美オヤジを誘って囲われて救われる話
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誕生日の翌日、二人は森のバンガローを後にした。
今日は雪は降っておらず快晴だ。車を走らせる間も脇道はきらきらと白く輝いている。
「すっごく楽しかったね、ヴィクトル! 帰っちゃうのもったいなかったなぁ〜。ほんとにありがとうね、何から何まで」
「ははっ。そんなかしこまらないで名無しちゃん。いつもお世話になってるの俺のほうだよ。でも喜んでくれてよかった」
サングラス姿が決まってる運転席のヴィクトルが、ちらっとこちらを見て笑む様子がまた痺れる。
ほんとにこんなに至れり尽くせりのバースデーは初めてだった。
自分も何かお礼を持ってくればよかったのだが、渡すタイミングも案の定なく、彼に凄く感謝しつつも結局のところ甘えさせてもらっていた。
彼の誕生日には、たくさん喜んでもらうために自分なりにとっておきの事をしよう、そう心に決めたのだった。
やがてほど近い有名な観光地にやって来る。
ここは登山客でなくても、気軽に雪山を楽しめる展望台が中腹にあり、ロープウェーが出ている。
車を駐車場に停めたあとは、さっそく乗り場に向かった。多くの人が並び賑わっている。
「わぁーすでに寒い! でも楽しいねえ」
「ほんとだね。上についたらホットドリンク飲もうか」
「うんっ」
二人ともコートとダウンを着込み、あなたはニット帽に手袋まで完全防備だ。非日常的な空気にわくわくしながら、乗り物に乗り込んだ。
20人ほど入るかなり大きめの四角いキャビンである。
座席も中央に十分あるが、人々は皆眺めを見ようとガラス張りの前に立っていた。
あなたの隣には長身のヴィクトルが寄り添い、一緒に景色を見渡す。
「うわ、すごい綺麗だな。一面真っ白だ。湖も凍ってる」
「わ、わぁ〜。本当だ……」
最初は見とれていたのだが、ロープウェーが滑らかに進み、あっという間に下に木々など何もない地点に来たとき、あなたに異変が襲った。
――え。めちゃくちゃ怖いんですけど。
高所恐怖症などなかったはずなのだが、思えばこういう乗り物は子どもの頃に乗ったきりで、成長してからほとんど機会がなかった。
「――あ、あそこ泊まったところだね。見てみて名無しちゃん」
ヴィクトルがまるで少年のように珍しくテンションが上がっている。高い所が好きらしい。
そういえば、彼は学生時代にバンジージャンプも男友達とやったことがあると言っていた。
「ほっ本当だなぁー。あぁー戻りたいぐらい、ははっ……」
あなたはとても恐怖を感じている。でも楽しんでいる彼に水を差したくない。
だから一生懸命平気なフリをしようとした。
しかしヴィクトルは静かになったあなたの様子に気づいた。
「ん? 大丈夫名無しちゃん、怖い?」
「ううんっ。全然。でも手繋ぎたいな」
あなたは早口で言い、彼の腕にさっと腕を絡めた。
少し気持ちが落ち着くかと思ったが、ヴィクトルはあなたの手を優しく握ると、そっとその場から下がって後ろの席に誘導した。
「ヴィクトル、見てていいよ。私大丈夫だから」
「ううん、十分見たよ。ここなら安全だよ、もうすぐ着くからね。一緒にいよう」
彼はにこりと穏やかに言ってあなたの手をぎゅっと握った。
――優しい。
あなたは素直に嬉しくなり、気分が和らいでいく。
その座席からは空しか見えないし、彼の顔だけに集中して、気を紛らすように明るくお喋りをした。
しかしこのロープウェーは長く、まだ半分ぐらいある。そこでもうひとつ事件が起きた。
二人組や友人同士以外にも、家族連れが何組か乗っていたのだが、一人の男の子が中で動き回ったり走り出したのだ。
乗り物は大きく頑丈だが、揺れが伝わる。
あなたは気が気ではなくなってきた。
周囲の人も視線をやるが、親を含め注意する者はいない。
ちらっと家族を見ると夫婦は赤ん坊を抱えており、外の景色を見ていた。大人しい女の子もいる。
少し騒がしいだけの男の子だ、仕方ない――。
この国では人の躾に口出しするのは厳禁で、子供の遊びや自由も確立されている。
だから時折うんざりしたとしても、見過ごせばいいと考えたのだが。
突然ヴィクトルが立ち上がった。驚いて目で追うと、彼は目立たぬように夫婦に後ろから声をかける。
あなたが緊張して様子を伺っていると、彼はこんなことを言っていた。
「すみません、僕の彼女が揺れを少し怖がっていて。ちょっとだけお願いしてもいいですか?」
彼は柔らかい表情で夫婦にこっそり頼む。すると女性のほうは明らかに彼を見て驚き、頬を赤らめて笑みを浮かべた。
「あっはい。もちろん」
そして彼女はすぐに息子の名前を呼び、そばへ引き寄せた。
男性のほうはあなたを見やって両目をぱちりとやって微笑む。
なんなんだ。
一瞬そう思いつつもその夫婦に、なにより声をかけてくれたヴィクトルに最大の感謝の念がわいた。
自分は本来、何もアクションを起こさないタイプである。
でも彼はあなたのためとはいえ、はっきり申し出てくれた。見た目よりも簡単に出来ることじゃない。
「――ありがとうヴィクトル、ごめんね」
「いやいや、大丈夫だよ」
彼は戻ってきて、またすぐに何もなかったようにそばにいてくれた。
夫婦は息子に何か話しかけ、もう大人しくしてくれるものだと思ったのだが、なんとその子はあなたの元にやってきた。
「んっ? どうしたの?」
あなたが素で聞き返すと、少年は無邪気な笑みを浮かべて何故か二人の間に座ってきた。
「ちょっ」
ヴィクトルが思わず声を出したが少年はかまわず手にあったものを差し出す。
「はい、これあげる」
まだ低学年の子がくれたのは包み紙のキャンディだった。
あなたは目を白黒させたが、優しくはにかんで「ありがとう」と受け取った。
さっきのやり取りを想像するに、母親から説明されてお詫びの印なのかお菓子を渡してくれたのだろう。
同じくニット帽の男の子は今は大人しく真ん中に座っている。
若干ヴィクトルの複雑そうな視線が面白く感じたが、あなたは子供相手に微笑ましく思っていた。
騒がしかったけど素直で良い子そうだな。
するとその子は急にヴィクトルに振り向く。
「ねえおじさん」
「なんだい?」
「お姉さんの旦那さん?」
「えっ」
周りはそれぞれ話に盛り上がり、誰も3人のことを気に留めていない。
しかしあなた達二人の鼓動は一気に跳ね上がった。
「ええとね、まだ違うんだ」
彼は子供相手にさっと照れた表情をしながら、優しい雰囲気をまとう。
「ふうん。頑張ったほうがいいよ」
「えっ。うん。そりゃ頑張るさ」
年の違う二人の会話にあなたは吹き出す。
たったそれだけだったが、少年はそわそわして立ち上がり、あなたに小さく手を振って去ろうとした。
「あっねえ! これもあげるね。ありがとう」
あなたはポシェットから小さい袋入りのチョコを手渡した。すると彼は高揚した笑みを見せ、素早く親のもとに帰っていった。
また二人になったあと、ヴィクトルと気恥ずかしげに見つめ合う。
「なんかさ、彼に全部持ってかれたな」
「ええっ? そんなことないよ。はいっ、ヴィクトルにもあげるね」
「ありがとう」
彼にも菓子を渡すと、その場で中身を開けてボリボリ食べていた。
あなたはその様子を楽しそうに眺め、再びにこやかな夫婦と目が合ったため微笑み、なんだか朗らかな気分でその場を終えた。
ロープウェーから降りると、ぴりっとした冷気が喉まで入ってくる。
「わぁ〜着いたぁ」
あなたはさっきまでの恐怖がどこへやら、腕を広げて息を吸い込み、遠くの眺望を見やった。
二人で人混みに紛れ、展望台まで歩いていく。
「名無しちゃん、もう大丈夫?」
「うんっ。ごめんね、急にパニックになっちゃって」
「いいや、気づかなくてごめん。ここに連れてくるべきじゃなかったよな」
彼はかなり反省した様子で言ってくれたが、まったく違うとあなたは主張する。
そこまで怖いと乗るまで知らなかった自分のせいなのだ。
彼はそれでも気にしていたが、帰りもそばにいるからねと寄り添ってくれて、それだけであなたはありがたくて心強かった。
それにあのイレギュラーな少年である。
彼の何気ない台詞のおかげで、ヴィクトルの口からあんな言葉が聞けるなんて。
現金だけれど、その嬉しさによって恐怖もほとんど忘れるほどだった。
「ヴィクトルはああやってちゃんと声かけられて凄いなぁ。私も見習わなきゃ。それにしても面白い男の子だったね」
「ああ、あいつ帰りはいないよな」
周りを大げさに伺う彼が異様に可笑しかった。
昨日と今日だけでも、またヴィクトルの色んな面を見れたことがすごく嬉しく感じる。
その後、二人は横長の柵づたいに、下からでは到底眺められない壮大な景観を望んだ。
連なる雪山の純白は吸い込まれそうで、冷たい風が赤い鼻を撫で、自分がいかにちっぽけな存在なのかと思い知る瞬間だった。
「わぁ……綺麗だなぁ。ここまで来た甲斐あったな。私、支えられてただけだけど」
「ふふっ、そんなことないよ。でもほんと綺麗だな。素晴らしい眺めだ」
隣のヴィクトルの横顔をそっと見上げる。
切れ長の瞳が細められ、景色に見入っている。
――ああ、やっぱり好きだな。
あなたは深くそう感じた。
同じ景色を眺めているとき、二人で同じ感動に触れているとき、とくにそう思う。
隣がピカピカと光ってるような、じわりとした温もりが流れてくるような、不思議な繋がり。
彼はそういう特別な存在だった。
あなたの視線に気づく前に、彼の表情が少し真剣なものに変わり、正面をじっと見つめている。
自分が見ていていつ気づくかなと、わざと逸らさずに観察していた。
すると彼はダウンのポケットに片手を入れて、もう一度外に出す。
なぜか少し落ち着かない様子だった。
「ヴィクトル、寒い? 中に入る?」
「いや、ううん。あ、やっぱり入ろうか。寒いよね」
彼は一瞬ためらったが、頬が赤らんでいるあなたを見ると、視線を屋内の広いロッジに向けた。
「よし行こう。何飲む? 名無しちゃん」
「ホットチョコレートにしようかな。あっ、あっちにも見るとこあるみたいだよ。お店とか」
「そうなんだよね、ちょっと待って。さっきもらった案内書に――」
少し前を行くヴィクトルがポケットを探り、中からミニパンフレットを出したとき、ぽろっと何かが落ちた。
彼は気づかずに少し先で立ち止まり、地図に視線を落としている。
あなたはすぐにそれを拾ったが、手の中でもう一度見て動きが止まってしまった。
それは、白いリボンがかけられた淡いピンクの四角い箱だった。
「…………こ、これって……」
昨日誕生日プレゼントのネックレスをもらったばかりだが、これも明らかに誰かへの贈り物に見える。
そしてその誰かは、あなたしかいなかった。
今日は雪は降っておらず快晴だ。車を走らせる間も脇道はきらきらと白く輝いている。
「すっごく楽しかったね、ヴィクトル! 帰っちゃうのもったいなかったなぁ〜。ほんとにありがとうね、何から何まで」
「ははっ。そんなかしこまらないで名無しちゃん。いつもお世話になってるの俺のほうだよ。でも喜んでくれてよかった」
サングラス姿が決まってる運転席のヴィクトルが、ちらっとこちらを見て笑む様子がまた痺れる。
ほんとにこんなに至れり尽くせりのバースデーは初めてだった。
自分も何かお礼を持ってくればよかったのだが、渡すタイミングも案の定なく、彼に凄く感謝しつつも結局のところ甘えさせてもらっていた。
彼の誕生日には、たくさん喜んでもらうために自分なりにとっておきの事をしよう、そう心に決めたのだった。
やがてほど近い有名な観光地にやって来る。
ここは登山客でなくても、気軽に雪山を楽しめる展望台が中腹にあり、ロープウェーが出ている。
車を駐車場に停めたあとは、さっそく乗り場に向かった。多くの人が並び賑わっている。
「わぁーすでに寒い! でも楽しいねえ」
「ほんとだね。上についたらホットドリンク飲もうか」
「うんっ」
二人ともコートとダウンを着込み、あなたはニット帽に手袋まで完全防備だ。非日常的な空気にわくわくしながら、乗り物に乗り込んだ。
20人ほど入るかなり大きめの四角いキャビンである。
座席も中央に十分あるが、人々は皆眺めを見ようとガラス張りの前に立っていた。
あなたの隣には長身のヴィクトルが寄り添い、一緒に景色を見渡す。
「うわ、すごい綺麗だな。一面真っ白だ。湖も凍ってる」
「わ、わぁ〜。本当だ……」
最初は見とれていたのだが、ロープウェーが滑らかに進み、あっという間に下に木々など何もない地点に来たとき、あなたに異変が襲った。
――え。めちゃくちゃ怖いんですけど。
高所恐怖症などなかったはずなのだが、思えばこういう乗り物は子どもの頃に乗ったきりで、成長してからほとんど機会がなかった。
「――あ、あそこ泊まったところだね。見てみて名無しちゃん」
ヴィクトルがまるで少年のように珍しくテンションが上がっている。高い所が好きらしい。
そういえば、彼は学生時代にバンジージャンプも男友達とやったことがあると言っていた。
「ほっ本当だなぁー。あぁー戻りたいぐらい、ははっ……」
あなたはとても恐怖を感じている。でも楽しんでいる彼に水を差したくない。
だから一生懸命平気なフリをしようとした。
しかしヴィクトルは静かになったあなたの様子に気づいた。
「ん? 大丈夫名無しちゃん、怖い?」
「ううんっ。全然。でも手繋ぎたいな」
あなたは早口で言い、彼の腕にさっと腕を絡めた。
少し気持ちが落ち着くかと思ったが、ヴィクトルはあなたの手を優しく握ると、そっとその場から下がって後ろの席に誘導した。
「ヴィクトル、見てていいよ。私大丈夫だから」
「ううん、十分見たよ。ここなら安全だよ、もうすぐ着くからね。一緒にいよう」
彼はにこりと穏やかに言ってあなたの手をぎゅっと握った。
――優しい。
あなたは素直に嬉しくなり、気分が和らいでいく。
その座席からは空しか見えないし、彼の顔だけに集中して、気を紛らすように明るくお喋りをした。
しかしこのロープウェーは長く、まだ半分ぐらいある。そこでもうひとつ事件が起きた。
二人組や友人同士以外にも、家族連れが何組か乗っていたのだが、一人の男の子が中で動き回ったり走り出したのだ。
乗り物は大きく頑丈だが、揺れが伝わる。
あなたは気が気ではなくなってきた。
周囲の人も視線をやるが、親を含め注意する者はいない。
ちらっと家族を見ると夫婦は赤ん坊を抱えており、外の景色を見ていた。大人しい女の子もいる。
少し騒がしいだけの男の子だ、仕方ない――。
この国では人の躾に口出しするのは厳禁で、子供の遊びや自由も確立されている。
だから時折うんざりしたとしても、見過ごせばいいと考えたのだが。
突然ヴィクトルが立ち上がった。驚いて目で追うと、彼は目立たぬように夫婦に後ろから声をかける。
あなたが緊張して様子を伺っていると、彼はこんなことを言っていた。
「すみません、僕の彼女が揺れを少し怖がっていて。ちょっとだけお願いしてもいいですか?」
彼は柔らかい表情で夫婦にこっそり頼む。すると女性のほうは明らかに彼を見て驚き、頬を赤らめて笑みを浮かべた。
「あっはい。もちろん」
そして彼女はすぐに息子の名前を呼び、そばへ引き寄せた。
男性のほうはあなたを見やって両目をぱちりとやって微笑む。
なんなんだ。
一瞬そう思いつつもその夫婦に、なにより声をかけてくれたヴィクトルに最大の感謝の念がわいた。
自分は本来、何もアクションを起こさないタイプである。
でも彼はあなたのためとはいえ、はっきり申し出てくれた。見た目よりも簡単に出来ることじゃない。
「――ありがとうヴィクトル、ごめんね」
「いやいや、大丈夫だよ」
彼は戻ってきて、またすぐに何もなかったようにそばにいてくれた。
夫婦は息子に何か話しかけ、もう大人しくしてくれるものだと思ったのだが、なんとその子はあなたの元にやってきた。
「んっ? どうしたの?」
あなたが素で聞き返すと、少年は無邪気な笑みを浮かべて何故か二人の間に座ってきた。
「ちょっ」
ヴィクトルが思わず声を出したが少年はかまわず手にあったものを差し出す。
「はい、これあげる」
まだ低学年の子がくれたのは包み紙のキャンディだった。
あなたは目を白黒させたが、優しくはにかんで「ありがとう」と受け取った。
さっきのやり取りを想像するに、母親から説明されてお詫びの印なのかお菓子を渡してくれたのだろう。
同じくニット帽の男の子は今は大人しく真ん中に座っている。
若干ヴィクトルの複雑そうな視線が面白く感じたが、あなたは子供相手に微笑ましく思っていた。
騒がしかったけど素直で良い子そうだな。
するとその子は急にヴィクトルに振り向く。
「ねえおじさん」
「なんだい?」
「お姉さんの旦那さん?」
「えっ」
周りはそれぞれ話に盛り上がり、誰も3人のことを気に留めていない。
しかしあなた達二人の鼓動は一気に跳ね上がった。
「ええとね、まだ違うんだ」
彼は子供相手にさっと照れた表情をしながら、優しい雰囲気をまとう。
「ふうん。頑張ったほうがいいよ」
「えっ。うん。そりゃ頑張るさ」
年の違う二人の会話にあなたは吹き出す。
たったそれだけだったが、少年はそわそわして立ち上がり、あなたに小さく手を振って去ろうとした。
「あっねえ! これもあげるね。ありがとう」
あなたはポシェットから小さい袋入りのチョコを手渡した。すると彼は高揚した笑みを見せ、素早く親のもとに帰っていった。
また二人になったあと、ヴィクトルと気恥ずかしげに見つめ合う。
「なんかさ、彼に全部持ってかれたな」
「ええっ? そんなことないよ。はいっ、ヴィクトルにもあげるね」
「ありがとう」
彼にも菓子を渡すと、その場で中身を開けてボリボリ食べていた。
あなたはその様子を楽しそうに眺め、再びにこやかな夫婦と目が合ったため微笑み、なんだか朗らかな気分でその場を終えた。
ロープウェーから降りると、ぴりっとした冷気が喉まで入ってくる。
「わぁ〜着いたぁ」
あなたはさっきまでの恐怖がどこへやら、腕を広げて息を吸い込み、遠くの眺望を見やった。
二人で人混みに紛れ、展望台まで歩いていく。
「名無しちゃん、もう大丈夫?」
「うんっ。ごめんね、急にパニックになっちゃって」
「いいや、気づかなくてごめん。ここに連れてくるべきじゃなかったよな」
彼はかなり反省した様子で言ってくれたが、まったく違うとあなたは主張する。
そこまで怖いと乗るまで知らなかった自分のせいなのだ。
彼はそれでも気にしていたが、帰りもそばにいるからねと寄り添ってくれて、それだけであなたはありがたくて心強かった。
それにあのイレギュラーな少年である。
彼の何気ない台詞のおかげで、ヴィクトルの口からあんな言葉が聞けるなんて。
現金だけれど、その嬉しさによって恐怖もほとんど忘れるほどだった。
「ヴィクトルはああやってちゃんと声かけられて凄いなぁ。私も見習わなきゃ。それにしても面白い男の子だったね」
「ああ、あいつ帰りはいないよな」
周りを大げさに伺う彼が異様に可笑しかった。
昨日と今日だけでも、またヴィクトルの色んな面を見れたことがすごく嬉しく感じる。
その後、二人は横長の柵づたいに、下からでは到底眺められない壮大な景観を望んだ。
連なる雪山の純白は吸い込まれそうで、冷たい風が赤い鼻を撫で、自分がいかにちっぽけな存在なのかと思い知る瞬間だった。
「わぁ……綺麗だなぁ。ここまで来た甲斐あったな。私、支えられてただけだけど」
「ふふっ、そんなことないよ。でもほんと綺麗だな。素晴らしい眺めだ」
隣のヴィクトルの横顔をそっと見上げる。
切れ長の瞳が細められ、景色に見入っている。
――ああ、やっぱり好きだな。
あなたは深くそう感じた。
同じ景色を眺めているとき、二人で同じ感動に触れているとき、とくにそう思う。
隣がピカピカと光ってるような、じわりとした温もりが流れてくるような、不思議な繋がり。
彼はそういう特別な存在だった。
あなたの視線に気づく前に、彼の表情が少し真剣なものに変わり、正面をじっと見つめている。
自分が見ていていつ気づくかなと、わざと逸らさずに観察していた。
すると彼はダウンのポケットに片手を入れて、もう一度外に出す。
なぜか少し落ち着かない様子だった。
「ヴィクトル、寒い? 中に入る?」
「いや、ううん。あ、やっぱり入ろうか。寒いよね」
彼は一瞬ためらったが、頬が赤らんでいるあなたを見ると、視線を屋内の広いロッジに向けた。
「よし行こう。何飲む? 名無しちゃん」
「ホットチョコレートにしようかな。あっ、あっちにも見るとこあるみたいだよ。お店とか」
「そうなんだよね、ちょっと待って。さっきもらった案内書に――」
少し前を行くヴィクトルがポケットを探り、中からミニパンフレットを出したとき、ぽろっと何かが落ちた。
彼は気づかずに少し先で立ち止まり、地図に視線を落としている。
あなたはすぐにそれを拾ったが、手の中でもう一度見て動きが止まってしまった。
それは、白いリボンがかけられた淡いピンクの四角い箱だった。
「…………こ、これって……」
昨日誕生日プレゼントのネックレスをもらったばかりだが、これも明らかに誰かへの贈り物に見える。
そしてその誰かは、あなたしかいなかった。
