美オヤジを誘って囲われて救われる話
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昨日、二か国目に到着したヴィクトルは、新規企業訪問や取引先との夕食を済ませた。
そして日曜となった今日は、初めての休日だ。
しかし彼が動きを止めることはなく、午前中は滞在先のホテルで中間報告書を作成していた。
「――はあ。もうこんな時間になってしまったな。そろそろ行くか」
しばらく集中していた広い部屋のデスクから離れ、身支度を整える。
スマホで連絡をしたあと、彼はスーツではなく私服をまとい、暗色のキャップをかぶって出かけた。
今朝は六時に起床し、ホテル上階にあるジムへ行った。出張中は会食続きで体型が変わりやすいため、気を遣っている。
今は恋人のあなたがいるから、なおさら彼は良い汗を流した。
午後になるとヴィクトルは高級ホテルの外で、待ち合わせをしていた。
彼はダウンジャケットと細身のスラックス姿だったが、帽子をかぶっていてもスタイルの良さが目をひいている。
「お待たせしてすみません! こちらも報告書を送信した後で準備に時間が――あれ? あなた、ずいぶんカジュアルな恰好ですね」
小走りで近づいてきたのは部下のクリスだ。
横分けに整えられた金髪に上質なコートをまとい、ニットと艶のある革靴に、ブランドもののバッグまで揃えている。
のほほんとしているクリスを見たヴィクトルは、わずかに眉間を寄せて全身を眺めた。
「今日は休日だからね。そんな目立つ服装で行くのか? スられるぞ」
「大丈夫ですよ、気をつけますから。あなたに合わせたつもりだったんですがね。さあ行きましょうヴィクトル。休日も一緒に過ごせて嬉しいですよ」
うさんくさい笑みを見せた弟分のクリスに、ヴィクトルは肩をすくめながらも笑い返してやった。
出張中は毎回というわけではないが、治安リスクを鑑みて長い外出の際は部下と過ごすことがある。
クリスと一緒の時は、親友の弟であり少年の頃から知る仲なため、行動を共にすることが多かった。
クリスは何かとヴィクトルを慕っているのだ。それにはこんな理由もあった。
「やっぱり僕がモテないのって、服装のせいなんでしょうか」
「そんなことはないと思うけどな。少し過剰なだけで」
旧市街を観光したあと、二人は喫茶店に入った。
男二人で居座るには不釣り合いなほどの、情緒あるアンティーク調の空間だ。
遠くでは教会の鐘が響き、リラックス効果もある。
正面に座るヴィクトルは、この日も代わり映えのしない恋愛相談を聞いてやっていた。
「そうだ、あなたに僕の全身コーディネートをお願いできませんか? センス完璧ですし」
「いやだよ面倒くさい」
「冷たいなあ。あっじゃあ名無しさんにお願いしてみようかな」
「あのなぁ。彼女の仕事を増やすんじゃないよ」
コーヒーを啜った上司にそうたしなめられると、一瞬残念がったクリスも切り替えて納得をする。
「ではアドバイスぐらいなら頂けますかね?」
「まあ、そのぐらいなら聞いてくれるんじゃないか。名無しちゃん優しいしな」
そう微笑みをこぼす年長者に対し、クリスは自分の幸運を祝うような表情を浮かべた。
ヴィクトルは軽くため息をつきながらも、なんだかんだこの若者を放っておけないのだ。
親友に任されていることもあり、昔は奥手で恥ずかしがり屋だったクリスの変化を身近で見てきたからだ。
彼は勉強を重ねて同社に新入社員として加わり、今や大型プロジェクトの契約を任されるまでに成長した。
その変遷で性格はやや大仰な感じになってしまったが、兄同様に心根が優しく良い奴だというのは、ヴィクトル自身がよく知っていた。
「このあとどうしますか? 夕食がてらバーでも行きますか」
「ああ。だがその前に寄りたいところがあるんだ。君は違う場所で待っててもいいぞ」
「嫌ですよ、あなたが自主的になんて珍しいですね。興味があります」
瞳を光らせたクリスにその場はおごらせ、二人は別の店へと向かった。
訪れたのは古風な商店街の一角にある香水店だ。
ここはヴィクトルが前もって調べた、知る人ぞ知る由緒ある店鋪だった。
なんでもこの国の一部でしか取れない特別な香料を使ってるらしく、彼はそれが気になっていた。
店にいた細身の制服姿の男性店員に目的を告げると、彼も一緒に選んでくれる。
「恋人の女性への贈り物ですね。彼女のイメージをお聞きしても?」
「ええ。一見儚げで、でも内側は芯がしっかりとした、温かくも気丈な強さを持った人なんです。あとは、そうだな。彼女は本当に、信じられないほどにとても可愛い。写真を見ますか?」
「なるほど。確かに美しい方だ。詳細に教えて頂いて助かります。ではこのような感じは――」
二人の麗しい男二人が、優雅に真剣に品物を選ぶさまを、クリスは物珍しそうに凝視していた。
だが上司の変貌をすでに理解していた彼はくすりと笑い、自分も別の店員に助言を求めることにする。
「あのですね、僕はとにかく、女性に人気が出そうな香りを求めているんです。確かな効力がありそうなものをお願いします」
そう決意を込めた瞳で、彼もまたお気に入りの品を見つけ出す。
夕方には二人とも満足顔で店を後にすることが出来た。
それから夕食のバーを探す道の途中、二人は会話をしながら歩いていた。
ヴィクトルはじっくりとあなたのことを考える時間に癒されたのか、明らかに表情が柔らかである。
「あなたがお土産なんて買ってるところ初めて見ました」
「そうだろう。俺もだよ。なんていい気分なんだろうね」
きっと渡す姿を想像してるのだろうと、その浮かれた姿をクリスは笑う。
だが段々と、自分も現実に向き合わざるを得なくなってきたようだった。
「……ああいいなぁ。僕も幸せになりたいな。誰かいませんかね、ヴィクトル」
「なんだい、いきなり。今日はずっとそれだな。俺が自慢しすぎたか? 気にするなよ」
昔のように金髪をくしゃっと触られて励まされ、ふいに童心が蘇ってくる。
だがあの頃よりも、大人になった自分の足取りは、だいぶ確かなものになったと感じる。
「これでも自信がついたほうなんです。あなたに飲みに連れて行ってもらって」
「ああ、わかるよ。女性への耐性は上がったよな。進歩したじゃないか」
「僕もそう思います。でも、ああいう賑やかな人達とは話せるようになりましたが、これって役に立ってるんですかね。ヴィクトルやマックスのように、女性に好かれるようになるのは、もっとハードルが高い気がして……」
クリスがいつもより深い部分の話をすると、ヴィクトルも彼が気になった様子だった。
「俺はともかく、マックスは参考にするなよ。あいつの真似ができるのはあいつだけだ」
そっと小声で囁くとクリスはけらけらと笑う。
「そうですけど、やっぱり自信があって堂々とした男性のほうが、一般的にはモテますよね」
「どうだろうねえ。君は自信のある自分を好きになってほしいのかい?」
「えっ?」
ふとヴィクトルが尋ねた言葉に、クリスは立ち止まった。
「クリス。君は相手に、どんな自分を好きになってほしいと思う?」
穏やかな表情でそう続けられて、気持ちも少し止めて考えてみる。
それは今まであまり考えたことのない問いだった。
「ええと……僕は優しくて正直で、思いやりがあって……相手の気持ちをいつもきちんと考える自分を、好きになってほしいですかね」
言いながら気恥ずかしくなってきたが、その真剣さをヴィクトルは自然に受け取っていた。
「それでいいんだよ。今言ったやつ、それが皆が君に抱いてる”君”だ。何か違うものになろうとする必要なんてないんだからな。俺もそんな君が好きだぞ。自信もてよ」
隣から、彼が普段兄にやるように肩を抱いてきて、屈託なくにっと笑い、顔をのぞきこむ。
クリスは初めてヴィクトルから男として対等に扱われた感覚がした。
感動で瞳がうっすらと温まってくる。
「……ヴィクトル。あなた、僕を泣かせようとしてます……? って結局自信じゃないですか!」
「照れるなよ。男が恥ずかしがってもな、喜ぶのは恋人だけだぞ。俺にやるんじゃない」
軽口をたたいたヴィクトルは、今日ぐらいは部下という垣根を越えて、クリスをねぎらったのだった。
そして日曜となった今日は、初めての休日だ。
しかし彼が動きを止めることはなく、午前中は滞在先のホテルで中間報告書を作成していた。
「――はあ。もうこんな時間になってしまったな。そろそろ行くか」
しばらく集中していた広い部屋のデスクから離れ、身支度を整える。
スマホで連絡をしたあと、彼はスーツではなく私服をまとい、暗色のキャップをかぶって出かけた。
今朝は六時に起床し、ホテル上階にあるジムへ行った。出張中は会食続きで体型が変わりやすいため、気を遣っている。
今は恋人のあなたがいるから、なおさら彼は良い汗を流した。
午後になるとヴィクトルは高級ホテルの外で、待ち合わせをしていた。
彼はダウンジャケットと細身のスラックス姿だったが、帽子をかぶっていてもスタイルの良さが目をひいている。
「お待たせしてすみません! こちらも報告書を送信した後で準備に時間が――あれ? あなた、ずいぶんカジュアルな恰好ですね」
小走りで近づいてきたのは部下のクリスだ。
横分けに整えられた金髪に上質なコートをまとい、ニットと艶のある革靴に、ブランドもののバッグまで揃えている。
のほほんとしているクリスを見たヴィクトルは、わずかに眉間を寄せて全身を眺めた。
「今日は休日だからね。そんな目立つ服装で行くのか? スられるぞ」
「大丈夫ですよ、気をつけますから。あなたに合わせたつもりだったんですがね。さあ行きましょうヴィクトル。休日も一緒に過ごせて嬉しいですよ」
うさんくさい笑みを見せた弟分のクリスに、ヴィクトルは肩をすくめながらも笑い返してやった。
出張中は毎回というわけではないが、治安リスクを鑑みて長い外出の際は部下と過ごすことがある。
クリスと一緒の時は、親友の弟であり少年の頃から知る仲なため、行動を共にすることが多かった。
クリスは何かとヴィクトルを慕っているのだ。それにはこんな理由もあった。
「やっぱり僕がモテないのって、服装のせいなんでしょうか」
「そんなことはないと思うけどな。少し過剰なだけで」
旧市街を観光したあと、二人は喫茶店に入った。
男二人で居座るには不釣り合いなほどの、情緒あるアンティーク調の空間だ。
遠くでは教会の鐘が響き、リラックス効果もある。
正面に座るヴィクトルは、この日も代わり映えのしない恋愛相談を聞いてやっていた。
「そうだ、あなたに僕の全身コーディネートをお願いできませんか? センス完璧ですし」
「いやだよ面倒くさい」
「冷たいなあ。あっじゃあ名無しさんにお願いしてみようかな」
「あのなぁ。彼女の仕事を増やすんじゃないよ」
コーヒーを啜った上司にそうたしなめられると、一瞬残念がったクリスも切り替えて納得をする。
「ではアドバイスぐらいなら頂けますかね?」
「まあ、そのぐらいなら聞いてくれるんじゃないか。名無しちゃん優しいしな」
そう微笑みをこぼす年長者に対し、クリスは自分の幸運を祝うような表情を浮かべた。
ヴィクトルは軽くため息をつきながらも、なんだかんだこの若者を放っておけないのだ。
親友に任されていることもあり、昔は奥手で恥ずかしがり屋だったクリスの変化を身近で見てきたからだ。
彼は勉強を重ねて同社に新入社員として加わり、今や大型プロジェクトの契約を任されるまでに成長した。
その変遷で性格はやや大仰な感じになってしまったが、兄同様に心根が優しく良い奴だというのは、ヴィクトル自身がよく知っていた。
「このあとどうしますか? 夕食がてらバーでも行きますか」
「ああ。だがその前に寄りたいところがあるんだ。君は違う場所で待っててもいいぞ」
「嫌ですよ、あなたが自主的になんて珍しいですね。興味があります」
瞳を光らせたクリスにその場はおごらせ、二人は別の店へと向かった。
訪れたのは古風な商店街の一角にある香水店だ。
ここはヴィクトルが前もって調べた、知る人ぞ知る由緒ある店鋪だった。
なんでもこの国の一部でしか取れない特別な香料を使ってるらしく、彼はそれが気になっていた。
店にいた細身の制服姿の男性店員に目的を告げると、彼も一緒に選んでくれる。
「恋人の女性への贈り物ですね。彼女のイメージをお聞きしても?」
「ええ。一見儚げで、でも内側は芯がしっかりとした、温かくも気丈な強さを持った人なんです。あとは、そうだな。彼女は本当に、信じられないほどにとても可愛い。写真を見ますか?」
「なるほど。確かに美しい方だ。詳細に教えて頂いて助かります。ではこのような感じは――」
二人の麗しい男二人が、優雅に真剣に品物を選ぶさまを、クリスは物珍しそうに凝視していた。
だが上司の変貌をすでに理解していた彼はくすりと笑い、自分も別の店員に助言を求めることにする。
「あのですね、僕はとにかく、女性に人気が出そうな香りを求めているんです。確かな効力がありそうなものをお願いします」
そう決意を込めた瞳で、彼もまたお気に入りの品を見つけ出す。
夕方には二人とも満足顔で店を後にすることが出来た。
それから夕食のバーを探す道の途中、二人は会話をしながら歩いていた。
ヴィクトルはじっくりとあなたのことを考える時間に癒されたのか、明らかに表情が柔らかである。
「あなたがお土産なんて買ってるところ初めて見ました」
「そうだろう。俺もだよ。なんていい気分なんだろうね」
きっと渡す姿を想像してるのだろうと、その浮かれた姿をクリスは笑う。
だが段々と、自分も現実に向き合わざるを得なくなってきたようだった。
「……ああいいなぁ。僕も幸せになりたいな。誰かいませんかね、ヴィクトル」
「なんだい、いきなり。今日はずっとそれだな。俺が自慢しすぎたか? 気にするなよ」
昔のように金髪をくしゃっと触られて励まされ、ふいに童心が蘇ってくる。
だがあの頃よりも、大人になった自分の足取りは、だいぶ確かなものになったと感じる。
「これでも自信がついたほうなんです。あなたに飲みに連れて行ってもらって」
「ああ、わかるよ。女性への耐性は上がったよな。進歩したじゃないか」
「僕もそう思います。でも、ああいう賑やかな人達とは話せるようになりましたが、これって役に立ってるんですかね。ヴィクトルやマックスのように、女性に好かれるようになるのは、もっとハードルが高い気がして……」
クリスがいつもより深い部分の話をすると、ヴィクトルも彼が気になった様子だった。
「俺はともかく、マックスは参考にするなよ。あいつの真似ができるのはあいつだけだ」
そっと小声で囁くとクリスはけらけらと笑う。
「そうですけど、やっぱり自信があって堂々とした男性のほうが、一般的にはモテますよね」
「どうだろうねえ。君は自信のある自分を好きになってほしいのかい?」
「えっ?」
ふとヴィクトルが尋ねた言葉に、クリスは立ち止まった。
「クリス。君は相手に、どんな自分を好きになってほしいと思う?」
穏やかな表情でそう続けられて、気持ちも少し止めて考えてみる。
それは今まであまり考えたことのない問いだった。
「ええと……僕は優しくて正直で、思いやりがあって……相手の気持ちをいつもきちんと考える自分を、好きになってほしいですかね」
言いながら気恥ずかしくなってきたが、その真剣さをヴィクトルは自然に受け取っていた。
「それでいいんだよ。今言ったやつ、それが皆が君に抱いてる”君”だ。何か違うものになろうとする必要なんてないんだからな。俺もそんな君が好きだぞ。自信もてよ」
隣から、彼が普段兄にやるように肩を抱いてきて、屈託なくにっと笑い、顔をのぞきこむ。
クリスは初めてヴィクトルから男として対等に扱われた感覚がした。
感動で瞳がうっすらと温まってくる。
「……ヴィクトル。あなた、僕を泣かせようとしてます……? って結局自信じゃないですか!」
「照れるなよ。男が恥ずかしがってもな、喜ぶのは恋人だけだぞ。俺にやるんじゃない」
軽口をたたいたヴィクトルは、今日ぐらいは部下という垣根を越えて、クリスをねぎらったのだった。
