美オヤジを誘って囲われて救われる話
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イブから25日の今日まで、あなたはヴィクトルと二人で過ごせた。
そして午後になった今、実家のある地元に帰ってきている。
今住んでいる都市部から電車で1時間の小規模な街で、人口は10万人ほどだ。
あなたはここで生まれ、高校を卒業するまでの青春時代を過ごした。
中央駅もこじんまりとしているが、歴史ある広場と住宅街が交わる姿は、懐かしさや安堵も感じさせる。
「ただいま〜」
「おかえり名無し〜。車停めるとこあった?」
「うん、家の向かい側。お父さんの車なくない?」
「それがいないのよ。友達と釣り行くってさ。明日帰るって」
「はぁっ? そうなの?」
あなたは玄関先で小さい荷物をおろしながら驚いた。
迎えてくれたのは小柄な母一人だ。名をエレーネといい、近所の銀行に勤める50歳である。
ふわりとした黒髪に柔和な笑顔を浮かべ、ゆったりめのニットを着ていた。
「こんな日にいないって。アクティブだねぇ。じゃあ明日の丸焼きどうするの?」
「それまでには帰るって言ってたわよ。だから私達二人でお肉屋さんに取りに行くの付き合ってね」
「うんわかったー」
母に返事をしてひとまず2階の自室へ行く。整理整頓されてるが机もソファもほぼ昔のままの空間で、ほっと一息ついた。
そのあとリビングへ降りてくると母は紅茶を用意していた。工夫を凝らしたクリスマスクッキーもあり、あなたは実家の味に舌鼓を打つ。
「美味しい〜。やっぱお母さんの焼き菓子が一番うまいや」
「ありがとう、今日は二人で夜ご飯食べようね。好きなステーキ作るからさ」
「うそっ、ありがとう! 簡単なやつでいいからね、お母さんも休んでよ」
自炊するのは苦ではないが、やはり人の愛情のこもったご飯は心に沁みて嬉しかった。
母も久々に娘に会えてテンションが上がってるようだ。
「お父さんはいないけど女二人でじっくり話せるのもいいわよねえ」
「そうだね。まさか気をつかってくれたのかな?」
「ないない! そういうタイプじゃないステファンは」
言い切る母が面白くあなたは声を出して笑った。
外が寒い中、暖かな暖房のきいた部屋でぬくぬくと実家で過ごせる時間は格別だ。
そしてやはり、母は興味津々でこのことを聞いてきた。
「やっぱさ、名無しがこんなに若くして婚約したって聞いてびっくりしたよ。ねえ大丈夫なの? どんな人なのヴィクトルって」
「もう散々話したでしょ。すごくいい人だよ、大人で心が広くて大きくて⋯⋯お母さんも会ったらすぐ分かるよ。素晴らしい人だって」
「え〜本当?」
あなたがあまりに気の抜けた笑顔をさらすものだから、母は若干疑わしさを声にのせて瞳を細める。
「ていうかこの指輪! ねえすごいわね。これいくら? 大金持ちなの?」
「あっ⋯⋯いや〜。それは分からないんだけど⋯⋯でも綺麗だよねえこれ。私なんかにもったいないよ。浮いてるよね」
「そんなことないよ。可愛いデザインじゃん、名無しにぴったりよ。成り金ぽい押し付けがましさがないっていうかね」
真剣に見定める母の目つきが可笑しかったが、似合うと言われて嬉しくなった。
母がこうしてわりと好意的に話を聞いてくれることには深く感謝だ。ヴィクトルにも会いたいと言ってくれて、あなたは喜んだのだが。
「えっ? イリスさんもいるの? それはちょっと⋯⋯いやいつか会ってほしいけどさ、初回で母とその親友がタッグ組んできたら怖いよ、しかも年上の女性たちで。ヴィクトルがかわいそうだよ」
「そうかもしれないけどさぁ。まあよくない? 大丈夫よ、私達優しいし。別に断罪しようってんじゃないんだから。ただやっぱり心配もあるでしょ? 大事な名無しちゃんなんだからさ」
にこっと母特有の若々しい笑みにほだされて、あなたは考えたあと仕方ないと思うことにした。
彼に話して了承してくれたらと付け加えて。
そもそも年の離れた男性と婚約というのも突然の話なのに、会ってくれる親にもありがたいと思わないとな。そんなふうに納得もしていた。
こうして夜は親子二人でお喋りをしながら、あなたは実家での余暇をのんびりと過ごしたのだった。
ーーー
翌日の昼は行きつけの精肉店に母と車で向かう。
祖父母がいたときはお手製の七面鳥の丸焼きを作っていたが、今では手軽に出来たものをお店で注文をし、休みの日はゆっくりするという方針になった。
両親も自分も休めるし、皆が好きに飲んで食べたりできるため、こんな大人のクリスマスも気に入っている。
「いらっしゃい奥さん! あれ、今日は旦那さんは? ビール用意したのに。飲む? お嬢さんも?」
「あっ、いえ私は運転があるので。お母さんもらえば?」
「いいの? じゃあいただきま〜す、ふふラッキー」
店内は混雑していて、肉のガラスケースの前での待ち時間に店主がビールグラスを配っている。
これはいつものサービスらしい。
母がカウンター端に受け取りに行くと、その場で近所の知り合いに話しかけられていた。
あなたは邪魔にならないように出口付近にいたのだが、信じがたい事が起きる。
「あ、いらっしゃ〜い。そちらも丸焼きね、5人前。ちょっと待ってね、ビール出しますよ〜」
「お前もいるか? マティアス」
「いやいい。昨日飲みすぎちゃってな」
隣の父親に気怠そうに答える金髪の若者は、あなたの元彼のマティアスだった。
地元が同じなため、出会う確率はゼロじゃない。
あなたは硬直してつい彼を目に映してしまう。すると彼は振り向き、驚きを浮かべた。
そしてあろうことか、ズボンに両手を突っ込んだまま向かってくる。
「よお」
「⋯⋯⋯⋯」
「無視かよ。親父さんは?」
「⋯⋯後で来る」
あなたは視線を沈ませ、動揺をなるべく出さないように短く答えた。
母を探すがまだ他の知り合いに話しかけられて喋っているようだ。
「なに⋯⋯? 用ないでしょ」
「冷たい顔すんなよ。普通に話す権利もないのか?」
あなたは彼の後ろで気を使って離れたところでビールを飲む、マティアスの父親を見た。
彼は優しく微笑み挨拶してくれたので、あなたも会釈をする。
3年も付き合っていたから、彼の家族もよく知っていた。皆気さくでいい人で、嫌な思いをしたことはなかった。
半年間だが同棲までして、何も言わず別れたことに悪い気持ちはある。
だがそれと元カレとの衝突は別の話だ。
「元気そうだね。私も元気だから。気にしないで。じゃあね」
「いや待て。⋯⋯悪かったって。より戻そうとかじゃないから。お前に謝りたかっただけだ。ひどい言葉言って悪い。最低だったな。最後に浮気までして」
彼の口調はふざけておらず、声のトーンは低く内省的に聞こえた。
あなたの心はざわつき、静かに喉を鳴らす。
「⋯⋯わかったから」
「本当かよ。⋯⋯まあいいや。だから謝りたかっただけでさ。⋯⋯あのおっさんと続いてんの? もう別れた?」
「⋯⋯は? 関係ないでしょ」
「いやあるだろ? だからさ、友達関係には戻れるんじゃね?」
若者らしく緩い服装の彼は腕を組み、あなたに首をかしげて微笑みを浮かべた。
あなたは心の中で湧き上がる反発心を抑えるのに必死で、どう返してやろうかと胸の底が破裂寸前だった。
元カレの前に立っているだけで、同じ空気を吸っているだけで、思い出すのだ。
うまく性行為ができずに「なんでまだ出来ねえんだよ」となじられ、ため息をつかれたこと。
最初深刻に悩みを告げたら、病院で処置してもらえばいいんじゃね?と笑いながら言われたこと。
当時は自分にも申し訳なさがあり、何度も自己嫌悪に陥った。体がおかしいのだと絶望した。
一生このままで好きな人と結ばれないのだと悲しんだ。
でも今は、この男と出来なくてよかったと思っている。
「あのさ⋯⋯私変わったんだよ。もう前の私じゃないんだ。あんたのことなんか思い出すこともない。気軽に話しかけないで。じゃあね」
目を睨みつけて言い放ち、彼に背を向ける。そしてばったり出くわしたのが、話を聞いていたのかいないのか分からない母だった。
母は気が張っている状態のあなたと、茫然自失のマティアスに対して目を見開いていたが、すぐに状況を察知し、明るく彼に会釈をした。
「あっ、どうも〜。お父さんも。良いお年を! ほら名無しちゃん、もう行こう。お肉受け取ったから」
あなたの手を握り、にこやかに店を出ていった母についていき、二人で車に乗り込んだ。
あなたは口をぎゅっと結んでいたが、ハンドルにまだ手をかける気になれず、黙っていた。
母が静かに待っていてくれる間、あなたはこらえきれずに涙をぼろぼろと流す。
母の前だからか、感情があふれだして子どものように泣きじゃくってしまった。
「あっ、ああ〜大丈夫、大丈夫。泣かないで、名無し。平気よ、もうね。ほらお家帰るからね」
「ごめん⋯⋯っ、恥ずかしい⋯⋯っ」
「何が恥ずかしいの、何にもないから大丈夫」
「⋯⋯うっ⋯⋯くっ⋯⋯⋯⋯ヴィクトルが、助けてくれたんだっ⋯⋯⋯⋯一緒にいてくれたんだ⋯⋯!」
あなたはそれだけを伝えた。
意味が不明瞭だっただろうが、母は眉をさげて瞳をじっとあなたに向け、すぐに背中をさすった。
「そうだったんだね、よかった。よかったよ名無し。ほらおいで」
母はあなたのことを助手席から腕を伸ばしてハグする。懐かしい温もりに抱きついて、あなたはしばらくその場で気持ちを落ち着かせようと努めていた。
そして午後になった今、実家のある地元に帰ってきている。
今住んでいる都市部から電車で1時間の小規模な街で、人口は10万人ほどだ。
あなたはここで生まれ、高校を卒業するまでの青春時代を過ごした。
中央駅もこじんまりとしているが、歴史ある広場と住宅街が交わる姿は、懐かしさや安堵も感じさせる。
「ただいま〜」
「おかえり名無し〜。車停めるとこあった?」
「うん、家の向かい側。お父さんの車なくない?」
「それがいないのよ。友達と釣り行くってさ。明日帰るって」
「はぁっ? そうなの?」
あなたは玄関先で小さい荷物をおろしながら驚いた。
迎えてくれたのは小柄な母一人だ。名をエレーネといい、近所の銀行に勤める50歳である。
ふわりとした黒髪に柔和な笑顔を浮かべ、ゆったりめのニットを着ていた。
「こんな日にいないって。アクティブだねぇ。じゃあ明日の丸焼きどうするの?」
「それまでには帰るって言ってたわよ。だから私達二人でお肉屋さんに取りに行くの付き合ってね」
「うんわかったー」
母に返事をしてひとまず2階の自室へ行く。整理整頓されてるが机もソファもほぼ昔のままの空間で、ほっと一息ついた。
そのあとリビングへ降りてくると母は紅茶を用意していた。工夫を凝らしたクリスマスクッキーもあり、あなたは実家の味に舌鼓を打つ。
「美味しい〜。やっぱお母さんの焼き菓子が一番うまいや」
「ありがとう、今日は二人で夜ご飯食べようね。好きなステーキ作るからさ」
「うそっ、ありがとう! 簡単なやつでいいからね、お母さんも休んでよ」
自炊するのは苦ではないが、やはり人の愛情のこもったご飯は心に沁みて嬉しかった。
母も久々に娘に会えてテンションが上がってるようだ。
「お父さんはいないけど女二人でじっくり話せるのもいいわよねえ」
「そうだね。まさか気をつかってくれたのかな?」
「ないない! そういうタイプじゃないステファンは」
言い切る母が面白くあなたは声を出して笑った。
外が寒い中、暖かな暖房のきいた部屋でぬくぬくと実家で過ごせる時間は格別だ。
そしてやはり、母は興味津々でこのことを聞いてきた。
「やっぱさ、名無しがこんなに若くして婚約したって聞いてびっくりしたよ。ねえ大丈夫なの? どんな人なのヴィクトルって」
「もう散々話したでしょ。すごくいい人だよ、大人で心が広くて大きくて⋯⋯お母さんも会ったらすぐ分かるよ。素晴らしい人だって」
「え〜本当?」
あなたがあまりに気の抜けた笑顔をさらすものだから、母は若干疑わしさを声にのせて瞳を細める。
「ていうかこの指輪! ねえすごいわね。これいくら? 大金持ちなの?」
「あっ⋯⋯いや〜。それは分からないんだけど⋯⋯でも綺麗だよねえこれ。私なんかにもったいないよ。浮いてるよね」
「そんなことないよ。可愛いデザインじゃん、名無しにぴったりよ。成り金ぽい押し付けがましさがないっていうかね」
真剣に見定める母の目つきが可笑しかったが、似合うと言われて嬉しくなった。
母がこうしてわりと好意的に話を聞いてくれることには深く感謝だ。ヴィクトルにも会いたいと言ってくれて、あなたは喜んだのだが。
「えっ? イリスさんもいるの? それはちょっと⋯⋯いやいつか会ってほしいけどさ、初回で母とその親友がタッグ組んできたら怖いよ、しかも年上の女性たちで。ヴィクトルがかわいそうだよ」
「そうかもしれないけどさぁ。まあよくない? 大丈夫よ、私達優しいし。別に断罪しようってんじゃないんだから。ただやっぱり心配もあるでしょ? 大事な名無しちゃんなんだからさ」
にこっと母特有の若々しい笑みにほだされて、あなたは考えたあと仕方ないと思うことにした。
彼に話して了承してくれたらと付け加えて。
そもそも年の離れた男性と婚約というのも突然の話なのに、会ってくれる親にもありがたいと思わないとな。そんなふうに納得もしていた。
こうして夜は親子二人でお喋りをしながら、あなたは実家での余暇をのんびりと過ごしたのだった。
ーーー
翌日の昼は行きつけの精肉店に母と車で向かう。
祖父母がいたときはお手製の七面鳥の丸焼きを作っていたが、今では手軽に出来たものをお店で注文をし、休みの日はゆっくりするという方針になった。
両親も自分も休めるし、皆が好きに飲んで食べたりできるため、こんな大人のクリスマスも気に入っている。
「いらっしゃい奥さん! あれ、今日は旦那さんは? ビール用意したのに。飲む? お嬢さんも?」
「あっ、いえ私は運転があるので。お母さんもらえば?」
「いいの? じゃあいただきま〜す、ふふラッキー」
店内は混雑していて、肉のガラスケースの前での待ち時間に店主がビールグラスを配っている。
これはいつものサービスらしい。
母がカウンター端に受け取りに行くと、その場で近所の知り合いに話しかけられていた。
あなたは邪魔にならないように出口付近にいたのだが、信じがたい事が起きる。
「あ、いらっしゃ〜い。そちらも丸焼きね、5人前。ちょっと待ってね、ビール出しますよ〜」
「お前もいるか? マティアス」
「いやいい。昨日飲みすぎちゃってな」
隣の父親に気怠そうに答える金髪の若者は、あなたの元彼のマティアスだった。
地元が同じなため、出会う確率はゼロじゃない。
あなたは硬直してつい彼を目に映してしまう。すると彼は振り向き、驚きを浮かべた。
そしてあろうことか、ズボンに両手を突っ込んだまま向かってくる。
「よお」
「⋯⋯⋯⋯」
「無視かよ。親父さんは?」
「⋯⋯後で来る」
あなたは視線を沈ませ、動揺をなるべく出さないように短く答えた。
母を探すがまだ他の知り合いに話しかけられて喋っているようだ。
「なに⋯⋯? 用ないでしょ」
「冷たい顔すんなよ。普通に話す権利もないのか?」
あなたは彼の後ろで気を使って離れたところでビールを飲む、マティアスの父親を見た。
彼は優しく微笑み挨拶してくれたので、あなたも会釈をする。
3年も付き合っていたから、彼の家族もよく知っていた。皆気さくでいい人で、嫌な思いをしたことはなかった。
半年間だが同棲までして、何も言わず別れたことに悪い気持ちはある。
だがそれと元カレとの衝突は別の話だ。
「元気そうだね。私も元気だから。気にしないで。じゃあね」
「いや待て。⋯⋯悪かったって。より戻そうとかじゃないから。お前に謝りたかっただけだ。ひどい言葉言って悪い。最低だったな。最後に浮気までして」
彼の口調はふざけておらず、声のトーンは低く内省的に聞こえた。
あなたの心はざわつき、静かに喉を鳴らす。
「⋯⋯わかったから」
「本当かよ。⋯⋯まあいいや。だから謝りたかっただけでさ。⋯⋯あのおっさんと続いてんの? もう別れた?」
「⋯⋯は? 関係ないでしょ」
「いやあるだろ? だからさ、友達関係には戻れるんじゃね?」
若者らしく緩い服装の彼は腕を組み、あなたに首をかしげて微笑みを浮かべた。
あなたは心の中で湧き上がる反発心を抑えるのに必死で、どう返してやろうかと胸の底が破裂寸前だった。
元カレの前に立っているだけで、同じ空気を吸っているだけで、思い出すのだ。
うまく性行為ができずに「なんでまだ出来ねえんだよ」となじられ、ため息をつかれたこと。
最初深刻に悩みを告げたら、病院で処置してもらえばいいんじゃね?と笑いながら言われたこと。
当時は自分にも申し訳なさがあり、何度も自己嫌悪に陥った。体がおかしいのだと絶望した。
一生このままで好きな人と結ばれないのだと悲しんだ。
でも今は、この男と出来なくてよかったと思っている。
「あのさ⋯⋯私変わったんだよ。もう前の私じゃないんだ。あんたのことなんか思い出すこともない。気軽に話しかけないで。じゃあね」
目を睨みつけて言い放ち、彼に背を向ける。そしてばったり出くわしたのが、話を聞いていたのかいないのか分からない母だった。
母は気が張っている状態のあなたと、茫然自失のマティアスに対して目を見開いていたが、すぐに状況を察知し、明るく彼に会釈をした。
「あっ、どうも〜。お父さんも。良いお年を! ほら名無しちゃん、もう行こう。お肉受け取ったから」
あなたの手を握り、にこやかに店を出ていった母についていき、二人で車に乗り込んだ。
あなたは口をぎゅっと結んでいたが、ハンドルにまだ手をかける気になれず、黙っていた。
母が静かに待っていてくれる間、あなたはこらえきれずに涙をぼろぼろと流す。
母の前だからか、感情があふれだして子どものように泣きじゃくってしまった。
「あっ、ああ〜大丈夫、大丈夫。泣かないで、名無し。平気よ、もうね。ほらお家帰るからね」
「ごめん⋯⋯っ、恥ずかしい⋯⋯っ」
「何が恥ずかしいの、何にもないから大丈夫」
「⋯⋯うっ⋯⋯くっ⋯⋯⋯⋯ヴィクトルが、助けてくれたんだっ⋯⋯⋯⋯一緒にいてくれたんだ⋯⋯!」
あなたはそれだけを伝えた。
意味が不明瞭だっただろうが、母は眉をさげて瞳をじっとあなたに向け、すぐに背中をさすった。
「そうだったんだね、よかった。よかったよ名無し。ほらおいで」
母はあなたのことを助手席から腕を伸ばしてハグする。懐かしい温もりに抱きついて、あなたはしばらくその場で気持ちを落ち着かせようと努めていた。
