美オヤジを誘って囲われて救われる話
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年末に彼と会う約束があったあなたは、その前に勤務するブティックにいた。
冬休暇に入った洋館風の店内で、オーナーのイリスと共にジュエリーアーティストの見本品を見ている。
「どう名無しちゃん、ほんとにこれにするの?」
「うん! やっぱり一番素敵だよ、男らしさと優美さが調和してて、彼にぴったりだと思う」
「ふふっ。いいセンスだと思うわよ。じゃあ指輪サイズも伝えてあるから、これを頼みましょう」
カウンターに並べられた品を二人で見下ろし、あなたはうっとりと熱いため息を吐いた。
これは前もってカタログで選んだ、ヴィクトルに贈るための指輪なのだ。
「イリスさん、本当にありがとう。お店と提携する皆さんの憧れの品々からオーダーできるの、すごく嬉しいよ」
「いいのよ、当たり前じゃない。名無しちゃんの一大イベントなんだから。なんだっけその、メルヘンチックなアイテムの――」
「婚約の証だよ!」
「ああそうそう、それそれ。ヴィクトルも幸せよね〜こんな可愛い女の子から素敵な指輪もらえて」
ふわっと耽美的な黒ドレスを着た巻き髪の淑女が、あなたの肩を撫でて微笑んでくれる。
「でも大丈夫なのよね? 貢がされたりしてないわよね?」
「もうしてないってば、これのお返しなんだから。へへ」
あなたの右手指に光る可憐なリングに、彼女もほっと納得した顔で頷いた。
「イリスさんも今度会ってくれるんだよね。びっくりしたけどありがたいよ。どうかお手柔らかにね」
「なにそれ、私優しいでしょう? お母さんともドキドキしちゃっててさ、美容院行かないと。気合い入ってるわよ」
「ええっ、普通でいいよ。二人ともすでに綺麗でしょ」
普段はオーナーと従業員の関係だが、あなたは母の親友のイリスと昔に戻ったみたいに笑い合っていた。
こうして両親や家族同然の皆に、彼との仲を堂々と話題にできることは、とても嬉しくありがたい気持ちでいっぱいだった。
ーーー
その日、ヴィクトルがあなたのアパートメントに来てくれた。クリスマスはお互い実家に帰っていたので、会うのは数日ぶりでも話が弾む。
1LDKだが広めのリビングで、白い家具でまとめられた女性らしい空間だ。
二人はゆったりした部屋着で中央のソファに座り、くつろいでいた。
「はい、これ俺の親から名無しちゃんにおみやげ。お菓子と紅茶だね。地元の特産品なんだ」
「わあぁ、どうもありがとう! 可愛いセットだなぁ〜お礼伝えてね」
彼の母のクレアとは面識があるが、二人ともまだ付き合いの短い自分に親切にしてくれて、深く感謝の念が湧く。
「婚約のこと、お話したの? 大丈夫だった?」
「うん、すごく喜んでたよ。俺には「しっかりしろ」攻撃がすごかったけどね」
緩やかな黒髪をかきあげて苦笑する彼に、あなたも安心しつつ微笑む。
彼の両親の応援にとても嬉しくなったが、二人の年齢差から自分や親のことを変わらず気遣ってくれているようだ。
だからあなたはここぞとばかりに、ヴィクトルにも両親からの贈り物を渡した。三人ともお酒が好きなこともあり、箱入りの地元の蒸留酒である。
「えっ、俺にも? 本当にもらっちゃっていいのかな、すごく美味しそうなウイスキーだ。どうもありがとうございますってお礼を伝えてくれるかい」
「うん、もちろんだよ!」
彼は喜びと恐縮が混ざり合った様子だったが、やがてあなたを真面目な表情で見つめ始める。
「ところで、家で大丈夫だったかな。名無しちゃんがご両親とお話してくれてたんだよね?」
「そうなんだ。二人とも心配してくれててね、お母さんはすごく応援してる感じなんだけど、最初お父さんが――」
あなたはオブラートに包みながらも、父の懸念や心配事などを正直に話した。
「私の引っ込み思案な性格よく知ってるから、自分の気持ち言えないんじゃないかって思ったみたいなんだ。でもちゃんと私達の安心できる関係性とか話したし、分かってくれたよ。まあ会って確かめるとか言ってたけど」
はは、と重くならないように説明すると、彼の真っ直ぐな瞳はじっくり聞いてくれていて、深く相槌を打っていた。
「そうだったんだね。⋯⋯うん、お父さんの考えはよく分かる。もちろん君はしっかりした芯の強い女性だし、流されるような人じゃないよ。でも中年の男が近づいてきて翻弄されてたら、って心配になるのは当然だよ」
彼は思慮深く伝えながら、それでも決意をこめた手のひらの中に、あなたの手をぎゅっと招く。
「それなのに俺に会ってくれるって言ってもらえて、本当にありがたいよ。名無しちゃん、大丈夫だからね。俺も納得してもらえるように、君のご両親に、エレーネさんとステファンさんにきちんとお話させてもらいたい。よろしくね」
あなたは真摯な彼の言葉に心が掴まれる。親に懸念があると伝えれば、普通は面倒だったり及び腰になるだろう。
ヴィクトルはそんな様子を微塵も感じさせず、前々から彼自身も確固たる心構えがあるようだった。
「ありがとう、ヴィクトル⋯」
「それは俺の台詞だよ。俺達のこと、話してくれてありがとうね。俺も頑張るからね」
にこりと笑む顔を見ていると、あなたは彼の脇に両腕を差し込み、胸にうずまった。背中を抱きしめながら、この人で良かったと思う。
やがて体をそっと離し、彼のことを見つめる眼差しが曇る。
そんなどんよりした仕草を、ヴィクトルは見逃さなかった。
「どうしたの名無しちゃん、大丈夫?」
「うん。大丈夫なんだけどね⋯⋯まだ話すことあって」
こんな前向きな良い雰囲気の中で、元カレのことを言おうとしてる自分に、少しためらいが生じる。
加えて元カレのことを思い出すこと自体が、時折すごく神経に障るのだ。
「⋯⋯名無しちゃん? ごめんね、俺が何でも話してっていったこと。もし嫌なのに、無理に話さなきゃなんて考えてたら、それは違うし言わなくていいんだよ」
「ううん、そうじゃないの。雰囲気を壊したくないだけなんだ。私はヴィクトルにそう言ってもらえて、本当にほっとして嬉しかったよ」
そう本心を伝えて、あなたは払拭するように覚悟を決めて口にした。
「実はね、実家に帰ったとき、精肉店でマティアスに偶然会ったんだ。それで話しかけられてさ」
「え?」
彼の表情を見上げると、本当に予想外のことだったらしく一瞬でシリアスな顔つきになり、眉間に皺が寄った。
「それで、何か言われたのかい? 何があったの?」
「うん⋯⋯私に謝ってきて、友達に戻れるんじゃないかって言ってきた」
そう話すと、ヴィクトルは怒りと不愉快さを露わにした。言葉を押し殺し、彼がまとったピリピリした空気にあなたもやや圧倒される。
「馬鹿なんだな、そいつは⋯⋯」
「うん。バカなんだ。あんまり人の気持ちが分からないんだ、彼は」
瞳を沈ませたあなたは、ヴィクトルの手をぎゅっと握って、こうも伝えた。
「でもね、私言い返したよ。もうあんたのことなんか考えてないし、話しかけないでって。すごいでしょう? だから大丈夫だよ、ヴィクトル。心配いらないからね」
彼に笑みを向けたが、無理して作ったのではない。心からの宣言と清らかな達成感も入っていた。
そしてそれがヴィクトルにはまっすぐに伝わる。あなたの気持ちはいつも彼にだけは何の曇りもなく、胸の中に伝わっていくのだ。
ヴィクトルは呼吸をするのを一瞬忘れたかのように、驚き瞳を揺らしたが、すぐにあなたのことを力強く抱き寄せた。
内容はもちろんだが、あなたがそうしてふっきれた顔で喜びとともに伝えてきたことが、彼の心を大きく震わせたのだった。
「⋯⋯名無しちゃん! うん、よく頑張ったね。君は凄いよ、偉かったよ。一人でよく立ち向かったね」
「うん! へへ、ありがとう。褒めてくれて」
彼を見つめるあなたの瞳は、純粋な嬉しさに満たされている。
ヴィクトルは愛しい思いがあふれ、さらに強く両腕で抱きしめた。
その時間が長かったため、少し心配になってくる。
彼の気持ちは大丈夫だろうかと。また余計な気がかりを増やしたんじゃないかと。
あなたは思いきって尋ねてみた。もう心にしまうことはしない。
すると彼は安心させるように瞳を柔らかくする。
「俺は大丈夫。本当言うとね、腸が煮えくり返ってるよ、そいつに対して。ごめんね、怖かったら」
「えっ? 平気? そんなに怒んないでね、血圧上がっちゃうよ」
あなたが半分本気で彼のこめかみを優しくほぐそうとすると、小さな笑いが漏れてきて、あなたの上半身はより近くに抱えられた。
「君って子は⋯⋯俺の心配はいいからね。俺は君が心配なんだよ、名無しちゃん。⋯⋯でも、ほんとに教えてくれてありがとう。いいかい、何かあったらすぐに言って。電話でもいい、いつでも平気だから」
「うん、わかったよ。すぐ言うよ。そしたら飛んできてくれるの?」
あなたは彼の背中をさすりながら問う。
すると彼の黒髪が頬をなでるように上下に動いた。
「そうだよ。飛んでいって君に近づく奴をぶん殴ってやる」
「もう。まだすごい怒ってるじゃん、大丈夫だよ。偶然会っただけだし、もう無いんだからね」
あなたは何故か立場が逆転したかのように、彼の髪を優しい手つきで梳きながら微笑んだ。
ヴィクトルの切なげな面持ちが少し可愛らしく、愛おしくて見つめ合ってしまう。
「⋯⋯ああ。本当に君が好きだ。俺はどうしたらいい」
「そのままでいいってば。私も大好き。ヴィクトルのこと」
あなたはくすくすと嬉しそうに笑いながら、そのあとしばらく彼の腕の中で、何度も愛のこめられたキスをされていた。
冬休暇に入った洋館風の店内で、オーナーのイリスと共にジュエリーアーティストの見本品を見ている。
「どう名無しちゃん、ほんとにこれにするの?」
「うん! やっぱり一番素敵だよ、男らしさと優美さが調和してて、彼にぴったりだと思う」
「ふふっ。いいセンスだと思うわよ。じゃあ指輪サイズも伝えてあるから、これを頼みましょう」
カウンターに並べられた品を二人で見下ろし、あなたはうっとりと熱いため息を吐いた。
これは前もってカタログで選んだ、ヴィクトルに贈るための指輪なのだ。
「イリスさん、本当にありがとう。お店と提携する皆さんの憧れの品々からオーダーできるの、すごく嬉しいよ」
「いいのよ、当たり前じゃない。名無しちゃんの一大イベントなんだから。なんだっけその、メルヘンチックなアイテムの――」
「婚約の証だよ!」
「ああそうそう、それそれ。ヴィクトルも幸せよね〜こんな可愛い女の子から素敵な指輪もらえて」
ふわっと耽美的な黒ドレスを着た巻き髪の淑女が、あなたの肩を撫でて微笑んでくれる。
「でも大丈夫なのよね? 貢がされたりしてないわよね?」
「もうしてないってば、これのお返しなんだから。へへ」
あなたの右手指に光る可憐なリングに、彼女もほっと納得した顔で頷いた。
「イリスさんも今度会ってくれるんだよね。びっくりしたけどありがたいよ。どうかお手柔らかにね」
「なにそれ、私優しいでしょう? お母さんともドキドキしちゃっててさ、美容院行かないと。気合い入ってるわよ」
「ええっ、普通でいいよ。二人ともすでに綺麗でしょ」
普段はオーナーと従業員の関係だが、あなたは母の親友のイリスと昔に戻ったみたいに笑い合っていた。
こうして両親や家族同然の皆に、彼との仲を堂々と話題にできることは、とても嬉しくありがたい気持ちでいっぱいだった。
ーーー
その日、ヴィクトルがあなたのアパートメントに来てくれた。クリスマスはお互い実家に帰っていたので、会うのは数日ぶりでも話が弾む。
1LDKだが広めのリビングで、白い家具でまとめられた女性らしい空間だ。
二人はゆったりした部屋着で中央のソファに座り、くつろいでいた。
「はい、これ俺の親から名無しちゃんにおみやげ。お菓子と紅茶だね。地元の特産品なんだ」
「わあぁ、どうもありがとう! 可愛いセットだなぁ〜お礼伝えてね」
彼の母のクレアとは面識があるが、二人ともまだ付き合いの短い自分に親切にしてくれて、深く感謝の念が湧く。
「婚約のこと、お話したの? 大丈夫だった?」
「うん、すごく喜んでたよ。俺には「しっかりしろ」攻撃がすごかったけどね」
緩やかな黒髪をかきあげて苦笑する彼に、あなたも安心しつつ微笑む。
彼の両親の応援にとても嬉しくなったが、二人の年齢差から自分や親のことを変わらず気遣ってくれているようだ。
だからあなたはここぞとばかりに、ヴィクトルにも両親からの贈り物を渡した。三人ともお酒が好きなこともあり、箱入りの地元の蒸留酒である。
「えっ、俺にも? 本当にもらっちゃっていいのかな、すごく美味しそうなウイスキーだ。どうもありがとうございますってお礼を伝えてくれるかい」
「うん、もちろんだよ!」
彼は喜びと恐縮が混ざり合った様子だったが、やがてあなたを真面目な表情で見つめ始める。
「ところで、家で大丈夫だったかな。名無しちゃんがご両親とお話してくれてたんだよね?」
「そうなんだ。二人とも心配してくれててね、お母さんはすごく応援してる感じなんだけど、最初お父さんが――」
あなたはオブラートに包みながらも、父の懸念や心配事などを正直に話した。
「私の引っ込み思案な性格よく知ってるから、自分の気持ち言えないんじゃないかって思ったみたいなんだ。でもちゃんと私達の安心できる関係性とか話したし、分かってくれたよ。まあ会って確かめるとか言ってたけど」
はは、と重くならないように説明すると、彼の真っ直ぐな瞳はじっくり聞いてくれていて、深く相槌を打っていた。
「そうだったんだね。⋯⋯うん、お父さんの考えはよく分かる。もちろん君はしっかりした芯の強い女性だし、流されるような人じゃないよ。でも中年の男が近づいてきて翻弄されてたら、って心配になるのは当然だよ」
彼は思慮深く伝えながら、それでも決意をこめた手のひらの中に、あなたの手をぎゅっと招く。
「それなのに俺に会ってくれるって言ってもらえて、本当にありがたいよ。名無しちゃん、大丈夫だからね。俺も納得してもらえるように、君のご両親に、エレーネさんとステファンさんにきちんとお話させてもらいたい。よろしくね」
あなたは真摯な彼の言葉に心が掴まれる。親に懸念があると伝えれば、普通は面倒だったり及び腰になるだろう。
ヴィクトルはそんな様子を微塵も感じさせず、前々から彼自身も確固たる心構えがあるようだった。
「ありがとう、ヴィクトル⋯」
「それは俺の台詞だよ。俺達のこと、話してくれてありがとうね。俺も頑張るからね」
にこりと笑む顔を見ていると、あなたは彼の脇に両腕を差し込み、胸にうずまった。背中を抱きしめながら、この人で良かったと思う。
やがて体をそっと離し、彼のことを見つめる眼差しが曇る。
そんなどんよりした仕草を、ヴィクトルは見逃さなかった。
「どうしたの名無しちゃん、大丈夫?」
「うん。大丈夫なんだけどね⋯⋯まだ話すことあって」
こんな前向きな良い雰囲気の中で、元カレのことを言おうとしてる自分に、少しためらいが生じる。
加えて元カレのことを思い出すこと自体が、時折すごく神経に障るのだ。
「⋯⋯名無しちゃん? ごめんね、俺が何でも話してっていったこと。もし嫌なのに、無理に話さなきゃなんて考えてたら、それは違うし言わなくていいんだよ」
「ううん、そうじゃないの。雰囲気を壊したくないだけなんだ。私はヴィクトルにそう言ってもらえて、本当にほっとして嬉しかったよ」
そう本心を伝えて、あなたは払拭するように覚悟を決めて口にした。
「実はね、実家に帰ったとき、精肉店でマティアスに偶然会ったんだ。それで話しかけられてさ」
「え?」
彼の表情を見上げると、本当に予想外のことだったらしく一瞬でシリアスな顔つきになり、眉間に皺が寄った。
「それで、何か言われたのかい? 何があったの?」
「うん⋯⋯私に謝ってきて、友達に戻れるんじゃないかって言ってきた」
そう話すと、ヴィクトルは怒りと不愉快さを露わにした。言葉を押し殺し、彼がまとったピリピリした空気にあなたもやや圧倒される。
「馬鹿なんだな、そいつは⋯⋯」
「うん。バカなんだ。あんまり人の気持ちが分からないんだ、彼は」
瞳を沈ませたあなたは、ヴィクトルの手をぎゅっと握って、こうも伝えた。
「でもね、私言い返したよ。もうあんたのことなんか考えてないし、話しかけないでって。すごいでしょう? だから大丈夫だよ、ヴィクトル。心配いらないからね」
彼に笑みを向けたが、無理して作ったのではない。心からの宣言と清らかな達成感も入っていた。
そしてそれがヴィクトルにはまっすぐに伝わる。あなたの気持ちはいつも彼にだけは何の曇りもなく、胸の中に伝わっていくのだ。
ヴィクトルは呼吸をするのを一瞬忘れたかのように、驚き瞳を揺らしたが、すぐにあなたのことを力強く抱き寄せた。
内容はもちろんだが、あなたがそうしてふっきれた顔で喜びとともに伝えてきたことが、彼の心を大きく震わせたのだった。
「⋯⋯名無しちゃん! うん、よく頑張ったね。君は凄いよ、偉かったよ。一人でよく立ち向かったね」
「うん! へへ、ありがとう。褒めてくれて」
彼を見つめるあなたの瞳は、純粋な嬉しさに満たされている。
ヴィクトルは愛しい思いがあふれ、さらに強く両腕で抱きしめた。
その時間が長かったため、少し心配になってくる。
彼の気持ちは大丈夫だろうかと。また余計な気がかりを増やしたんじゃないかと。
あなたは思いきって尋ねてみた。もう心にしまうことはしない。
すると彼は安心させるように瞳を柔らかくする。
「俺は大丈夫。本当言うとね、腸が煮えくり返ってるよ、そいつに対して。ごめんね、怖かったら」
「えっ? 平気? そんなに怒んないでね、血圧上がっちゃうよ」
あなたが半分本気で彼のこめかみを優しくほぐそうとすると、小さな笑いが漏れてきて、あなたの上半身はより近くに抱えられた。
「君って子は⋯⋯俺の心配はいいからね。俺は君が心配なんだよ、名無しちゃん。⋯⋯でも、ほんとに教えてくれてありがとう。いいかい、何かあったらすぐに言って。電話でもいい、いつでも平気だから」
「うん、わかったよ。すぐ言うよ。そしたら飛んできてくれるの?」
あなたは彼の背中をさすりながら問う。
すると彼の黒髪が頬をなでるように上下に動いた。
「そうだよ。飛んでいって君に近づく奴をぶん殴ってやる」
「もう。まだすごい怒ってるじゃん、大丈夫だよ。偶然会っただけだし、もう無いんだからね」
あなたは何故か立場が逆転したかのように、彼の髪を優しい手つきで梳きながら微笑んだ。
ヴィクトルの切なげな面持ちが少し可愛らしく、愛おしくて見つめ合ってしまう。
「⋯⋯ああ。本当に君が好きだ。俺はどうしたらいい」
「そのままでいいってば。私も大好き。ヴィクトルのこと」
あなたはくすくすと嬉しそうに笑いながら、そのあとしばらく彼の腕の中で、何度も愛のこめられたキスをされていた。
