美オヤジを誘って囲われて救われる話
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ベッドの中で丸まっていると、男の人の声がした。
「名無しちゃん、まだ眠い?」
あなたは小さくうなり声を出して、寝返りを打とうとする。
すると肩にしなやかな指が置かれた。
その温もりに目を開けると、ヴィクトルの顔があった。
「おはよう。ぐっすり眠ってたね。昨日は無理させちゃったかな」
慈しむような笑みを向けられ、あなたの頬は赤く染まる。黙って首を振るのが精一杯だった。
「ふふ、よかった。そうだ、朝ご飯できたよ。食べるかい?」
驚いたあなたは急いで起きようとする。
寝起きの顔や髪に恥ずかしさを覚えつつも、それ以上に焦った。
「ごめん! 今何時? 寝坊しちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。休みなんだからゆっくり寝ていいんだよ、名無しちゃん」
優しく包み込むソフトな笑顔に癒され、またぼーっとしそうになりながらも。
サイドテーブルの時計に視線を伸ばすと、もう10時だった。こんなに寝てしまうとは。
昨日は確かに夜眠るのが遅かった。ヴィクトルの腕に熱く長く抱かれていたからだ。
その時間を反芻しながら彼に連れられて、あなたはリビングに向かった。
すると食卓にはとっても美味しそうな朝食が並んでいた。
コーヒーポットに焼きたてのパン、目玉焼きにソーセージ、ヨーグルトとフルーツ。新鮮なサラダまで。まるでホテルのような理想の朝ごはんだ。
「うわぁすごい! ヴィクトルこんなに準備してくれたの? ありがとう、ほんとに美味しそう。私寝坊しちゃったのに」
「いいんだよ、たくさん休んでほしかったから。お礼も兼ねて、今日は全部俺に任せてね」
あなたは瞳を輝かせて彼の優しさに感謝した。本当に甘えちゃっていいのかと思ったけど。
引き寄せられるように食卓を見つめ、急いで準備をして戻ってくる。
「いただきます。あ〜すっごく美味しい。幸せ〜」
食事を頬張りながら、前に彼とのデートで買ったおそろいのマグカップをぐびっと飲む。
すると自分を優しく見つめているヴィクトルに気づいた。
「そんなに見られると恥ずかしいんだけど。子供みたいって思ってるでしょ」
「いや、可愛いよ」
どうしたって目の前で優雅に食べている大人の男性の彼との差が出てしまうが、あなたは甘い笑みを浴び続ける。
「君にはいつもお世話になってるから、もっとお返ししたいな」
それはこっちの台詞だよと思いながらも、こんなに優しい恋人がそばにいてくれて、自分はなんて幸せなのだろうと日曜日の朝に実感した。
それから準備をして、今日はあまり遠出せずに近場を散索したり、買い物などをしようという話になった。
彼が住んでいるエリアの駅周辺はとても大きいが、少し歩くと閑静な住宅街が並んでいる。 緑もあって静かで過ごしやすい場所だ。
もうすぐ冬本番の季節の中で、二人は薄手のマフラーに温かいコートを着込み出かけた。
「ここら辺ちゃんと歩いたことなかったから、なんだか楽しみ」
「そうだね、いつも車でどこかに出かけてたから。結構歩いてみると色々店があるんだ。君の好きそうなインテリアとか服屋もあるし、美味しいケーキ屋もあるんだよ」
「ほんと?」
「うん。仲間が来た時にみんな結構甘い物食べるから買ったりしてたんだよ。後で行ってみる?」
「行きたい!」
甘い物好きな二人は微笑み合い、お茶の約束もした。楽しみで浮足立ってくる。
確かに運動クラブのガタイのいい人たちは何でもたくさん食べるのかもしれない。
彼の話によると年に数回は誰かの家に集まって、幹部の人々で飲み会や食事会があるそうだ。
ヴィクトルのマンションにも来るらしく、だから一人暮らしでもあんなに家が広いのかと納得した。
彼は他にも会社のクリスマスパーティーとは別に、仲間内の年末の集まりもあるのだと教えてくれた。
それから天気が良かったので二人で公園を散歩したり、路地に並ぶ個人商店を見たり、ゆったり気楽に過ごした。
「は〜こういうのも良いよねぇ。ヴィクトルもこうやって当てもなくブラブラしたりするんだね」
「おいおい、普通にするよ。俺が時間と効率を重視するせっかちタイプだと思ってたの?」
「違うの?」
「全然。仕事ではそうしなきゃならない面もあるけどね。普段はぼうっとすることもあるんだから」
ははっと小気味良く笑う彼の横顔に惹きつけられた。
「うそ! 信じられないよ。そういうとき何考えてるの?」
「名無しちゃんのこと」
さらっと真面目に言われてあなたは言葉が引っ込んだ。
隣で照れてまごついていると、ヴィクトルは立ち止まった。
人はまばらな路地だけど、手は繋いだままだしこちらをじっと見つめてくる。
彼はあなたの口に丁寧にキスを落とした。
「んっ。……近所だよ…!」
「そうだねぇ。俺は気にしないけどね」
恥ずかしがるあなたにくくっと楽しげに笑いかけながら、また手を取って彼は歩き出した。
ケーキ屋に向かうまでの道のりで素早く考える。
最近のヴィクトルは、なんだか熱っぽい。
前から甘いムード満々の男性だけど、まるであなたへの感情を手のひらの芯に握ってるかのような深い愛情を醸し出している。
そしてそんな彼の強固な想いは、言うまでもなくあなたのことを幸せにしていた。
ーーー
たどり着いたケーキ屋は二階建ての広々としたカフェで、ガラス張りのシックな空間である。
「わ、結構混んでるね。住宅街なのにすごい」
「今日は日曜日だからかな。見て名無しちゃん、ここはパンとかケーキもたくさんあって、お菓子もあるよ」
「本当だ。帰りにパン買っていこうかな?」
「うん、そうしようか」
まるで同棲してるかのような会話を楽しみながら、あなた達はお店の人に案内された。
ガラス天井から光が差し込み、きらきらと開放的なお店だ。
まわりは女性客が多いけれど、ちらほら家族連れやカップルもいる。年齢層は様々で自分たちも溶け込んでるような気がした。
「ああ美味しい来てよかったぁ」
「名無しちゃんは甘い物好きだね」
「 うんっ。ヴィクトルもでしょう?」
「もちろん。俺は甘いのも辛いのも何でも好きだけどね」
あなたは笑いながら何が一番好きなのか尋ねてみる。
「やっぱり肉かな。大きいゴロッとしたやつはたまらないな、この年でも。いつまで食えるんだろうな」
「ははっ。ずっと食べれるでしょ。私も好きなんだよねお肉。今度ローストビーフとか作ろうかな?」
「おおいいね、一緒に作ろう」
彼との間のちょっとした約束がその都度幸せをもたらす。二人の日々が続いていき、未来の大きさが少しずつ広がっていく感覚がして、ふわりとあったかい気持ちになった。
お会計の時、あなたはガラスケースにずらっと壮観に並ぶパンから色々選んでいた。
「ねえねえ何にする? 私クロワッサン持って帰ろうかな」
「俺も買おう。あの美味しそうなやつも夜一緒に食べようよ。夕食まではいるでしょう?」
「うん、いるよ」
若干もう淋しげな顔つきのヴィクトルに微笑みながら、仲良く喋っていた。
今日の夜帰らなきゃいけないことが自分でも淋しく感じる。今週はほとんど一緒にいたから、終わってしまうのが悲しい。
もし同棲したら今回のことは練習になるかもしれないと考えていたけど、今のところ何も問題はなさそうな気がした。
しかしその時だった。 ある事件が起きたのは。
ヴィクトルはふと店内の奥の方を見た。
そこには個室スペースが何個かあったらしく、三人組の女性たちが出てきたのだ。
「あれ。すごい偶然だな」
彼の呟きが頭上から聞こえて、パンを受け取ったあなたも視線を追う。
彼はまったく平然としていたが、向こうの三人組はこちらに気づいた様子だった。
そのうち一番年上の女性が大きく瞳を見開いた。彼女たちは皆おしゃれで、メイクはもちろん、コートや靴、バッグやアクセサリーの隅々まで気を使っていた。
「えっ? ヴィクトル! こんなところで会うなんてびっくりしましたよ!」
パンツスーツの彼女は彼よりも少し年下ぐらいだろうか。
「本当だね。君たちもこの店に来ていたとは」
彼は愛想のいい笑みを浮かべた。雰囲気も柔らかいが、なんとなくあなたは仕事モードの真面目な様子を感じ取る。
彼女たちはきっと会社の人たちなのだろう。なんとなくまとっているスマートな空気感もヴィクトルに近い。
後ろから二人の女性も来る。一人は最初の女性よりもう少し若く30代ぐらいだ。
そしてもう一人の女性は20代後半に見えた。
その若い女性はあなたをじっと見て、かなり驚いたような、 警戒するような眼差しをした。
「あーっ、ヴィクトルじゃないですか? うそ、もしかして彼女ですか? どうもはじめまして。私たちは部長と一緒に働いている者なんです。 直属の部下ではないですけど」
真ん中の女性はかなり明るく、砕けた調子で握手を求めてきた。あなたも緊張しながら笑顔で応じ、自己紹介をする。
「部長にはお世話になっています〜ふふ、プライベートな姿見ちゃうなんてレアですね。そんな私服なんだ!」
ロングヘアの女性はかなり気さくでヴィクトルも苦笑していた。一番年上の女性もあなたの存在に驚きながらも好奇心たっぷりに目くばせしている。
自分の存在的に気まずくなりそうだと思ったのだが、皆普通に接してくれている。
しかし、最後の若い女性だけは笑顔を浮かべていたものの、どこか態度が硬かった。
あれ……あんまりよく思われてないかもしれない――。
とっさにあなたはそう感じた。しかし誰もその事に気づいておらず、ヴィクトルは店の端で三人と少し会話をした。
彼はあなたの背に手を添えて、紹介する気満々らしかった。
「見てわかる通り、彼女は俺の恋人なんだよ。よろしくね」
さらっと伝えられてあなたは若干縮こまるが、嬉しい気持ち以上に緊張感でパニくっていた。
「やっぱり! ものすごい若くて超美人じゃないですか! やりましたね〜部長」
真ん中の明るい女性がからかうように彼を称えると、彼はそうだろうとあっさり認めて腕を組む。
どうしようと思ったが年上の女性二人には、少なくとも表面的には好意的に捉えられ歓迎されているように感じた。
しかし若い女性をちらりと見ると、彼女の顔つきは明らかにこちらに向かって眉を寄せ、睨んでいた。
――うそ。絶対よく思われてない。
あなたは血の気が引きそうになる。
彼らの会話に相槌を打ちつつ彼女を観察すると、セミロングの黒髪は毛先までアイロンで整えられていて知的な印象だ。
一見涼やかな目元と淡いリップが冷静な印象を与え、 自分の意志をしっかりと持っていそうな美人だった。
「本当びっくりしましたよね。まさか部長にこんなに可愛らしい彼女さんがいたなんて」
彼女はあなたを見てニコりと人が変わったような笑みを浮かべた。
「ぜっ、全然、そんなことありませんよ!」
あなたは焦って答えてしまったが、その女性の前では無理やりにでも顔を上げて、毅然とした態度を保とうと努めていた。
相変わらず背をそっと抱いているヴィクトルの温もりにドキドキしていると、彼はあなたに微笑んだ。
「じゃあそろそろ行こう。俺達はデートの続きがあるんでね。君達も良い一日を。気をつけて帰るんだよ」
まるで先生のような言い草に女性達は呆れ笑いをしていたが、あなたの手を引いたヴィクトルは店から出ていこうとした。
あなたも会釈をして続こうとすると、後ろから年長の女性に声をかけられる。
「あっヴィクトル、絶対彼女もクリスマス会に連れてきてくださいよ。名無しさん、一緒にまたおしゃべりしましょうね。 私たち別に全然怖くないからね!」
「そうそう。絶対楽しい会ですよ〜。身内なら誰でも来て大丈夫ですし、また会いましょうね〜」
大人の女性二人はそう賑やかに、ワクワクした顔つきで手を振ってくれた。
あなたはびっくりしたが、明言を避けつつも挨拶をしてにこやかに手を振り返した。
ついでにまた、ちらっとあの例の女の人を見た。彼女だけは張りついた笑みのまま無言だった。
「ああ、はいはい。クリスマスは2人でゆっくり過ごすから、時間があったらね」
ヴィクトルは変わらずそう言い残し、爽やかに店を後にした。
通りを歩いている間もあなたの心臓はしばらく落ち着かなかったが、彼の手に包まれて少し安心感が戻ってくる。
「……ま、まさか会社の人に会っちゃうなんて、びっくりしたね」
「ああ、本当だよね。ごめんね。急に圧迫感があったでしょう」
彼が苦笑いして、あなたに謝るとあなたはそんなことないと言う。
「優しそうな人たちだったよ。やっぱりヴィクトルの同僚の人ってみんなフレンドリーだな〜」
脳裏にあの女性の冷たい表情が浮かんでいたが、かき消すようにそう言った。実際にその印象も持ったためだ。
「そうだね。みんな気さくでいい人たちなんだけど、今のは予想外だったよ。あと、さっきのことも気にしなくていいからね。 全くうちの会社の連中はどうしてこうやって、みんな君のことを引き入れようとするんだろうな」
彼が不本意な様子でぼやくと、あなたは小さく笑いをもらす。
「それはヴィクトルが人気者だからだよ。注目されてるのかも。こんなに素敵で格好いいし」
腕にきゅっと巻きつくと、彼の嬉しそうな笑みが返ってくる。
「あぁ、そんなこと言ってくれるのは君だけさ」
「ええっ。そうかなぁ、まぁ私だけでいいけど」
冗談めかして伝えると、彼も感激して笑っていた。
帰り道を歩き、手を繋ぎ直しても、なんだかまだドキドキする。
今は自分を奮い立たせる必要があった。
女性たちのキラキラしたオーラや存在感。 彼がいつも纏ってるような自信と、きっと仕事ができるんだろうなという眩しさに重なり、対する自分は少し怖気づいてしまう。
そして、あなたの心に暗い影を落としたのが、あの女性の嫌悪感のある目つきだ。
ヴィクトルも他の二人と話をしていて気づいてなかったようだが、ほんの短い時間でも、あなたにはひしひしと自分への敵対心を女性から感じた。
どうしてだろう?やっぱり自分が上司である部長の恋人としてあまりに場違い感があったからか。
それとも、もしかしてあの人は彼に対して特別な気持ちがあったりするのだろうか?
あなたより何歳か年上の、環境も立場もおそらく性格もまったく異なりそうな女性だ。
「どうしたの? 名無しちゃん。大丈夫?」
「うん、大丈夫!」
「本当に?」
「ほんと!」
思案していて心配され、あなたは笑顔で答えた。
――とにかく、自分がどう思われたとしても、自分にできることはないのだ。
もしクリスマスパーティーに行くことになったら、あの女性にはまた会いそうだけど。
ヴィクトルが知らないところで、あなたの心の中は冷えてきた風のようにざわめいていた。
「名無しちゃん、まだ眠い?」
あなたは小さくうなり声を出して、寝返りを打とうとする。
すると肩にしなやかな指が置かれた。
その温もりに目を開けると、ヴィクトルの顔があった。
「おはよう。ぐっすり眠ってたね。昨日は無理させちゃったかな」
慈しむような笑みを向けられ、あなたの頬は赤く染まる。黙って首を振るのが精一杯だった。
「ふふ、よかった。そうだ、朝ご飯できたよ。食べるかい?」
驚いたあなたは急いで起きようとする。
寝起きの顔や髪に恥ずかしさを覚えつつも、それ以上に焦った。
「ごめん! 今何時? 寝坊しちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。休みなんだからゆっくり寝ていいんだよ、名無しちゃん」
優しく包み込むソフトな笑顔に癒され、またぼーっとしそうになりながらも。
サイドテーブルの時計に視線を伸ばすと、もう10時だった。こんなに寝てしまうとは。
昨日は確かに夜眠るのが遅かった。ヴィクトルの腕に熱く長く抱かれていたからだ。
その時間を反芻しながら彼に連れられて、あなたはリビングに向かった。
すると食卓にはとっても美味しそうな朝食が並んでいた。
コーヒーポットに焼きたてのパン、目玉焼きにソーセージ、ヨーグルトとフルーツ。新鮮なサラダまで。まるでホテルのような理想の朝ごはんだ。
「うわぁすごい! ヴィクトルこんなに準備してくれたの? ありがとう、ほんとに美味しそう。私寝坊しちゃったのに」
「いいんだよ、たくさん休んでほしかったから。お礼も兼ねて、今日は全部俺に任せてね」
あなたは瞳を輝かせて彼の優しさに感謝した。本当に甘えちゃっていいのかと思ったけど。
引き寄せられるように食卓を見つめ、急いで準備をして戻ってくる。
「いただきます。あ〜すっごく美味しい。幸せ〜」
食事を頬張りながら、前に彼とのデートで買ったおそろいのマグカップをぐびっと飲む。
すると自分を優しく見つめているヴィクトルに気づいた。
「そんなに見られると恥ずかしいんだけど。子供みたいって思ってるでしょ」
「いや、可愛いよ」
どうしたって目の前で優雅に食べている大人の男性の彼との差が出てしまうが、あなたは甘い笑みを浴び続ける。
「君にはいつもお世話になってるから、もっとお返ししたいな」
それはこっちの台詞だよと思いながらも、こんなに優しい恋人がそばにいてくれて、自分はなんて幸せなのだろうと日曜日の朝に実感した。
それから準備をして、今日はあまり遠出せずに近場を散索したり、買い物などをしようという話になった。
彼が住んでいるエリアの駅周辺はとても大きいが、少し歩くと閑静な住宅街が並んでいる。 緑もあって静かで過ごしやすい場所だ。
もうすぐ冬本番の季節の中で、二人は薄手のマフラーに温かいコートを着込み出かけた。
「ここら辺ちゃんと歩いたことなかったから、なんだか楽しみ」
「そうだね、いつも車でどこかに出かけてたから。結構歩いてみると色々店があるんだ。君の好きそうなインテリアとか服屋もあるし、美味しいケーキ屋もあるんだよ」
「ほんと?」
「うん。仲間が来た時にみんな結構甘い物食べるから買ったりしてたんだよ。後で行ってみる?」
「行きたい!」
甘い物好きな二人は微笑み合い、お茶の約束もした。楽しみで浮足立ってくる。
確かに運動クラブのガタイのいい人たちは何でもたくさん食べるのかもしれない。
彼の話によると年に数回は誰かの家に集まって、幹部の人々で飲み会や食事会があるそうだ。
ヴィクトルのマンションにも来るらしく、だから一人暮らしでもあんなに家が広いのかと納得した。
彼は他にも会社のクリスマスパーティーとは別に、仲間内の年末の集まりもあるのだと教えてくれた。
それから天気が良かったので二人で公園を散歩したり、路地に並ぶ個人商店を見たり、ゆったり気楽に過ごした。
「は〜こういうのも良いよねぇ。ヴィクトルもこうやって当てもなくブラブラしたりするんだね」
「おいおい、普通にするよ。俺が時間と効率を重視するせっかちタイプだと思ってたの?」
「違うの?」
「全然。仕事ではそうしなきゃならない面もあるけどね。普段はぼうっとすることもあるんだから」
ははっと小気味良く笑う彼の横顔に惹きつけられた。
「うそ! 信じられないよ。そういうとき何考えてるの?」
「名無しちゃんのこと」
さらっと真面目に言われてあなたは言葉が引っ込んだ。
隣で照れてまごついていると、ヴィクトルは立ち止まった。
人はまばらな路地だけど、手は繋いだままだしこちらをじっと見つめてくる。
彼はあなたの口に丁寧にキスを落とした。
「んっ。……近所だよ…!」
「そうだねぇ。俺は気にしないけどね」
恥ずかしがるあなたにくくっと楽しげに笑いかけながら、また手を取って彼は歩き出した。
ケーキ屋に向かうまでの道のりで素早く考える。
最近のヴィクトルは、なんだか熱っぽい。
前から甘いムード満々の男性だけど、まるであなたへの感情を手のひらの芯に握ってるかのような深い愛情を醸し出している。
そしてそんな彼の強固な想いは、言うまでもなくあなたのことを幸せにしていた。
ーーー
たどり着いたケーキ屋は二階建ての広々としたカフェで、ガラス張りのシックな空間である。
「わ、結構混んでるね。住宅街なのにすごい」
「今日は日曜日だからかな。見て名無しちゃん、ここはパンとかケーキもたくさんあって、お菓子もあるよ」
「本当だ。帰りにパン買っていこうかな?」
「うん、そうしようか」
まるで同棲してるかのような会話を楽しみながら、あなた達はお店の人に案内された。
ガラス天井から光が差し込み、きらきらと開放的なお店だ。
まわりは女性客が多いけれど、ちらほら家族連れやカップルもいる。年齢層は様々で自分たちも溶け込んでるような気がした。
「ああ美味しい来てよかったぁ」
「名無しちゃんは甘い物好きだね」
「 うんっ。ヴィクトルもでしょう?」
「もちろん。俺は甘いのも辛いのも何でも好きだけどね」
あなたは笑いながら何が一番好きなのか尋ねてみる。
「やっぱり肉かな。大きいゴロッとしたやつはたまらないな、この年でも。いつまで食えるんだろうな」
「ははっ。ずっと食べれるでしょ。私も好きなんだよねお肉。今度ローストビーフとか作ろうかな?」
「おおいいね、一緒に作ろう」
彼との間のちょっとした約束がその都度幸せをもたらす。二人の日々が続いていき、未来の大きさが少しずつ広がっていく感覚がして、ふわりとあったかい気持ちになった。
お会計の時、あなたはガラスケースにずらっと壮観に並ぶパンから色々選んでいた。
「ねえねえ何にする? 私クロワッサン持って帰ろうかな」
「俺も買おう。あの美味しそうなやつも夜一緒に食べようよ。夕食まではいるでしょう?」
「うん、いるよ」
若干もう淋しげな顔つきのヴィクトルに微笑みながら、仲良く喋っていた。
今日の夜帰らなきゃいけないことが自分でも淋しく感じる。今週はほとんど一緒にいたから、終わってしまうのが悲しい。
もし同棲したら今回のことは練習になるかもしれないと考えていたけど、今のところ何も問題はなさそうな気がした。
しかしその時だった。 ある事件が起きたのは。
ヴィクトルはふと店内の奥の方を見た。
そこには個室スペースが何個かあったらしく、三人組の女性たちが出てきたのだ。
「あれ。すごい偶然だな」
彼の呟きが頭上から聞こえて、パンを受け取ったあなたも視線を追う。
彼はまったく平然としていたが、向こうの三人組はこちらに気づいた様子だった。
そのうち一番年上の女性が大きく瞳を見開いた。彼女たちは皆おしゃれで、メイクはもちろん、コートや靴、バッグやアクセサリーの隅々まで気を使っていた。
「えっ? ヴィクトル! こんなところで会うなんてびっくりしましたよ!」
パンツスーツの彼女は彼よりも少し年下ぐらいだろうか。
「本当だね。君たちもこの店に来ていたとは」
彼は愛想のいい笑みを浮かべた。雰囲気も柔らかいが、なんとなくあなたは仕事モードの真面目な様子を感じ取る。
彼女たちはきっと会社の人たちなのだろう。なんとなくまとっているスマートな空気感もヴィクトルに近い。
後ろから二人の女性も来る。一人は最初の女性よりもう少し若く30代ぐらいだ。
そしてもう一人の女性は20代後半に見えた。
その若い女性はあなたをじっと見て、かなり驚いたような、 警戒するような眼差しをした。
「あーっ、ヴィクトルじゃないですか? うそ、もしかして彼女ですか? どうもはじめまして。私たちは部長と一緒に働いている者なんです。 直属の部下ではないですけど」
真ん中の女性はかなり明るく、砕けた調子で握手を求めてきた。あなたも緊張しながら笑顔で応じ、自己紹介をする。
「部長にはお世話になっています〜ふふ、プライベートな姿見ちゃうなんてレアですね。そんな私服なんだ!」
ロングヘアの女性はかなり気さくでヴィクトルも苦笑していた。一番年上の女性もあなたの存在に驚きながらも好奇心たっぷりに目くばせしている。
自分の存在的に気まずくなりそうだと思ったのだが、皆普通に接してくれている。
しかし、最後の若い女性だけは笑顔を浮かべていたものの、どこか態度が硬かった。
あれ……あんまりよく思われてないかもしれない――。
とっさにあなたはそう感じた。しかし誰もその事に気づいておらず、ヴィクトルは店の端で三人と少し会話をした。
彼はあなたの背に手を添えて、紹介する気満々らしかった。
「見てわかる通り、彼女は俺の恋人なんだよ。よろしくね」
さらっと伝えられてあなたは若干縮こまるが、嬉しい気持ち以上に緊張感でパニくっていた。
「やっぱり! ものすごい若くて超美人じゃないですか! やりましたね〜部長」
真ん中の明るい女性がからかうように彼を称えると、彼はそうだろうとあっさり認めて腕を組む。
どうしようと思ったが年上の女性二人には、少なくとも表面的には好意的に捉えられ歓迎されているように感じた。
しかし若い女性をちらりと見ると、彼女の顔つきは明らかにこちらに向かって眉を寄せ、睨んでいた。
――うそ。絶対よく思われてない。
あなたは血の気が引きそうになる。
彼らの会話に相槌を打ちつつ彼女を観察すると、セミロングの黒髪は毛先までアイロンで整えられていて知的な印象だ。
一見涼やかな目元と淡いリップが冷静な印象を与え、 自分の意志をしっかりと持っていそうな美人だった。
「本当びっくりしましたよね。まさか部長にこんなに可愛らしい彼女さんがいたなんて」
彼女はあなたを見てニコりと人が変わったような笑みを浮かべた。
「ぜっ、全然、そんなことありませんよ!」
あなたは焦って答えてしまったが、その女性の前では無理やりにでも顔を上げて、毅然とした態度を保とうと努めていた。
相変わらず背をそっと抱いているヴィクトルの温もりにドキドキしていると、彼はあなたに微笑んだ。
「じゃあそろそろ行こう。俺達はデートの続きがあるんでね。君達も良い一日を。気をつけて帰るんだよ」
まるで先生のような言い草に女性達は呆れ笑いをしていたが、あなたの手を引いたヴィクトルは店から出ていこうとした。
あなたも会釈をして続こうとすると、後ろから年長の女性に声をかけられる。
「あっヴィクトル、絶対彼女もクリスマス会に連れてきてくださいよ。名無しさん、一緒にまたおしゃべりしましょうね。 私たち別に全然怖くないからね!」
「そうそう。絶対楽しい会ですよ〜。身内なら誰でも来て大丈夫ですし、また会いましょうね〜」
大人の女性二人はそう賑やかに、ワクワクした顔つきで手を振ってくれた。
あなたはびっくりしたが、明言を避けつつも挨拶をしてにこやかに手を振り返した。
ついでにまた、ちらっとあの例の女の人を見た。彼女だけは張りついた笑みのまま無言だった。
「ああ、はいはい。クリスマスは2人でゆっくり過ごすから、時間があったらね」
ヴィクトルは変わらずそう言い残し、爽やかに店を後にした。
通りを歩いている間もあなたの心臓はしばらく落ち着かなかったが、彼の手に包まれて少し安心感が戻ってくる。
「……ま、まさか会社の人に会っちゃうなんて、びっくりしたね」
「ああ、本当だよね。ごめんね。急に圧迫感があったでしょう」
彼が苦笑いして、あなたに謝るとあなたはそんなことないと言う。
「優しそうな人たちだったよ。やっぱりヴィクトルの同僚の人ってみんなフレンドリーだな〜」
脳裏にあの女性の冷たい表情が浮かんでいたが、かき消すようにそう言った。実際にその印象も持ったためだ。
「そうだね。みんな気さくでいい人たちなんだけど、今のは予想外だったよ。あと、さっきのことも気にしなくていいからね。 全くうちの会社の連中はどうしてこうやって、みんな君のことを引き入れようとするんだろうな」
彼が不本意な様子でぼやくと、あなたは小さく笑いをもらす。
「それはヴィクトルが人気者だからだよ。注目されてるのかも。こんなに素敵で格好いいし」
腕にきゅっと巻きつくと、彼の嬉しそうな笑みが返ってくる。
「あぁ、そんなこと言ってくれるのは君だけさ」
「ええっ。そうかなぁ、まぁ私だけでいいけど」
冗談めかして伝えると、彼も感激して笑っていた。
帰り道を歩き、手を繋ぎ直しても、なんだかまだドキドキする。
今は自分を奮い立たせる必要があった。
女性たちのキラキラしたオーラや存在感。 彼がいつも纏ってるような自信と、きっと仕事ができるんだろうなという眩しさに重なり、対する自分は少し怖気づいてしまう。
そして、あなたの心に暗い影を落としたのが、あの女性の嫌悪感のある目つきだ。
ヴィクトルも他の二人と話をしていて気づいてなかったようだが、ほんの短い時間でも、あなたにはひしひしと自分への敵対心を女性から感じた。
どうしてだろう?やっぱり自分が上司である部長の恋人としてあまりに場違い感があったからか。
それとも、もしかしてあの人は彼に対して特別な気持ちがあったりするのだろうか?
あなたより何歳か年上の、環境も立場もおそらく性格もまったく異なりそうな女性だ。
「どうしたの? 名無しちゃん。大丈夫?」
「うん、大丈夫!」
「本当に?」
「ほんと!」
思案していて心配され、あなたは笑顔で答えた。
――とにかく、自分がどう思われたとしても、自分にできることはないのだ。
もしクリスマスパーティーに行くことになったら、あの女性にはまた会いそうだけど。
ヴィクトルが知らないところで、あなたの心の中は冷えてきた風のようにざわめいていた。
