美オヤジを誘って囲われて救われる話
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ヴィクトルの仲間との挨拶を終え、あなたはクリスマスパーティーに来てよかったと余韻に浸っていた。
色々な人と話して場に慣れてきたのもあるし、皆親切で温かくて、本当にありがたかった。
音楽や賑やかな声が響くホール内で、ヴィクトルはまだイベントの司会をやっている。最後には特別賞もあり、クジに当たった何人かが会社のギフトをもらえるようだ。
彼が戻ってきたら、この興奮を早く伝えたいな。
そんなふうに微笑ましく佇んでいると、女性3人組が近づいてきた。
「名無しさーん! また会えたね〜嬉しい! 私達のこと覚えてる? カフェで会った女たちよ!」
「あっ、もちろん! この間はどうも、今日もお会いできて嬉しいです!」
明るく話しかけてくれたのは、ロングヘアの年長者の女性だ。彼女はプロジェクトマネジメント部の部長で、部門をまたいだ組織の管理者のため、ヴィクトルとも仕事上で親しくしていると聞いている。
「私達も嬉しいですよ〜。ていうかこの服めっちゃ可愛くないですか? どこの服ですかこれ。もしかして名無しさんのお店?」
「そうなんです! ちょっと独特な雰囲気ではあるんですけど、特別な日にぴったりの洋服がたくさんあって——」
真ん中の自由な雰囲気の女性は企画部の社員らしく、あなたの着こなしに関心を示してくれた。
とても嬉しくなり、ちゃっかり宣伝もしておく。
「あらいいじゃない、私もこう見えて結構ゴスっぽいの好きなの。今度行くね、あ、本気で」
「ええ〜ほんとにゴスのこと分かってます? どっちかというと昔のギャルじゃないですかぁ? 私のほうが詳しいですよ名無しさん」
「わかったよ。じゃあ二人で行こう」
「認めるの早っ! へへへ」
仲よさげな二人のやり取りにあなたも笑顔がこぼれ、勝手に和む。
しかし、やはりこの間と同じように、一番若い女性だけは会話に加わらず冷めた目つきをしていた。
あなたは触れないように楽しく会話をし、やがて彼らと別れた。
一人になり、また少し胸がざわつく。さっきの彼女はミーガンと呼ばれていて、あなたの前では静かで知的な印象に見えた。
「——名無しちゃん! 待たせちゃってごめんね、大丈夫だった?」
「ヴィクトル! 全然大丈夫だよ。舞台で格好よかったよ! あと面白かったなぁ〜あんなに冗談言うんだね」
役目を終えて駆けつけた彼に、からかうように笑いかける。
黒髪をかきあげ、照れくささと軽い疲労をにじませるヴィクトルは、あなたに瞳を細めた。
「そうなんだよ。冗談でも言って少しでもとっつきやすいキャラクターにしろなんて、周りに言われてね。なぜか毎回自分がやることになってしまった。でも今日は頑張れたかな、全部終われば君といられるからね」
にこりと甘い囁きをする彼にあなたは溶けていく。
安心感から思わず抱きつきたくなったが、彼のスーツの袖に少し触れるだけで我慢した。
「ん? 名無しちゃん、手が温かいよ。お酒進んだ?」
「ううん、結構いろんな人がね、話してくれたから興奮したのかもしれない」
「そうか。俺も見てたよ、大男たちが君に近づいてくるの」
「ふふっ。見てたんだ」
優しく包むように手をすくわれてドキドキする。
お友達とのやり取りを話したら、彼も安心したように笑ってくれた。
舞台の上でも時折こちらに目を向けてくれたらしく、自分と同じことをしていて嬉しくなった。
その後もパーティーの続きを二人で楽しむ。
イベントを終え中盤にもなり、彼に話しかけてくる人も多く、あなたも笑顔で挨拶をして、非日常的な雰囲気をたっぷりと味わった。
「ちょっとお手洗い行ってくるね。ヴィクトルもお話とかお酒、楽しんでね」
「わかった。ここで待ってるね」
彼をホールに残し、あなたは扉の外に出る。まぶしい光に目を瞬かせたが、足取り確かに廊下を歩いていった。
女性用ルームは広く、化粧室やちょっとした休憩場所もある。
がらんとした個室に入ってからしばらくすると、女性達の話し声が聞こえてきた。
「——やっぱり納得いかないんですよね。次々幹部の人に話しかけられて、特別扱いみたい」
「ふーん、そう」
興奮した女性と、声のトーンが落ちついた女性。そしてヒールの甲高い音とバッグを台に置く音。
化粧台で話をしている彼らは、内容的にあなたのことを言ってるのではと思った。
「だっておかしくないですか? あんな人、この会社にいたら絶対彼に相手になんてされないですよ。どんな手使って知り合ったのか知らないけど」
そうはっきり口にしたのはあの若い女性、ミーガンである。
あなたは心臓がドクッと鳴り、狭い個室で動けなくなる。
もう一人は一瞬閉口したが、やがてこう言った。
「ねえどうしちゃったの? 少し落ち着きなさいよ。私はあの子好きだけどね、可愛くって素直そうで」
「そう見えるように取り繕ってるんですよ、皆すぐ騙されるんだから」
強気な発言に対し、しばし沈黙が広がる。
「はいはい、なんか余裕ないね〜。部長のこと好きなのはもうわかったってば」
予想していなかった3人目の呆れ声が響き、息を呑んだ。
やっぱり彼らは、さっき話をしていた女性社員たちのようだ。
「別にそういう話じゃないです。皆当たり前のように受け入れてるのが変って言ってるんですよ」
「そうかなぁ〜? 自分が気に入らないだけじゃない? どっちにしろ、あんたも部長には相手にされないって、ムリムリ!」
あの企画部の女性が冗談のように笑い声を飛ばすと、ミーガンは黙りこくっていた。
あなたは彼らが去る音が聞こえても、呆然と前を見つめていた。
やがて個室から出て鏡の前に立った。髪を後ろに長くまとめ、深い赤のドレスにネックレスが輝く、年頃の女性が映っている。
思考が落ち込んだままバッグに手を置いてうなだれていると、突如近くのドアが開いた。
現れた女性を見て心臓が引きつる感覚に陥る。ミーガンだったのだ。
「こんにちは」
「⋯こんにちは」
平然とした顔つきの黒髪セミロングの彼女は、クリーム色の清楚なドレスから伸びる脚をまっすぐ揃え、あなたの隣に並んだ。
バッグからリップを取り出しつけている。
あなたは黙って会釈をし、立ち去ろうとしたのだが。
「ねえ」
その声に振り向くと、彼女は冷たい表情ではなく、自信を浮かばせていた。
だが彼女のぶしつけな視線があなたの指先に行くと、眉をひそめて不快感を示す。
「思ったより顕示欲が強いのね」
「えっ⋯?」
「空回りしてません? 浮いてますよ」
黒く細めた瞳に告げられるが、あなたの心は冷えていく。
彼女の完全な悪意が伝わった。
「ああやって幹部と簡単に繋がれてすごいですね」
「⋯⋯ええと、彼の仲間として紹介頂いたので」
「ふふ、そう。でも勘違いしちゃうでしょう? ただのブティック店員なのに」
容赦ない言葉が、柔らかい心に刃物のように突き刺さる。
彼女は攻撃したいのだ。傷つけて、打ちのめしたい。そんな苛立った思いが、蔑んだ目つきと口元から伝わる。
ここで言い返しても、何も生まれない。この人とは無関係だし、ヴィクトルとの関係も知らないからだ。
彼の顔が浮かんで、あなたは段々、自分の不甲斐なさに押し潰されそうになっていった。
「どうせ彼のお金目当てでしょう? いるわよねそういう女。何も持ってないくせに、男で這い上がろうとするの」
「違いますよ。私達はそういうんじゃないです」
自分だけでなく彼をも馬鹿にされたように感じ、瞬間的にカチンときたあなたは彼女を見据えた。
「あなたこそ、彼のことを地位とかお金で見てるんじゃないですか? だからそういう考えになるんでしょう」
「⋯⋯はっ? なに言ってるの。話をすり替えないでくれない?」
言い返されると思ってなかったのか、ミーガンは顔の中央を歪めた。
あなたは沸々と怒りがわいてくる。ヴィクトルのことをそんなふうに捉えられる筋合いはないのだ。あんなに心が深くて優しい、愛情に満ちた人を。
「たとえ彼がクビになったって、何もかも失ったって、私はずっと一緒にいますよ。一生そばにいるって約束しましたから」
震える声で精一杯歯向かうと、彼女は怯んだ様子だ。
だがまた、馬鹿にするような態度に変わった。
「彼は執行役員だから、簡単にクビになんてならないわよ。単なる会社員じゃないんだから。何も知らないのね」
彼女は呆れたように肩をすくませ、怒りのこもった舌打ちをしてその場から立ち去っていった。扉が無造作に閉められる。
あなたは初めて、顔をくしゃっとしてうつむいた。
「⋯⋯なんなの。⋯⋯馬鹿だ⋯⋯」
泣きたい気持ちでどうしようもない。
自分の無力さと無知と、足元からまた覆い尽くそうとしてくる不安に。
⋯⋯早く、トイレから出て戻らないと。彼が心配する。
そう思っても、どんな顔をすればいいか分からなかった。
思い詰めていたときに、後ろの離れた個室が開く音がした。
振り向くと、見知らぬ眼鏡の女性がオドオドした感じで歩いてくる。
彼女はオフィススーツだったが、あなたを見てぎこちない表情で会釈した。
こちらも咄嗟に頭をさげる。
「ごっごめんなさい、お恥ずかしいところを」
「い、いえ。とんでもないです。すみません、いつ出たらいいか分からなくなってしまって⋯⋯」
二人で謝り合うものの、きっとここの社員の人だろうし、あなたは輪にかけて恥ずかしくてたまらなくなった。
「⋯⋯嫌な人でしたね。気にしなくていいですよ。そういう攻撃的な人、ここに結構いますから。皆外面はいいんです」
「そっ⋯⋯そうなんですか。大変ですよね⋯⋯どうも、ありがとうございます」
予期せず励まされ、あなたは礼を言った。
すると彼女はボリュームのある髪の毛を整えながら、あなたをじっと見た。
「私、ヴィクトルの部下なんです。今の話、伝えておきましょうか?」
「えっ? い、い、いいえ! 大丈夫ですから! ほんとにお気になさらず! 言わないでください、全然大したことじゃないので!」
全身で断ると、彼女は理解したというように、小さく頷いた。
だが心配がにじむ眼差しには、あなたは深く感謝した。
そうしてお手洗いから、色々な思惑を背負って出ていったのだった。
色々な人と話して場に慣れてきたのもあるし、皆親切で温かくて、本当にありがたかった。
音楽や賑やかな声が響くホール内で、ヴィクトルはまだイベントの司会をやっている。最後には特別賞もあり、クジに当たった何人かが会社のギフトをもらえるようだ。
彼が戻ってきたら、この興奮を早く伝えたいな。
そんなふうに微笑ましく佇んでいると、女性3人組が近づいてきた。
「名無しさーん! また会えたね〜嬉しい! 私達のこと覚えてる? カフェで会った女たちよ!」
「あっ、もちろん! この間はどうも、今日もお会いできて嬉しいです!」
明るく話しかけてくれたのは、ロングヘアの年長者の女性だ。彼女はプロジェクトマネジメント部の部長で、部門をまたいだ組織の管理者のため、ヴィクトルとも仕事上で親しくしていると聞いている。
「私達も嬉しいですよ〜。ていうかこの服めっちゃ可愛くないですか? どこの服ですかこれ。もしかして名無しさんのお店?」
「そうなんです! ちょっと独特な雰囲気ではあるんですけど、特別な日にぴったりの洋服がたくさんあって——」
真ん中の自由な雰囲気の女性は企画部の社員らしく、あなたの着こなしに関心を示してくれた。
とても嬉しくなり、ちゃっかり宣伝もしておく。
「あらいいじゃない、私もこう見えて結構ゴスっぽいの好きなの。今度行くね、あ、本気で」
「ええ〜ほんとにゴスのこと分かってます? どっちかというと昔のギャルじゃないですかぁ? 私のほうが詳しいですよ名無しさん」
「わかったよ。じゃあ二人で行こう」
「認めるの早っ! へへへ」
仲よさげな二人のやり取りにあなたも笑顔がこぼれ、勝手に和む。
しかし、やはりこの間と同じように、一番若い女性だけは会話に加わらず冷めた目つきをしていた。
あなたは触れないように楽しく会話をし、やがて彼らと別れた。
一人になり、また少し胸がざわつく。さっきの彼女はミーガンと呼ばれていて、あなたの前では静かで知的な印象に見えた。
「——名無しちゃん! 待たせちゃってごめんね、大丈夫だった?」
「ヴィクトル! 全然大丈夫だよ。舞台で格好よかったよ! あと面白かったなぁ〜あんなに冗談言うんだね」
役目を終えて駆けつけた彼に、からかうように笑いかける。
黒髪をかきあげ、照れくささと軽い疲労をにじませるヴィクトルは、あなたに瞳を細めた。
「そうなんだよ。冗談でも言って少しでもとっつきやすいキャラクターにしろなんて、周りに言われてね。なぜか毎回自分がやることになってしまった。でも今日は頑張れたかな、全部終われば君といられるからね」
にこりと甘い囁きをする彼にあなたは溶けていく。
安心感から思わず抱きつきたくなったが、彼のスーツの袖に少し触れるだけで我慢した。
「ん? 名無しちゃん、手が温かいよ。お酒進んだ?」
「ううん、結構いろんな人がね、話してくれたから興奮したのかもしれない」
「そうか。俺も見てたよ、大男たちが君に近づいてくるの」
「ふふっ。見てたんだ」
優しく包むように手をすくわれてドキドキする。
お友達とのやり取りを話したら、彼も安心したように笑ってくれた。
舞台の上でも時折こちらに目を向けてくれたらしく、自分と同じことをしていて嬉しくなった。
その後もパーティーの続きを二人で楽しむ。
イベントを終え中盤にもなり、彼に話しかけてくる人も多く、あなたも笑顔で挨拶をして、非日常的な雰囲気をたっぷりと味わった。
「ちょっとお手洗い行ってくるね。ヴィクトルもお話とかお酒、楽しんでね」
「わかった。ここで待ってるね」
彼をホールに残し、あなたは扉の外に出る。まぶしい光に目を瞬かせたが、足取り確かに廊下を歩いていった。
女性用ルームは広く、化粧室やちょっとした休憩場所もある。
がらんとした個室に入ってからしばらくすると、女性達の話し声が聞こえてきた。
「——やっぱり納得いかないんですよね。次々幹部の人に話しかけられて、特別扱いみたい」
「ふーん、そう」
興奮した女性と、声のトーンが落ちついた女性。そしてヒールの甲高い音とバッグを台に置く音。
化粧台で話をしている彼らは、内容的にあなたのことを言ってるのではと思った。
「だっておかしくないですか? あんな人、この会社にいたら絶対彼に相手になんてされないですよ。どんな手使って知り合ったのか知らないけど」
そうはっきり口にしたのはあの若い女性、ミーガンである。
あなたは心臓がドクッと鳴り、狭い個室で動けなくなる。
もう一人は一瞬閉口したが、やがてこう言った。
「ねえどうしちゃったの? 少し落ち着きなさいよ。私はあの子好きだけどね、可愛くって素直そうで」
「そう見えるように取り繕ってるんですよ、皆すぐ騙されるんだから」
強気な発言に対し、しばし沈黙が広がる。
「はいはい、なんか余裕ないね〜。部長のこと好きなのはもうわかったってば」
予想していなかった3人目の呆れ声が響き、息を呑んだ。
やっぱり彼らは、さっき話をしていた女性社員たちのようだ。
「別にそういう話じゃないです。皆当たり前のように受け入れてるのが変って言ってるんですよ」
「そうかなぁ〜? 自分が気に入らないだけじゃない? どっちにしろ、あんたも部長には相手にされないって、ムリムリ!」
あの企画部の女性が冗談のように笑い声を飛ばすと、ミーガンは黙りこくっていた。
あなたは彼らが去る音が聞こえても、呆然と前を見つめていた。
やがて個室から出て鏡の前に立った。髪を後ろに長くまとめ、深い赤のドレスにネックレスが輝く、年頃の女性が映っている。
思考が落ち込んだままバッグに手を置いてうなだれていると、突如近くのドアが開いた。
現れた女性を見て心臓が引きつる感覚に陥る。ミーガンだったのだ。
「こんにちは」
「⋯こんにちは」
平然とした顔つきの黒髪セミロングの彼女は、クリーム色の清楚なドレスから伸びる脚をまっすぐ揃え、あなたの隣に並んだ。
バッグからリップを取り出しつけている。
あなたは黙って会釈をし、立ち去ろうとしたのだが。
「ねえ」
その声に振り向くと、彼女は冷たい表情ではなく、自信を浮かばせていた。
だが彼女のぶしつけな視線があなたの指先に行くと、眉をひそめて不快感を示す。
「思ったより顕示欲が強いのね」
「えっ⋯?」
「空回りしてません? 浮いてますよ」
黒く細めた瞳に告げられるが、あなたの心は冷えていく。
彼女の完全な悪意が伝わった。
「ああやって幹部と簡単に繋がれてすごいですね」
「⋯⋯ええと、彼の仲間として紹介頂いたので」
「ふふ、そう。でも勘違いしちゃうでしょう? ただのブティック店員なのに」
容赦ない言葉が、柔らかい心に刃物のように突き刺さる。
彼女は攻撃したいのだ。傷つけて、打ちのめしたい。そんな苛立った思いが、蔑んだ目つきと口元から伝わる。
ここで言い返しても、何も生まれない。この人とは無関係だし、ヴィクトルとの関係も知らないからだ。
彼の顔が浮かんで、あなたは段々、自分の不甲斐なさに押し潰されそうになっていった。
「どうせ彼のお金目当てでしょう? いるわよねそういう女。何も持ってないくせに、男で這い上がろうとするの」
「違いますよ。私達はそういうんじゃないです」
自分だけでなく彼をも馬鹿にされたように感じ、瞬間的にカチンときたあなたは彼女を見据えた。
「あなたこそ、彼のことを地位とかお金で見てるんじゃないですか? だからそういう考えになるんでしょう」
「⋯⋯はっ? なに言ってるの。話をすり替えないでくれない?」
言い返されると思ってなかったのか、ミーガンは顔の中央を歪めた。
あなたは沸々と怒りがわいてくる。ヴィクトルのことをそんなふうに捉えられる筋合いはないのだ。あんなに心が深くて優しい、愛情に満ちた人を。
「たとえ彼がクビになったって、何もかも失ったって、私はずっと一緒にいますよ。一生そばにいるって約束しましたから」
震える声で精一杯歯向かうと、彼女は怯んだ様子だ。
だがまた、馬鹿にするような態度に変わった。
「彼は執行役員だから、簡単にクビになんてならないわよ。単なる会社員じゃないんだから。何も知らないのね」
彼女は呆れたように肩をすくませ、怒りのこもった舌打ちをしてその場から立ち去っていった。扉が無造作に閉められる。
あなたは初めて、顔をくしゃっとしてうつむいた。
「⋯⋯なんなの。⋯⋯馬鹿だ⋯⋯」
泣きたい気持ちでどうしようもない。
自分の無力さと無知と、足元からまた覆い尽くそうとしてくる不安に。
⋯⋯早く、トイレから出て戻らないと。彼が心配する。
そう思っても、どんな顔をすればいいか分からなかった。
思い詰めていたときに、後ろの離れた個室が開く音がした。
振り向くと、見知らぬ眼鏡の女性がオドオドした感じで歩いてくる。
彼女はオフィススーツだったが、あなたを見てぎこちない表情で会釈した。
こちらも咄嗟に頭をさげる。
「ごっごめんなさい、お恥ずかしいところを」
「い、いえ。とんでもないです。すみません、いつ出たらいいか分からなくなってしまって⋯⋯」
二人で謝り合うものの、きっとここの社員の人だろうし、あなたは輪にかけて恥ずかしくてたまらなくなった。
「⋯⋯嫌な人でしたね。気にしなくていいですよ。そういう攻撃的な人、ここに結構いますから。皆外面はいいんです」
「そっ⋯⋯そうなんですか。大変ですよね⋯⋯どうも、ありがとうございます」
予期せず励まされ、あなたは礼を言った。
すると彼女はボリュームのある髪の毛を整えながら、あなたをじっと見た。
「私、ヴィクトルの部下なんです。今の話、伝えておきましょうか?」
「えっ? い、い、いいえ! 大丈夫ですから! ほんとにお気になさらず! 言わないでください、全然大したことじゃないので!」
全身で断ると、彼女は理解したというように、小さく頷いた。
だが心配がにじむ眼差しには、あなたは深く感謝した。
そうしてお手洗いから、色々な思惑を背負って出ていったのだった。
