美オヤジを誘って囲われて救われる話
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ヴィクトルはその日会社が終わった後、社長のフロリアンと行きつけのバーにいた。
二人はカウンター前に並び、マスターから酒を受け取って久々に話し込んでいる。
両者ともセットされた髪型に上質なスーツをまとい、スタイルの良い筋肉質な体型だ。
とくにフロリアンはヴィクトルとは対照的な短くまばゆい金髪で、精悍な顔立ちにキリリとした眉が力強い印象を与える。
二人は美しい革靴のつま先まで洗練されたビジネスマンそのものだが、一度喋り出すと企業幹部としての鎧いは取れ、高校時代の屈託のない表情さえ現れる。
「そうか、うまくいってるんだな。そのとても可愛らしい年下の彼女とは」
フロリアンが蒸留酒のグラスをカウンターに置き、親友に尋ねた。
するとヴィクトルは眉を思わせぶりに上げて、上機嫌に頷く。
「ああ、順調だよ。今月は彼女との予定が詰まっていて、今から子供のように楽しみで夜も眠れないくらいだ」
「はははっ。お前の最近の表情を見てればわかる。明らかに半年前とは大違いだ。……うん、一体どんな子なんだろうな。早く会わせてくれよ」
「写真なら見ただろう」
「そうだが、やっぱり実物に会ってみないことにはなんとも言えないだろ?」
親友は少ししかめっ面だ。落ち着かない様子で太い腕まで組み始める。
恋愛する二人に対して反対する意思があるのではない。ただ思うところもある。
「二十歳下の子か」
「もうすぐ十八歳差だ」
ヴィクトルは気づかれないくらいのため息を吐いた。
「お前も俺の親父のようなことを言うのかよ。まあ分かるけどな」
「分かるだろう? お前は理性的で法に触れるようなことは決してしないやつだ。見た目はチャラついているが、俺たちメンバーの中でも当時から一番真面目なやつだった」
ヴィクトルは正面に向けていた体を隣にくるりと合わせた。
「何が言いたいんだよ」
「だからな。俺は双子の女の子が生まれて最近思うんだ。もし今二十歳のやつが将来俺の娘に近づいてきたら――」
「ああやめてくれ」
「いや、分かってるぞ。全く無駄な考えだとな。大人同士ならば何も問題はない。親が強く反対さえしていなければな」
隣ではヴィクトルがそのままのポーズで辛抱強く耳を傾けている。
「家族が反対していれば、相手の環境も悪くなるからな。それになヴィクトル。俺の娘が大きくなって、もしお前みたいなやつを連れてきたとしよう」
ヴィクトルは父親に咎められた時のような疲れきった表情をわざと浮かべた。
しかしフロリアンはこう続ける。
「もしお前みたいなやつが現れたら反対はできないかもしれない。お前は素晴らしい男だ。文句はない。中身を知っていればな」
するとヴィクトルはとても大きな声で笑い出した。
フロリアンは彼の肩を大げさに抱いて、昔のようにがっしりと組む。
「幸せにしてやれよ。責任感を持ってな。……お前の話を聞く限り、彼女もいい子そうじゃないか。お前のことを大事に考えてくれているようだ。そんな女性はこの先いないだろう」
「そうだな。今までもいなかったし、これからもいないだろうと思うよ。彼女は、名無しちゃんは特別な子なんだ」
そう表明されてフロリアンの顔つきが変わる。
彼が思い浮かべているのは、ヴィクトルの昔の恋人のことだ。
二十代の時にヴィクトルは真剣な恋をしていた。そんな彼が恋人に夢中になり、愛し合い、傷つき裏切られ、去られたことを隣で見てきた。
だから今は余計に感慨深い。
ヴィクトルは三十代になってからは、真剣な恋をほとんどしていなかったように思える。
彼は紳士的で女性を弄んだことはない。わざと弄ばれることはあったとしても、彼から女性を傷つけることは決してしなかった。
勝手に来て自分から去る者も、彼は追うことはしない。それだけの情熱はもう消え去っていたはずだった。
「彼女と結婚するつもりなのか? 」
「そう思ってる」
「そうか、いつ?」
ヴィクトルは一息ついて答える。
「できれば今すぐにでもしたいと思ってるよ」
「急かすのは良くない。まだ22歳なんだろう。お前も俺ももう年だからすぐにでも準備ができているのは分かってるが」
「彼女とずっと一緒にいられるなら別に形は問わないんだ。俺のわがままだからな」
フロリアンにはなんとなく彼の言葉の背景にある思いが想像ついた。
ヴィクトルは彼女を失うのを恐れているのだろう。
同じ男ならば理解できることだ。
しかしそれを覆い隠すようにヴィクトルは続けて言った。
「こんなことは彼女には言っていないが、いつかもし俺から離れたいと思うなら、縛り付けることはしない。彼女の幸せが一番だ」
そう話すヴィクトルの表情をフロリアンはじっと観察していた。
そして悟る。親友の言葉は本心だが、彼女を諦めるなどということはまったく考えていないような顔つきだと。
大学時代を思わせるような、勝負に出るときの闘志にあふれた姿勢だ。
ヴィクトルはボート部のクルーの中でも重要なポジションで、最後尾で全体を見渡し、漕ぐリズムや速さを見極める要だった。
フロリアンはその前で強力なパワーを発揮する土台であったが、競技中に見ていた親友の情熱的な眼差しが、今また蘇るかのような気配をありありと感じていた。
「なにはともあれ、諦めるのはまだ早いよな。本気で好きなら年齢は関係ないさ。どうせお互いに年を取るんだから」
フロリアンはさっきまでの窘めを覆し、親友の励ましに回る。
「結婚なんて相手をどれだけ受け入れられるか、それだけだよ。お前にとっても彼女にとっても」
「フロリアン。すごく身にしみるよ」
くつくつと目を細めて笑い出すヴィクトルは、やがて食えない笑みを浮かべた。
「だが俺は大丈夫だ。俺はどんな彼女でも受け入れられるし、何も問題はない」
フロリアンはそんな自信に満ち溢れた親友を懸念したが。
「彼女の元彼はもう大丈夫なのか? 」
そう問われてもヴィクトルの表情は揺るがない。
彼は親友にこれまでの経緯を簡単に話していた。無論あなたとの詳しい馴れそめは秘めたままだ。
父親に説明した時も考えたように、全てのことは二人だけの大切な思い出なのである。
「ああ、あの男か。今のところはな。何かしてきたら対処するよ」
「そうか、気をつけろよ」
「大丈夫だ。分かってる」
こうして男同士の真剣な話はひとまず区切りがついた。
彼らはその後も酒をもう一杯頼む。
「あ、そうだ。これ見てくれよ」
ヴィクトルが懐からスマホを明るく取り出した。
「すごく美味しそうだろう。この間名無しちゃんがお菓子を作ってくれたんだ」
突如見せられた画面には、可愛らしいマフィンがちょこんと並んでいた。
フロリアンは思わず小さく吹き出す。
本当に親友は変わった。
こういう一見小さなことに幸せを見出す男ではなかった。ここ十数年は。
「ああそうか。お前が幸せなのはもうわかった」
「なんだよ。いつもうるさいぐらいなのに今日はやけに大人ぶってないか? ここが小洒落たバーだからか。いいか、俺らがいくら年取って金持って良いもの着てても精神的にはほぼ変わらないんだぞ。とくに男なんてもんはな」
「ああわかってるさ。お前の言う通りだ。だがな、俺は疲れてんだよ。家の家事に仕事に子供の寝かしつけ。お前も毎晩絵本を読んでみろ。二人とも違う趣味だから、違うものを複数回読んでるんだ。つねに寝不足だよ」
「そうか、幸せな悩みに聞こえるけどな」
「まあそうなんだけどな。俺は幸せだ」
フロリアンが隣をちらりと見やってグラスを一口で飲み切る。
「親友も最近幸せそうで余計幸せだ」
「ふっ。幸せって言葉をむやみに使うなよ。ガキみたいだぞ」
「お前に言われたくないな」
「なんだと?」
二人は笑いながらまた酒を酌み交わした。
その後ろ姿は少しだけ大学時代の二人を思わせるような光景だった。
二人はカウンター前に並び、マスターから酒を受け取って久々に話し込んでいる。
両者ともセットされた髪型に上質なスーツをまとい、スタイルの良い筋肉質な体型だ。
とくにフロリアンはヴィクトルとは対照的な短くまばゆい金髪で、精悍な顔立ちにキリリとした眉が力強い印象を与える。
二人は美しい革靴のつま先まで洗練されたビジネスマンそのものだが、一度喋り出すと企業幹部としての鎧いは取れ、高校時代の屈託のない表情さえ現れる。
「そうか、うまくいってるんだな。そのとても可愛らしい年下の彼女とは」
フロリアンが蒸留酒のグラスをカウンターに置き、親友に尋ねた。
するとヴィクトルは眉を思わせぶりに上げて、上機嫌に頷く。
「ああ、順調だよ。今月は彼女との予定が詰まっていて、今から子供のように楽しみで夜も眠れないくらいだ」
「はははっ。お前の最近の表情を見てればわかる。明らかに半年前とは大違いだ。……うん、一体どんな子なんだろうな。早く会わせてくれよ」
「写真なら見ただろう」
「そうだが、やっぱり実物に会ってみないことにはなんとも言えないだろ?」
親友は少ししかめっ面だ。落ち着かない様子で太い腕まで組み始める。
恋愛する二人に対して反対する意思があるのではない。ただ思うところもある。
「二十歳下の子か」
「もうすぐ十八歳差だ」
ヴィクトルは気づかれないくらいのため息を吐いた。
「お前も俺の親父のようなことを言うのかよ。まあ分かるけどな」
「分かるだろう? お前は理性的で法に触れるようなことは決してしないやつだ。見た目はチャラついているが、俺たちメンバーの中でも当時から一番真面目なやつだった」
ヴィクトルは正面に向けていた体を隣にくるりと合わせた。
「何が言いたいんだよ」
「だからな。俺は双子の女の子が生まれて最近思うんだ。もし今二十歳のやつが将来俺の娘に近づいてきたら――」
「ああやめてくれ」
「いや、分かってるぞ。全く無駄な考えだとな。大人同士ならば何も問題はない。親が強く反対さえしていなければな」
隣ではヴィクトルがそのままのポーズで辛抱強く耳を傾けている。
「家族が反対していれば、相手の環境も悪くなるからな。それになヴィクトル。俺の娘が大きくなって、もしお前みたいなやつを連れてきたとしよう」
ヴィクトルは父親に咎められた時のような疲れきった表情をわざと浮かべた。
しかしフロリアンはこう続ける。
「もしお前みたいなやつが現れたら反対はできないかもしれない。お前は素晴らしい男だ。文句はない。中身を知っていればな」
するとヴィクトルはとても大きな声で笑い出した。
フロリアンは彼の肩を大げさに抱いて、昔のようにがっしりと組む。
「幸せにしてやれよ。責任感を持ってな。……お前の話を聞く限り、彼女もいい子そうじゃないか。お前のことを大事に考えてくれているようだ。そんな女性はこの先いないだろう」
「そうだな。今までもいなかったし、これからもいないだろうと思うよ。彼女は、名無しちゃんは特別な子なんだ」
そう表明されてフロリアンの顔つきが変わる。
彼が思い浮かべているのは、ヴィクトルの昔の恋人のことだ。
二十代の時にヴィクトルは真剣な恋をしていた。そんな彼が恋人に夢中になり、愛し合い、傷つき裏切られ、去られたことを隣で見てきた。
だから今は余計に感慨深い。
ヴィクトルは三十代になってからは、真剣な恋をほとんどしていなかったように思える。
彼は紳士的で女性を弄んだことはない。わざと弄ばれることはあったとしても、彼から女性を傷つけることは決してしなかった。
勝手に来て自分から去る者も、彼は追うことはしない。それだけの情熱はもう消え去っていたはずだった。
「彼女と結婚するつもりなのか? 」
「そう思ってる」
「そうか、いつ?」
ヴィクトルは一息ついて答える。
「できれば今すぐにでもしたいと思ってるよ」
「急かすのは良くない。まだ22歳なんだろう。お前も俺ももう年だからすぐにでも準備ができているのは分かってるが」
「彼女とずっと一緒にいられるなら別に形は問わないんだ。俺のわがままだからな」
フロリアンにはなんとなく彼の言葉の背景にある思いが想像ついた。
ヴィクトルは彼女を失うのを恐れているのだろう。
同じ男ならば理解できることだ。
しかしそれを覆い隠すようにヴィクトルは続けて言った。
「こんなことは彼女には言っていないが、いつかもし俺から離れたいと思うなら、縛り付けることはしない。彼女の幸せが一番だ」
そう話すヴィクトルの表情をフロリアンはじっと観察していた。
そして悟る。親友の言葉は本心だが、彼女を諦めるなどということはまったく考えていないような顔つきだと。
大学時代を思わせるような、勝負に出るときの闘志にあふれた姿勢だ。
ヴィクトルはボート部のクルーの中でも重要なポジションで、最後尾で全体を見渡し、漕ぐリズムや速さを見極める要だった。
フロリアンはその前で強力なパワーを発揮する土台であったが、競技中に見ていた親友の情熱的な眼差しが、今また蘇るかのような気配をありありと感じていた。
「なにはともあれ、諦めるのはまだ早いよな。本気で好きなら年齢は関係ないさ。どうせお互いに年を取るんだから」
フロリアンはさっきまでの窘めを覆し、親友の励ましに回る。
「結婚なんて相手をどれだけ受け入れられるか、それだけだよ。お前にとっても彼女にとっても」
「フロリアン。すごく身にしみるよ」
くつくつと目を細めて笑い出すヴィクトルは、やがて食えない笑みを浮かべた。
「だが俺は大丈夫だ。俺はどんな彼女でも受け入れられるし、何も問題はない」
フロリアンはそんな自信に満ち溢れた親友を懸念したが。
「彼女の元彼はもう大丈夫なのか? 」
そう問われてもヴィクトルの表情は揺るがない。
彼は親友にこれまでの経緯を簡単に話していた。無論あなたとの詳しい馴れそめは秘めたままだ。
父親に説明した時も考えたように、全てのことは二人だけの大切な思い出なのである。
「ああ、あの男か。今のところはな。何かしてきたら対処するよ」
「そうか、気をつけろよ」
「大丈夫だ。分かってる」
こうして男同士の真剣な話はひとまず区切りがついた。
彼らはその後も酒をもう一杯頼む。
「あ、そうだ。これ見てくれよ」
ヴィクトルが懐からスマホを明るく取り出した。
「すごく美味しそうだろう。この間名無しちゃんがお菓子を作ってくれたんだ」
突如見せられた画面には、可愛らしいマフィンがちょこんと並んでいた。
フロリアンは思わず小さく吹き出す。
本当に親友は変わった。
こういう一見小さなことに幸せを見出す男ではなかった。ここ十数年は。
「ああそうか。お前が幸せなのはもうわかった」
「なんだよ。いつもうるさいぐらいなのに今日はやけに大人ぶってないか? ここが小洒落たバーだからか。いいか、俺らがいくら年取って金持って良いもの着てても精神的にはほぼ変わらないんだぞ。とくに男なんてもんはな」
「ああわかってるさ。お前の言う通りだ。だがな、俺は疲れてんだよ。家の家事に仕事に子供の寝かしつけ。お前も毎晩絵本を読んでみろ。二人とも違う趣味だから、違うものを複数回読んでるんだ。つねに寝不足だよ」
「そうか、幸せな悩みに聞こえるけどな」
「まあそうなんだけどな。俺は幸せだ」
フロリアンが隣をちらりと見やってグラスを一口で飲み切る。
「親友も最近幸せそうで余計幸せだ」
「ふっ。幸せって言葉をむやみに使うなよ。ガキみたいだぞ」
「お前に言われたくないな」
「なんだと?」
二人は笑いながらまた酒を酌み交わした。
その後ろ姿は少しだけ大学時代の二人を思わせるような光景だった。
