美オヤジを誘って囲われて救われる話
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あのあと二人で、河の向こう岸へ渡るゴンドラに乗った。十人ほどが入る中型船で、足近くまで波がよせて臨場感たっぷりだ。
「名無しちゃん、大丈夫? もっとこっちにおいで」
「うん⋯っ」
ふかふかのソファで彼は安心させるように、ゴンドラでも手を握って肩を抱いててくれた。
他にもカップルがいて寄り添ってるし、ヴィクトルの肩口に頭を預けて寄りかかる。
あなたは段々さっきの独占欲事件が恥ずかしくなっていたけれど、彼の温もりがまだ恋しかった。
「――わぁ、夕日が見えるね。きれいだなぁ」
河の水平線を眺めていると、赤く染まった夕焼けが現れた。二人してロマンチックな光景に目を奪われる。
デートの一場面だけど、きっとずっと忘れないものとして目に焼きつけていた。
すると彼が頭上からこんなことを呟く。
「本当に綺麗だな。きっと俺は一生この景色を忘れないよ」
あなたは美しいため息まじりの彼の横顔にも見とれていたが、はっと顔を上げる。
「今、私も同じこと考えてたよ!」
嬉しくなり教えると、彼のはにかんだ笑顔が向けられた。
「本当? じゃあ俺達はもう以心伝心しちゃってるのかもな。ぴったりだよね、誰も間に入れないぐらい」
ねっ?と悪戯っぽくウインクされて、肩をさらにぎゅっと抱かれた。
その言葉は紛れもなくあなたに伝えられたもので、彼の優しさが染み渡っていた。
だからあなたは夕日で染まった頬で、何度も頷くしかなかった。
本当に誰も入れないぐらい、自分達の仲がこのまま深まっていけばいいのにな。
向こう岸に着いて、あなたはレストランに彼と入ってからもそんなことを考えていた。
ここは魚料理も肉料理もあるお洒落な川沿いのお店だ。窓側の席からはライトアップされた雄大な河川がのぞめて夜景を満喫する。
「美味しい〜お魚ほろほろだよ。ヴィクトルのお肉もどう?」
「うん、完璧な色合いだね。一口食べる?」
向かい側の彼が一切れくれたので自分も彼の皿に置いて交換した。互いに頬張って笑顔になる。
そういうことも気軽にする彼がなんだか愛しかった。
どこにいても彼は変わらない。
あなたに慈しむような眼差しを向け、時折熱視線も送ってくる。
食後のコーヒーを飲んでる時に、あなたは彼にある質問をした。船での彼の台詞を反芻し、二人の共通点があるのか知りたくなったのだ。
「ねえねえ。ヴィクトルって他に好きなものとか、趣味とかある?」
長く付き合う上では互いの趣味なども大事だと思った。
二人ともファッションに関心があるのは分かる。ヴィクトルはさらっと着こなしてるだけらしいが。
「趣味か。前はスポーツだったけど、今は筋トレかな⋯⋯でもこれじゃつまらないよな。釣りやってた時もあったけどね。うーん、全部男向けだな。あとは音楽かな――」
彼は真面目に答えてくれたが、あなたも小さい頃に父親と釣りに行ったことがあると話したら、彼は驚きながらもやや緊張した顔つきになった。
「音楽ってどんなの? クラシック?」
「はっはっは! あのねえ名無しちゃん、君は俺を誤解してるよ。そういうの聞いてるように見える?」
笑いを抑えて問われてしまい照れ笑いする。なんだか勝手なイメージがまだ拭えないみたいだ。
「これも男くさいかもしれないけど、ロックが好きだな。若いときはフェスとかも行ってたんだけどね。今は全然聞いてないなぁ。最近の音楽はよく分からなくてね」
顎をさすりながら美男子がぼやいているが、彼は急に我に返った。
「うわ、今のすごい年寄りっぽいよな。ごめんね」
「ううん、そんなことないって! 私もロック好きだよ、こう見えて」
周囲には話したことのない事実を明かす。元彼はラップとか聞いてたから趣味が合わなかった。ヴィクトルは年代的にもロックが好きなのかなと考える。
「私も最近のはそんなに聞かないよ。学生時代に見つけたやつばっかりリピートしてるし。あとはお父さんの影響で昔のバンドとか――」
普通に話す中で、また父親というワードを出してしまい若干焦る。話題から仕方ないとはいえ、ファザコンだと思われたら嫌である。
しかし彼の関心事は別のことのようだった。
「あのさ、君のお父さんって⋯⋯やっぱり俺とあまり年が変わらない?」
彼がごくりと喉を鳴らして尋ねてくる。緊張が伝わってきたため、あなたは慌てて首を振った。
「全然違うよ。私はお父さんが44才の時の子だから、今65才なんだ。ヴィクトルのご両親のほうが近いんじゃないかな?」
へへ、と笑いかけると彼は驚きに目を見張る。
「そうなのかい⋯⋯? うちの親父と同い年だ。そうか⋯⋯」
「ええっすごい、同い年なんだねえ、若いねえお父さん!」
あなたは思わぬ共通点にはしゃいでしまった。なんだか彼の瞳にもほっとしたような思いが混ざりあっている。
「でも、お母さんはどのくらい? 聞いてよかったら」
「全然いいよ。お母さんのほうがヴィクトルからそんな遠くないかも。50才なんだ」
「えっ!?」
彼はそっちのほうが驚愕したようだった。
そうなのだ。あなたは家族のことをべらべら喋るタイプではなく特に言ってなかったけれど、自分の両親も結構な年の差があった。
「そう⋯⋯なんだ? ほんとに⋯⋯」
「なんかヴィクトル、すごい緊張が解けたみたいな顔してるね。もしかして気にしてたの?」
「い、いや⋯⋯そんなことは。⋯⋯嘘だな。うん、かなり気にしてるよ。やっぱり君のご両親にどう思われるかってことはさ。⋯⋯でもお二人がそうだからといって、俺が許されるわけではないんだけどね⋯⋯」
かなり神妙な顔つきになってしまい、あなたは焦る。彼はいつか会ってくれるつもりなのだろうか。
そんなふうに将来的なことを真剣に考えてくれる事実が、信じられないほどに嬉しい。
でも彼が重荷に思うような悪いことなど、何もないのだと伝えたかった。
「大丈夫だよ! 二人がラブラブだったら何も問題ないでしょう?」
「そうだよね⋯? 俺もそう思いたいんだけどね、ものすごく」
「もう深く考えすぎないでね。うちのお父さん別に怖くないし、何も言えないよ。だって自分だって同じなんだから」
ついまくしたててしまうが、彼を再びドキリとさせてしまうだけだった。うまく説明が出来ないけれど、親にどう伝えるかという問題は、あなたは彼よりも不安視はしてなかった。
「俺は出来れば君のご両親に気に入られたいよ、名無しちゃん」
「⋯⋯えっ」
彼がテーブルの上の腕を伸ばして、あなたの手に重ねてくる。温かくてじわりとする。
「そんな風に言ってもらえるの嬉しいよ⋯⋯じゃあいつか、会ってもらえる⋯のかな?」
「もちろん。許可があれば」
「あるに決まってるよ。皆大喜びするんじゃないかな、こんなに素敵な人で」
彼は謙遜していたが、あなたもあなたでかなりの緊張をもたらす話だ。自分の家は交際に反対などしないと思うが、彼の家族はどうなのだろうと。
それはまだ怖くて聞けなかった。今度にしようと思う。
思わず深い話になってしまったが、レストランではまだ続きがあった。
制服姿のウェイターがやって来て、お会計の時になったのだ。
あなたはいつも財布を出して待ってるのだが、彼は普段と同じようにカードを渡してサインをし、スムーズに終わってしまった。
「ヴィクトル⋯⋯私いつも払ってないんだけど⋯⋯無銭飲食の常連だよ」
「おいおい、何を言ってるのかな君は。俺とペアなんだから一緒に済ませるの当然でしょ?」
さらっと爽やかに言われて何も返せない。
それは嬉しいし経済格差もものすごいあるのは分かる。大人の男性にしつこく言うのも失礼かもしれないという気持ちも。
「でも⋯⋯申し訳なくて⋯」
「そんな風に思う必要ないよ。それにさっきの話の流れで俺が出してもらうのおかしくないかい? これだけ年の離れた男だよ。君は本当に優しいな」
「そんなことないでしょう。カップルは対等なんだし⋯」
あなたがごねていると彼は目尻を下げ、包容力たっぷりに笑む。
「君はカフェとかご馳走してくれるだろう? 一昨日だってあんなに美味しい手料理たべさせてくれたばかりだよ。こういうレストランよりね、君の手料理のほうが何百倍も価値があるんだから。俺はそのぐらいの幸せをいつも味わってるんだよ」
ひとつひとつ語りかけられてあなたは感情がこみあげる。
「そう言ってくれて嬉しい。手料理なんていつでも作るよ! ただヴィクトルが喜ぶ顔みたいだけだから⋯!」
「本当に? ありがとう。俺もすっごく嬉しいよ。俺も同じなんだ、これはほんの一部で、本当はあの手この手で君を喜ばせたいと思ってるんだ。まだまだ足りないよ、君が俺にくれているものに比べたらね」
彼の愛情深いメッセージにうるっとくる。
自分なんて全然足りないのに。ヴィクトルこそが、存在で言葉で、その包みこんでくれる優しさで幸せにしてくれてるのに。
デートも終盤にさしかかったが、あなたはふわふわとした気持ちのまま、彼と手を繋いで薄暗がりの川岸を散歩していた。
草原の土手をあがり、長椅子に一緒に腰を下ろす。周りには同じようにしているカップルが多くいた。
でも離れた間隔で座っているから、二人きりの秘密の空間のようでドキドキする。
会話をしながら、ヴィクトルがふとさっき話していた音楽をスマホで聞かせてくれた。
二人でイヤホンを分け合い、あなたは気分が高揚して相槌をうつ。
「これこれ! 知ってるこのバンド、家で流れてたよ。格好いいよね〜声がハスキーで」
「そうそう。歌うまいし全部いいんだよ曲も。というか君のお父さんセンスいいねえ。俺もだけど」
「ふふっ」
何気なく話題に出してくることが面白く、嬉しくもなる。どう思われるかと心配したけれど、家族のことを思い切って話してよかったと感じた。
音楽の趣味が合うのはラッキーでいいことだ。もっともっと、彼のことが知りたいと思った。
年の差はあるけれど、そのぶん心の距離をさらに近づけたいからだ。
あなたは鞄の中を探り、少しドキドキする。
本当は今日、彼へのプレゼントを持ってきていた。渡すタイミングを見計らっていたが、レストランより外のほうがいいと思った。
その前に、ひとつ気になることがあった。まだ音楽を探してくれてる彼の首筋に、そっと鼻を近づける。
「ん⋯⋯っ? どうしたの名無しちゃん?」
不意打ちを食らったヴィクトルが、振り向きざまにさっと顔を赤らめた。
あなたは微笑みながらもこう告げる。
「やっぱり今日もいい匂いがするなぁ」
「⋯そう? シェイビングクリームじゃないかな?」
「そうなのっ? 香水じゃないのっ?」
「はは。香水も時々つけるよ。どういうのが好き? 君の好きなのにしようかな」
そう笑まれてドキッとする。
よし。ちょうど話題がそっちに移ったとあなたは内心喜んだ。
「それも嬉しいなぁ。あのね、ヴィクトル。実はちょっとしたプレゼントがあるんだ。もらってくれる?」
「⋯⋯えっ? なにっ?」
彼は突然のことに、素で驚いた様子だった。
あなたが持つ手のひらサイズの四角い箱をみて瞬きをする。
きちんとリボンもかけられ、明らかにヴィクトルのために包装したものだ。
「あ⋯⋯名無しちゃん」
「本当にちょっとしたものだよ? あんまり期待しないでね」
「いやいや、うれしすぎて⋯⋯ごめんすぐに言葉が出てこない」
彼は渡されたものを大事そうに両手で受け取った。
開けるように勧めると中から現れたガラス瓶に彼は感嘆の声を上げる。
「あっ! 香水だね、俺にくれるのかい?」
「そうだよ。好きな香りかな、分かんないんだけど。ヴィクトルに似合いそうだなぁと思ったんだ。いつもいい香りするし、色んな種類つけてる気がして」
説明すると彼の表情がみるみるうちに緩まり、照れたような笑みが広がる。
「ありがとう⋯⋯俺のために選んでくれたなんて。それに、⋯⋯あぁ、凄くいい香りだ。こういう香りは持ってないよ」
「本当っ? よかったぁ」
確かに彼にしては珍しい、すっきりライトなアンバーの香りだ。いつもの男性的なくらっとくる香りもとても好きだけど、こういうのも風呂上がりにでもいいんじゃないかと考えた。
「いいねえ。俺はいつでもつけたいけどな。ありがとね、名無しちゃん」
「えっ――んんっ」
暗がりだけど外で不意に唇を奪われて、あなたは肩がびくりと跳ねる。
急に静かになったところを、まだヴィクトルは足りないらしく大きな体で包みこんできた。
「んあぁ⋯⋯ヴィクトル⋯⋯力強い⋯」
「あぁごめん。もうなんて言ったらいいんだろうな。君が愛おしいよ」
そう言って顔を見合わせ、頬に唇を触れさせたあと耳元でまた愛を囁いてくれた。
それから切なげに眉を寄せている。急に後悔してるようにも見える顔だ。
「参った。俺は今日何も持ってきてない」
「えぇ! いいんだってば、私があげたかったんだから。⋯⋯すごいお返しとかするのやめてね! 気持ちだから!」
「⋯⋯だめ? 分かった分かった、じゃあ我慢しよう。ひとまず」
彼はくすくすと笑い了承してくれたのだが。
几帳面なのか両手を握ったまま、こちらを見つめてくる。
「でも君にもっと色々してあげたいよ。何がいい? 名無しちゃん」
「もう。十分だよ。⋯⋯だって私、一番すごいのもらってるもん」
「え? 何?」
彼は興味が駆られたように、こちらに身を乗り出してきた。
「ヴィクトルだよ。へへ」
冗談ぽく言ってはみたものの、かなり勇気を出した台詞だ。
すると彼の瞳は揺れ動き、あなたの唇に吸い寄せられるように重ねられた。
「んっ⋯⋯そうじゃない?」
「ううん、その通りだよ。俺は完全に君のものだからね。そのこと忘れないでね」
そう言って何度か熱い口づけを受けて、あなたはじんじんととろけていく。
ちょっとずるかっただろうか。
くすぶっていた彼への強い気持ちを、また広い愛情で包みこんでもらった。
しかし、もしかしたらヴィクトルはあなたが思う以上に深い感情の渦の中にいたのかもしれない。
彼は伝えきれてない想いをすべて伝えてしまいたい気持ちと、まだブレーキをかけなきゃいけないという理性の間で揺れ動いていた。
それをあなたはまだ、はっきりとは知らなかったのだ。
「名無しちゃん、大丈夫? もっとこっちにおいで」
「うん⋯っ」
ふかふかのソファで彼は安心させるように、ゴンドラでも手を握って肩を抱いててくれた。
他にもカップルがいて寄り添ってるし、ヴィクトルの肩口に頭を預けて寄りかかる。
あなたは段々さっきの独占欲事件が恥ずかしくなっていたけれど、彼の温もりがまだ恋しかった。
「――わぁ、夕日が見えるね。きれいだなぁ」
河の水平線を眺めていると、赤く染まった夕焼けが現れた。二人してロマンチックな光景に目を奪われる。
デートの一場面だけど、きっとずっと忘れないものとして目に焼きつけていた。
すると彼が頭上からこんなことを呟く。
「本当に綺麗だな。きっと俺は一生この景色を忘れないよ」
あなたは美しいため息まじりの彼の横顔にも見とれていたが、はっと顔を上げる。
「今、私も同じこと考えてたよ!」
嬉しくなり教えると、彼のはにかんだ笑顔が向けられた。
「本当? じゃあ俺達はもう以心伝心しちゃってるのかもな。ぴったりだよね、誰も間に入れないぐらい」
ねっ?と悪戯っぽくウインクされて、肩をさらにぎゅっと抱かれた。
その言葉は紛れもなくあなたに伝えられたもので、彼の優しさが染み渡っていた。
だからあなたは夕日で染まった頬で、何度も頷くしかなかった。
本当に誰も入れないぐらい、自分達の仲がこのまま深まっていけばいいのにな。
向こう岸に着いて、あなたはレストランに彼と入ってからもそんなことを考えていた。
ここは魚料理も肉料理もあるお洒落な川沿いのお店だ。窓側の席からはライトアップされた雄大な河川がのぞめて夜景を満喫する。
「美味しい〜お魚ほろほろだよ。ヴィクトルのお肉もどう?」
「うん、完璧な色合いだね。一口食べる?」
向かい側の彼が一切れくれたので自分も彼の皿に置いて交換した。互いに頬張って笑顔になる。
そういうことも気軽にする彼がなんだか愛しかった。
どこにいても彼は変わらない。
あなたに慈しむような眼差しを向け、時折熱視線も送ってくる。
食後のコーヒーを飲んでる時に、あなたは彼にある質問をした。船での彼の台詞を反芻し、二人の共通点があるのか知りたくなったのだ。
「ねえねえ。ヴィクトルって他に好きなものとか、趣味とかある?」
長く付き合う上では互いの趣味なども大事だと思った。
二人ともファッションに関心があるのは分かる。ヴィクトルはさらっと着こなしてるだけらしいが。
「趣味か。前はスポーツだったけど、今は筋トレかな⋯⋯でもこれじゃつまらないよな。釣りやってた時もあったけどね。うーん、全部男向けだな。あとは音楽かな――」
彼は真面目に答えてくれたが、あなたも小さい頃に父親と釣りに行ったことがあると話したら、彼は驚きながらもやや緊張した顔つきになった。
「音楽ってどんなの? クラシック?」
「はっはっは! あのねえ名無しちゃん、君は俺を誤解してるよ。そういうの聞いてるように見える?」
笑いを抑えて問われてしまい照れ笑いする。なんだか勝手なイメージがまだ拭えないみたいだ。
「これも男くさいかもしれないけど、ロックが好きだな。若いときはフェスとかも行ってたんだけどね。今は全然聞いてないなぁ。最近の音楽はよく分からなくてね」
顎をさすりながら美男子がぼやいているが、彼は急に我に返った。
「うわ、今のすごい年寄りっぽいよな。ごめんね」
「ううん、そんなことないって! 私もロック好きだよ、こう見えて」
周囲には話したことのない事実を明かす。元彼はラップとか聞いてたから趣味が合わなかった。ヴィクトルは年代的にもロックが好きなのかなと考える。
「私も最近のはそんなに聞かないよ。学生時代に見つけたやつばっかりリピートしてるし。あとはお父さんの影響で昔のバンドとか――」
普通に話す中で、また父親というワードを出してしまい若干焦る。話題から仕方ないとはいえ、ファザコンだと思われたら嫌である。
しかし彼の関心事は別のことのようだった。
「あのさ、君のお父さんって⋯⋯やっぱり俺とあまり年が変わらない?」
彼がごくりと喉を鳴らして尋ねてくる。緊張が伝わってきたため、あなたは慌てて首を振った。
「全然違うよ。私はお父さんが44才の時の子だから、今65才なんだ。ヴィクトルのご両親のほうが近いんじゃないかな?」
へへ、と笑いかけると彼は驚きに目を見張る。
「そうなのかい⋯⋯? うちの親父と同い年だ。そうか⋯⋯」
「ええっすごい、同い年なんだねえ、若いねえお父さん!」
あなたは思わぬ共通点にはしゃいでしまった。なんだか彼の瞳にもほっとしたような思いが混ざりあっている。
「でも、お母さんはどのくらい? 聞いてよかったら」
「全然いいよ。お母さんのほうがヴィクトルからそんな遠くないかも。50才なんだ」
「えっ!?」
彼はそっちのほうが驚愕したようだった。
そうなのだ。あなたは家族のことをべらべら喋るタイプではなく特に言ってなかったけれど、自分の両親も結構な年の差があった。
「そう⋯⋯なんだ? ほんとに⋯⋯」
「なんかヴィクトル、すごい緊張が解けたみたいな顔してるね。もしかして気にしてたの?」
「い、いや⋯⋯そんなことは。⋯⋯嘘だな。うん、かなり気にしてるよ。やっぱり君のご両親にどう思われるかってことはさ。⋯⋯でもお二人がそうだからといって、俺が許されるわけではないんだけどね⋯⋯」
かなり神妙な顔つきになってしまい、あなたは焦る。彼はいつか会ってくれるつもりなのだろうか。
そんなふうに将来的なことを真剣に考えてくれる事実が、信じられないほどに嬉しい。
でも彼が重荷に思うような悪いことなど、何もないのだと伝えたかった。
「大丈夫だよ! 二人がラブラブだったら何も問題ないでしょう?」
「そうだよね⋯? 俺もそう思いたいんだけどね、ものすごく」
「もう深く考えすぎないでね。うちのお父さん別に怖くないし、何も言えないよ。だって自分だって同じなんだから」
ついまくしたててしまうが、彼を再びドキリとさせてしまうだけだった。うまく説明が出来ないけれど、親にどう伝えるかという問題は、あなたは彼よりも不安視はしてなかった。
「俺は出来れば君のご両親に気に入られたいよ、名無しちゃん」
「⋯⋯えっ」
彼がテーブルの上の腕を伸ばして、あなたの手に重ねてくる。温かくてじわりとする。
「そんな風に言ってもらえるの嬉しいよ⋯⋯じゃあいつか、会ってもらえる⋯のかな?」
「もちろん。許可があれば」
「あるに決まってるよ。皆大喜びするんじゃないかな、こんなに素敵な人で」
彼は謙遜していたが、あなたもあなたでかなりの緊張をもたらす話だ。自分の家は交際に反対などしないと思うが、彼の家族はどうなのだろうと。
それはまだ怖くて聞けなかった。今度にしようと思う。
思わず深い話になってしまったが、レストランではまだ続きがあった。
制服姿のウェイターがやって来て、お会計の時になったのだ。
あなたはいつも財布を出して待ってるのだが、彼は普段と同じようにカードを渡してサインをし、スムーズに終わってしまった。
「ヴィクトル⋯⋯私いつも払ってないんだけど⋯⋯無銭飲食の常連だよ」
「おいおい、何を言ってるのかな君は。俺とペアなんだから一緒に済ませるの当然でしょ?」
さらっと爽やかに言われて何も返せない。
それは嬉しいし経済格差もものすごいあるのは分かる。大人の男性にしつこく言うのも失礼かもしれないという気持ちも。
「でも⋯⋯申し訳なくて⋯」
「そんな風に思う必要ないよ。それにさっきの話の流れで俺が出してもらうのおかしくないかい? これだけ年の離れた男だよ。君は本当に優しいな」
「そんなことないでしょう。カップルは対等なんだし⋯」
あなたがごねていると彼は目尻を下げ、包容力たっぷりに笑む。
「君はカフェとかご馳走してくれるだろう? 一昨日だってあんなに美味しい手料理たべさせてくれたばかりだよ。こういうレストランよりね、君の手料理のほうが何百倍も価値があるんだから。俺はそのぐらいの幸せをいつも味わってるんだよ」
ひとつひとつ語りかけられてあなたは感情がこみあげる。
「そう言ってくれて嬉しい。手料理なんていつでも作るよ! ただヴィクトルが喜ぶ顔みたいだけだから⋯!」
「本当に? ありがとう。俺もすっごく嬉しいよ。俺も同じなんだ、これはほんの一部で、本当はあの手この手で君を喜ばせたいと思ってるんだ。まだまだ足りないよ、君が俺にくれているものに比べたらね」
彼の愛情深いメッセージにうるっとくる。
自分なんて全然足りないのに。ヴィクトルこそが、存在で言葉で、その包みこんでくれる優しさで幸せにしてくれてるのに。
デートも終盤にさしかかったが、あなたはふわふわとした気持ちのまま、彼と手を繋いで薄暗がりの川岸を散歩していた。
草原の土手をあがり、長椅子に一緒に腰を下ろす。周りには同じようにしているカップルが多くいた。
でも離れた間隔で座っているから、二人きりの秘密の空間のようでドキドキする。
会話をしながら、ヴィクトルがふとさっき話していた音楽をスマホで聞かせてくれた。
二人でイヤホンを分け合い、あなたは気分が高揚して相槌をうつ。
「これこれ! 知ってるこのバンド、家で流れてたよ。格好いいよね〜声がハスキーで」
「そうそう。歌うまいし全部いいんだよ曲も。というか君のお父さんセンスいいねえ。俺もだけど」
「ふふっ」
何気なく話題に出してくることが面白く、嬉しくもなる。どう思われるかと心配したけれど、家族のことを思い切って話してよかったと感じた。
音楽の趣味が合うのはラッキーでいいことだ。もっともっと、彼のことが知りたいと思った。
年の差はあるけれど、そのぶん心の距離をさらに近づけたいからだ。
あなたは鞄の中を探り、少しドキドキする。
本当は今日、彼へのプレゼントを持ってきていた。渡すタイミングを見計らっていたが、レストランより外のほうがいいと思った。
その前に、ひとつ気になることがあった。まだ音楽を探してくれてる彼の首筋に、そっと鼻を近づける。
「ん⋯⋯っ? どうしたの名無しちゃん?」
不意打ちを食らったヴィクトルが、振り向きざまにさっと顔を赤らめた。
あなたは微笑みながらもこう告げる。
「やっぱり今日もいい匂いがするなぁ」
「⋯そう? シェイビングクリームじゃないかな?」
「そうなのっ? 香水じゃないのっ?」
「はは。香水も時々つけるよ。どういうのが好き? 君の好きなのにしようかな」
そう笑まれてドキッとする。
よし。ちょうど話題がそっちに移ったとあなたは内心喜んだ。
「それも嬉しいなぁ。あのね、ヴィクトル。実はちょっとしたプレゼントがあるんだ。もらってくれる?」
「⋯⋯えっ? なにっ?」
彼は突然のことに、素で驚いた様子だった。
あなたが持つ手のひらサイズの四角い箱をみて瞬きをする。
きちんとリボンもかけられ、明らかにヴィクトルのために包装したものだ。
「あ⋯⋯名無しちゃん」
「本当にちょっとしたものだよ? あんまり期待しないでね」
「いやいや、うれしすぎて⋯⋯ごめんすぐに言葉が出てこない」
彼は渡されたものを大事そうに両手で受け取った。
開けるように勧めると中から現れたガラス瓶に彼は感嘆の声を上げる。
「あっ! 香水だね、俺にくれるのかい?」
「そうだよ。好きな香りかな、分かんないんだけど。ヴィクトルに似合いそうだなぁと思ったんだ。いつもいい香りするし、色んな種類つけてる気がして」
説明すると彼の表情がみるみるうちに緩まり、照れたような笑みが広がる。
「ありがとう⋯⋯俺のために選んでくれたなんて。それに、⋯⋯あぁ、凄くいい香りだ。こういう香りは持ってないよ」
「本当っ? よかったぁ」
確かに彼にしては珍しい、すっきりライトなアンバーの香りだ。いつもの男性的なくらっとくる香りもとても好きだけど、こういうのも風呂上がりにでもいいんじゃないかと考えた。
「いいねえ。俺はいつでもつけたいけどな。ありがとね、名無しちゃん」
「えっ――んんっ」
暗がりだけど外で不意に唇を奪われて、あなたは肩がびくりと跳ねる。
急に静かになったところを、まだヴィクトルは足りないらしく大きな体で包みこんできた。
「んあぁ⋯⋯ヴィクトル⋯⋯力強い⋯」
「あぁごめん。もうなんて言ったらいいんだろうな。君が愛おしいよ」
そう言って顔を見合わせ、頬に唇を触れさせたあと耳元でまた愛を囁いてくれた。
それから切なげに眉を寄せている。急に後悔してるようにも見える顔だ。
「参った。俺は今日何も持ってきてない」
「えぇ! いいんだってば、私があげたかったんだから。⋯⋯すごいお返しとかするのやめてね! 気持ちだから!」
「⋯⋯だめ? 分かった分かった、じゃあ我慢しよう。ひとまず」
彼はくすくすと笑い了承してくれたのだが。
几帳面なのか両手を握ったまま、こちらを見つめてくる。
「でも君にもっと色々してあげたいよ。何がいい? 名無しちゃん」
「もう。十分だよ。⋯⋯だって私、一番すごいのもらってるもん」
「え? 何?」
彼は興味が駆られたように、こちらに身を乗り出してきた。
「ヴィクトルだよ。へへ」
冗談ぽく言ってはみたものの、かなり勇気を出した台詞だ。
すると彼の瞳は揺れ動き、あなたの唇に吸い寄せられるように重ねられた。
「んっ⋯⋯そうじゃない?」
「ううん、その通りだよ。俺は完全に君のものだからね。そのこと忘れないでね」
そう言って何度か熱い口づけを受けて、あなたはじんじんととろけていく。
ちょっとずるかっただろうか。
くすぶっていた彼への強い気持ちを、また広い愛情で包みこんでもらった。
しかし、もしかしたらヴィクトルはあなたが思う以上に深い感情の渦の中にいたのかもしれない。
彼は伝えきれてない想いをすべて伝えてしまいたい気持ちと、まだブレーキをかけなきゃいけないという理性の間で揺れ動いていた。
それをあなたはまだ、はっきりとは知らなかったのだ。
