美オヤジを誘って囲われて救われる話
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「ヴィクトル! おかえりなさい、仕事お疲れ様」
「うん。君もお疲れさま。来てくれてありがとうね、長く待たせちゃってごめんね。取引先とのリモートが長引いてしまって」
彼はまずあなたのそばに来て、体を包み込むようにハグをした。その瞬間びたっと止まったあなたの頬にも、優しくキスをする。
言葉が奪われ見上げると、満面の笑みのヴィクトルがいた。いつも仕事終わりにこの顔を見せてくれて嬉しい。
けれど同時にあなたは顔を染め上げていた。
この国の人間は情熱的で、人前で愛を示したり頻繁なハグもよく行われる。
でも正直、ヴィクトルがそういうタイプだとは知らなかった。彼は仕事関係の人達の前でも気にしないようだ。
もちろんマックスもクリスも、親しい友人かつ仲間ではあるのだが。
「それで、俺の彼女に何か用か? こんな夜に男二人で取り囲むなんて、怖がったらどうするんだよ」
「いやいやお前過保護すぎだろ。名無しちゃんは立派な成人女性だぞ? それに俺達仲良くお話してたよね?」
マックスが軟派に目配せしてくる。あなたは反射的に頷き、それも事実かなと納得していた。
しかしヴィクトルが片眉を上げて眉間に皺をよせたのは少し事情が異なっていた。
彼はマックスに近寄り肩を抱く。そして内緒話をするように身を屈めた。
「おい。お前今名無しちゃんと言ったか? ふざけるなよ。そう呼んでいいのは俺だけだ」
「はぁ!? んなわけねえだろ。お前の知らないところで皆呼んでるよ」
「それは家族や友達とかだろ? 身近な男の中では恋人の俺の特権なんだよ。間違ってもお前はそこに入ってない」
「小せえ男だなぁ! ちょっと聞いたか皆? ねえどう思う君は? こんな余裕のないとこ見たことある?」
大げさに振り返ってくるマックスに、まずクリスが爆笑していた。あなたもどう反応していいか分からず、ヴィクトルへの驚きと照れくささ、嬉しさみたいなものが混ざり合い、変な顔になってしまった。
「あはは⋯⋯確かにないかも。そんなこと気にしてくれてたの、ヴィクトル」
「うん。いやこいつにはね。ちゃんと言っておかないと、ストレスがたまるからな」
「はははは! これはいいですねぇ! 彼のこんな嫉妬に荒れ狂う姿見たことありませんよ! はあ、はあ、まずいですお腹が痛くなってきた――」
クリスは笑いすぎて腹を抱えており、マックスとヴィクトルはまだ口論してるし、カオスである。
あなたは一気に緊張が解けて、同じように笑いがこみあげてきた。
「ふふっ。やっぱりヴィクトルの存在感ってすごいなぁ。皆が面白いことになっちゃってる!」
「いやいや名無しちゃん。俺は本気なんだけどね。君はこいつの破壊力をまだ知らないから――」
冷静に突っ込まれるけれど、男友達といる彼ってこんな感じなんだと、この短い時間で垣間見えた気がした。
それはあなたにとっても貴重で、胸が温かくなる瞬間だ。
「とにかくな、名無しさん。――ほらお前がいる時だけそう呼んでやるよ満足か。――俺はね、今の姿こそこいつの素の姿だと思うぞ。だから君はもっとこの男の格好悪いところを見るべきだ」
突然真面目風の表情でマックスに言われ、隣のクリスも一理あるというふうに頷く。
ヴィクトルは一気に怪訝な顔を見せた。
「待て、なんの話だ。俺はいつも素だぞ、彼女の前でも」
「そうかぁ? どうせ格好つけてんだろうが」
「⋯⋯それは普通に男として格好良く見られたいものだろ」
マックスの一見突拍子もない助言が、あなたには密かに通じていた。さっきクリスマス会のことで、自分の自信のなさをもらしてしまったからだろう。
だからきっと、気負わなくていいと暗に言ってくれたのだと、彼の友人の優しさに感謝の気持ちがわいてくる。
「ありがとうございます、マックスさん。なんとなく伝わります。でもヴィクトルに格好悪いとこなんてあります⋯?」
「いや今見たばっかりでしょ。幻滅しないの? 細かい男だなぁってさ」
「いえいえ、そんなことないですよ。ちょっと可愛いなって⋯⋯思っちゃいましたね。すごくレアな姿ですし」
それに彼にそう呼ばれるのは親愛を感じてとても嬉しいことなのだ。
あなたはそう明かし、だらしなく頬を緩めてしまった。
一体初めて会った人に何の話をしてるのかという感じだが、ヴィクトルの周囲の人は最初からオープンな人が多いから触発されたのかもしれない。
自分はもともと引っ込み思案だけれど、ちょっぴり仲間に入れてもらえたことが喜びにも感じていた。
「あぁ名無しちゃん、君は俺の弱い部分まで受け入れてくれるなんて、なんて心の温かな女性なんだ。愛してるよ」
「えっ、ええ! なな、な、どうしたのいきなり!」
あなたは赤面し固まってしまう。人目もかまわず隣で瞳を柔らかく細め、頭を撫でられてしまった。
彼は友人の前でもこんな風にさらっと愛情表現をするのだと、衝撃を受ける。
もちろん嬉しい。でも反面変に思われてないかと周りを伺うと、同僚たちも慣れたのか生温かい目で見守ってくれている。
「よし! じゃあキリのいいとこで、この四人で飲み行くか? お近づきの印に」
「あのな⋯⋯俺はこれから彼女とゆっくり週末を過ごすんだよ。邪魔するな」
「冗談だろ切れんなよ。あー早くこいつの面白い姿を皆に見せてえ」
ウケながらからかう友にヴィクトルは疲れ果て、そろそろあなたの手を握って立ち去ろうとした。
「じゃあな二人とも。クリス、こいつを頼んだぞ」
「ええっ、僕ですか? 仕方ないですね。ではお詫びをこめて。行きましょうかマックス。名無しさんも、良い週末を!」
「はい! 皆さんも楽しんでくださいね」
あなたは会釈して、楽しげに去っていくスーツの二人に手を振り返した。
そうしてようやく、オフィス街の一点に静けさが戻ってくる。
ちょっと迎えに来ただけのつもりが、すごい場になってしまったと興奮が冷めやらない。
でもヴィクトルはかなりバツが悪そうだ。
「ごめんね⋯⋯変な奴らに巻き込んで。怖くなかったかい?」
「ううん、全然。面白かったよ。でもヴィクトルが来てくれてもっと嬉しかった。ちょびっと緊張してたから」
素直に伝えて笑いかけると、また彼の長い腕にしまわれる。今度はさらに想いがこもった抱擁で、頭ごと包みこまれた。
「ヴィクトル⋯! まだ会社の前だよっ」
「そうだね。でも抑えがきかないよ。君がたまらなく可愛くてさ」
しみじみと言う彼にしばらくあなたは捕まり、背中を撫でていたのだった。
車の中に着くと、出発する前に少し二人で話をした。助手席に座るヴィクトルは珍しいが、こちらに大柄な体躯を向けてあなたを愛おしそうに見つめている。
「あぁ、君と二人きりになれてやっと落ち着いたな」
「本当? ふふ、よかった」
さっきの新鮮な彼の姿も胸が高鳴ったけれど、狭い空間で向き合うとドキドキする。
けれどあなたは、ひとつ気になっていることがあった。
「あの、ヴィクトルは近い同僚の人に私達のこと話したの⋯?」
それはこれまでデリケートな話題だと思っていたから、遠慮がちに聞いてみた。
すると彼は肩をすくめて不本意そうに明かす。
「いや言ってない。バレちゃったんだよ」
「そ、そっか。⋯⋯やっぱり、会社の人に見つかったら面倒だよね?」
そう尋ねたあなたの反応はヴィクトルにはまったく予期してなかったものらしく、彼は瞳を見開き、慌てて身を乗り出した。
「いや違う違う! ごめんね、今の態度はよくなかったな。まったくそうじゃないんだ。俺は信用できる奴には全員言いたいよ、俺達のこと。そこ絶対に誤解しないでね。ただ君と二人の関係を守りたかっただけだから」
目を見て伝えられ、力が抜けてきて安心する。
そもそもこの問題に対する二人の思惑はすれ違っていたようで、ヴィクトルの懸念こそあなたと完全に異なるところにあったのだ。
「えっ? あのマックスさんて人、プレイボーイなの?」
「ああ。SNSに裸の上半身載せてるんだ。それを俺達にも自慢げに見せてきて――まったく、立派なハラスメントだよな」
「うそー! はははっ。そうなんだ、どんな写真なんだろう」
かなり意外に思えて吹き出してしまった。彼も立場のある人だろうに大丈夫なんだと。
あなたの軽い反応にヴィクトルは心配な目を向ける。
「ちょっと名無しちゃん。検索しないでくれよ。俺はあんないかがわしい写真を君に見せたくないぞ」
「しないってば」
あくまで真剣な彼に笑いがこぼれる。そんなふうに言われると余計に気になってくるが、マックスは面白い人に感じた。余計にヴィクトルの友達なのが興味深い。
対してヴィクトルの気がかりはまだ止まない。
彼は普段余裕のあるスマートな男性であるが、あなたのこととなると、特に最近はすぐに心が乱されていた。
「そういえばさ。君は年上の男と喋ったりすることに、抵抗とかって⋯⋯ない?」
気遣うような尋ね方に、あなたははっきりと首を振る。話の流れから、きっと彼と同年代の年の差がある男性群のことを指しているのだと思った。
「ううん、ないよ。たぶん父親がもっと上だからっていうのもあるかもしれないけど。あ、あとブティックでも親世代のマダムが多いからかな。お客様は女性だけどね、結構夫婦でも来られるし。⋯⋯それと、ヴィクトルの会社の人だったら、クリスさんは丁寧で優しいよね。雰囲気も独特で面白いけど。あとマックスさんって、なんかいい人だよね。勢いはすごいんだけどさ」
思い出し笑いをすると、彼の顔をじっと近づけられる。
「どっ、どうしたの?」
あなたは突然キスされるかと思い、今日の落ち着かない様子のヴィクトルに翻弄されていた。
彼の美しい黒い瞳は、見つめられるだけで喉が渇く。こちらを探るような妖艶な目つきだ。
「どうしてそう思ったの? あいつがいい人って」
「⋯⋯えっ。そ、それは⋯⋯」
なぜか窮地に追い込まれた感覚と彼に囚われそうな背徳感で、くらくらしてくる。
まさかさっきの話じゃないけど、焼きもち?
でもかなり仲良さそうな友達なのに。
そんなことを必死に考えていると、彼はやがて切なげにため息を吐いた。
「ごめんね、俺しつこいよな。でも気になるんだ。君の気持ちが」
鼓動が鳴っていき、彼のこぼした言葉にはもっと深い背景を感じた。
ヴィクトルは互いに何かあると、解決しようといつも話をしてくれる。そういうどんな話題でも向き合おうとする彼の姿勢が好きだった。
あなたは気恥ずかしさがあったが、正直に事の流れを話し始める。
「あのね。実はさっき、クリスさんにクリスマス会に誘われたの」
「えっ!? あいつ、そんなことしてたのか」
彼は仰天していた。青天の霹靂だったのだろう。
「悪かったね、びっくりしただろう。クリスはやけに君に来てほしいみたいで、俺達にすごく関心があるんだよ」
「本当? それは嬉しいな。⋯⋯でも私、自信がないって正直に言っちゃったんだ。その場は想像したらすごく楽しそうなんだけど、ヴィクトルの会社の人が自分を見たら、どんな印象を持たれるのかなって心配で⋯⋯こんな若輩者だし」
彼は正直に吐露するあなたの頬を、心配そうな眼差しで気遣うように撫でる。
「そんな風に考えてたんだね。年の差があるから、内心好奇の目で見てくる奴はいるかもしれないけど、そんな心配はまったく必要のないものだよ」
あなたの揺れる瞳がヴィクトルの熱い視線にとらえられる。切なげで、さらに庇護欲を掻き立てられているような、焦燥に満ちた眼差しだ。
「あぁ⋯俺はもっと君に、君自身の素晴らしさを教えなきゃいけないのかもな」
そう言って腕の中に抱き寄せられて、熱が伝わってきた。安心とともに不安が溶かされ、あなたはぎゅっと広い背中に掴まる。
「本当⋯? そばにいても恥ずかしくない?」
「もう、そんなわけないだろう。俺は見せびらかしたいんだよ、本当は。でも心配なんだ、誰にも取られたくないから」
ヴィクトルははっきりとそう言った。
初めて聞いた彼の激しい独占欲を示す言葉である。
「ねえ。俺のさっきの情けない姿見たでしょう? それでも名無しちゃんそばにいてくれるんだよね?」
「情けなくないよ! 主張してて可愛かったよ。好きって思った」
加えてもちろんそばにいると断言すると、彼は照れたように目尻を細めて笑う。
「はは、よかった。ちょっと恥ずかしいけどね。でも大事なことだから。⋯⋯それとね。クリスマス会も、俺の勝手な想像だけど、君がそういう賑やかすぎる場が好きか分からなかったんだ。うちの会社はああいう活発な人間が多いしな。皆いいやつだけどね、仲もいいし。コミュニケーションは取りやすいと思う」
きちんと教えてくれて、あなたは真剣に耳を傾ける。
「でももし興味があるなら、俺は君を周りに紹介できるのはすごく嬉しいよ。そんなイベントじゃなくても、どこでだって君と一緒にいられるのは大きな喜びさ」
優しく語りかけてくる彼の言葉に、気持ちが軽くなっていく。少しずつ心が迷い、動いてくる。
自分でも信じられない変化だ。
「ヴィクトルのお友達にも、会えるのかな?」
「うん、もちろん。君が怖くなければね。マックスが平気なら他のやつらも大丈夫だと思うけど。⋯⋯まあでも、今話を聞いてわかったよ。あいつも憎めない男というか、根はいい奴なんだ。ナンパなところさえなければ」
彼の呆れ混じりの物言いにあなたは笑う。
他の友人達にも彼の恋人としてすでに関心を持たれてるようで、会えたらきっと喜ぶと言ってくれた。ヴィクトルは自分はまたからかわれるだろうとも苦笑しながら。
「とにかく、そんなに深く考えないで大丈夫だからね。まだ時間はあるし、どっちでもいいことなんだから。それよりもっと大事なものあるでしょう?」
彼は瞳を柔らかくし、茶目っ気たっぷりに尋ねてきた。
「え? なに?」
「俺達のクリスマスだよ。俺は君に会いたいな」
「⋯⋯う、うん! 私もだよ!」
あなたは顔がぱあっと明るくなり、もちろん忘れてないとはしゃぎ始める。そんな様子が伝わり、彼の表情もほころんだ。
「あとね。もっともっと、大事なこともあるんだけどな」
彼がよりいっそう優しい顔になったので、あなたはじわりと思い出してくる。
「もしかして⋯」
「そうだよ。君の誕生日。それももしよかったら⋯⋯俺が一緒に過ごせる日ある?」
それはこの日一番の衝撃と嬉しさが爆発するメッセージで、あなたは有無を言わさず頷いた。
「もちろんだよ! 私もヴィクトルの時間さえあれば、一緒にいたい!」
彼の表情が輝き、すぐさま抱きしめられる。互いに熱い抱擁をかわし、想いがより強固に繋がって幸福感が募った。
誕生日はこの国では一年の行事の中でも大事なイベントだ。家族で集まり、知り合いを招く人も多い。
実家は離れてるし、社会人になってからはもう何年も当日に祝うことはしていないが、家族の誕生日付近にはいつも帰っている。
けれどそういうことを差し置いても、あなたにとって恋人のヴィクトルと過ごすことは、もっとも大切な当然の願いであった。
「はぁ嬉しい⋯⋯。でも確か来月のその日、平日なんだよね。ヴィクトルは仕事が――」
「ああ大丈夫。もう休み取ったから」
「うそ!!」
「本当だよ。二日取ってるんだ」
「そうなの? じゃあ私も取る!」
「ほんとう? 大丈夫?」
あなたは感激と感謝に震えながら、固く頷いた。
彼がそこまで準備をしてくれていたとは、まったく知る由もなかった。
誕生日に本人が有給を取るのは珍しくない。むしろ皆やっていることだ。
普段の働き方からしても、今から願い出れば可能なはずである。
店主である母の友人の女性に話してみよう。
「へへ。まさかこんな話になるとは⋯」
「そうだね。まあ今日伝えてみるつもりだったんだけど、色々約束が増えて嬉しいなぁ。さっきまでの心労が嘘みたいだ」
自虐的に話すヴィクトルに笑ってしまいながらも、彼はとても幸せそうで、それを見てるだけで自分も最高の気分に包まれた。
「じゃあお家帰ろっか」
あなたはなんだか清々しい気持ちで自分のアパートへ向かった。
「うん。君もお疲れさま。来てくれてありがとうね、長く待たせちゃってごめんね。取引先とのリモートが長引いてしまって」
彼はまずあなたのそばに来て、体を包み込むようにハグをした。その瞬間びたっと止まったあなたの頬にも、優しくキスをする。
言葉が奪われ見上げると、満面の笑みのヴィクトルがいた。いつも仕事終わりにこの顔を見せてくれて嬉しい。
けれど同時にあなたは顔を染め上げていた。
この国の人間は情熱的で、人前で愛を示したり頻繁なハグもよく行われる。
でも正直、ヴィクトルがそういうタイプだとは知らなかった。彼は仕事関係の人達の前でも気にしないようだ。
もちろんマックスもクリスも、親しい友人かつ仲間ではあるのだが。
「それで、俺の彼女に何か用か? こんな夜に男二人で取り囲むなんて、怖がったらどうするんだよ」
「いやいやお前過保護すぎだろ。名無しちゃんは立派な成人女性だぞ? それに俺達仲良くお話してたよね?」
マックスが軟派に目配せしてくる。あなたは反射的に頷き、それも事実かなと納得していた。
しかしヴィクトルが片眉を上げて眉間に皺をよせたのは少し事情が異なっていた。
彼はマックスに近寄り肩を抱く。そして内緒話をするように身を屈めた。
「おい。お前今名無しちゃんと言ったか? ふざけるなよ。そう呼んでいいのは俺だけだ」
「はぁ!? んなわけねえだろ。お前の知らないところで皆呼んでるよ」
「それは家族や友達とかだろ? 身近な男の中では恋人の俺の特権なんだよ。間違ってもお前はそこに入ってない」
「小せえ男だなぁ! ちょっと聞いたか皆? ねえどう思う君は? こんな余裕のないとこ見たことある?」
大げさに振り返ってくるマックスに、まずクリスが爆笑していた。あなたもどう反応していいか分からず、ヴィクトルへの驚きと照れくささ、嬉しさみたいなものが混ざり合い、変な顔になってしまった。
「あはは⋯⋯確かにないかも。そんなこと気にしてくれてたの、ヴィクトル」
「うん。いやこいつにはね。ちゃんと言っておかないと、ストレスがたまるからな」
「はははは! これはいいですねぇ! 彼のこんな嫉妬に荒れ狂う姿見たことありませんよ! はあ、はあ、まずいですお腹が痛くなってきた――」
クリスは笑いすぎて腹を抱えており、マックスとヴィクトルはまだ口論してるし、カオスである。
あなたは一気に緊張が解けて、同じように笑いがこみあげてきた。
「ふふっ。やっぱりヴィクトルの存在感ってすごいなぁ。皆が面白いことになっちゃってる!」
「いやいや名無しちゃん。俺は本気なんだけどね。君はこいつの破壊力をまだ知らないから――」
冷静に突っ込まれるけれど、男友達といる彼ってこんな感じなんだと、この短い時間で垣間見えた気がした。
それはあなたにとっても貴重で、胸が温かくなる瞬間だ。
「とにかくな、名無しさん。――ほらお前がいる時だけそう呼んでやるよ満足か。――俺はね、今の姿こそこいつの素の姿だと思うぞ。だから君はもっとこの男の格好悪いところを見るべきだ」
突然真面目風の表情でマックスに言われ、隣のクリスも一理あるというふうに頷く。
ヴィクトルは一気に怪訝な顔を見せた。
「待て、なんの話だ。俺はいつも素だぞ、彼女の前でも」
「そうかぁ? どうせ格好つけてんだろうが」
「⋯⋯それは普通に男として格好良く見られたいものだろ」
マックスの一見突拍子もない助言が、あなたには密かに通じていた。さっきクリスマス会のことで、自分の自信のなさをもらしてしまったからだろう。
だからきっと、気負わなくていいと暗に言ってくれたのだと、彼の友人の優しさに感謝の気持ちがわいてくる。
「ありがとうございます、マックスさん。なんとなく伝わります。でもヴィクトルに格好悪いとこなんてあります⋯?」
「いや今見たばっかりでしょ。幻滅しないの? 細かい男だなぁってさ」
「いえいえ、そんなことないですよ。ちょっと可愛いなって⋯⋯思っちゃいましたね。すごくレアな姿ですし」
それに彼にそう呼ばれるのは親愛を感じてとても嬉しいことなのだ。
あなたはそう明かし、だらしなく頬を緩めてしまった。
一体初めて会った人に何の話をしてるのかという感じだが、ヴィクトルの周囲の人は最初からオープンな人が多いから触発されたのかもしれない。
自分はもともと引っ込み思案だけれど、ちょっぴり仲間に入れてもらえたことが喜びにも感じていた。
「あぁ名無しちゃん、君は俺の弱い部分まで受け入れてくれるなんて、なんて心の温かな女性なんだ。愛してるよ」
「えっ、ええ! なな、な、どうしたのいきなり!」
あなたは赤面し固まってしまう。人目もかまわず隣で瞳を柔らかく細め、頭を撫でられてしまった。
彼は友人の前でもこんな風にさらっと愛情表現をするのだと、衝撃を受ける。
もちろん嬉しい。でも反面変に思われてないかと周りを伺うと、同僚たちも慣れたのか生温かい目で見守ってくれている。
「よし! じゃあキリのいいとこで、この四人で飲み行くか? お近づきの印に」
「あのな⋯⋯俺はこれから彼女とゆっくり週末を過ごすんだよ。邪魔するな」
「冗談だろ切れんなよ。あー早くこいつの面白い姿を皆に見せてえ」
ウケながらからかう友にヴィクトルは疲れ果て、そろそろあなたの手を握って立ち去ろうとした。
「じゃあな二人とも。クリス、こいつを頼んだぞ」
「ええっ、僕ですか? 仕方ないですね。ではお詫びをこめて。行きましょうかマックス。名無しさんも、良い週末を!」
「はい! 皆さんも楽しんでくださいね」
あなたは会釈して、楽しげに去っていくスーツの二人に手を振り返した。
そうしてようやく、オフィス街の一点に静けさが戻ってくる。
ちょっと迎えに来ただけのつもりが、すごい場になってしまったと興奮が冷めやらない。
でもヴィクトルはかなりバツが悪そうだ。
「ごめんね⋯⋯変な奴らに巻き込んで。怖くなかったかい?」
「ううん、全然。面白かったよ。でもヴィクトルが来てくれてもっと嬉しかった。ちょびっと緊張してたから」
素直に伝えて笑いかけると、また彼の長い腕にしまわれる。今度はさらに想いがこもった抱擁で、頭ごと包みこまれた。
「ヴィクトル⋯! まだ会社の前だよっ」
「そうだね。でも抑えがきかないよ。君がたまらなく可愛くてさ」
しみじみと言う彼にしばらくあなたは捕まり、背中を撫でていたのだった。
車の中に着くと、出発する前に少し二人で話をした。助手席に座るヴィクトルは珍しいが、こちらに大柄な体躯を向けてあなたを愛おしそうに見つめている。
「あぁ、君と二人きりになれてやっと落ち着いたな」
「本当? ふふ、よかった」
さっきの新鮮な彼の姿も胸が高鳴ったけれど、狭い空間で向き合うとドキドキする。
けれどあなたは、ひとつ気になっていることがあった。
「あの、ヴィクトルは近い同僚の人に私達のこと話したの⋯?」
それはこれまでデリケートな話題だと思っていたから、遠慮がちに聞いてみた。
すると彼は肩をすくめて不本意そうに明かす。
「いや言ってない。バレちゃったんだよ」
「そ、そっか。⋯⋯やっぱり、会社の人に見つかったら面倒だよね?」
そう尋ねたあなたの反応はヴィクトルにはまったく予期してなかったものらしく、彼は瞳を見開き、慌てて身を乗り出した。
「いや違う違う! ごめんね、今の態度はよくなかったな。まったくそうじゃないんだ。俺は信用できる奴には全員言いたいよ、俺達のこと。そこ絶対に誤解しないでね。ただ君と二人の関係を守りたかっただけだから」
目を見て伝えられ、力が抜けてきて安心する。
そもそもこの問題に対する二人の思惑はすれ違っていたようで、ヴィクトルの懸念こそあなたと完全に異なるところにあったのだ。
「えっ? あのマックスさんて人、プレイボーイなの?」
「ああ。SNSに裸の上半身載せてるんだ。それを俺達にも自慢げに見せてきて――まったく、立派なハラスメントだよな」
「うそー! はははっ。そうなんだ、どんな写真なんだろう」
かなり意外に思えて吹き出してしまった。彼も立場のある人だろうに大丈夫なんだと。
あなたの軽い反応にヴィクトルは心配な目を向ける。
「ちょっと名無しちゃん。検索しないでくれよ。俺はあんないかがわしい写真を君に見せたくないぞ」
「しないってば」
あくまで真剣な彼に笑いがこぼれる。そんなふうに言われると余計に気になってくるが、マックスは面白い人に感じた。余計にヴィクトルの友達なのが興味深い。
対してヴィクトルの気がかりはまだ止まない。
彼は普段余裕のあるスマートな男性であるが、あなたのこととなると、特に最近はすぐに心が乱されていた。
「そういえばさ。君は年上の男と喋ったりすることに、抵抗とかって⋯⋯ない?」
気遣うような尋ね方に、あなたははっきりと首を振る。話の流れから、きっと彼と同年代の年の差がある男性群のことを指しているのだと思った。
「ううん、ないよ。たぶん父親がもっと上だからっていうのもあるかもしれないけど。あ、あとブティックでも親世代のマダムが多いからかな。お客様は女性だけどね、結構夫婦でも来られるし。⋯⋯それと、ヴィクトルの会社の人だったら、クリスさんは丁寧で優しいよね。雰囲気も独特で面白いけど。あとマックスさんって、なんかいい人だよね。勢いはすごいんだけどさ」
思い出し笑いをすると、彼の顔をじっと近づけられる。
「どっ、どうしたの?」
あなたは突然キスされるかと思い、今日の落ち着かない様子のヴィクトルに翻弄されていた。
彼の美しい黒い瞳は、見つめられるだけで喉が渇く。こちらを探るような妖艶な目つきだ。
「どうしてそう思ったの? あいつがいい人って」
「⋯⋯えっ。そ、それは⋯⋯」
なぜか窮地に追い込まれた感覚と彼に囚われそうな背徳感で、くらくらしてくる。
まさかさっきの話じゃないけど、焼きもち?
でもかなり仲良さそうな友達なのに。
そんなことを必死に考えていると、彼はやがて切なげにため息を吐いた。
「ごめんね、俺しつこいよな。でも気になるんだ。君の気持ちが」
鼓動が鳴っていき、彼のこぼした言葉にはもっと深い背景を感じた。
ヴィクトルは互いに何かあると、解決しようといつも話をしてくれる。そういうどんな話題でも向き合おうとする彼の姿勢が好きだった。
あなたは気恥ずかしさがあったが、正直に事の流れを話し始める。
「あのね。実はさっき、クリスさんにクリスマス会に誘われたの」
「えっ!? あいつ、そんなことしてたのか」
彼は仰天していた。青天の霹靂だったのだろう。
「悪かったね、びっくりしただろう。クリスはやけに君に来てほしいみたいで、俺達にすごく関心があるんだよ」
「本当? それは嬉しいな。⋯⋯でも私、自信がないって正直に言っちゃったんだ。その場は想像したらすごく楽しそうなんだけど、ヴィクトルの会社の人が自分を見たら、どんな印象を持たれるのかなって心配で⋯⋯こんな若輩者だし」
彼は正直に吐露するあなたの頬を、心配そうな眼差しで気遣うように撫でる。
「そんな風に考えてたんだね。年の差があるから、内心好奇の目で見てくる奴はいるかもしれないけど、そんな心配はまったく必要のないものだよ」
あなたの揺れる瞳がヴィクトルの熱い視線にとらえられる。切なげで、さらに庇護欲を掻き立てられているような、焦燥に満ちた眼差しだ。
「あぁ⋯俺はもっと君に、君自身の素晴らしさを教えなきゃいけないのかもな」
そう言って腕の中に抱き寄せられて、熱が伝わってきた。安心とともに不安が溶かされ、あなたはぎゅっと広い背中に掴まる。
「本当⋯? そばにいても恥ずかしくない?」
「もう、そんなわけないだろう。俺は見せびらかしたいんだよ、本当は。でも心配なんだ、誰にも取られたくないから」
ヴィクトルははっきりとそう言った。
初めて聞いた彼の激しい独占欲を示す言葉である。
「ねえ。俺のさっきの情けない姿見たでしょう? それでも名無しちゃんそばにいてくれるんだよね?」
「情けなくないよ! 主張してて可愛かったよ。好きって思った」
加えてもちろんそばにいると断言すると、彼は照れたように目尻を細めて笑う。
「はは、よかった。ちょっと恥ずかしいけどね。でも大事なことだから。⋯⋯それとね。クリスマス会も、俺の勝手な想像だけど、君がそういう賑やかすぎる場が好きか分からなかったんだ。うちの会社はああいう活発な人間が多いしな。皆いいやつだけどね、仲もいいし。コミュニケーションは取りやすいと思う」
きちんと教えてくれて、あなたは真剣に耳を傾ける。
「でももし興味があるなら、俺は君を周りに紹介できるのはすごく嬉しいよ。そんなイベントじゃなくても、どこでだって君と一緒にいられるのは大きな喜びさ」
優しく語りかけてくる彼の言葉に、気持ちが軽くなっていく。少しずつ心が迷い、動いてくる。
自分でも信じられない変化だ。
「ヴィクトルのお友達にも、会えるのかな?」
「うん、もちろん。君が怖くなければね。マックスが平気なら他のやつらも大丈夫だと思うけど。⋯⋯まあでも、今話を聞いてわかったよ。あいつも憎めない男というか、根はいい奴なんだ。ナンパなところさえなければ」
彼の呆れ混じりの物言いにあなたは笑う。
他の友人達にも彼の恋人としてすでに関心を持たれてるようで、会えたらきっと喜ぶと言ってくれた。ヴィクトルは自分はまたからかわれるだろうとも苦笑しながら。
「とにかく、そんなに深く考えないで大丈夫だからね。まだ時間はあるし、どっちでもいいことなんだから。それよりもっと大事なものあるでしょう?」
彼は瞳を柔らかくし、茶目っ気たっぷりに尋ねてきた。
「え? なに?」
「俺達のクリスマスだよ。俺は君に会いたいな」
「⋯⋯う、うん! 私もだよ!」
あなたは顔がぱあっと明るくなり、もちろん忘れてないとはしゃぎ始める。そんな様子が伝わり、彼の表情もほころんだ。
「あとね。もっともっと、大事なこともあるんだけどな」
彼がよりいっそう優しい顔になったので、あなたはじわりと思い出してくる。
「もしかして⋯」
「そうだよ。君の誕生日。それももしよかったら⋯⋯俺が一緒に過ごせる日ある?」
それはこの日一番の衝撃と嬉しさが爆発するメッセージで、あなたは有無を言わさず頷いた。
「もちろんだよ! 私もヴィクトルの時間さえあれば、一緒にいたい!」
彼の表情が輝き、すぐさま抱きしめられる。互いに熱い抱擁をかわし、想いがより強固に繋がって幸福感が募った。
誕生日はこの国では一年の行事の中でも大事なイベントだ。家族で集まり、知り合いを招く人も多い。
実家は離れてるし、社会人になってからはもう何年も当日に祝うことはしていないが、家族の誕生日付近にはいつも帰っている。
けれどそういうことを差し置いても、あなたにとって恋人のヴィクトルと過ごすことは、もっとも大切な当然の願いであった。
「はぁ嬉しい⋯⋯。でも確か来月のその日、平日なんだよね。ヴィクトルは仕事が――」
「ああ大丈夫。もう休み取ったから」
「うそ!!」
「本当だよ。二日取ってるんだ」
「そうなの? じゃあ私も取る!」
「ほんとう? 大丈夫?」
あなたは感激と感謝に震えながら、固く頷いた。
彼がそこまで準備をしてくれていたとは、まったく知る由もなかった。
誕生日に本人が有給を取るのは珍しくない。むしろ皆やっていることだ。
普段の働き方からしても、今から願い出れば可能なはずである。
店主である母の友人の女性に話してみよう。
「へへ。まさかこんな話になるとは⋯」
「そうだね。まあ今日伝えてみるつもりだったんだけど、色々約束が増えて嬉しいなぁ。さっきまでの心労が嘘みたいだ」
自虐的に話すヴィクトルに笑ってしまいながらも、彼はとても幸せそうで、それを見てるだけで自分も最高の気分に包まれた。
「じゃあお家帰ろっか」
あなたはなんだか清々しい気持ちで自分のアパートへ向かった。
