美オヤジを誘って囲われて救われる話
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ヴィクトルはあなたの異変に気づいていた。
あの夜、自分の腕の中で二人の繋がりを確かめるように不安げな言葉を投げかけてきたこと。
それはまるで、出会った日の心細そうな姿を彼に思い出させた。
あなたの思わず手を伸ばしたくなる儚さに、ヴィクトルはいつまでも心が囚われていた。
「やあ、エリオ」
「ヴィクトル」
社内の休憩室で珈琲を淹れている友人に、ヴィクトルは声をかけた。
財務部長のエリオはいつも冷静沈着でクールな顔立ちを変えないが、こちらを見て薄く微笑む。
「なんとなく君が来るような気がしていたよ」
「そうかい、どうして?」
「先週のパーティーで俺とアンドレイが君の婚約者と話をしていただろう。気になったんじゃないか」
珍しく堅物の男がからかうような口調だったため、ヴィクトルは苦笑いする。
「和やかな雰囲気だったのは聞いたよ。あの可愛らしいぬいぐるみもなぜかうちにあるんだ。アンドレイからのプレゼントだと思うと少し複雑だけどな」
軽口を叩くとエリオも口元を緩める。しかしヴィクトルの表情がやや曇り始めるのを大学時代の旧友は見逃さなかった。
「彼女に何か変わった様子はなかったかな」
「いいや、俺が見る限りは。過度な緊張をしているふうにも見えなかったよ」
エリオは指先で眼鏡に触れ、じっとヴィクトルを見つめた。
それ以上言葉は続かなかったが、仲間の中でも根が真面目な二人に思慮深い間が流れる。
「それならいいんだ、ありがとう。少し気になっただけさ」
「そうかい。⋯⋯俺もずっとあの場にいたわけじゃないが、時折名無しさんを見ていたよ。女性社員たちに話しかけられていたな。ほら、君とも関わりがあるプロジェクトマネジメント部のマグダだ。他の二人は知らないが」
そう教えられ、ヴィクトルは納得をする。
「ああ、彼女か。以前ケーキ屋で偶然会ったんだ。そのとき名無しちゃんと知り合ってね」
彼は顎を触りながら、何の気なしに反芻した。その女性部長は起業から数年後に入社し長く仕事を共にしてきた同僚であり、人格的にも信頼のおける人物だ。
だがヴィクトルはハッとなった。彼女には何も問題ないし、これまでケーキ店でのことをほとんど思い出すこともなかった。
しかし、あの場にはあの社員もいた。
「ヴィクトル? 顔色が変わったぞ。大丈夫かい」
「⋯⋯ん? ああ、平気さ。すまないエリオ、もう行くよ。助かった。また二人で飲みに行こう」
「ああ。そうしよう。何かあれば言ってくれ」
彼は深堀りせずに声をかけて視線を交わし、足取り確かなヴィクトルを見送った。
その日は冬休暇直前の詰めの時期で、ヴィクトルはちょうど部長のマグダと話す機会があった。
出入りのある小会議室で、年内案件の整理についてだ。
「ヴィクトル。年内クローズはこの三件で確定ですね。海外案件は一応ここまで、残りは年明けに回しましょう」
「了解だ。じゃあこちらでもクライアントにはそう伝えておくよ。無理はさせない方向でね」
二人が仕事の話を終わらせると、まとめ髪にパンツスーツの似合う大人の彼女は愛嬌のある笑みを浮かべた。
「そういえば、この前のパーティーで名無しさんに約束したんですよ。年明けたら絶対ブティック行くねって。もう後輩と日程決めてますからね!」
「そうか、それは俺も嬉しいよ。彼女も喜んでたよ。お店が気に入ってもらえたらいいなって」
ヴィクトルは快く受け答えた。実際あなたから後日その話を聞いた際も、明るく話していて普通の様子だった。
様子がおかしかったのはパーティーの夜だけで、だからこそヴィクトルの心配は募っていた。
「マグダ、君に聞きたいんだが。彼女に何か変わったところはなかったかい?」
少し身を屈め、内的な話の態度を見せると、マグダは途端に目を見開く。
「どうしてです? 何かあったんですか」
声のトーンをすぐに変え、仕事の時と同様の真剣な顔つきになった。
ヴィクトルが言葉を選ぼうとすると、彼女も素早く頭を巡らす。
「そうですね。直接関係のないところで、少し気になることは――」
「ホランド君か?」
即座に名前を出されて驚かれる。ヴィクトルの冷ややかな顔つきに何か感じたのだろう、マグダは考えた末、あの日の裏のミーガンの様子を簡潔に伝えた。
「何なんでしょうかね。年も近いし、ただの嫉妬の類だと感じましたけど。彼女も馬鹿な真似はしないと思いますが……こちらでも探っておきましょうか」
「いいや、教えてくれてありがとう。なんとかするから大丈夫だ」
ヴィクトルは彼女にまっすぐ礼を言う。あの社員が自分の婚約者をよく思っていないこと、その事を他者から知り得ただけで有益な情報だった。
しかし同時に彼は、もちろん喉のあたりまで不快感がこみあげてきた。
ーーー
もしミーガン・ホランドがこの件に関わっているとしたら、それは間違いなく自分の責任だ。
ヴィクトルは苦渋の表情で考える。
なぜならクリスマス前に彼女の贈り物を正面から断ったからだ。
そうした出来事は彼にとって珍しくはないため、記憶から抜けていた事自体が歯がゆく痛い。
どのように手をつけるか考えながら過ごしていると、午後の国際事業部の打ち合わせで、ある社員がやって来た。
「あの、すみません。ヴィクトル」
「うん。どうした?」
自分の目線のかなり下には、自信がなさげな眼鏡の女性社員がいる。
紺色のオフィススーツにボブの黒髪で、彼女はれっきとした五年目の部下だが、未だにヴィクトルの名を呼ぶ声が尻すぼみをしている。
「カイラ。会議での報告、すごく良かったよ。複雑な案件なのに、分かりやすくまとまっていたね」
「あ、ありがとうございます。あと少しで最終のフォローアップまで辿り着けそうなので、頑張ります。……それと実は、仕事の件とは違うんですが、話したいことがありまして」
周りの目を気にするように、おずおずと打ち明けてきたため、ヴィクトルは頷いた。
「わかった。じゃあ俺のオフィスで話そう。いいかい?」
「はい。お願いします」
そうして二人は彼の部屋へと移動した。
若手社員のカイラは普段緊張しやすく、声も小さめだ。
しかしプレゼンの前には深呼吸をする姿が印象的で、ひとつひとつ仕事に熱心に取り組み、その姿勢を上司のヴィクトルは気に入っていた。
そんな彼女が今、デスクそばに立つ自分の前で、覚悟した面持ちで書類を抱えている。
「――実は、お話しなければならないことがあるんです。もっと早く言うべきだったのですが、ヴィクトルの婚約者である名無しさんと約束をしまして、この数日悩んでいました」
予想だにしなかった言葉にヴィクトルは驚愕する。
カイラが話し始めたことはどれも、初めて聞く内容だった。
「……なんだって? つまり君は、その手洗いの場で二人のやり取りを偶然聞いていたのか」
「そうです。でもやり取りなんていう普通のものではなくて、ミーガン・ホランドの一方的な言葉の数々から始まりました。これを見てください」
彼女は自らまとめた書類をヴィクトルに差し出した。
それを見て彼は目を疑った。
時刻と音声がまるで克明に語られているかのように、ミーガンとあなたの台詞が描かれていた。
「どういうことだ、これは。……本当にあの社員がこんなことを……?」
ヴィクトルが目にしたのはひどい侮辱の羅列だ。瞬間的に脳内がぐらつく。
そしてあなたがおそらく勇気を振り絞って言ったであろう言葉――それを知った途端に、彼は胸の奥が深くしめつけられる思いがし、拳に強く痛ましい力がこめられた。
「…………ッ」
彼は部下の前で苦悩に満ちた顔を見せていた。
カイラは事態の重さを痛感し、すぐに頭を下げる。
「申し訳ありません! すぐに対処すべきでした、本当に後悔して――」
「いいや、君のせいじゃない。こうして詳しく俺に教えてくれて、本当に助かったよ。カイラ」
彼は真剣な眼差しで部下に伝える。そして静かにこう言った。
「君は十分なことをした。感謝するよ。ここからは俺がやろう。ありがとう、もう大丈夫だ」
カイラは瞳を揺らしながらも、しっかりと頷いた。
ただならぬ雰囲気の上司にもう一度頭を下げ、その場を去ったのだった。
そしてヴィクトルは机前に腰を下ろす。両肘をついて書類に視線を落としていたが、突然怒りに任せて拳を強く机に叩きつけた。
「クソッ!」
彼の本来聞くことのない悪態が、部屋に鳴り響く。
形の整った切れ長の瞳は煮えたぎる感情で歪み、手の力は紙をぐしゃぐしゃに掴んだ。
――あなたは、この事を何も言わずに耐えた。
自分には笑顔を見せて、でもあの夜だけはすがるように甘えたりして。
そのことがヴィクトルの胸に最も刻みつけられ、惜しみない愛情を根底から揺さぶった。
彼の心は今、他者への怒りとあなたへの深すぎる想いに荒れ狂っていた。
あの夜、自分の腕の中で二人の繋がりを確かめるように不安げな言葉を投げかけてきたこと。
それはまるで、出会った日の心細そうな姿を彼に思い出させた。
あなたの思わず手を伸ばしたくなる儚さに、ヴィクトルはいつまでも心が囚われていた。
「やあ、エリオ」
「ヴィクトル」
社内の休憩室で珈琲を淹れている友人に、ヴィクトルは声をかけた。
財務部長のエリオはいつも冷静沈着でクールな顔立ちを変えないが、こちらを見て薄く微笑む。
「なんとなく君が来るような気がしていたよ」
「そうかい、どうして?」
「先週のパーティーで俺とアンドレイが君の婚約者と話をしていただろう。気になったんじゃないか」
珍しく堅物の男がからかうような口調だったため、ヴィクトルは苦笑いする。
「和やかな雰囲気だったのは聞いたよ。あの可愛らしいぬいぐるみもなぜかうちにあるんだ。アンドレイからのプレゼントだと思うと少し複雑だけどな」
軽口を叩くとエリオも口元を緩める。しかしヴィクトルの表情がやや曇り始めるのを大学時代の旧友は見逃さなかった。
「彼女に何か変わった様子はなかったかな」
「いいや、俺が見る限りは。過度な緊張をしているふうにも見えなかったよ」
エリオは指先で眼鏡に触れ、じっとヴィクトルを見つめた。
それ以上言葉は続かなかったが、仲間の中でも根が真面目な二人に思慮深い間が流れる。
「それならいいんだ、ありがとう。少し気になっただけさ」
「そうかい。⋯⋯俺もずっとあの場にいたわけじゃないが、時折名無しさんを見ていたよ。女性社員たちに話しかけられていたな。ほら、君とも関わりがあるプロジェクトマネジメント部のマグダだ。他の二人は知らないが」
そう教えられ、ヴィクトルは納得をする。
「ああ、彼女か。以前ケーキ屋で偶然会ったんだ。そのとき名無しちゃんと知り合ってね」
彼は顎を触りながら、何の気なしに反芻した。その女性部長は起業から数年後に入社し長く仕事を共にしてきた同僚であり、人格的にも信頼のおける人物だ。
だがヴィクトルはハッとなった。彼女には何も問題ないし、これまでケーキ店でのことをほとんど思い出すこともなかった。
しかし、あの場にはあの社員もいた。
「ヴィクトル? 顔色が変わったぞ。大丈夫かい」
「⋯⋯ん? ああ、平気さ。すまないエリオ、もう行くよ。助かった。また二人で飲みに行こう」
「ああ。そうしよう。何かあれば言ってくれ」
彼は深堀りせずに声をかけて視線を交わし、足取り確かなヴィクトルを見送った。
その日は冬休暇直前の詰めの時期で、ヴィクトルはちょうど部長のマグダと話す機会があった。
出入りのある小会議室で、年内案件の整理についてだ。
「ヴィクトル。年内クローズはこの三件で確定ですね。海外案件は一応ここまで、残りは年明けに回しましょう」
「了解だ。じゃあこちらでもクライアントにはそう伝えておくよ。無理はさせない方向でね」
二人が仕事の話を終わらせると、まとめ髪にパンツスーツの似合う大人の彼女は愛嬌のある笑みを浮かべた。
「そういえば、この前のパーティーで名無しさんに約束したんですよ。年明けたら絶対ブティック行くねって。もう後輩と日程決めてますからね!」
「そうか、それは俺も嬉しいよ。彼女も喜んでたよ。お店が気に入ってもらえたらいいなって」
ヴィクトルは快く受け答えた。実際あなたから後日その話を聞いた際も、明るく話していて普通の様子だった。
様子がおかしかったのはパーティーの夜だけで、だからこそヴィクトルの心配は募っていた。
「マグダ、君に聞きたいんだが。彼女に何か変わったところはなかったかい?」
少し身を屈め、内的な話の態度を見せると、マグダは途端に目を見開く。
「どうしてです? 何かあったんですか」
声のトーンをすぐに変え、仕事の時と同様の真剣な顔つきになった。
ヴィクトルが言葉を選ぼうとすると、彼女も素早く頭を巡らす。
「そうですね。直接関係のないところで、少し気になることは――」
「ホランド君か?」
即座に名前を出されて驚かれる。ヴィクトルの冷ややかな顔つきに何か感じたのだろう、マグダは考えた末、あの日の裏のミーガンの様子を簡潔に伝えた。
「何なんでしょうかね。年も近いし、ただの嫉妬の類だと感じましたけど。彼女も馬鹿な真似はしないと思いますが……こちらでも探っておきましょうか」
「いいや、教えてくれてありがとう。なんとかするから大丈夫だ」
ヴィクトルは彼女にまっすぐ礼を言う。あの社員が自分の婚約者をよく思っていないこと、その事を他者から知り得ただけで有益な情報だった。
しかし同時に彼は、もちろん喉のあたりまで不快感がこみあげてきた。
ーーー
もしミーガン・ホランドがこの件に関わっているとしたら、それは間違いなく自分の責任だ。
ヴィクトルは苦渋の表情で考える。
なぜならクリスマス前に彼女の贈り物を正面から断ったからだ。
そうした出来事は彼にとって珍しくはないため、記憶から抜けていた事自体が歯がゆく痛い。
どのように手をつけるか考えながら過ごしていると、午後の国際事業部の打ち合わせで、ある社員がやって来た。
「あの、すみません。ヴィクトル」
「うん。どうした?」
自分の目線のかなり下には、自信がなさげな眼鏡の女性社員がいる。
紺色のオフィススーツにボブの黒髪で、彼女はれっきとした五年目の部下だが、未だにヴィクトルの名を呼ぶ声が尻すぼみをしている。
「カイラ。会議での報告、すごく良かったよ。複雑な案件なのに、分かりやすくまとまっていたね」
「あ、ありがとうございます。あと少しで最終のフォローアップまで辿り着けそうなので、頑張ります。……それと実は、仕事の件とは違うんですが、話したいことがありまして」
周りの目を気にするように、おずおずと打ち明けてきたため、ヴィクトルは頷いた。
「わかった。じゃあ俺のオフィスで話そう。いいかい?」
「はい。お願いします」
そうして二人は彼の部屋へと移動した。
若手社員のカイラは普段緊張しやすく、声も小さめだ。
しかしプレゼンの前には深呼吸をする姿が印象的で、ひとつひとつ仕事に熱心に取り組み、その姿勢を上司のヴィクトルは気に入っていた。
そんな彼女が今、デスクそばに立つ自分の前で、覚悟した面持ちで書類を抱えている。
「――実は、お話しなければならないことがあるんです。もっと早く言うべきだったのですが、ヴィクトルの婚約者である名無しさんと約束をしまして、この数日悩んでいました」
予想だにしなかった言葉にヴィクトルは驚愕する。
カイラが話し始めたことはどれも、初めて聞く内容だった。
「……なんだって? つまり君は、その手洗いの場で二人のやり取りを偶然聞いていたのか」
「そうです。でもやり取りなんていう普通のものではなくて、ミーガン・ホランドの一方的な言葉の数々から始まりました。これを見てください」
彼女は自らまとめた書類をヴィクトルに差し出した。
それを見て彼は目を疑った。
時刻と音声がまるで克明に語られているかのように、ミーガンとあなたの台詞が描かれていた。
「どういうことだ、これは。……本当にあの社員がこんなことを……?」
ヴィクトルが目にしたのはひどい侮辱の羅列だ。瞬間的に脳内がぐらつく。
そしてあなたがおそらく勇気を振り絞って言ったであろう言葉――それを知った途端に、彼は胸の奥が深くしめつけられる思いがし、拳に強く痛ましい力がこめられた。
「…………ッ」
彼は部下の前で苦悩に満ちた顔を見せていた。
カイラは事態の重さを痛感し、すぐに頭を下げる。
「申し訳ありません! すぐに対処すべきでした、本当に後悔して――」
「いいや、君のせいじゃない。こうして詳しく俺に教えてくれて、本当に助かったよ。カイラ」
彼は真剣な眼差しで部下に伝える。そして静かにこう言った。
「君は十分なことをした。感謝するよ。ここからは俺がやろう。ありがとう、もう大丈夫だ」
カイラは瞳を揺らしながらも、しっかりと頷いた。
ただならぬ雰囲気の上司にもう一度頭を下げ、その場を去ったのだった。
そしてヴィクトルは机前に腰を下ろす。両肘をついて書類に視線を落としていたが、突然怒りに任せて拳を強く机に叩きつけた。
「クソッ!」
彼の本来聞くことのない悪態が、部屋に鳴り響く。
形の整った切れ長の瞳は煮えたぎる感情で歪み、手の力は紙をぐしゃぐしゃに掴んだ。
――あなたは、この事を何も言わずに耐えた。
自分には笑顔を見せて、でもあの夜だけはすがるように甘えたりして。
そのことがヴィクトルの胸に最も刻みつけられ、惜しみない愛情を根底から揺さぶった。
彼の心は今、他者への怒りとあなたへの深すぎる想いに荒れ狂っていた。
