美オヤジを誘って囲われて救われる話
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今日はあなたの誕生日だ。ヴィクトルの運転で山間部の雪道を走り、高級バンガローが点在する森に辿り着いた。
鬱蒼とした木々の中、雪がしとしと降り続いている。
整備された小道を進むと、しばらくして一軒の木造りの家が現れた。
まるで絵本の中から抜け出してきたような佇まいだ。
玄関を開けた瞬間、あなたは思わず声を上げた。
「うわぁ、すごい! 本当にこんなところに泊まれるの?」
「もちろん。名無しちゃん、気に入った?」
「うん!」
吹き抜けの天井と温もりのあるリビング。
正面はガラス張りで、雪景色が静かに広がっている。
降り積もる雪を眺めていると、胸の奥がじんわりと熱くなった。
暖炉にはオレンジの火が灯り、家具や装飾も冬らしく整えられている。
上質さがありながら、二人で過ごすのにちょうどいい落ち着いた空間だった。
荷物を運び二人で景色を眺めていると、時折彼はあなたのことを穏やかな眼差しで見つめる。
「ヴィクトル、ありがとう。こんな素敵なところに連れてきてくれて」
「いやいや、俺のほうこそありがとうね。特別な日を一緒に過ごしてくれて」
交りあう眼差しにはすでに熱く灯る想いが通っていた。
それはほどなくして甘い口づけに変わった。
南欧に位置する自国は冬でもわりと暖かく、雪もめったに降らない珍しいものだ。
そんな中、あなたはふと雪が見たいなと言ってしまった。
今思えば難しい願いだったのだが、ヴィクトルは車を数時間走らせ国境をまたがる山脈まで連れてきて、それを叶えてくれた。
ここは森の中にひっそりと建ち並ぶリゾート地で、秘められた空間が美しい。
明日は帰る前に周辺を観光し、今日はこのバンガローでゆったり過ごそうと話していた。
「ねえねえ、ロフトまであるよ。ここで寝ようかな〜」
下には立派な主寝室があるのに、短いはしごを登ったあなたは、はしゃいでベッドの端で飛び跳ねた。
もうすでに帰りたくない気持ちになってくる。ヴィクトルと一緒にいるからだ。
気づくと彼がそばに佇んでいた。
思慮深く顎を触り、なにやら色気のある目つきで眺めている。
「確かに高いところでドキドキするね。でも名無しちゃん、狭いよ。俺が少しでも動いたら、君が下に落ちちゃうかも」
にやりと大人びた文脈にあなたはよからぬことを考え、ボッと顔を赤くしてしまった。
そんなこんなで一緒に仲良く室内を見て回る。
これだけで1日楽しく過ごせるぐらいだが、あっという間に夕食の時間になった。
今日は別棟にあるレストランへ行く予定だ。
なので着替えてお洒落をする。
あなたはこの日のためにブティックで購入した白っぽいワンピースドレスを身につけた。
店の服は淑女らしいシックな黒が多いけれど、今日は冬の雪を思わせる清廉な装いでまとめたかった。
気に入ってくれるかな?
そうドキしながらクローゼットルームから出ていくと、彼はすでに着替えていた。
自分の思惑が一瞬吹き飛ぶぐらい、ヴィクトルの完璧な装いに目を奪われる。
「ん? ――わあ名無しちゃん、すっごく綺麗だ!」
感動の面持ちで寄って来たのはヴィクトルが先だった。
「ほ、本当? これ大丈夫?」
「うん、とっても素敵だよ。いいねえ、見惚れるな」
彼の目線が頭上から靴にまで届いて恥ずかしいけれど、自然と笑みがこぼれていく。
「こういうの初めてだからドキドキしてたんだ」
「ふふ、君に完璧に似合ってるよ。あれだな、真っ白い雪の日に教会から姿を現した聖女みたいだ」
彼の詩的な例えに思わず笑ってしまう。
でも興奮が伝わってきて嬉しかった。
ちなみに教会というワードが敏感に響いてきたのは秘密である。
あなたは同じくヴィクトルのことをまじまじと見つめた。
立ってるだけで存在感に圧倒されて憧憬の眼差しになってしまう。
「なんだかいつもと雰囲気が違うね、セクシーで格好いい…! ちょっとダークな感じで、物語に出てくる組織の当主みたい」
「え? それ大丈夫なの?」
彼が笑いながら髪をかき上げる仕草にまた惚れ直す。
黒いスーツに暗色のシャツ、後ろに流すようにセットされた髪型は、爽やかさと色気を同時に感じさせる。
普段は閉じている首元も今日は少し開いていて、惜しみなく漂う色気があなたの視線を引きつけた。
「気に入ってくれてよかったな。でもやっぱり危険な香りする? 一応気をつけたんだけど。君がお店の服を着るって言ってたから、ちゃんと合うようにね」
あなたは深く感動する。彼は前々からあなたのブティックに興味があるようだった。
一風変わったスタイルも気に入ってくれてて、店のサイトも見たらしい。
「ばっちり合ってるし、もう美しい域だよ! ネットで雰囲気見ただけなのにヴィクトルってほんとにおしゃれだよね。こんな風に自分でコーディネートして」
興奮冷めやらずに話すと、彼もほっとしたように微笑んでいる。
「服とかは若い頃から結構好きなんだ。いつもはスーツばかりだけど、今は名無しちゃんの隣にふさわしいようにしないとね。もっと自分を磨かないとなって思ってさ」
そんなことを全くする必要ないぐらい、彼は完成されているけれど、彼らしい真摯な気持ちがとても嬉しくなった。
その後、二人でレストランに向かう途中で彼はこんなことも言ってきた。
しっとりした雰囲気の白壁の回廊を歩いていると、隣のヴィクトルが顔を寄せてくる。
「今度君のお店に行ってみたいな」
「えっ本当?」
「うん。男が行ったらおかしいかな?」
顎をさすりながら気にするような視線が、めずらしく初々しい。
あなたはふふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「ううん、そんなことないよ。 夫婦とか奥様への贈り物とかで来る人もたまにいるんだよ。それに居心地もいいと思うよ。そんなに混んでるわけじゃないし。……あっ、接客してるとこを見られたら少し恥ずかしいけどね。でもヴィクトルが来てくれたら嬉しいよ」
自分でも驚くほど素直な思いがあふれてくる。
彼も驚いたのだろう。あなたが恥ずかしがり屋と知っているから。
急に手を繋がれて笑いかけられ、どきっとした。
「可愛いな名無しちゃんは。じゃあ今度サプライズで行ってみようかな?」
「いやサプライズはダメ!」
「どうして?」
「ちゃんと準備しないと」
「 何の準備?」
「えっと、顔とかメイクとか身だしなみとか――」
接客よりも彼の登場を気にしてるのが分かり、彼はこらえるように笑っている。
「そんなの十分でしょう、君はいつも美しいよ」
「へへ……ありがとう。でも来るときは教えてね」
「はいはい」
彼の大人びた笑いに、なぜか自分のまわりに熱気が生まれていった。
ーーー
レストランに着くと、丸いドーム状の空間がいくつも並んでいた。
完全な個室ではないけれどきちんと区切られていて、二人きりの親密な距離感を作ってくれる。
白を基調としたテーブル席に座ると、ガラス越しに外の雪景色が見え、白い世界と溶け合うように幻想的だ。
「はぁ。なんて綺麗なんだろう。まるで別世界だね」
「本当だね」
テーブルからしばらく二人で情景に見入っていた。
飲み物が届いたあとは、乾杯して楽しくお喋りが始まる。
「私はやっぱり冬の子だから冬が好きなんだ。ヴィクトルは夏生まれだよね?」
「そうだね。7月だから」
二人が出会ったのは9月だから、惜しかったな。あなたがそう話すと彼は笑う。
「でも一緒にいてくれるでしょう?」
「当たり前だよ。ヴィクトルのお誕生日は私が全部予約するね」
胸を張って言った後にかなりわがままな注文だと気づいたが、もう取り返せない。
彼の満面の笑みが向けられたあとでは。
そして続々とコース料理が運ばれていく。
どれも見事な創作料理で普段はお目にかかれない品々だ。まるでストーリーがあるように見た目も味も素晴らしかった。
「ぅわあぁ〜美味しい。こんなの食べたことないよ。私にはまだ早すぎる気がするんだけど」
「はは、大丈夫だよ。俺も同じこと思いながら毎回ばくばく食べてるから。でも最近よく思うんだ、好きな人と一緒だったらどんな料理でも美味しいんだなって」
彼がそんな風に悟ったように柔らかな顔つきで話すから、あなたも全面的に納得してうんうんと頷き、また二人で笑いあった。
コースの最後まで味覚と会話を楽しみ、向かい合うテーブルでは笑顔が絶えなかった。
すると突然ヴィクトルがこんなことを言った。
「よし、じゃあそろそろかな。あのね、名無しちゃん。これ受け取ってくれるかな? 」
彼がジャケットの内側から細長い箱を取り出す。
美しくラッピングされたそれを見てあなたは目を瞬かせた。
――まさかプレゼント?
「えっヴィクトル、もうすでにたくさんもらってるよ!」
「いやいや、それは始まりだから。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
そっと手の中に渡されて、目を凝らしながら大切に両手で受け取る。
ラッピングを丁寧に外し箱を開けた瞬間、そこにきらめいていたものに視線が吸い寄せられた。
細い金のチェーンネックレスに、トップは赤い宝石が光っている。
ハートに象られたルビーの石が金の台座に映えて、確かな存在感を放ち、一瞬で魅せられていった。
「……可愛い! すっごく綺麗…!」
あなたは見入りすぎて時間が止まったような感覚になる。
「これくれるの? ほんとに、私に? どうしよう、こんなに素敵なもの」
彼を見上げると、優しく寄り添うような瞳でこちらを見つめている。
「もちろん。名無しちゃんのために選んだんだ。前に出張に行った時に、素敵な宝石店と関わることがあってね。そこから取り寄せたんだ」
彼は連絡を取り合い、何度か見に行って選んでくれたらしい。
すると彼が立ち上がったので驚く。
周りの客もいる中であなたの後ろにまわり、ネックレスをつけてくれた。
その瞬間と彼が笑顔になるまで、鼓動がドキドキしながら待った。
「どうかな?」
「うん、すごく似合ってるよ! 思った通りだ、いやそれ以上だね。とっても可愛いよ名無しちゃん」
今日一番嬉しく、照れが募る。
あなたはネックレスをなぞりながらお礼を伝えた。
「ありがとう、ヴィクトル。なんて言ったらいいんだろう、胸がいっぱいだよ。宝物にするね」
嬉しすぎて言葉に詰まるぐらいだ。
すごく女の子らしいネックレスで、甘さとロマンチックさを兼ね備えている。
背伸びをしなくてもいい、あなたのために彼が考えてくれた、ぴったりなジュエリーだった。
彼の気持ちと愛情が、まるで全身を守護して包み込んでくれているように感じた。
バンガローに戻ってくると、外はすっかり真っ暗になっていた。
松明が灯るバルコニーもあるし、あとで冬の空気を吸いながら温かい飲み物を飲んでもいい。
暖炉には常に煌々とした火があって神秘的な気分になる。
夜は二人ともゆったりした服装に着替え、くつろぎ始める時間だった。
あなたはしばらく鏡の前にいて、ネックレスを眺めていた。魔法のように夢見心地だ。
見るだけで彼の存在を感じる。きっと離れていても気持ちに寄り添ってくれる、すでにそんな特別な存在になっていた。
あなたが部屋から出てくると、ヴィクトルはなぜか冷蔵庫の前にいた。
ここはキッチンも備わっていて、長期滞在の人は冬ごもり的な生活もできる。
本当に明日帰ってしまうのがもったいないぐらいの場所だと感じながら、あなたは彼の背中に抱きついた。
「ヴィクトル、何してるの?」
レストランから二人きりのバンガローに帰ってきて、緊張が少しほぐれ大胆になっている。
「うわっ」
彼はびっくりして振り向く。
そして表情を柔らかくし、すぐに腕の中に体を包み込んでくれた。
彼の背にある冷蔵庫の扉が自然に閉じられる。
「どうしたの名無しちゃん。なんだか元気だな」
「うんっ。そうだよ。本当に可愛いね、このネックレス。ずっと鏡見ちゃうよ。毎日つけるね」
寝るまでつけようと決めていると、彼の目元も細められる。
「そう言ってくれて嬉しいな。君の好きな時につけてね。俺も見てるだけですごく幸せな気分になる、一緒にいるみたいでさ」
彼の指先がそっとチェーンに伸びてきて、優しくなぞってきたため赤い顔で動かないように努めた。
「うんっ、ほんとにその通り。そういえば、どうしてここにいるの?」
何気なく何をしてたのか尋ねると、彼は緊張した面持ちで答えた。
「えっと、うん。ちょっとね――。いや、よし。やるか」
覚悟を決めたヴィクトルが笑顔を見せてこう言った。
「そうだ名無しちゃん、ケーキ食べる?」
「ケーキ? もちろん食べる!」
あなたは瞳を輝かせて返事をした。
彼の誕生日プランはこれで終わりではなく、今日はなんとケーキまで用意してくれていたのだ。
もう幸福ですでに満腹になりそうだが、あなたはこの瞬間もとっても楽しみにしていた。
彼のそばにくっついていると、ヴィクトルは慎重に冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。
二人にしては大きいホールサイズだが、そのままリビングのローテーブルに置かれてわくわくする。
「じゃあ名無しちゃん、お誕生日おめでとう!」
そう言って開けてもらい、中のケーキを見た瞬間にあなたはまた大きな感動に包まれる。
美味しそうな生クリームと黄色いリキュールに彩られた鮮やかなケーキは、二人の郷土でも有名なものだ。
「わーっ! すごい! これどこで買ったの? ものすごく美味しそう! 見て見て、デコレーションもかっわいい〜」
しかもホワイトチョコレートにお洒落に「名無しちゃんに愛をこめて」と描かれている。
「本当? 大丈夫かな? 実はこれ、俺が作ったんだ」
「……え!?」
頭上から突然告白されて、あなたは驚愕のあまりゆっくり顔を上げた。
ケーキとヴィクトルの真剣な顔を交互に見やる。
「ほ……ほんとに? これヴィクトルの手作り?」
「うん」
あなたはケーキを再びじっくり見下ろし、目が勝手に潤んでいく。
「凄すぎるよ! 大変だったでしょう? 私のために作ってくれたの? 」
あのヴィクトルがいそいそと自宅キッチンで取り組んでいる姿を想像する。
あまりにも衝撃的だ。いつも忙しい彼が、いったいどれだけ手間暇をかけたのか。
彼もようやく緊張が溶けてきたのか、ほっとした笑みが広がっている。
「味はまだ分からないけどね。自分でも絶対買った方が美味いよなとか、上手くいくかなってすごい悩んだんだ。でも名無しちゃんなら喜んでくれるんじゃないかなって」
そう照れながら話してくれる彼は、さっきまでレストランで完璧な大人の紳士像を表していた姿からは想像できない。
もうひとつの愛情深い素朴な面を見せてくれてる気がして、あなたの胸はいっぱいになっていった。
「嬉しいに決まってるよ、こんな素敵なプレゼント。親以外にケーキなんて作ってもらったことないよ……うう。ほんとにありがとう。早く食べよう、私たくさん食べる! あっでも切るのもったいない、待って写真写真――」
さっきこっそり鏡の前でネックレスをつけてる写真も撮ったが、このケーキも勿論ばっちり収めたい。
彼が嬉しそうに笑っている中、思う存分撮り終えたあなたは満足し、いよいよテーブルについた。
コーヒーもいれて、二人で温かい部屋の中でお祝いの時間だ。
さらにびっくりしたのが、ヴィクトルが短い歌を歌ってくれたことだった。
ハッピバースデーと彼の美声が響き、この人はいったいどれだけ自分のことを想ってくれてるのか、幸せに埋もれそうだった。
「ありがとう、ヴィクトル。超愛してる!!」
「はは、俺も愛してるよ。ものすごくね。名無しちゃんだけ」
隣に座った彼にちゅっとキスをされて、もう一度見つめ合って唇を重ねた。
あなたの誕生日は、本当に忘れられない、特別でとびきり素敵な一日となった。
鬱蒼とした木々の中、雪がしとしと降り続いている。
整備された小道を進むと、しばらくして一軒の木造りの家が現れた。
まるで絵本の中から抜け出してきたような佇まいだ。
玄関を開けた瞬間、あなたは思わず声を上げた。
「うわぁ、すごい! 本当にこんなところに泊まれるの?」
「もちろん。名無しちゃん、気に入った?」
「うん!」
吹き抜けの天井と温もりのあるリビング。
正面はガラス張りで、雪景色が静かに広がっている。
降り積もる雪を眺めていると、胸の奥がじんわりと熱くなった。
暖炉にはオレンジの火が灯り、家具や装飾も冬らしく整えられている。
上質さがありながら、二人で過ごすのにちょうどいい落ち着いた空間だった。
荷物を運び二人で景色を眺めていると、時折彼はあなたのことを穏やかな眼差しで見つめる。
「ヴィクトル、ありがとう。こんな素敵なところに連れてきてくれて」
「いやいや、俺のほうこそありがとうね。特別な日を一緒に過ごしてくれて」
交りあう眼差しにはすでに熱く灯る想いが通っていた。
それはほどなくして甘い口づけに変わった。
南欧に位置する自国は冬でもわりと暖かく、雪もめったに降らない珍しいものだ。
そんな中、あなたはふと雪が見たいなと言ってしまった。
今思えば難しい願いだったのだが、ヴィクトルは車を数時間走らせ国境をまたがる山脈まで連れてきて、それを叶えてくれた。
ここは森の中にひっそりと建ち並ぶリゾート地で、秘められた空間が美しい。
明日は帰る前に周辺を観光し、今日はこのバンガローでゆったり過ごそうと話していた。
「ねえねえ、ロフトまであるよ。ここで寝ようかな〜」
下には立派な主寝室があるのに、短いはしごを登ったあなたは、はしゃいでベッドの端で飛び跳ねた。
もうすでに帰りたくない気持ちになってくる。ヴィクトルと一緒にいるからだ。
気づくと彼がそばに佇んでいた。
思慮深く顎を触り、なにやら色気のある目つきで眺めている。
「確かに高いところでドキドキするね。でも名無しちゃん、狭いよ。俺が少しでも動いたら、君が下に落ちちゃうかも」
にやりと大人びた文脈にあなたはよからぬことを考え、ボッと顔を赤くしてしまった。
そんなこんなで一緒に仲良く室内を見て回る。
これだけで1日楽しく過ごせるぐらいだが、あっという間に夕食の時間になった。
今日は別棟にあるレストランへ行く予定だ。
なので着替えてお洒落をする。
あなたはこの日のためにブティックで購入した白っぽいワンピースドレスを身につけた。
店の服は淑女らしいシックな黒が多いけれど、今日は冬の雪を思わせる清廉な装いでまとめたかった。
気に入ってくれるかな?
そうドキしながらクローゼットルームから出ていくと、彼はすでに着替えていた。
自分の思惑が一瞬吹き飛ぶぐらい、ヴィクトルの完璧な装いに目を奪われる。
「ん? ――わあ名無しちゃん、すっごく綺麗だ!」
感動の面持ちで寄って来たのはヴィクトルが先だった。
「ほ、本当? これ大丈夫?」
「うん、とっても素敵だよ。いいねえ、見惚れるな」
彼の目線が頭上から靴にまで届いて恥ずかしいけれど、自然と笑みがこぼれていく。
「こういうの初めてだからドキドキしてたんだ」
「ふふ、君に完璧に似合ってるよ。あれだな、真っ白い雪の日に教会から姿を現した聖女みたいだ」
彼の詩的な例えに思わず笑ってしまう。
でも興奮が伝わってきて嬉しかった。
ちなみに教会というワードが敏感に響いてきたのは秘密である。
あなたは同じくヴィクトルのことをまじまじと見つめた。
立ってるだけで存在感に圧倒されて憧憬の眼差しになってしまう。
「なんだかいつもと雰囲気が違うね、セクシーで格好いい…! ちょっとダークな感じで、物語に出てくる組織の当主みたい」
「え? それ大丈夫なの?」
彼が笑いながら髪をかき上げる仕草にまた惚れ直す。
黒いスーツに暗色のシャツ、後ろに流すようにセットされた髪型は、爽やかさと色気を同時に感じさせる。
普段は閉じている首元も今日は少し開いていて、惜しみなく漂う色気があなたの視線を引きつけた。
「気に入ってくれてよかったな。でもやっぱり危険な香りする? 一応気をつけたんだけど。君がお店の服を着るって言ってたから、ちゃんと合うようにね」
あなたは深く感動する。彼は前々からあなたのブティックに興味があるようだった。
一風変わったスタイルも気に入ってくれてて、店のサイトも見たらしい。
「ばっちり合ってるし、もう美しい域だよ! ネットで雰囲気見ただけなのにヴィクトルってほんとにおしゃれだよね。こんな風に自分でコーディネートして」
興奮冷めやらずに話すと、彼もほっとしたように微笑んでいる。
「服とかは若い頃から結構好きなんだ。いつもはスーツばかりだけど、今は名無しちゃんの隣にふさわしいようにしないとね。もっと自分を磨かないとなって思ってさ」
そんなことを全くする必要ないぐらい、彼は完成されているけれど、彼らしい真摯な気持ちがとても嬉しくなった。
その後、二人でレストランに向かう途中で彼はこんなことも言ってきた。
しっとりした雰囲気の白壁の回廊を歩いていると、隣のヴィクトルが顔を寄せてくる。
「今度君のお店に行ってみたいな」
「えっ本当?」
「うん。男が行ったらおかしいかな?」
顎をさすりながら気にするような視線が、めずらしく初々しい。
あなたはふふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「ううん、そんなことないよ。 夫婦とか奥様への贈り物とかで来る人もたまにいるんだよ。それに居心地もいいと思うよ。そんなに混んでるわけじゃないし。……あっ、接客してるとこを見られたら少し恥ずかしいけどね。でもヴィクトルが来てくれたら嬉しいよ」
自分でも驚くほど素直な思いがあふれてくる。
彼も驚いたのだろう。あなたが恥ずかしがり屋と知っているから。
急に手を繋がれて笑いかけられ、どきっとした。
「可愛いな名無しちゃんは。じゃあ今度サプライズで行ってみようかな?」
「いやサプライズはダメ!」
「どうして?」
「ちゃんと準備しないと」
「 何の準備?」
「えっと、顔とかメイクとか身だしなみとか――」
接客よりも彼の登場を気にしてるのが分かり、彼はこらえるように笑っている。
「そんなの十分でしょう、君はいつも美しいよ」
「へへ……ありがとう。でも来るときは教えてね」
「はいはい」
彼の大人びた笑いに、なぜか自分のまわりに熱気が生まれていった。
ーーー
レストランに着くと、丸いドーム状の空間がいくつも並んでいた。
完全な個室ではないけれどきちんと区切られていて、二人きりの親密な距離感を作ってくれる。
白を基調としたテーブル席に座ると、ガラス越しに外の雪景色が見え、白い世界と溶け合うように幻想的だ。
「はぁ。なんて綺麗なんだろう。まるで別世界だね」
「本当だね」
テーブルからしばらく二人で情景に見入っていた。
飲み物が届いたあとは、乾杯して楽しくお喋りが始まる。
「私はやっぱり冬の子だから冬が好きなんだ。ヴィクトルは夏生まれだよね?」
「そうだね。7月だから」
二人が出会ったのは9月だから、惜しかったな。あなたがそう話すと彼は笑う。
「でも一緒にいてくれるでしょう?」
「当たり前だよ。ヴィクトルのお誕生日は私が全部予約するね」
胸を張って言った後にかなりわがままな注文だと気づいたが、もう取り返せない。
彼の満面の笑みが向けられたあとでは。
そして続々とコース料理が運ばれていく。
どれも見事な創作料理で普段はお目にかかれない品々だ。まるでストーリーがあるように見た目も味も素晴らしかった。
「ぅわあぁ〜美味しい。こんなの食べたことないよ。私にはまだ早すぎる気がするんだけど」
「はは、大丈夫だよ。俺も同じこと思いながら毎回ばくばく食べてるから。でも最近よく思うんだ、好きな人と一緒だったらどんな料理でも美味しいんだなって」
彼がそんな風に悟ったように柔らかな顔つきで話すから、あなたも全面的に納得してうんうんと頷き、また二人で笑いあった。
コースの最後まで味覚と会話を楽しみ、向かい合うテーブルでは笑顔が絶えなかった。
すると突然ヴィクトルがこんなことを言った。
「よし、じゃあそろそろかな。あのね、名無しちゃん。これ受け取ってくれるかな? 」
彼がジャケットの内側から細長い箱を取り出す。
美しくラッピングされたそれを見てあなたは目を瞬かせた。
――まさかプレゼント?
「えっヴィクトル、もうすでにたくさんもらってるよ!」
「いやいや、それは始まりだから。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
そっと手の中に渡されて、目を凝らしながら大切に両手で受け取る。
ラッピングを丁寧に外し箱を開けた瞬間、そこにきらめいていたものに視線が吸い寄せられた。
細い金のチェーンネックレスに、トップは赤い宝石が光っている。
ハートに象られたルビーの石が金の台座に映えて、確かな存在感を放ち、一瞬で魅せられていった。
「……可愛い! すっごく綺麗…!」
あなたは見入りすぎて時間が止まったような感覚になる。
「これくれるの? ほんとに、私に? どうしよう、こんなに素敵なもの」
彼を見上げると、優しく寄り添うような瞳でこちらを見つめている。
「もちろん。名無しちゃんのために選んだんだ。前に出張に行った時に、素敵な宝石店と関わることがあってね。そこから取り寄せたんだ」
彼は連絡を取り合い、何度か見に行って選んでくれたらしい。
すると彼が立ち上がったので驚く。
周りの客もいる中であなたの後ろにまわり、ネックレスをつけてくれた。
その瞬間と彼が笑顔になるまで、鼓動がドキドキしながら待った。
「どうかな?」
「うん、すごく似合ってるよ! 思った通りだ、いやそれ以上だね。とっても可愛いよ名無しちゃん」
今日一番嬉しく、照れが募る。
あなたはネックレスをなぞりながらお礼を伝えた。
「ありがとう、ヴィクトル。なんて言ったらいいんだろう、胸がいっぱいだよ。宝物にするね」
嬉しすぎて言葉に詰まるぐらいだ。
すごく女の子らしいネックレスで、甘さとロマンチックさを兼ね備えている。
背伸びをしなくてもいい、あなたのために彼が考えてくれた、ぴったりなジュエリーだった。
彼の気持ちと愛情が、まるで全身を守護して包み込んでくれているように感じた。
バンガローに戻ってくると、外はすっかり真っ暗になっていた。
松明が灯るバルコニーもあるし、あとで冬の空気を吸いながら温かい飲み物を飲んでもいい。
暖炉には常に煌々とした火があって神秘的な気分になる。
夜は二人ともゆったりした服装に着替え、くつろぎ始める時間だった。
あなたはしばらく鏡の前にいて、ネックレスを眺めていた。魔法のように夢見心地だ。
見るだけで彼の存在を感じる。きっと離れていても気持ちに寄り添ってくれる、すでにそんな特別な存在になっていた。
あなたが部屋から出てくると、ヴィクトルはなぜか冷蔵庫の前にいた。
ここはキッチンも備わっていて、長期滞在の人は冬ごもり的な生活もできる。
本当に明日帰ってしまうのがもったいないぐらいの場所だと感じながら、あなたは彼の背中に抱きついた。
「ヴィクトル、何してるの?」
レストランから二人きりのバンガローに帰ってきて、緊張が少しほぐれ大胆になっている。
「うわっ」
彼はびっくりして振り向く。
そして表情を柔らかくし、すぐに腕の中に体を包み込んでくれた。
彼の背にある冷蔵庫の扉が自然に閉じられる。
「どうしたの名無しちゃん。なんだか元気だな」
「うんっ。そうだよ。本当に可愛いね、このネックレス。ずっと鏡見ちゃうよ。毎日つけるね」
寝るまでつけようと決めていると、彼の目元も細められる。
「そう言ってくれて嬉しいな。君の好きな時につけてね。俺も見てるだけですごく幸せな気分になる、一緒にいるみたいでさ」
彼の指先がそっとチェーンに伸びてきて、優しくなぞってきたため赤い顔で動かないように努めた。
「うんっ、ほんとにその通り。そういえば、どうしてここにいるの?」
何気なく何をしてたのか尋ねると、彼は緊張した面持ちで答えた。
「えっと、うん。ちょっとね――。いや、よし。やるか」
覚悟を決めたヴィクトルが笑顔を見せてこう言った。
「そうだ名無しちゃん、ケーキ食べる?」
「ケーキ? もちろん食べる!」
あなたは瞳を輝かせて返事をした。
彼の誕生日プランはこれで終わりではなく、今日はなんとケーキまで用意してくれていたのだ。
もう幸福ですでに満腹になりそうだが、あなたはこの瞬間もとっても楽しみにしていた。
彼のそばにくっついていると、ヴィクトルは慎重に冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。
二人にしては大きいホールサイズだが、そのままリビングのローテーブルに置かれてわくわくする。
「じゃあ名無しちゃん、お誕生日おめでとう!」
そう言って開けてもらい、中のケーキを見た瞬間にあなたはまた大きな感動に包まれる。
美味しそうな生クリームと黄色いリキュールに彩られた鮮やかなケーキは、二人の郷土でも有名なものだ。
「わーっ! すごい! これどこで買ったの? ものすごく美味しそう! 見て見て、デコレーションもかっわいい〜」
しかもホワイトチョコレートにお洒落に「名無しちゃんに愛をこめて」と描かれている。
「本当? 大丈夫かな? 実はこれ、俺が作ったんだ」
「……え!?」
頭上から突然告白されて、あなたは驚愕のあまりゆっくり顔を上げた。
ケーキとヴィクトルの真剣な顔を交互に見やる。
「ほ……ほんとに? これヴィクトルの手作り?」
「うん」
あなたはケーキを再びじっくり見下ろし、目が勝手に潤んでいく。
「凄すぎるよ! 大変だったでしょう? 私のために作ってくれたの? 」
あのヴィクトルがいそいそと自宅キッチンで取り組んでいる姿を想像する。
あまりにも衝撃的だ。いつも忙しい彼が、いったいどれだけ手間暇をかけたのか。
彼もようやく緊張が溶けてきたのか、ほっとした笑みが広がっている。
「味はまだ分からないけどね。自分でも絶対買った方が美味いよなとか、上手くいくかなってすごい悩んだんだ。でも名無しちゃんなら喜んでくれるんじゃないかなって」
そう照れながら話してくれる彼は、さっきまでレストランで完璧な大人の紳士像を表していた姿からは想像できない。
もうひとつの愛情深い素朴な面を見せてくれてる気がして、あなたの胸はいっぱいになっていった。
「嬉しいに決まってるよ、こんな素敵なプレゼント。親以外にケーキなんて作ってもらったことないよ……うう。ほんとにありがとう。早く食べよう、私たくさん食べる! あっでも切るのもったいない、待って写真写真――」
さっきこっそり鏡の前でネックレスをつけてる写真も撮ったが、このケーキも勿論ばっちり収めたい。
彼が嬉しそうに笑っている中、思う存分撮り終えたあなたは満足し、いよいよテーブルについた。
コーヒーもいれて、二人で温かい部屋の中でお祝いの時間だ。
さらにびっくりしたのが、ヴィクトルが短い歌を歌ってくれたことだった。
ハッピバースデーと彼の美声が響き、この人はいったいどれだけ自分のことを想ってくれてるのか、幸せに埋もれそうだった。
「ありがとう、ヴィクトル。超愛してる!!」
「はは、俺も愛してるよ。ものすごくね。名無しちゃんだけ」
隣に座った彼にちゅっとキスをされて、もう一度見つめ合って唇を重ねた。
あなたの誕生日は、本当に忘れられない、特別でとびきり素敵な一日となった。
