美オヤジを誘って囲われて救われる話
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「無事に買えてよかったですね、ステファンさん」
「ほんとだよ。今日直せなかったら、また二人の標的になるかもしれないからな」
ステファンは愚痴りながらも、表情はからっとして楽しそうだ。
そんな恋人の父親を前に、ヴィクトルも彼らの生活模様が想像出来てきて、同じようにくすりとした。
大型ホームセンターではすぐに目的のものが見つかり、買い物はあっという間に終わった。
二人は帰宅のため、並ぶタクシーの列へと向かうはずだったのだが。
「このまま帰るのももったいないな。ヴィクトル、珈琲一杯飲んでいかないか?」
「えっ⋯はい!」
ヴィクトルの心は高鳴る。
最初の頃より緊張は薄れていたけれど、一対一で話す機会が巡ってくるのは、彼としても嬉しく望んでいたことだった。
広場のベンチで待っていると、ステファン自ら買ってきた珈琲を「ここの美味いんだよ」と言って渡してくれた。
ありがたく飲んでいると、ゆったりと時間が流れる。
「あのさ、さっきは悪かったな」
「なんですか?」
「兵役の話さ。いや、君はそういう話も大丈夫だと思ったんだが、名無しがああいう反応するとは、そこまで頭が回らなくてな。かわいそうなことしたと思って」
ステファンは大柄な背を丸め、気まずそうに白髪交じりの茶髪をかいた。
ヴィクトルは彼の素顔に驚いたが、真剣に見つめ返す。
「もちろん俺はどんな話でも大丈夫なんですが……名無しちゃんはまっすぐな人なので、ああいう時、感情を出してくれるんですよね」
「そうなんだよ。普段は我慢強くて、気持ちを見せない面もあるだろう? でもふとした瞬間に、ぶつけてくる時もあってな、俺はあの子のああいう表情に弱いんだ」
少し照れくさそうに優しい表情をする父の姿に、ヴィクトルは胸が掴まれる。
自分もあなたに対して、まったく同じように感じていた部分があったからだ。
「わかります。彼女はすごく優しい子です。だから、俺もそういう感情を見逃したくないし、そばで守りたいって思うんです」
ストレートに告げると、横からのじっとした視線を感じた。
「よく見てるんだな、あの子のことを」
「⋯⋯はい。ずっと見ていたくなる人ですから。そうしなければいけないとも思ってます」
ヴィクトルが熱い思いをこめて告げると、父の穏やかな顔は、ふっと安心を得た様子だった。
「ヴィクトル。俺はな、正直、二人の関係を心配していた。年の差とか、あの子の性格とか、色々考えたよ。⋯⋯でもさっきの泣きそうな顔を見て、君のことを本当に好きなんだと感じた。まるで子供の頃を思い出したんだ。ああいう顔を君に出せるってことは、心を許してるんだろう」
つれづれと語るステファンの大きな肩は、寂しげでもなく、感慨深さをにじませている。
「もちろん、それだけじゃないぞ。君の人となりは、だいたい分かった気がするよ。職業柄、若い世代とも接するんだが、君はいいやつだ、ヴィクトル」
飾り気のないその一言に、彼の正直な気持ちが集約されている。
ヴィクトルはおのずと心が温まり、膝の上に置いた手に力がこもった。
「ありがとうございます、ステファンさん。……俺も至らないところがたくさんあると思いますが、でも、名無しさんのことは、自分の一生をかけて守っていきます。お約束します」
それは軽い言葉ではなかった。ヴィクトルが背負っている想いそのものだ。
ステファンは彼の肩を優しく叩く。
「ああ、頼んだよ。とりあえず、長生きしてくれよ」
「はい。必ずそうします」
固く受け取ったヴィクトルに、答えが気に入ったステファンは笑った。
二人の間には、すでに共通する男同士の空気感が漂っていた。
・・・
帰宅後、あなたと母エレーネは笑顔で二人を迎える。
「おかえり〜お疲れ様! デザート作ったよ〜!」
その熱い歓迎に父とヴィクトルは驚いたものの、テーブルのフルーツの焼きプディングに喜びの声を上げた。
だが食事の前に、父は壊れたパイプの修理に取りかかり、手際よくそれを終わらせてくれた。
「ほんとにありがとうお父さん、助かったよー! ヴィクトルもありがとうね!」
「俺なんにもしてないよ」
「そんなことないよ! すっごい助けてくれたよ、ねえお父さん」
「本当だよ。いつもの何倍もスムーズに出来たぞ。頼りになるな」
普段は簡単に褒めない父が、笑って答えたため、ヴィクトルは照れていた。
そんな彼を見て、あなたも嬉しくなりながら、何か話したのかな?なんて好奇心がわく。
デザートも皆で仲よく食べて、初めてじっくり過ごしたにしては、四人とも不思議と自然体だった。
あなたは実家にヴィクトルがいる光景を見るたび、時折ふとした驚きを覚えた。
しかし彼はすでに、その場にすっかり馴染んでいるようだ。
そしてまた夜までお酒を飲んだりして、本当に楽しくのびのびと過ごすことが出来た。
「遅くてごめんね、ただいまー」
夜遅くになり、あなたは二階の自室へ帰ってきた。
先にシャワーを浴びたヴィクトルは、シングルベッドに横たわっている。
頭を手で支え、肘をついて見上げられて、あなたは強い違和感に包まれた。
「うわっ」
「どうしたの名無しちゃん」
「だって、ヴィクトルが私の小さいベッドで寝てる⋯⋯」
「はっはっは! まだ慣れないのかい」
今日一番の笑い声が響き、あなたも顔がにやける。
起き上がった彼の隣に行儀よく座った。
「うーん。なんか変な感じ。ここ、私が生まれた時から使ってた部屋だからね、こじんまりとした。ヴィクトルは大丈夫なの? 驚くほど狭いでしょ。まるでウォークインクローゼットだよ」
「おいおい、そんなことないよ。俺はねえ、なんだかドキドキして落ち着かないんだ。君がここで生活していたのかって思うと⋯⋯」
彼は淡い色の壁紙や、薄いパステルのカーテン、女の子らしい机と小さめのソファなどを、ゆっくりと見渡す。
「やっぱり少し緊張するな。俺が入っていいのかっていうね」
「ふふふっ。なにそれ! いいに決まってるでしょう、彼氏なんだから。もうすぐ旦那さんだけど」
あなたは彼の腕に手を絡ませ、笑みを向ける。
そのまま互いの顔は近づき、口づけをかわした。
途端に静かになり、唇が触れ合う音だけが響き始める。
「⋯⋯ん、んぅ⋯」
吐息がもれ、あなたのほうが体を寄せていく。
全部に安心して、気が急いているのだ。
この部屋にいることも、抑えていた気分を熱くさせた。
「ヴィクトル⋯⋯」
「⋯⋯名無しちゃん⋯⋯あぁっ⋯⋯まっ⋯⋯」
珍しく彼の抑制的な声が聞こえたため、あなたは色っぽい眼差しで瞬きした。
「なあに⋯?」
「いや、ちょっ、だ、だめだ」
「なにが⋯?」
あなたの瞳は彼しか映しておらず、触れ合いたい気持ちにとろけそうである。
彼も息があがり、部屋着のトップスの胸はゆっくり上下しているのに、そのまま譲らずに見つめ合う。
「俺も君に触れたくてたまらないよ⋯⋯でも、この部屋では⋯⋯! それにお父さんに約束したばかりなんだ⋯⋯!」
「ええ⋯? よく分からないよ⋯⋯ねえキスして」
焦る彼が少し可笑しくて、あなたは甘えるようにもう一度キスをねだった。
するとヴィクトルもひとまず素直に応えてくれる。
密着していると、彼の高ぶりも情熱も確かにあるようなのに、意思は固いようだ。
「明日しよう? ね? ここじゃまずい。もし止まらなくなったらどうするの?」
「⋯⋯もう。頑固だなぁヴィクトルは」
彼の困り果てた眼差しに気づきながら、それでも胸にもぐりこむと、優しく肩を抱き寄せられた。
「ふう。いい子だね。名無しちゃんは」
あなたは仰向けになった彼の胸板にそっと触れ、その温もりに安心したように目を細めた。
「どうしたの? 笑ってる?」
あなたの様子を気にしている彼の言葉に、さらに笑みがこぼれる。
「ううん。⋯⋯あのね、ヴィクトル。私今すごく幸せなんだ。ありがとう」
あなたは彼の胸からそっと顔を上げ、少し照れながらも、勇気を出して気持ちを伝えた。
ヴィクトルは一瞬目を見開いたあと、その言葉をゆっくりと受け止めるように表情を緩めた。
そして、愛おしそうに微笑む。
「⋯⋯うん。俺もとっても幸せだよ。嬉しいな。名無しちゃん」
二人は言葉の代わりにもう一度唇を寄せる。
密かな口づけを介して、今日一日の余韻を大切にするように、しばらくそのまま寄り添っていた。
「ほんとだよ。今日直せなかったら、また二人の標的になるかもしれないからな」
ステファンは愚痴りながらも、表情はからっとして楽しそうだ。
そんな恋人の父親を前に、ヴィクトルも彼らの生活模様が想像出来てきて、同じようにくすりとした。
大型ホームセンターではすぐに目的のものが見つかり、買い物はあっという間に終わった。
二人は帰宅のため、並ぶタクシーの列へと向かうはずだったのだが。
「このまま帰るのももったいないな。ヴィクトル、珈琲一杯飲んでいかないか?」
「えっ⋯はい!」
ヴィクトルの心は高鳴る。
最初の頃より緊張は薄れていたけれど、一対一で話す機会が巡ってくるのは、彼としても嬉しく望んでいたことだった。
広場のベンチで待っていると、ステファン自ら買ってきた珈琲を「ここの美味いんだよ」と言って渡してくれた。
ありがたく飲んでいると、ゆったりと時間が流れる。
「あのさ、さっきは悪かったな」
「なんですか?」
「兵役の話さ。いや、君はそういう話も大丈夫だと思ったんだが、名無しがああいう反応するとは、そこまで頭が回らなくてな。かわいそうなことしたと思って」
ステファンは大柄な背を丸め、気まずそうに白髪交じりの茶髪をかいた。
ヴィクトルは彼の素顔に驚いたが、真剣に見つめ返す。
「もちろん俺はどんな話でも大丈夫なんですが……名無しちゃんはまっすぐな人なので、ああいう時、感情を出してくれるんですよね」
「そうなんだよ。普段は我慢強くて、気持ちを見せない面もあるだろう? でもふとした瞬間に、ぶつけてくる時もあってな、俺はあの子のああいう表情に弱いんだ」
少し照れくさそうに優しい表情をする父の姿に、ヴィクトルは胸が掴まれる。
自分もあなたに対して、まったく同じように感じていた部分があったからだ。
「わかります。彼女はすごく優しい子です。だから、俺もそういう感情を見逃したくないし、そばで守りたいって思うんです」
ストレートに告げると、横からのじっとした視線を感じた。
「よく見てるんだな、あの子のことを」
「⋯⋯はい。ずっと見ていたくなる人ですから。そうしなければいけないとも思ってます」
ヴィクトルが熱い思いをこめて告げると、父の穏やかな顔は、ふっと安心を得た様子だった。
「ヴィクトル。俺はな、正直、二人の関係を心配していた。年の差とか、あの子の性格とか、色々考えたよ。⋯⋯でもさっきの泣きそうな顔を見て、君のことを本当に好きなんだと感じた。まるで子供の頃を思い出したんだ。ああいう顔を君に出せるってことは、心を許してるんだろう」
つれづれと語るステファンの大きな肩は、寂しげでもなく、感慨深さをにじませている。
「もちろん、それだけじゃないぞ。君の人となりは、だいたい分かった気がするよ。職業柄、若い世代とも接するんだが、君はいいやつだ、ヴィクトル」
飾り気のないその一言に、彼の正直な気持ちが集約されている。
ヴィクトルはおのずと心が温まり、膝の上に置いた手に力がこもった。
「ありがとうございます、ステファンさん。……俺も至らないところがたくさんあると思いますが、でも、名無しさんのことは、自分の一生をかけて守っていきます。お約束します」
それは軽い言葉ではなかった。ヴィクトルが背負っている想いそのものだ。
ステファンは彼の肩を優しく叩く。
「ああ、頼んだよ。とりあえず、長生きしてくれよ」
「はい。必ずそうします」
固く受け取ったヴィクトルに、答えが気に入ったステファンは笑った。
二人の間には、すでに共通する男同士の空気感が漂っていた。
・・・
帰宅後、あなたと母エレーネは笑顔で二人を迎える。
「おかえり〜お疲れ様! デザート作ったよ〜!」
その熱い歓迎に父とヴィクトルは驚いたものの、テーブルのフルーツの焼きプディングに喜びの声を上げた。
だが食事の前に、父は壊れたパイプの修理に取りかかり、手際よくそれを終わらせてくれた。
「ほんとにありがとうお父さん、助かったよー! ヴィクトルもありがとうね!」
「俺なんにもしてないよ」
「そんなことないよ! すっごい助けてくれたよ、ねえお父さん」
「本当だよ。いつもの何倍もスムーズに出来たぞ。頼りになるな」
普段は簡単に褒めない父が、笑って答えたため、ヴィクトルは照れていた。
そんな彼を見て、あなたも嬉しくなりながら、何か話したのかな?なんて好奇心がわく。
デザートも皆で仲よく食べて、初めてじっくり過ごしたにしては、四人とも不思議と自然体だった。
あなたは実家にヴィクトルがいる光景を見るたび、時折ふとした驚きを覚えた。
しかし彼はすでに、その場にすっかり馴染んでいるようだ。
そしてまた夜までお酒を飲んだりして、本当に楽しくのびのびと過ごすことが出来た。
「遅くてごめんね、ただいまー」
夜遅くになり、あなたは二階の自室へ帰ってきた。
先にシャワーを浴びたヴィクトルは、シングルベッドに横たわっている。
頭を手で支え、肘をついて見上げられて、あなたは強い違和感に包まれた。
「うわっ」
「どうしたの名無しちゃん」
「だって、ヴィクトルが私の小さいベッドで寝てる⋯⋯」
「はっはっは! まだ慣れないのかい」
今日一番の笑い声が響き、あなたも顔がにやける。
起き上がった彼の隣に行儀よく座った。
「うーん。なんか変な感じ。ここ、私が生まれた時から使ってた部屋だからね、こじんまりとした。ヴィクトルは大丈夫なの? 驚くほど狭いでしょ。まるでウォークインクローゼットだよ」
「おいおい、そんなことないよ。俺はねえ、なんだかドキドキして落ち着かないんだ。君がここで生活していたのかって思うと⋯⋯」
彼は淡い色の壁紙や、薄いパステルのカーテン、女の子らしい机と小さめのソファなどを、ゆっくりと見渡す。
「やっぱり少し緊張するな。俺が入っていいのかっていうね」
「ふふふっ。なにそれ! いいに決まってるでしょう、彼氏なんだから。もうすぐ旦那さんだけど」
あなたは彼の腕に手を絡ませ、笑みを向ける。
そのまま互いの顔は近づき、口づけをかわした。
途端に静かになり、唇が触れ合う音だけが響き始める。
「⋯⋯ん、んぅ⋯」
吐息がもれ、あなたのほうが体を寄せていく。
全部に安心して、気が急いているのだ。
この部屋にいることも、抑えていた気分を熱くさせた。
「ヴィクトル⋯⋯」
「⋯⋯名無しちゃん⋯⋯あぁっ⋯⋯まっ⋯⋯」
珍しく彼の抑制的な声が聞こえたため、あなたは色っぽい眼差しで瞬きした。
「なあに⋯?」
「いや、ちょっ、だ、だめだ」
「なにが⋯?」
あなたの瞳は彼しか映しておらず、触れ合いたい気持ちにとろけそうである。
彼も息があがり、部屋着のトップスの胸はゆっくり上下しているのに、そのまま譲らずに見つめ合う。
「俺も君に触れたくてたまらないよ⋯⋯でも、この部屋では⋯⋯! それにお父さんに約束したばかりなんだ⋯⋯!」
「ええ⋯? よく分からないよ⋯⋯ねえキスして」
焦る彼が少し可笑しくて、あなたは甘えるようにもう一度キスをねだった。
するとヴィクトルもひとまず素直に応えてくれる。
密着していると、彼の高ぶりも情熱も確かにあるようなのに、意思は固いようだ。
「明日しよう? ね? ここじゃまずい。もし止まらなくなったらどうするの?」
「⋯⋯もう。頑固だなぁヴィクトルは」
彼の困り果てた眼差しに気づきながら、それでも胸にもぐりこむと、優しく肩を抱き寄せられた。
「ふう。いい子だね。名無しちゃんは」
あなたは仰向けになった彼の胸板にそっと触れ、その温もりに安心したように目を細めた。
「どうしたの? 笑ってる?」
あなたの様子を気にしている彼の言葉に、さらに笑みがこぼれる。
「ううん。⋯⋯あのね、ヴィクトル。私今すごく幸せなんだ。ありがとう」
あなたは彼の胸からそっと顔を上げ、少し照れながらも、勇気を出して気持ちを伝えた。
ヴィクトルは一瞬目を見開いたあと、その言葉をゆっくりと受け止めるように表情を緩めた。
そして、愛おしそうに微笑む。
「⋯⋯うん。俺もとっても幸せだよ。嬉しいな。名無しちゃん」
二人は言葉の代わりにもう一度唇を寄せる。
密かな口づけを介して、今日一日の余韻を大切にするように、しばらくそのまま寄り添っていた。
