑いもんなぁ⋯⋯」
5月に入り、冷房の効いたブティックで一人、あなたは店内を見回りながら呟いた。
欧州でも南に位置するこの国は、すっかり夏のような日差しと気温だ。
働いてるときも頭の中は忙しかったが、仕事に邁進することが結婚生活にも必ず役立つと信じて、いつも通り努めていた。
勤務が夜に終わり、あなたは最寄り駅から自宅アパートメントに帰ってきた。
石造りの階段を上がって玄関扉を開けると、むわっとした空気が流れ込んでくる。
「うわ⋯⋯シャッター全部閉めておいても暑っ⋯⋯やっぱり屋根下は熱がこもるよね」
靴を脱ぎ、だるい体を起こしながらリビングへ荷物を置いた。
夜は少しは涼しくなるため、家中の窓を開け放ち、すぐにシャワーを浴びる。
戻ってきてからも生温い空気の中、料理を作る気にはなれず、冷凍庫にあった残り物を温めて食べた。
「はあ、こんな姿見せられないな」
まだ仕事中であろうヴィクトルのことを思いながら、あなたは食卓でスマホを見つつ口に運ぶ。
結婚をしたら、色々生活は変わるはずだ。
恋人の立場では、彼との違いを少し遠くから受け入れられていた面がある。
しかし生活を共にするとなれば、自分の役割をどう担っていけるのか、まだ考えあぐねていた。
そしてそんな思いを、彼にどんな風に言葉にすればいいのか、あなたはまだ決めることが出来ないでいた。
「ああ、あっつ……もうだめかも……」
それからしばらく経った頃、気温が下がるどころか、このまま真夏へ向かいそうな天気が続いた。
ここは比較的新しいセキュリティのしっかりしたアパートだが、設置工事が必要なエアコンなんていう高級品は備え付けられていない。
申し訳ないためヴィクトルも最近招いていないし、週末はあなたが彼の自宅へ行くことが多かった。
まだ週の初めである今日は、仕事から帰ってきてすぐシャワーを浴び、髪にドライヤーをかけた。
「はあ、はあ、お風呂入っても汗だくで意味ないや」
仕方ないので最近は朝もシャワーを浴びている。人前に出る仕事なため、身だしなみは重要である。
適当に出来合いのものを食べたあと、あなたは倒れるようにベッドに大の字になった。
「あ……ヴィクトルからメールだ……」
暗がりでスマホの画面だけがまぶしい。
『名無しちゃん、お疲れ様。俺は今帰ってきたよ。最近暑いよね、部屋大丈夫? うちにいつでも来てね😟』
彼からの優しい文面があなたの疲れた心身に浸透する。
安心したら強い眠気がきて、そのまま寝落ちしてしまった。
朝になって飛び起き、彼に急いで返信をしたが、もう朝メールも入っていた。
「はあバカだ私……ヴィクトルいつも優しい……。ええっと、私は大丈夫だよ、っと。……ヴィクトル、ちゃんとエアコンつけて寝てるかな」
彼の誘いの言葉はありがたかったが、こんな例年のことで家に押しかけるのも何か違う気がした。
それにもうすぐ再び涼しくなると思っていた。
そう考えたあなたの期待を、雲一つなく照らす太陽は今日も裏切ることになる。
数日間、昼も夜も暑い日が続き、とうとう限界が近づく。
最近は夜も十分に眠れず、寝汗で起きてしまっていた。
今日は木曜日で、彼に会う週末まで時間はある。
朝にニュースを見ようとテレビをつけると、あなたの顔が激しく引きつった。
「……はぁっ!? ここから二週間ずっと35度!? ……ありえないでしょ、太陽のばかっ!!」
怒っても仕方ない対象に憤怒し、地団駄を踏む。
あなたは恋しいヴィクトルの顔がよぎった。
『我慢してないで、早くうちにおいで』
と優しく愛情深い顔つきで呼び寄せる彼のことが。
まだ熱のこもった室内で、あなたの表情が段々と溶かされるように穏やかに変化し、とうとう決意を固める。
簡単に荷造りをして、職場にも大きなカバンを持っていくことにした。
午後七時にはブティックを出て、ヴィクトルのマンションへ向かう。
今日も帰宅が遅くなるはずの彼には、メールで事情を伝えておいた。
ロビーを抜けて最上階へ向かい、玄関コードを入れて室内へ入った。
「おじゃましまーす…」
明かりがつく廊下をひたひた歩き、がらんとしたリビングへ荷物を置いた。
あなたは申し訳ないと思いながらも、疲労と汗でふらふらの体を、先にシャワーで流すことにした。
体が綺麗に整うと、寝室の冷房をつけて、綺麗にベッドメイクされたシーツへ寝そべる。
「ああ~最高……ごめん、ヴィクトル……」
先にご飯を作ろうと思ったけど、少しだけ休もう。
そう考え、あなたはすーすーと寝入ってしまった。
