美オヤジを誘って囲われて救われる話
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翌日の日曜日、あなたは親友のセリアとカフェバーで待ち合わせしていた。
夕方に先に着き、仕切りのあるテーブル席でひとり、スマホをタップしてめくっている。
「ああこれ、作ってくれたケーキだ。可愛いなぁ……」
彼が出張へ行って一週間。短いようで長く、あっという間な感覚はまったくない。
こうして暇なときには思い出の写真を見返し、楽しい気分と淋しい気分を行き来していた。
「ハロー、元気ーっ!? って何してんの名無し! 彼氏の写真なんて見返しちゃって!」
「うわあああッ、びっくりさせないでよっ」
突然背後から肩を揺さぶられて、振り返る。
するといつもの細渕の丸眼鏡にボリュームあるロングカーリーヘアの親友が、笑顔を向けてきた。
彼女はくるりと正面にやって来て、劇団帰りの大きな荷物を置いて座った。
手早く注文し、あなたをつぶらな瞳で見やる。
「ヴィクトルさんいなくて寂しいんだね。わかるわかるぅー」
「ちょっと……からかってない? まあ確かに寂しいんだけどさ。…あっでもね、昨日会社の同僚の女性達が来てくれたって話したでしょ、それでこんな凄いのもらっちゃって――」
あなたは頬を緩ませて、わざわざ持参した写真を鞄から出した。
「おおーっなにこれすごい! ヴィクトルさんイっケメンだなぁ~! クリスさんも若っ! アンドレイさん変わらねぇ~っ」
この間の忘年会で会った顔ぶれを見つけ、二人でおおいに盛り上がる。
好きな人の写真でここまでテンションが上がるのは、まるで学生に戻ったかのようだ。
料理が到着してからも、近況を踏まえたお喋りは止まらない。あなたは久々に感情を思いきり爆発させ楽しんでいた。
「でもさ、思うんだよね。やっぱり会社員の人と付き合うの初めてだし、こういう出張とかも彼は頻繁にあるわけだしさ。寂しくなったりするの普通だとは思うんだけど。なんか私、ちょびっと依存しちゃってるのかな、とか……」
気にしないようにしてもメールを待ってたり、そういう不安定な気持ちを包み隠さず親友に話した。
また笑い飛ばされるかと思ったが、意外にもセリアは真面目な表情を横に振った。
「全っ然。そんなの普通だよ。依存ってのはね、こういう友達の付き合いも全部どうでもよくなって彼のことだけ考えたり、ほかには手がつかなくなるとか、そういうことでしょ? 名無しは違うじゃん、私と会ってくれたりさ。日常生活も普通に送れてるよね? 彼のSNSに張り付いて監視してるとかじゃないでしょ?」
「し、してないしてない。ていうか彼ってSNSやってるのかな…?」
「そんな時間ないか、忙しいもんねえ。あっでもさ、マックスさんはバリバリやってるわよね」
彼女が笑いながら相槌を打ったため、あなたは驚いた。なぜ知ってるのか尋ねると、平然とスマホ画面を見せてくる。
「ほら。忘年会のとき教えてもらったもん。やばくないこれ」
「ええーっ! なにこれっっ」
眼前に並んだ肌色の写真集から、目が逸らせなくなる。
ヴィクトルの大学時代からの悪友でもあり、同僚で営業部長でもあるマックスの、圧倒的な肉体美だ。
上半身裸で濃い金髪が濡れていたり、男らしくセクシーなポーズで流し目をしていたり。
それを衝撃の面持ちで、しばしがっつり見つめてしまった。
「ちょっと、名無し? 見すぎでしょ。確かに40に見えないよね、すっごい良い体してるよなぁこの人。こりゃモテるわ」
「うっうん……。これはすごいね。ヴィクトルともまた違う凄さがあるわ……」
「やだーっ彼氏と比べちゃって、いやらしいその言い方ぁ!」
「あのね、変な声出さないで――」
こんなものを見たと彼にばれてしまったら、大変なことになる。
ドキドキしつつも胸にしまっておこうと、真面目なあなたは自分に言い聞かせることにした。
自分だって過去の恋愛経験は一人だが長かったし、男の裸に免疫がないわけではない。
だがセリアは街の有名シアターに在籍する劇団員であり、男女ともに裸は見慣れてるとあっけらかんとしていた。
「でもさセリアちゃん。連絡先も交換したらしいけど、そういうのエリックさんは大丈夫なの? いやマックスさんは全然安全な人だと思うけどさ。ああ見えて紳士的だし」
「あー大丈夫大丈夫。自分も会ってるからね。てかマックスさん、エリックとも交換してたよ。すごいフットワーク軽いよねあの人」
「えっそうなんだ。私はマックスさんの知らないや」
そう言うと親友は「気を遣ってるんじゃない。ほんとはしたいと思うよ」と笑っていた。
その辺は自分もあまり気にしたことがないのだが、ヴィクトルは嬉しくなさそうな気がするので苦笑しておいた。
だが問題はそのあとだ。
セリアが突然豹変したかのように、芝居がかった顔つきでテーブルにしがみつく。
「でもね、名無し! ちょっと聞いてよ! この前ありえないことがあったんだけど、エリックの奴許せないっ!」
「え。なにどうしたの」
「向こうの家に泊まりに行ったらね、あいつ、一人の時パソコンでエロサイト見てたんだよっ!」
わああっとウソ泣きしそうな勢いで丸眼鏡を迫られたため、あなたは一瞬引いてしまった。
「いやエリックさんのそういう話、あんまり聞きたくないんだけど……でもねセリアちゃん、男なんだからエロサイトぐらい見るでしょ。どうしてわかったの? 見てるって」
あなたが寄り添って話を聞いていくと、パソコンを使わせてもらったときに履歴を見てしまったらしい。
「勝手に履歴見ちゃだめだよ。プライバシーでしょう」
「わかってるよ、でも調べものしてて消したやつ探そうとしたら、ずらーっと並んでるの見ちゃったんだもん!」
さっきまで男の裸なんてどうでもいいと豪語してた親友の、悲壮感漂う姿に同情心がわく。
確かにその画像の羅列は、女性にとってはショック極まりないものに感じた。
だがセリアの怒りのポイントは他にもあったようだった。
「えっ? 自分とはかけ離れた女性だったの? その動画の人たちが」
「そうなの! 派手なギャルとか手足長いモデルとか! 小柄で愛くるしい私と全然違うんですけど!」
騙されたと言わんばかりにわめくセリアに、あなたは難しい顔をしていたが落ち着いてはいる。
「それはびっくりするけどさ、全員自分にそっくりだった時のほうが怖くない? 自分だったらそっちのほうが恐ろしいよ。だってさ、ほかにそういう人がいたらそっちに行っちゃうかもしれないじゃん。だから、正常な男の範囲だと思うけどなぁ」
気が付くとセリアのじとっとした目に見つめられている。
「本当のこと言いなよ、名無し。自分だったらどうよ」
「えっ……なにが」
「なにとぼけてんの。うちらの仲だよね」
「……うっ。…………まあほんとは……いやだよそりゃ。どっちでも嫌」
「ほらね! あーよかった分かってくれて! 理解ある女のフリすんじゃないよ! 22の小娘が!」
「はあっ? 年関係ある!? 私はねえ、セリアちゃんの心を落ち着かせようとしただけでねえ! ……だってさ、考えても答えが見つかるとは限らないんだよ、こういう問題は。私もさんざん嫌なことあったんだもん、マティアスのことで――」
大体のことを知っている親友の前でぽろっと名前を出すと、気分がどんより落ちてきた。
こういう話題のときは、元カレのことを必ず思い出す。たくさん苦しんできたからだ。
「ごめんねセリアちゃん……気持ちわかるよ。男の生理現象だとわかってても、複雑なものは複雑だよね」
「いや……私こそごめん。確かに名無しは大変だったもんね、あのクズと付き合って、頑張ってきたんだからさ……」
いきなりしおらしくなったセリアからも怒りのムードが消えてきて、二人はしみじみとしていた。
過去のことはもういいが、あなたの頭の中では少しずつ別の不安が広がっていく。
「ヴィクトルもエロサイトとか見るのかな……」
「うーん、どうだろうね。精力的なビジネスマンだからね。あの忘年会にいた彼らは」
鋭い指摘をさらりと受け、あなたも遠い目を宿す。
「サイトは別にしょうがないけどさ……まさかそういうこと、ないよね……今出張中だけど……」
離れているゆえに不安にどんどん覆われていく。今度は自分が藁にも縋る気持ちでセリアを見やってしまった。
「まあ落ち着いて。ヴィクトルさん、今どこにいるんだっけ。今日日曜で休みなんだっけ?」
「うん。週一は休めるみたい。昨日からルーマニアにいるって言ってた。その前はハンガリーに滞在してたけど平日だったから。ルーマニアだけまだ開拓中で支社がないんだって」
落ち着いてきた二人はスマホに視線を落としつつ語り合う。
「てことはホテルが拠点よね。うちら会社員じゃないからよくわかんないけど、相手方との接待とかはあるだろうね。劇団でもめっちゃあるもん」
「接待か……。確かに。女性が同席するのもよくありそうだよね…」
それは仕方ないとしても、あなたはうっすら思い出してしまった。
ヴィクトルが以前クリスと女性のいるラウンジに、会社帰りによく行っていたらしいことを。
前に親友にもそれを伝えたことがある。その時もセリアはあなたと同様、「ありえることだ」と受け止めていたが。
「要はさ、今って行動が分からないもんね。出張中にやる奴多いし。……あっ、青ざめないで名無し」
「うん……」
「まだ続きがあんのよ。私が言いたいのはね、ヴィクトルさんはそういうんじゃない気がするってことなの」
あなたは希望の光を浴びたかのように、彼女を見上げる。
「そう思う?」
「思うね。最初に名無しの家で会ったときも、この前の忘年会のときも。……名無しを見る目がね、もうほかの人を見るときとぜんっぜん!違うのよ。やさしーい、なんていうか愛しき者を慈しみ崇拝するような眼差しで――」
「そこまで言われるとちょっと現実との剥離がさ……」
「いいから自信もって、真実だから! とにかくね。あの人は只者じゃないと思う。クラブに行く話出たときも、ちょっと本気でジェラシーの瞳だったよ。隠してたけどね。名無しは酔っぱらってて気づいてないだろうけど、私は芝居見抜けるから。ごまかせないよ」
自分だって酔ってただろうという突っ込みは置いといて、彼女の言葉にはかなり癒しの作用があった。
そうなのだ。ヴィクトルは、いつでもあなたのことを一番に愛し、包み込んでくれる人だ。
あなたに寄り添うことを労力だとも思わず、どんな時でも誠実に向き合ってくれた。
そんな人を疑うこと自体が、必要のないことだとも思える。
ただ自分の過去や、今の非日常的な状況が、ちょっとした不安を膨らましてるだけなのだと――。
夕方に先に着き、仕切りのあるテーブル席でひとり、スマホをタップしてめくっている。
「ああこれ、作ってくれたケーキだ。可愛いなぁ……」
彼が出張へ行って一週間。短いようで長く、あっという間な感覚はまったくない。
こうして暇なときには思い出の写真を見返し、楽しい気分と淋しい気分を行き来していた。
「ハロー、元気ーっ!? って何してんの名無し! 彼氏の写真なんて見返しちゃって!」
「うわあああッ、びっくりさせないでよっ」
突然背後から肩を揺さぶられて、振り返る。
するといつもの細渕の丸眼鏡にボリュームあるロングカーリーヘアの親友が、笑顔を向けてきた。
彼女はくるりと正面にやって来て、劇団帰りの大きな荷物を置いて座った。
手早く注文し、あなたをつぶらな瞳で見やる。
「ヴィクトルさんいなくて寂しいんだね。わかるわかるぅー」
「ちょっと……からかってない? まあ確かに寂しいんだけどさ。…あっでもね、昨日会社の同僚の女性達が来てくれたって話したでしょ、それでこんな凄いのもらっちゃって――」
あなたは頬を緩ませて、わざわざ持参した写真を鞄から出した。
「おおーっなにこれすごい! ヴィクトルさんイっケメンだなぁ~! クリスさんも若っ! アンドレイさん変わらねぇ~っ」
この間の忘年会で会った顔ぶれを見つけ、二人でおおいに盛り上がる。
好きな人の写真でここまでテンションが上がるのは、まるで学生に戻ったかのようだ。
料理が到着してからも、近況を踏まえたお喋りは止まらない。あなたは久々に感情を思いきり爆発させ楽しんでいた。
「でもさ、思うんだよね。やっぱり会社員の人と付き合うの初めてだし、こういう出張とかも彼は頻繁にあるわけだしさ。寂しくなったりするの普通だとは思うんだけど。なんか私、ちょびっと依存しちゃってるのかな、とか……」
気にしないようにしてもメールを待ってたり、そういう不安定な気持ちを包み隠さず親友に話した。
また笑い飛ばされるかと思ったが、意外にもセリアは真面目な表情を横に振った。
「全っ然。そんなの普通だよ。依存ってのはね、こういう友達の付き合いも全部どうでもよくなって彼のことだけ考えたり、ほかには手がつかなくなるとか、そういうことでしょ? 名無しは違うじゃん、私と会ってくれたりさ。日常生活も普通に送れてるよね? 彼のSNSに張り付いて監視してるとかじゃないでしょ?」
「し、してないしてない。ていうか彼ってSNSやってるのかな…?」
「そんな時間ないか、忙しいもんねえ。あっでもさ、マックスさんはバリバリやってるわよね」
彼女が笑いながら相槌を打ったため、あなたは驚いた。なぜ知ってるのか尋ねると、平然とスマホ画面を見せてくる。
「ほら。忘年会のとき教えてもらったもん。やばくないこれ」
「ええーっ! なにこれっっ」
眼前に並んだ肌色の写真集から、目が逸らせなくなる。
ヴィクトルの大学時代からの悪友でもあり、同僚で営業部長でもあるマックスの、圧倒的な肉体美だ。
上半身裸で濃い金髪が濡れていたり、男らしくセクシーなポーズで流し目をしていたり。
それを衝撃の面持ちで、しばしがっつり見つめてしまった。
「ちょっと、名無し? 見すぎでしょ。確かに40に見えないよね、すっごい良い体してるよなぁこの人。こりゃモテるわ」
「うっうん……。これはすごいね。ヴィクトルともまた違う凄さがあるわ……」
「やだーっ彼氏と比べちゃって、いやらしいその言い方ぁ!」
「あのね、変な声出さないで――」
こんなものを見たと彼にばれてしまったら、大変なことになる。
ドキドキしつつも胸にしまっておこうと、真面目なあなたは自分に言い聞かせることにした。
自分だって過去の恋愛経験は一人だが長かったし、男の裸に免疫がないわけではない。
だがセリアは街の有名シアターに在籍する劇団員であり、男女ともに裸は見慣れてるとあっけらかんとしていた。
「でもさセリアちゃん。連絡先も交換したらしいけど、そういうのエリックさんは大丈夫なの? いやマックスさんは全然安全な人だと思うけどさ。ああ見えて紳士的だし」
「あー大丈夫大丈夫。自分も会ってるからね。てかマックスさん、エリックとも交換してたよ。すごいフットワーク軽いよねあの人」
「えっそうなんだ。私はマックスさんの知らないや」
そう言うと親友は「気を遣ってるんじゃない。ほんとはしたいと思うよ」と笑っていた。
その辺は自分もあまり気にしたことがないのだが、ヴィクトルは嬉しくなさそうな気がするので苦笑しておいた。
だが問題はそのあとだ。
セリアが突然豹変したかのように、芝居がかった顔つきでテーブルにしがみつく。
「でもね、名無し! ちょっと聞いてよ! この前ありえないことがあったんだけど、エリックの奴許せないっ!」
「え。なにどうしたの」
「向こうの家に泊まりに行ったらね、あいつ、一人の時パソコンでエロサイト見てたんだよっ!」
わああっとウソ泣きしそうな勢いで丸眼鏡を迫られたため、あなたは一瞬引いてしまった。
「いやエリックさんのそういう話、あんまり聞きたくないんだけど……でもねセリアちゃん、男なんだからエロサイトぐらい見るでしょ。どうしてわかったの? 見てるって」
あなたが寄り添って話を聞いていくと、パソコンを使わせてもらったときに履歴を見てしまったらしい。
「勝手に履歴見ちゃだめだよ。プライバシーでしょう」
「わかってるよ、でも調べものしてて消したやつ探そうとしたら、ずらーっと並んでるの見ちゃったんだもん!」
さっきまで男の裸なんてどうでもいいと豪語してた親友の、悲壮感漂う姿に同情心がわく。
確かにその画像の羅列は、女性にとってはショック極まりないものに感じた。
だがセリアの怒りのポイントは他にもあったようだった。
「えっ? 自分とはかけ離れた女性だったの? その動画の人たちが」
「そうなの! 派手なギャルとか手足長いモデルとか! 小柄で愛くるしい私と全然違うんですけど!」
騙されたと言わんばかりにわめくセリアに、あなたは難しい顔をしていたが落ち着いてはいる。
「それはびっくりするけどさ、全員自分にそっくりだった時のほうが怖くない? 自分だったらそっちのほうが恐ろしいよ。だってさ、ほかにそういう人がいたらそっちに行っちゃうかもしれないじゃん。だから、正常な男の範囲だと思うけどなぁ」
気が付くとセリアのじとっとした目に見つめられている。
「本当のこと言いなよ、名無し。自分だったらどうよ」
「えっ……なにが」
「なにとぼけてんの。うちらの仲だよね」
「……うっ。…………まあほんとは……いやだよそりゃ。どっちでも嫌」
「ほらね! あーよかった分かってくれて! 理解ある女のフリすんじゃないよ! 22の小娘が!」
「はあっ? 年関係ある!? 私はねえ、セリアちゃんの心を落ち着かせようとしただけでねえ! ……だってさ、考えても答えが見つかるとは限らないんだよ、こういう問題は。私もさんざん嫌なことあったんだもん、マティアスのことで――」
大体のことを知っている親友の前でぽろっと名前を出すと、気分がどんより落ちてきた。
こういう話題のときは、元カレのことを必ず思い出す。たくさん苦しんできたからだ。
「ごめんねセリアちゃん……気持ちわかるよ。男の生理現象だとわかってても、複雑なものは複雑だよね」
「いや……私こそごめん。確かに名無しは大変だったもんね、あのクズと付き合って、頑張ってきたんだからさ……」
いきなりしおらしくなったセリアからも怒りのムードが消えてきて、二人はしみじみとしていた。
過去のことはもういいが、あなたの頭の中では少しずつ別の不安が広がっていく。
「ヴィクトルもエロサイトとか見るのかな……」
「うーん、どうだろうね。精力的なビジネスマンだからね。あの忘年会にいた彼らは」
鋭い指摘をさらりと受け、あなたも遠い目を宿す。
「サイトは別にしょうがないけどさ……まさかそういうこと、ないよね……今出張中だけど……」
離れているゆえに不安にどんどん覆われていく。今度は自分が藁にも縋る気持ちでセリアを見やってしまった。
「まあ落ち着いて。ヴィクトルさん、今どこにいるんだっけ。今日日曜で休みなんだっけ?」
「うん。週一は休めるみたい。昨日からルーマニアにいるって言ってた。その前はハンガリーに滞在してたけど平日だったから。ルーマニアだけまだ開拓中で支社がないんだって」
落ち着いてきた二人はスマホに視線を落としつつ語り合う。
「てことはホテルが拠点よね。うちら会社員じゃないからよくわかんないけど、相手方との接待とかはあるだろうね。劇団でもめっちゃあるもん」
「接待か……。確かに。女性が同席するのもよくありそうだよね…」
それは仕方ないとしても、あなたはうっすら思い出してしまった。
ヴィクトルが以前クリスと女性のいるラウンジに、会社帰りによく行っていたらしいことを。
前に親友にもそれを伝えたことがある。その時もセリアはあなたと同様、「ありえることだ」と受け止めていたが。
「要はさ、今って行動が分からないもんね。出張中にやる奴多いし。……あっ、青ざめないで名無し」
「うん……」
「まだ続きがあんのよ。私が言いたいのはね、ヴィクトルさんはそういうんじゃない気がするってことなの」
あなたは希望の光を浴びたかのように、彼女を見上げる。
「そう思う?」
「思うね。最初に名無しの家で会ったときも、この前の忘年会のときも。……名無しを見る目がね、もうほかの人を見るときとぜんっぜん!違うのよ。やさしーい、なんていうか愛しき者を慈しみ崇拝するような眼差しで――」
「そこまで言われるとちょっと現実との剥離がさ……」
「いいから自信もって、真実だから! とにかくね。あの人は只者じゃないと思う。クラブに行く話出たときも、ちょっと本気でジェラシーの瞳だったよ。隠してたけどね。名無しは酔っぱらってて気づいてないだろうけど、私は芝居見抜けるから。ごまかせないよ」
自分だって酔ってただろうという突っ込みは置いといて、彼女の言葉にはかなり癒しの作用があった。
そうなのだ。ヴィクトルは、いつでもあなたのことを一番に愛し、包み込んでくれる人だ。
あなたに寄り添うことを労力だとも思わず、どんな時でも誠実に向き合ってくれた。
そんな人を疑うこと自体が、必要のないことだとも思える。
ただ自分の過去や、今の非日常的な状況が、ちょっとした不安を膨らましてるだけなのだと――。
