美オヤジを誘って囲われて救われる話
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ヴィクトルが起きてきてから、忘年会は一段と賑やかになった。
彼はセリアやエリックの来訪も心から歓迎してくれていて、その様子にあなたも自然と頬がゆるむ。
「俺のケーキだけ大きくしてくれるなんて、お前らいい奴じゃないか。はっはっは! 本当に美味しいよ、差し入れありがとうねセリアさん、名無しちゃん。エリック、君の魚は速攻で食べられちゃったね。あぁ一足遅かったな」
「また持ってきますよ。レストランでも同じ物をご用意出来ますから、ぜひ皆さん来てください」
彼が眼鏡の奥で微笑むと、真面目に見えて商魂たくましいなと皆から褒められていた。
アンドレイの抹茶も思いのほか好評で、甘いものに合うと皆楽しそうに飲み干していた。
こうして思いがけない交流が生まれていくのが、あなたは嬉しかった。
まだ来たばかりなのに、ここに来て本当によかったと思い始めていたのだ。
「よし、じゃあ全員そろったところで若者達に見て欲しいものがあるんだよね」
ミロがそう突然リモコンを取り出したところで、いつもならば仲間から「もういいよ」とヤジが飛ぶのだが。
「おっ、まさか名無しさんに昔のヴィクトル見せんのか? ははは! おもしれー! どんな反応すんだろ」
「え? え? なんのこと?」
マックスが膝を叩き、あなたは隣で苦笑するヴィクトルを見やる。するとあっという間にテレビの大画面に試合風景が映された。
それは特別映像で、全国大学生ボート大会準決勝のテレビ中継だった。
十五年以上前のもので映像は少し粗いが、晴天の中八つのチームが大きな川で横並びになり、まさに全力でオールを漕いでいる。
「え、すご! これ皆さんなの? 若っ! 皆ムッキムキだなぁ〜!」
楽しそうに反応するセリアとともに、皆も誇らしげな気持ちで歓声を上げる。
あなたはまじまじとその映像に釘付けになっていた。
ズームアップされたカメラ内に、すぐにヴィクトルを見つける。
彼は今よりも短い黒髪で、最後尾のフロリアンの前にいる。ノースリーブから伸びる力強く長い腕を動かし、ボートを前に前に漕いでいる。
「ヴィクトル、格好いい⋯⋯!」
あなたは感動で胸がいっぱいになっていた。
先頭のミロの指揮により、チームで一丸となってゴールを目指す皆の姿。そしてなにより、在りし日の輝かしい彼の姿が。
尊敬と憧れの瞳で彼を振り返る。
「ヴィクトル、私と同い年ぐらい?」
「そうだね。23だから近いね。なんか照れるな。若すぎだろ俺」
彼は余裕な感じではあったが、内心ドギマギしている表情でもあった。
そんな今との比較が、なおさらあなたの心を和ませる。
「どう名無しちゃん。やっぱり若いほうがいい?」
「えっ! 違うよ、そんなことないって! 確かにものすごく格好いいけど、私は今のヴィクトルが一番好きだよ」
皆がいる時に何をへらっと明かしてるのかと思ったが、試合が佳境に近づいて誰も聞いてない。
だからあなたはソファで隣にいるヴィクトルに微笑んで伝えた。
「名無しちゃん⋯⋯!」
彼はまだ酔ってるのか、感激の面持ちで腰にそっと手を回し、頬に一瞬だけキスをした。
「わあっ。興奮しすぎだよ!」
「ごめんごめん。ほっとして」
くすくす笑うヴィクトルが可愛らしい。あなたはまたテレビを見やり、青年真っ只中の凛々しい彼を目に映す。
すると、なんとヴィクトルのボートチームは1位で通過していた。
「えーっ!! すごい! 勝っちゃったよ! 優勝だぁー!」
「いや名無しさん、これ準決勝だから。ふっふっふ、でももちろん決勝のビデオもあるよ。見る?」
「見たいです!」
得意げなミロに身を乗り出して答えると、皆は大きく笑っていた。セリアもエリックも試合に引き込まれ、続きも大盛り上がりで視聴する。
過去の映像で結果もメンバーは分かりきっているのに、彼らにとってもこうして新しい人々と見るのは新鮮だったようだ。
「あーっ! 負けたぁ⋯! なんで⋯⋯もうちょっとだったのに!」
「ちょ、ちょっと名無しちゃん。本気で怒ってるね。ごめんね負けちゃって」
「い、いやそういうわけじゃなくて。だってあんなに頑張ったのに! 悔しいよ〜! ねえセリアちゃん!」
「ホントだよ! むかつくあのチーム! ほら名無し、やけ酒の乾杯しよう!」
「うん!」
あなたは親友のやり口に乗せられ、ぐびぐびと酒を飲む。それはビールよりも度数のあるワインである。
ヴィクトルはもちろん隣で寄り添ってくれていたし、皆と同様に、あなたが本気になって試合を観てくれて嬉しそうだった。
とくにマックスやミロなど、ノリの良い人達と陽気に会話をしながら、好きな南米ワインも口に運ぶ。
「おや、名無しさんもそれお気に入りですか? エリオ、彼女も僕達の上品クラブに勧誘しましょうか」
「はは、なんだいそのネーミング。でもいいね。味わいを語り合える人なら大歓迎だよ」
「わーいやったー、もちろんお喋りになっちゃいますよ! 白のチリワインが特に好きなんです!」
あなたはクリスとエリオの間ではしゃぎながらも、結構自分が酔ってきていると頭の中で自覚していた。
それはもちろん、この男もである。
「大丈夫? 君がそんなに飲んでるところ初めて見たよ。無理してない?」
「ぜんっぜん。私もこんな風になるの珍しいよ。でも全然酔ってないから大丈夫だよ」
気遣ってくれるヴィクトルの肩にこっそりしなだれかかり、意図せぬ上目遣いで見上げる。
彼は明らかに「ん? まずいぞ」と本能的な何かを感じ取ったようだった。
「ねえねえヴィクトルはもう酔ってないの?」
「うん。君に会えたから目が覚めちゃったんだ。だって酔っぱらってたら支えられないでしょ?」
短くウインクされて、あなたは彼の周りに煌めきが見え、ふわっとときめいていく。
「だから名無しちゃんは少しぐらいなら酔っても大丈夫だからね。俺がいるから」
「へへっ。ありがとう。まだまだふつーだけどね。人がいっぱいいたりすると酔っちゃうんだぁ」
完全にリラックスしたあなたは彼の腕に絡まって話した。
「え? 人がいるとこは酔いやすいの?」
「楽しいときだけね」
あなたはさらりと答えたが、少し眉を下げた顔がのぞきこんでくる。その顔を見ていたら、愛おしさが爆発しそうになった。
「それは嬉しいけど⋯⋯心配だな」
「どうして?」
「だって⋯⋯こうやって無防備になっちゃうってことでしょう?」
尋ねられ、あなたはくすくすと楽しそうに笑う。
そのからかう様な、普段とは違う奔放で色めいた表情はよけいに彼をやきもきさせた。
「人が多いとこはあんまり行かないから大丈夫だよ。それに、ヴィクトルがいるから安心しきってるだけだって」
そう流暢に告げるものの、彼の悩ましい瞳に捕らわれる。
「本当⋯? もちろん俺はいつもそばにいるよ。⋯でも、あんまりってどういうことだろう。君もクラブとか行くの?」
「⋯⋯えっ? クラブ!?」
そこだけ大声で反応すると皆が一瞬振り返った。あなたは慌てて首を振る。
「えええええっと、そんなことは、ななななっ」
「ちょっと、そこまで動揺する君は見たことないよ」
「なになに何の話ぃ? クラブがどうしたの名無し〜」
いつの間にかそばに来たセリアが、丸眼鏡をくいくい動かして首を突っ込んできた。
ヴィクトルは心配の種が一度生まれれば、確かめたくなる性分である。ことあなたに関しては。
「あ〜、そういうことか。実はですねえヴィクトルさん。年に2回ほど女子会があるんですよ。場所はクラブですけど、私達は真面目グループなんでおかしなことは一切しておりません!」
「そ⋯そうなのかい? 女子会は楽しそうだね。俺も行動を制限しようとかじゃないからね」
彼はすぐに理解してくれたが、そこにエリックもそばに寄ってきた。床にぺたりと座る彼女の隣に腰を下ろす。
「クラブなんて行くの? セリアちゃん。どこ? 誰と?」
「えっ? いや急にどうしたのあなた。酔ってる?」
普段から落ち着いたエリックだが、彼もまた酒で本音が出やすいのか、セリアに顔を寄せて尋ねていた。
急遽窮地に立たされた若い娘二人のことを、このトラブルメーカーが聞きつけないはずもない。
「なになに? 面白そうなことになってない? 誰と誰がクラブに行くの? 俺も行くぜー!」
一番飲んでいる陽気なマックスがビール瓶片手に叫ぶと、場を察したクリスとアンドレイが制止した。
「お前は入るな、マックス」
「なんでだよ! クラブといったら俺だろうが、なぁお前もだよなクリス!」
「いやちょっと、僕もふしだらな仲間みたいに入れないでくださいよ」
そう口をすべらせたクリスが、あなた達をふと見やった。
「あっ違いますよ! 今のはマックス限定のことですから! 間違っても一般論ではありません、僕も好んで行きますし!」
皆に気を使われるほど、あなたは少しずつ焦っていく。
でも本当は、心からの心配はしていなかった。なぜならおかしなことは何も起こり得ないからだ。
「ヴィクトル、大丈夫大丈夫。怪しいクラブじゃないし、ただひやかしに行って飲んでるだけなんだ。そういう少し陰気なグループなんだ、うちらは」
「⋯そうなの? そんなことないと思うけどな。こんなに可愛い子がいるのに?」
その言い方が面白かったのか、彼はくすりと笑ってあなたを照れさせる。
「よっしゃ、じゃあ今度の飲み会は俺のテリトリーのクラブにするか! ここにいる奴ら全員奢ってやる!」
「あのなぁマックス。今俺は真面目な話をしてるんだから少し静かにしろ」
「心配性だなぁ〜お前も。いいじゃねえかよそんぐらい、若い女の子も時々ハメはずしたくなるって、なあ名無しさん!」
「いや外しませんよ!」
条件反射的なツッコミに皆がウケてくれたので、あなたもひとまず安心したのだが。
ヴィクトルのことだけが気になる。でも自分はちょっとずるいのかもしれない。
彼に気にされたり、少し嫉妬のようなものを感じると、自分のことをそれだけ思ってくれているんだなと考えてしまうのだ。
「へへっ、大丈夫だよ。セリアちゃんもいるし。他の皆もしっかり者だから」
「うん。想像できるよ。でもあれだよ、何かあったらすぐに俺を呼ぶんだよ。いいね名無しちゃん」
「うんっ」
あなたはヴィクトルに問答無用で腕の中に閉じ込められ、顔を緩ませて身を委ねる。
その場には皆もいるけど気にならなかった。
彼がそうしてくれてるように、あなたが持つ彼への愛と忠誠も揺るぎないものだと、この胸が分かっているのだ。
「はいはい皆さん、うまくまとまってきたところでこっちに注目!」
「なんですかミロ。もう試合はいいですから。あなたも空気読んでくださいよ、人事部長でしょう」
「読んでるって! だからな、今から二人の婚約を祝して、乾杯するぞー!」
彼は騒がしい中でもすでにテーブルにシャンパングラスを並べ、準備してくれてたらしい。
ミロの掛け声で男性陣はぞろぞろと立ち上がった。
注目されたあなたも背筋を伸ばし、隣で微笑むヴィクトルのそばで途端に緊張がつのってくる。
見るとセリアとエリックも仲睦まじく寄り添い、あなた達のことを優しい眼差しで見つめている。
「じゃあヴィクトル、なんか一言」
「ああ、そうだな。――名無しちゃん」
「えっ」
彼が乾杯のグラスをもち、あなたに向かって愛おしそうに笑んでいる。
「俺と婚約をしてくれてありがとう。さっきも見たばかりのように、君の魅力に焦ってしまう情けない俺だけど、末永くそばにいさせてほしいな。君は俺の唯一ですべての人だ。心から愛しているよ」
「えっ、ええー!」
ものすごい事を皆の前で言われ、あなたは真っ赤に茹で上がる。
そして自分も何か言わないとと思い、喜びと恥ずかしさの中で彼を見上げた。
「よ⋯⋯酔っ払った姿でも愛してる?」
「もちろん。とっても可愛いよ」
あなたの気弱な質問に彼が柔らかな表情で即答し、心の中が急激に沸騰して溶かされていく。
「⋯⋯私のほうこそ末永くよろしくお願いします! そして皆さん、お祝いしてくださりほんとにありがとうございます!」
ぺこりと赤い顔で頭を下げると、皆の温かい声と拍手が巻き起こった。
そして乾杯の渦へと誘われていく。
興奮醒めやらないでいると、隣にはヴィクトルの瞳を細めた笑顔があった。
照れていると彼のほうへ抱き寄せられる。
「こ、こういうの下手でごめん」
「どこがだい? ものすごく素敵で可愛かったよ。俺の名無しちゃん」
「⋯⋯まだ酔ってるでしょヴィクトル」
「ちょっとね。君は?」
「緊張して醒めちゃったかも」
「なんだ。残念だな」
二人の甘い会話は盛り上がる皆の声に隠されている。
あなたはドキドキしながら、自分の指に光る指輪と、その手を握ってくれる彼の大きな手を見つめた。
ああ早く、彼にも指輪を渡したい。
与えられる以上の幸せを自分も返していけたらな――。
その夜、あなたは友人らに祝われる夢のような光景にいた。
ヴィクトルの幸せそうな横顔は忘れられないものとして、じんわり胸に刻まれていった。
彼はセリアやエリックの来訪も心から歓迎してくれていて、その様子にあなたも自然と頬がゆるむ。
「俺のケーキだけ大きくしてくれるなんて、お前らいい奴じゃないか。はっはっは! 本当に美味しいよ、差し入れありがとうねセリアさん、名無しちゃん。エリック、君の魚は速攻で食べられちゃったね。あぁ一足遅かったな」
「また持ってきますよ。レストランでも同じ物をご用意出来ますから、ぜひ皆さん来てください」
彼が眼鏡の奥で微笑むと、真面目に見えて商魂たくましいなと皆から褒められていた。
アンドレイの抹茶も思いのほか好評で、甘いものに合うと皆楽しそうに飲み干していた。
こうして思いがけない交流が生まれていくのが、あなたは嬉しかった。
まだ来たばかりなのに、ここに来て本当によかったと思い始めていたのだ。
「よし、じゃあ全員そろったところで若者達に見て欲しいものがあるんだよね」
ミロがそう突然リモコンを取り出したところで、いつもならば仲間から「もういいよ」とヤジが飛ぶのだが。
「おっ、まさか名無しさんに昔のヴィクトル見せんのか? ははは! おもしれー! どんな反応すんだろ」
「え? え? なんのこと?」
マックスが膝を叩き、あなたは隣で苦笑するヴィクトルを見やる。するとあっという間にテレビの大画面に試合風景が映された。
それは特別映像で、全国大学生ボート大会準決勝のテレビ中継だった。
十五年以上前のもので映像は少し粗いが、晴天の中八つのチームが大きな川で横並びになり、まさに全力でオールを漕いでいる。
「え、すご! これ皆さんなの? 若っ! 皆ムッキムキだなぁ〜!」
楽しそうに反応するセリアとともに、皆も誇らしげな気持ちで歓声を上げる。
あなたはまじまじとその映像に釘付けになっていた。
ズームアップされたカメラ内に、すぐにヴィクトルを見つける。
彼は今よりも短い黒髪で、最後尾のフロリアンの前にいる。ノースリーブから伸びる力強く長い腕を動かし、ボートを前に前に漕いでいる。
「ヴィクトル、格好いい⋯⋯!」
あなたは感動で胸がいっぱいになっていた。
先頭のミロの指揮により、チームで一丸となってゴールを目指す皆の姿。そしてなにより、在りし日の輝かしい彼の姿が。
尊敬と憧れの瞳で彼を振り返る。
「ヴィクトル、私と同い年ぐらい?」
「そうだね。23だから近いね。なんか照れるな。若すぎだろ俺」
彼は余裕な感じではあったが、内心ドギマギしている表情でもあった。
そんな今との比較が、なおさらあなたの心を和ませる。
「どう名無しちゃん。やっぱり若いほうがいい?」
「えっ! 違うよ、そんなことないって! 確かにものすごく格好いいけど、私は今のヴィクトルが一番好きだよ」
皆がいる時に何をへらっと明かしてるのかと思ったが、試合が佳境に近づいて誰も聞いてない。
だからあなたはソファで隣にいるヴィクトルに微笑んで伝えた。
「名無しちゃん⋯⋯!」
彼はまだ酔ってるのか、感激の面持ちで腰にそっと手を回し、頬に一瞬だけキスをした。
「わあっ。興奮しすぎだよ!」
「ごめんごめん。ほっとして」
くすくす笑うヴィクトルが可愛らしい。あなたはまたテレビを見やり、青年真っ只中の凛々しい彼を目に映す。
すると、なんとヴィクトルのボートチームは1位で通過していた。
「えーっ!! すごい! 勝っちゃったよ! 優勝だぁー!」
「いや名無しさん、これ準決勝だから。ふっふっふ、でももちろん決勝のビデオもあるよ。見る?」
「見たいです!」
得意げなミロに身を乗り出して答えると、皆は大きく笑っていた。セリアもエリックも試合に引き込まれ、続きも大盛り上がりで視聴する。
過去の映像で結果もメンバーは分かりきっているのに、彼らにとってもこうして新しい人々と見るのは新鮮だったようだ。
「あーっ! 負けたぁ⋯! なんで⋯⋯もうちょっとだったのに!」
「ちょ、ちょっと名無しちゃん。本気で怒ってるね。ごめんね負けちゃって」
「い、いやそういうわけじゃなくて。だってあんなに頑張ったのに! 悔しいよ〜! ねえセリアちゃん!」
「ホントだよ! むかつくあのチーム! ほら名無し、やけ酒の乾杯しよう!」
「うん!」
あなたは親友のやり口に乗せられ、ぐびぐびと酒を飲む。それはビールよりも度数のあるワインである。
ヴィクトルはもちろん隣で寄り添ってくれていたし、皆と同様に、あなたが本気になって試合を観てくれて嬉しそうだった。
とくにマックスやミロなど、ノリの良い人達と陽気に会話をしながら、好きな南米ワインも口に運ぶ。
「おや、名無しさんもそれお気に入りですか? エリオ、彼女も僕達の上品クラブに勧誘しましょうか」
「はは、なんだいそのネーミング。でもいいね。味わいを語り合える人なら大歓迎だよ」
「わーいやったー、もちろんお喋りになっちゃいますよ! 白のチリワインが特に好きなんです!」
あなたはクリスとエリオの間ではしゃぎながらも、結構自分が酔ってきていると頭の中で自覚していた。
それはもちろん、この男もである。
「大丈夫? 君がそんなに飲んでるところ初めて見たよ。無理してない?」
「ぜんっぜん。私もこんな風になるの珍しいよ。でも全然酔ってないから大丈夫だよ」
気遣ってくれるヴィクトルの肩にこっそりしなだれかかり、意図せぬ上目遣いで見上げる。
彼は明らかに「ん? まずいぞ」と本能的な何かを感じ取ったようだった。
「ねえねえヴィクトルはもう酔ってないの?」
「うん。君に会えたから目が覚めちゃったんだ。だって酔っぱらってたら支えられないでしょ?」
短くウインクされて、あなたは彼の周りに煌めきが見え、ふわっとときめいていく。
「だから名無しちゃんは少しぐらいなら酔っても大丈夫だからね。俺がいるから」
「へへっ。ありがとう。まだまだふつーだけどね。人がいっぱいいたりすると酔っちゃうんだぁ」
完全にリラックスしたあなたは彼の腕に絡まって話した。
「え? 人がいるとこは酔いやすいの?」
「楽しいときだけね」
あなたはさらりと答えたが、少し眉を下げた顔がのぞきこんでくる。その顔を見ていたら、愛おしさが爆発しそうになった。
「それは嬉しいけど⋯⋯心配だな」
「どうして?」
「だって⋯⋯こうやって無防備になっちゃうってことでしょう?」
尋ねられ、あなたはくすくすと楽しそうに笑う。
そのからかう様な、普段とは違う奔放で色めいた表情はよけいに彼をやきもきさせた。
「人が多いとこはあんまり行かないから大丈夫だよ。それに、ヴィクトルがいるから安心しきってるだけだって」
そう流暢に告げるものの、彼の悩ましい瞳に捕らわれる。
「本当⋯? もちろん俺はいつもそばにいるよ。⋯でも、あんまりってどういうことだろう。君もクラブとか行くの?」
「⋯⋯えっ? クラブ!?」
そこだけ大声で反応すると皆が一瞬振り返った。あなたは慌てて首を振る。
「えええええっと、そんなことは、ななななっ」
「ちょっと、そこまで動揺する君は見たことないよ」
「なになに何の話ぃ? クラブがどうしたの名無し〜」
いつの間にかそばに来たセリアが、丸眼鏡をくいくい動かして首を突っ込んできた。
ヴィクトルは心配の種が一度生まれれば、確かめたくなる性分である。ことあなたに関しては。
「あ〜、そういうことか。実はですねえヴィクトルさん。年に2回ほど女子会があるんですよ。場所はクラブですけど、私達は真面目グループなんでおかしなことは一切しておりません!」
「そ⋯そうなのかい? 女子会は楽しそうだね。俺も行動を制限しようとかじゃないからね」
彼はすぐに理解してくれたが、そこにエリックもそばに寄ってきた。床にぺたりと座る彼女の隣に腰を下ろす。
「クラブなんて行くの? セリアちゃん。どこ? 誰と?」
「えっ? いや急にどうしたのあなた。酔ってる?」
普段から落ち着いたエリックだが、彼もまた酒で本音が出やすいのか、セリアに顔を寄せて尋ねていた。
急遽窮地に立たされた若い娘二人のことを、このトラブルメーカーが聞きつけないはずもない。
「なになに? 面白そうなことになってない? 誰と誰がクラブに行くの? 俺も行くぜー!」
一番飲んでいる陽気なマックスがビール瓶片手に叫ぶと、場を察したクリスとアンドレイが制止した。
「お前は入るな、マックス」
「なんでだよ! クラブといったら俺だろうが、なぁお前もだよなクリス!」
「いやちょっと、僕もふしだらな仲間みたいに入れないでくださいよ」
そう口をすべらせたクリスが、あなた達をふと見やった。
「あっ違いますよ! 今のはマックス限定のことですから! 間違っても一般論ではありません、僕も好んで行きますし!」
皆に気を使われるほど、あなたは少しずつ焦っていく。
でも本当は、心からの心配はしていなかった。なぜならおかしなことは何も起こり得ないからだ。
「ヴィクトル、大丈夫大丈夫。怪しいクラブじゃないし、ただひやかしに行って飲んでるだけなんだ。そういう少し陰気なグループなんだ、うちらは」
「⋯そうなの? そんなことないと思うけどな。こんなに可愛い子がいるのに?」
その言い方が面白かったのか、彼はくすりと笑ってあなたを照れさせる。
「よっしゃ、じゃあ今度の飲み会は俺のテリトリーのクラブにするか! ここにいる奴ら全員奢ってやる!」
「あのなぁマックス。今俺は真面目な話をしてるんだから少し静かにしろ」
「心配性だなぁ〜お前も。いいじゃねえかよそんぐらい、若い女の子も時々ハメはずしたくなるって、なあ名無しさん!」
「いや外しませんよ!」
条件反射的なツッコミに皆がウケてくれたので、あなたもひとまず安心したのだが。
ヴィクトルのことだけが気になる。でも自分はちょっとずるいのかもしれない。
彼に気にされたり、少し嫉妬のようなものを感じると、自分のことをそれだけ思ってくれているんだなと考えてしまうのだ。
「へへっ、大丈夫だよ。セリアちゃんもいるし。他の皆もしっかり者だから」
「うん。想像できるよ。でもあれだよ、何かあったらすぐに俺を呼ぶんだよ。いいね名無しちゃん」
「うんっ」
あなたはヴィクトルに問答無用で腕の中に閉じ込められ、顔を緩ませて身を委ねる。
その場には皆もいるけど気にならなかった。
彼がそうしてくれてるように、あなたが持つ彼への愛と忠誠も揺るぎないものだと、この胸が分かっているのだ。
「はいはい皆さん、うまくまとまってきたところでこっちに注目!」
「なんですかミロ。もう試合はいいですから。あなたも空気読んでくださいよ、人事部長でしょう」
「読んでるって! だからな、今から二人の婚約を祝して、乾杯するぞー!」
彼は騒がしい中でもすでにテーブルにシャンパングラスを並べ、準備してくれてたらしい。
ミロの掛け声で男性陣はぞろぞろと立ち上がった。
注目されたあなたも背筋を伸ばし、隣で微笑むヴィクトルのそばで途端に緊張がつのってくる。
見るとセリアとエリックも仲睦まじく寄り添い、あなた達のことを優しい眼差しで見つめている。
「じゃあヴィクトル、なんか一言」
「ああ、そうだな。――名無しちゃん」
「えっ」
彼が乾杯のグラスをもち、あなたに向かって愛おしそうに笑んでいる。
「俺と婚約をしてくれてありがとう。さっきも見たばかりのように、君の魅力に焦ってしまう情けない俺だけど、末永くそばにいさせてほしいな。君は俺の唯一ですべての人だ。心から愛しているよ」
「えっ、ええー!」
ものすごい事を皆の前で言われ、あなたは真っ赤に茹で上がる。
そして自分も何か言わないとと思い、喜びと恥ずかしさの中で彼を見上げた。
「よ⋯⋯酔っ払った姿でも愛してる?」
「もちろん。とっても可愛いよ」
あなたの気弱な質問に彼が柔らかな表情で即答し、心の中が急激に沸騰して溶かされていく。
「⋯⋯私のほうこそ末永くよろしくお願いします! そして皆さん、お祝いしてくださりほんとにありがとうございます!」
ぺこりと赤い顔で頭を下げると、皆の温かい声と拍手が巻き起こった。
そして乾杯の渦へと誘われていく。
興奮醒めやらないでいると、隣にはヴィクトルの瞳を細めた笑顔があった。
照れていると彼のほうへ抱き寄せられる。
「こ、こういうの下手でごめん」
「どこがだい? ものすごく素敵で可愛かったよ。俺の名無しちゃん」
「⋯⋯まだ酔ってるでしょヴィクトル」
「ちょっとね。君は?」
「緊張して醒めちゃったかも」
「なんだ。残念だな」
二人の甘い会話は盛り上がる皆の声に隠されている。
あなたはドキドキしながら、自分の指に光る指輪と、その手を握ってくれる彼の大きな手を見つめた。
ああ早く、彼にも指輪を渡したい。
与えられる以上の幸せを自分も返していけたらな――。
その夜、あなたは友人らに祝われる夢のような光景にいた。
ヴィクトルの幸せそうな横顔は忘れられないものとして、じんわり胸に刻まれていった。
