美オヤジを誘って囲われて救われる話
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親友に好きな人がいると分かり、あなたは詳細を聞いた。男性は二十六歳の飲食店勤務らしく、毎晩オンラインゲームを一緒にやって仲良くなったらしい。
「毎晩!? す、すごいね。互いに仕事してて中々それ出来ないよね」
「まあ日課みたいなものだよ。それが5ヶ月続いてて。あとメッセージも每日送りあってるんだけど、その人の文章がすごく丁寧で、自分にはない真面目さがあるんだよね〜」
酔っているセリアが気分良さそうに惚気ている。
あなたがヴィクトルを見やると、彼も真剣に耳を傾けていた。
「うーん。確かに文章は人が出るね」
「⋯⋯そ、そうだけど。でもその人会ったこともないし、本当はどんな人かも分からないんだよね? やばい人だったらどうするの?」
台詞すべてがちょっと前の自分の行いに突き刺さるが、あなたは彼女のことが心配でたまらなくなっていた。
まるでさっきまでのセリアと同じ立場になったように。
「通話で喋ったことはあるのよ、普通だったよ。もちろん私よりは静かだけどね。でも穏やかっていうか安心できる声でさ」
「⋯⋯そう⋯」
彼のことを話してるセリアは楽しそうで、恋する女の子という感じだ。だからこそ、ちゃんとした人であってほしいという思いがわいてきた。
「ヴィクトルはどう思う? ほんとに大丈夫なのかな、その人」
「そうだね⋯⋯話を聞いた印象では、その彼はセリアさんのことが本当に好きなんじゃないかなとは感じたけどね。じゃないと每日決まった時間に半年間も、一人の女の子と喋りたいとは思わないと思うよ」
彼がさらりとそう述べたので、あなたは引き付けられる。
「少なくとも俺だったらそんなことしないな。よほど好きじゃなければ」
顎を擦りながら考える様はわりとドライに映り、新鮮である。さっきあなたには熱く「每日会いたい」と告白してたから尚更だった。
「ですよねぇ! 私もそう思うんですよヴィクトルさん! へへっやったー」
「ちょ、ちょっと。完全に楽観視するにはまだ早いよ」
とにかくあなたは、今日のところは彼女をここに泊めて落ち着かせようと考えた。
時計の針はもうすぐ十時で、お開きの時間だ。ヴィクトルをも巻き込んでしまい申し訳なく思ったが、台所で食器類を片付けているあなたの手伝いを彼も隣でしてくれていた。
「はぁ、今日はありがとうねヴィクトル」
「大丈夫だよ、名無しちゃん。呼んでくれてよかった。彼女のことも心配だよね」
彼は手を止めてあなたに向き合い、優しく髪の毛をはらってくれる。その指先の感触にしびれてしまい、あなたは赤い顔で振り向いた。
こんなときになんだけど、まだヴィクトルとハグもしていない。自分のことばかり考えてる場合じゃないけれど。
そんな風に思いながら、優しい顔で見下ろしてくる彼を見つめた。
「あのね。明後日の土曜日、楽しみだな。また会える?」
「当然でしょう? さっき俺の気持ち聞いたよね」
「うん⋯⋯聞いたよ」
そう話すと、彼はあなたのことをふわりと抱きしめた。
シャツの胸板に顔が埋まり、仕事終わりの彼のいい匂いに包まれ、くらくらしてくる。
「ヴィクトル⋯っ」
「ごめん、一瞬だけ。隣にいると我慢できないな」
台所の扉は閉まっているし、ここは死角だ。だからヴィクトルは素早くあなたの頬にちゅっとキスをしてくれた。
あなたは妙な背徳感に赤く染まり黙ってしまうが、彼の大きな手に頭の後ろを撫でられて気持ちよく、癒やされていった。
「ねえ、会うの明日の夜にしないかい? そうしたら土曜日は一緒に目覚めて、デート出来るし。そのまま日曜日まで一緒にいられるよ」
「⋯⋯本当? いいの? それがいい」
「よかった。じゃあ約束ね、名無しちゃん。明日迎えに行くからね」
ぎゅっと抱きしめられて、束の間の触れ合いに幸福を感じた。
あなたの体を離したあと、優しい彼はこんなことも付け加えてくれた。
「あと君の大事なお友達のことも、俺に出来ることあったら何でも言ってね。二人だけで抱え込んだりしないでね」
そう言ってもらえるだけで安心感に満たされ、頷く。
自分一人の時とはまるで違う、彼の大きな存在感に感謝していた。
そのあとあなたはリビングにセリアの様子を見に行った。
彼女は眠そうな顔つきでソファにもたれかかり、スマホを手にしている。
「大丈夫? 今日は泊まっていきなよね。ヴィクトルはもう帰るって」
「⋯ふぇ? いやだめだめ! まだ帰らないでお願いです!」
「はっ?」
あなたは素で聞き返し、不穏な空気に眉を寄せる。
この子は本当に酔っているんだろうか。まさか芝居なんじゃないだろうかと。
「だめだよそんなの。乾杯したいからってことで車置いてタクシーで来てくれたんだからね。そろそろ呼ばないと――」
「いやもうちょっとだけ! もうすぐ彼が迎えに来てくれるんだって! 二人ともそれまで一緒にいてお願いっ」
彼女が発した台詞が一瞬よくわからなかった。
隣に佇むヴィクトルと顔を見合わせるが、彼のほうが反応がいい。
「んっ? セリアさん、彼をここへ呼んだのかい?」
「そうなんですよ。酔いつぶれちゃったから来て〜ってお願いしたら、すぐに行くって言ってくれて⋯⋯へへへ」
「⋯⋯なっ! ここの住所教えたの!?」
ただふやけた顔つきで「ごめん」といいながら頷く親友に、あなたは泡を吹きそうになった。
「ど、どうしよう、知らない男の人がうちに来るんだけど!」
「落ち着いて名無しちゃん、俺がいるから大丈夫だよ」
焦ったヴィクトルが頼もしく肩を支えてくれる。本当にいてくれて良かったのだが、こんな展開はまったく予想していなかった。
「あのねえセリアちゃんっ! 何やってんのあんたは! 思いつきで行動すんのやめなさいよ!」
「ごめんって! でも一人で会う勇気ないよ〜助けて〜っ」
ウソ泣きする親友にもはや脱力感が生まれる。
しかしこうなったら仕方がない。そもそも自分もヴィクトルとの出会い方がかなりの常識はずれだったのだ。
セリアの意中の人は同じ街に住んでいて、仕事が終わったから車で来てくれるという。
あなたは覚悟してリビングや玄関口を少し綺麗にして待つことにした。
「ごめんねヴィクトル。どんどん遅い時間になっちゃって⋯」
「大丈夫大丈夫。俺結構体力あるからね、何時でも気にしないよ。とにかくいい機会だから見届けよう。一緒にね、名無しちゃん」
そう言って玄関にもついて来てくれた。
二十分後ぐらいだろうか、ベルが突然鳴り出し、インターホン越しに見知らぬ男性に挨拶されて、あなたはロビーのドアを開けた。
彼がここまでやって来るのにそう時間はかからなかった。
「⋯⋯ど、どうも〜。こんばんは」
「あっ⋯⋯こんばんは。夜遅くにすみません。僕はセリアさんに呼ばれた、エリック・キールと申します」
「あぁ! そうでしたか。私は彼女の友達の名無しです。はじめまして、急にお呼びしてすみません」
あなたも丁寧に返し、彼の全身を目に映す。
セリアの言ったように、見た目は背の高い真面目そうな黒髪の青年だった。メガネをかけていて静かそうだが、目力はちゃんとしていて口調も落ち着いている。
「こちらは私の――」
後ろにいたヴィクトルを紹介すると、彼は手を差し出した。
「ヴィクトル・ヘイズです。彼女と交際している者です、よろしく」
「よろしくお願いします。夜分遅くにお騒がせしてすみません」
ぎゅっと力強い握手を交わした男性二人だが、自然で穏やかな雰囲気だ。
「あの、どうぞ中に入ってください。セリアちゃんが待ってますんで」
「あ、はい⋯⋯!」
そう促すと彼は緊張した面持ちになった。半年間の交流があったとはいえ、初対面なのだから無理もない。
エリックを案内すると、リビングでは親友がすでに立ち上がり、珍しく指先を絡めてそわそわした様子だった。
「セリアちゃん!」
「あっ⋯⋯エリック。ハロー、ごめんね急に呼び出しちゃって」
いつもの明るい雰囲気で片手を上げているが、あなたにも彼女の顔つきから緊張が伝わり心臓がうるさくなる。
彼らは近づくと若干ぎこちなかったが、互いに腕を広げてハグを交わした。
最初は友達みたいな軽いものに見えたけれど、エリックは安堵したのか、彼女をぎゅっと抱きしめる。
「え、エリック?」
「ごめん、びっくりして。何かあったのかと⋯⋯よかった。無事で」
「ええ! ごめん大丈夫だよ、結構飲んじゃったけど。⋯⋯こういう勢いがなかったらずっと会えないんじゃないかなって思ってつい⋯」
彼は彼女の体を少し離し、メガネを直して口を開く。
「僕も会いたいと思ってたよ。でも、タイミングが分からなくて、あと⋯⋯振られて関係が崩れたら嫌だったんだ。⋯⋯情けなくてごめん」
「⋯⋯ううん! そんなことないって。来てくれたし⋯⋯ありがとう。嬉しい」
二人は至近距離で見つめ合い、なんだか見てる方が恥ずかしくなってきた。あなたは邪魔にならない間で声をかける。
「あ、あのー。二人にしたほうがいい?」
「⋯⋯いえ! すみません。僕はもう帰りますから。もう会えたので、自分の力でこれからは⋯⋯。セリアちゃん、送っていこうか?」
「うんっ」
二人の雰囲気にほっとするものの、まだ心配がゼロではないあなたのことに、エリックも気づいていた。
「僕がこのまま彼女を連れ去ったら心配だと思うので、名無しさんも一緒に来られますか? もちろんヴィクトルさんも」
「えっ、いいんですか? すみません、なんかもう。私達皆で飲んじゃってて、お恥ずかしいです」
あなたは恐縮しながらもそのほうが安心だと思い、一緒に彼女のマンションに付き添うことにした。
ヴィクトルも了承してくれて、出発する前にエリックは二人に名刺をくれた。
「ああ、わざわざどうも。俺の名刺も渡しておこう」
「じゃあ私も――」
三人で不可思議な交換をすると、ヴィクトルは声を上げて驚いた。
「んんっ? このレストランで君は働いているのかい? ここ知ってるよ! 凄く美味しいところだよね。魚料理が有名な」
「本当ですか? 嬉しいです。ここはうちが代々経営しているところで、長男が跡を継いだんです。僕はマネージャーをしています」
「そうだったのか、すばらしいな。じゃあ会ったことがあるかもしれないな。会社の食事会でもよく使わせてもらってるんだ。名無しちゃん、今度一緒に行ってみる? とくに大型の魚のグリルが美味しいところだよ」
「えっ、行きたい!」
「私も行く〜」
ちゃっかりセリアもエリックにまとわりつき、皆が笑った。
場の空気が一気に和んだところで、時間も時間なので四人はアパートを出た。
車で移動中は助手席にセリアが座り、自宅への道案内をする。あなたはヴィクトルと後部座席にいて、四人とも楽しげに会話が弾んだ。
エリックは二十代半ばなのに声のトーンが落ち着いていて、しっかり地に足が着いた青年といった印象だ。
マンション前に到着すると、酒のせいで若干よろけている親友は彼に付き添われ、上まで送ってもらうと言った。
「大丈夫? セリアちゃん」
「うん、平気平気。二人とも迷惑かけてごめんね。名無し、後で連絡するから。ヴィクトルさんも今日はありがとうございました。なんかすみません、へへ」
照れくさそうに謝る彼女にあなた達はほっとしながら頷く。
「あの、名無しさん。彼女を送ったら僕はすぐに帰りますから、安心してください」
「ええっ。あの、はい。よろしくお願いします」
エリックはそう伝えてくれ、きっとセリアは親友のあなたのことを少なからず話しているのだと感じた。
きっとこの人なら、信用できるかもしれない。真面目な姿勢がひしひしと伝わり、控えめな性格ながらも皆に自分のことを知ってほしいと思っていることも感じた。
「⋯⋯エリックさん、セリアちゃんのことよろしくお願いします! お調子者なとこはあるけど、恋にはとってもまっすぐな女の子です。だからどうぞ見ていてあげてください!」
あなたは勇気を出して頭を下げて言ってみた。
突然で皆はびっくりしたようだが、顔をあげるとセリアは喜び、エリックは彼女の隣で真摯に同意してくれている。
「任せてください。僕が守りますから。大丈夫です。ありがとうございます」
「⋯⋯も、もう〜二人とも堅いって! 恥ずかしいなぁ〜こんな真っ暗な外で」
彼女の一声でまた空気はどっと笑いに包まれた。
エリックは去り際にこんなことも言う。
「そうだ、お二人とも送っていきましょうか」
「いやいや、大丈夫だよ、ありがとう。もう遅いし、タクシーを呼ぼうと思って。エリックくんも帰り道気をつけてね。またこうして皆で会えたらいいな」
「それいい! 会おうね四人で!」
「⋯⋯はい!」
彼はヴィクトルにそう言われて顔色を明るくする。初対面なのに、男同士の暗黙のやり取りみたいなものが垣間見えて、こちらまで良いものだと感じた。
二人を見送り、あなたとヴィクトルは住宅街から大通りまで歩き出す。時間はもう十一時を回っていたが、色んなことが一気に過ぎ去ってまだ興奮さめやらなかった。
そんなとき、隣のヴィクトルがあなたの手を握った。
「わぁっ、手が⋯!」
「うん。いい?」
「もちろん⋯っ」
人気はなかったがあなたは照れながら手を握られて寄り添う。
外は寒いのに彼の触れそうな肩は暖かく感じた。
「はぁ、色んなことがありすぎたね。自分一人じゃうまく対応できなかったと思う。ヴィクトルがいてくれて本当によかった⋯⋯ありがとう」
そう伝えて顔を上げると、彼が立ち止まった。背を少し曲げてあなたの顔に近づいてきて、口づけをする。
「⋯⋯!!」
「ふふ。お礼なんていいよ。そばにいられてよかった」
彼の微笑みに見とれてしまい、しばし時を忘れた。
今日の色んな感想を言おうと思ってたのだが、すべて吹っ飛んでしまった。
「ヴィクトル⋯⋯素敵⋯⋯」
「そうかい? 嬉しいな。君もとっても素敵だったよ、今日もね」
また手を握られて、ぽわぽわした雰囲気の中歩き出す。
今日は喜ばしいことがいっぱいあったが、もう彼のことしか考えられなくなってしまった。
でもヴィクトルはこんなことを言う。
「今日は楽しかったな。君の友達にも会えたし、予期せず若者の仲間にも入れてもらえたしな」
「はは、なにそれ。年は関係ないでしょう」
「そうかなぁ。俺浮いてなかった?」
「浮いてないよ、目立ってただけ。大人ですっごい格好良くて。皆最初緊張してたの分からなかった?」
「全然。俺も緊張してたよ」
「うそー! そんな風に見えなかったよ」
あなたが笑いながら肩でぽんと小突くと、彼も口元をあげてくつくつと笑う。
「あぁ、名無しちゃん。明日の約束忘れないでくれよ。悪いけど今度は俺が君を占領する番ね」
「うん。いいよ。私も楽しみだなぁ」
「よし、じゃあ今日は名残惜しいけど君を送り届けるか」
律儀な彼はそう言って、また手を引いて寄り添ってくれたのだった。
「毎晩!? す、すごいね。互いに仕事してて中々それ出来ないよね」
「まあ日課みたいなものだよ。それが5ヶ月続いてて。あとメッセージも每日送りあってるんだけど、その人の文章がすごく丁寧で、自分にはない真面目さがあるんだよね〜」
酔っているセリアが気分良さそうに惚気ている。
あなたがヴィクトルを見やると、彼も真剣に耳を傾けていた。
「うーん。確かに文章は人が出るね」
「⋯⋯そ、そうだけど。でもその人会ったこともないし、本当はどんな人かも分からないんだよね? やばい人だったらどうするの?」
台詞すべてがちょっと前の自分の行いに突き刺さるが、あなたは彼女のことが心配でたまらなくなっていた。
まるでさっきまでのセリアと同じ立場になったように。
「通話で喋ったことはあるのよ、普通だったよ。もちろん私よりは静かだけどね。でも穏やかっていうか安心できる声でさ」
「⋯⋯そう⋯」
彼のことを話してるセリアは楽しそうで、恋する女の子という感じだ。だからこそ、ちゃんとした人であってほしいという思いがわいてきた。
「ヴィクトルはどう思う? ほんとに大丈夫なのかな、その人」
「そうだね⋯⋯話を聞いた印象では、その彼はセリアさんのことが本当に好きなんじゃないかなとは感じたけどね。じゃないと每日決まった時間に半年間も、一人の女の子と喋りたいとは思わないと思うよ」
彼がさらりとそう述べたので、あなたは引き付けられる。
「少なくとも俺だったらそんなことしないな。よほど好きじゃなければ」
顎を擦りながら考える様はわりとドライに映り、新鮮である。さっきあなたには熱く「每日会いたい」と告白してたから尚更だった。
「ですよねぇ! 私もそう思うんですよヴィクトルさん! へへっやったー」
「ちょ、ちょっと。完全に楽観視するにはまだ早いよ」
とにかくあなたは、今日のところは彼女をここに泊めて落ち着かせようと考えた。
時計の針はもうすぐ十時で、お開きの時間だ。ヴィクトルをも巻き込んでしまい申し訳なく思ったが、台所で食器類を片付けているあなたの手伝いを彼も隣でしてくれていた。
「はぁ、今日はありがとうねヴィクトル」
「大丈夫だよ、名無しちゃん。呼んでくれてよかった。彼女のことも心配だよね」
彼は手を止めてあなたに向き合い、優しく髪の毛をはらってくれる。その指先の感触にしびれてしまい、あなたは赤い顔で振り向いた。
こんなときになんだけど、まだヴィクトルとハグもしていない。自分のことばかり考えてる場合じゃないけれど。
そんな風に思いながら、優しい顔で見下ろしてくる彼を見つめた。
「あのね。明後日の土曜日、楽しみだな。また会える?」
「当然でしょう? さっき俺の気持ち聞いたよね」
「うん⋯⋯聞いたよ」
そう話すと、彼はあなたのことをふわりと抱きしめた。
シャツの胸板に顔が埋まり、仕事終わりの彼のいい匂いに包まれ、くらくらしてくる。
「ヴィクトル⋯っ」
「ごめん、一瞬だけ。隣にいると我慢できないな」
台所の扉は閉まっているし、ここは死角だ。だからヴィクトルは素早くあなたの頬にちゅっとキスをしてくれた。
あなたは妙な背徳感に赤く染まり黙ってしまうが、彼の大きな手に頭の後ろを撫でられて気持ちよく、癒やされていった。
「ねえ、会うの明日の夜にしないかい? そうしたら土曜日は一緒に目覚めて、デート出来るし。そのまま日曜日まで一緒にいられるよ」
「⋯⋯本当? いいの? それがいい」
「よかった。じゃあ約束ね、名無しちゃん。明日迎えに行くからね」
ぎゅっと抱きしめられて、束の間の触れ合いに幸福を感じた。
あなたの体を離したあと、優しい彼はこんなことも付け加えてくれた。
「あと君の大事なお友達のことも、俺に出来ることあったら何でも言ってね。二人だけで抱え込んだりしないでね」
そう言ってもらえるだけで安心感に満たされ、頷く。
自分一人の時とはまるで違う、彼の大きな存在感に感謝していた。
そのあとあなたはリビングにセリアの様子を見に行った。
彼女は眠そうな顔つきでソファにもたれかかり、スマホを手にしている。
「大丈夫? 今日は泊まっていきなよね。ヴィクトルはもう帰るって」
「⋯ふぇ? いやだめだめ! まだ帰らないでお願いです!」
「はっ?」
あなたは素で聞き返し、不穏な空気に眉を寄せる。
この子は本当に酔っているんだろうか。まさか芝居なんじゃないだろうかと。
「だめだよそんなの。乾杯したいからってことで車置いてタクシーで来てくれたんだからね。そろそろ呼ばないと――」
「いやもうちょっとだけ! もうすぐ彼が迎えに来てくれるんだって! 二人ともそれまで一緒にいてお願いっ」
彼女が発した台詞が一瞬よくわからなかった。
隣に佇むヴィクトルと顔を見合わせるが、彼のほうが反応がいい。
「んっ? セリアさん、彼をここへ呼んだのかい?」
「そうなんですよ。酔いつぶれちゃったから来て〜ってお願いしたら、すぐに行くって言ってくれて⋯⋯へへへ」
「⋯⋯なっ! ここの住所教えたの!?」
ただふやけた顔つきで「ごめん」といいながら頷く親友に、あなたは泡を吹きそうになった。
「ど、どうしよう、知らない男の人がうちに来るんだけど!」
「落ち着いて名無しちゃん、俺がいるから大丈夫だよ」
焦ったヴィクトルが頼もしく肩を支えてくれる。本当にいてくれて良かったのだが、こんな展開はまったく予想していなかった。
「あのねえセリアちゃんっ! 何やってんのあんたは! 思いつきで行動すんのやめなさいよ!」
「ごめんって! でも一人で会う勇気ないよ〜助けて〜っ」
ウソ泣きする親友にもはや脱力感が生まれる。
しかしこうなったら仕方がない。そもそも自分もヴィクトルとの出会い方がかなりの常識はずれだったのだ。
セリアの意中の人は同じ街に住んでいて、仕事が終わったから車で来てくれるという。
あなたは覚悟してリビングや玄関口を少し綺麗にして待つことにした。
「ごめんねヴィクトル。どんどん遅い時間になっちゃって⋯」
「大丈夫大丈夫。俺結構体力あるからね、何時でも気にしないよ。とにかくいい機会だから見届けよう。一緒にね、名無しちゃん」
そう言って玄関にもついて来てくれた。
二十分後ぐらいだろうか、ベルが突然鳴り出し、インターホン越しに見知らぬ男性に挨拶されて、あなたはロビーのドアを開けた。
彼がここまでやって来るのにそう時間はかからなかった。
「⋯⋯ど、どうも〜。こんばんは」
「あっ⋯⋯こんばんは。夜遅くにすみません。僕はセリアさんに呼ばれた、エリック・キールと申します」
「あぁ! そうでしたか。私は彼女の友達の名無しです。はじめまして、急にお呼びしてすみません」
あなたも丁寧に返し、彼の全身を目に映す。
セリアの言ったように、見た目は背の高い真面目そうな黒髪の青年だった。メガネをかけていて静かそうだが、目力はちゃんとしていて口調も落ち着いている。
「こちらは私の――」
後ろにいたヴィクトルを紹介すると、彼は手を差し出した。
「ヴィクトル・ヘイズです。彼女と交際している者です、よろしく」
「よろしくお願いします。夜分遅くにお騒がせしてすみません」
ぎゅっと力強い握手を交わした男性二人だが、自然で穏やかな雰囲気だ。
「あの、どうぞ中に入ってください。セリアちゃんが待ってますんで」
「あ、はい⋯⋯!」
そう促すと彼は緊張した面持ちになった。半年間の交流があったとはいえ、初対面なのだから無理もない。
エリックを案内すると、リビングでは親友がすでに立ち上がり、珍しく指先を絡めてそわそわした様子だった。
「セリアちゃん!」
「あっ⋯⋯エリック。ハロー、ごめんね急に呼び出しちゃって」
いつもの明るい雰囲気で片手を上げているが、あなたにも彼女の顔つきから緊張が伝わり心臓がうるさくなる。
彼らは近づくと若干ぎこちなかったが、互いに腕を広げてハグを交わした。
最初は友達みたいな軽いものに見えたけれど、エリックは安堵したのか、彼女をぎゅっと抱きしめる。
「え、エリック?」
「ごめん、びっくりして。何かあったのかと⋯⋯よかった。無事で」
「ええ! ごめん大丈夫だよ、結構飲んじゃったけど。⋯⋯こういう勢いがなかったらずっと会えないんじゃないかなって思ってつい⋯」
彼は彼女の体を少し離し、メガネを直して口を開く。
「僕も会いたいと思ってたよ。でも、タイミングが分からなくて、あと⋯⋯振られて関係が崩れたら嫌だったんだ。⋯⋯情けなくてごめん」
「⋯⋯ううん! そんなことないって。来てくれたし⋯⋯ありがとう。嬉しい」
二人は至近距離で見つめ合い、なんだか見てる方が恥ずかしくなってきた。あなたは邪魔にならない間で声をかける。
「あ、あのー。二人にしたほうがいい?」
「⋯⋯いえ! すみません。僕はもう帰りますから。もう会えたので、自分の力でこれからは⋯⋯。セリアちゃん、送っていこうか?」
「うんっ」
二人の雰囲気にほっとするものの、まだ心配がゼロではないあなたのことに、エリックも気づいていた。
「僕がこのまま彼女を連れ去ったら心配だと思うので、名無しさんも一緒に来られますか? もちろんヴィクトルさんも」
「えっ、いいんですか? すみません、なんかもう。私達皆で飲んじゃってて、お恥ずかしいです」
あなたは恐縮しながらもそのほうが安心だと思い、一緒に彼女のマンションに付き添うことにした。
ヴィクトルも了承してくれて、出発する前にエリックは二人に名刺をくれた。
「ああ、わざわざどうも。俺の名刺も渡しておこう」
「じゃあ私も――」
三人で不可思議な交換をすると、ヴィクトルは声を上げて驚いた。
「んんっ? このレストランで君は働いているのかい? ここ知ってるよ! 凄く美味しいところだよね。魚料理が有名な」
「本当ですか? 嬉しいです。ここはうちが代々経営しているところで、長男が跡を継いだんです。僕はマネージャーをしています」
「そうだったのか、すばらしいな。じゃあ会ったことがあるかもしれないな。会社の食事会でもよく使わせてもらってるんだ。名無しちゃん、今度一緒に行ってみる? とくに大型の魚のグリルが美味しいところだよ」
「えっ、行きたい!」
「私も行く〜」
ちゃっかりセリアもエリックにまとわりつき、皆が笑った。
場の空気が一気に和んだところで、時間も時間なので四人はアパートを出た。
車で移動中は助手席にセリアが座り、自宅への道案内をする。あなたはヴィクトルと後部座席にいて、四人とも楽しげに会話が弾んだ。
エリックは二十代半ばなのに声のトーンが落ち着いていて、しっかり地に足が着いた青年といった印象だ。
マンション前に到着すると、酒のせいで若干よろけている親友は彼に付き添われ、上まで送ってもらうと言った。
「大丈夫? セリアちゃん」
「うん、平気平気。二人とも迷惑かけてごめんね。名無し、後で連絡するから。ヴィクトルさんも今日はありがとうございました。なんかすみません、へへ」
照れくさそうに謝る彼女にあなた達はほっとしながら頷く。
「あの、名無しさん。彼女を送ったら僕はすぐに帰りますから、安心してください」
「ええっ。あの、はい。よろしくお願いします」
エリックはそう伝えてくれ、きっとセリアは親友のあなたのことを少なからず話しているのだと感じた。
きっとこの人なら、信用できるかもしれない。真面目な姿勢がひしひしと伝わり、控えめな性格ながらも皆に自分のことを知ってほしいと思っていることも感じた。
「⋯⋯エリックさん、セリアちゃんのことよろしくお願いします! お調子者なとこはあるけど、恋にはとってもまっすぐな女の子です。だからどうぞ見ていてあげてください!」
あなたは勇気を出して頭を下げて言ってみた。
突然で皆はびっくりしたようだが、顔をあげるとセリアは喜び、エリックは彼女の隣で真摯に同意してくれている。
「任せてください。僕が守りますから。大丈夫です。ありがとうございます」
「⋯⋯も、もう〜二人とも堅いって! 恥ずかしいなぁ〜こんな真っ暗な外で」
彼女の一声でまた空気はどっと笑いに包まれた。
エリックは去り際にこんなことも言う。
「そうだ、お二人とも送っていきましょうか」
「いやいや、大丈夫だよ、ありがとう。もう遅いし、タクシーを呼ぼうと思って。エリックくんも帰り道気をつけてね。またこうして皆で会えたらいいな」
「それいい! 会おうね四人で!」
「⋯⋯はい!」
彼はヴィクトルにそう言われて顔色を明るくする。初対面なのに、男同士の暗黙のやり取りみたいなものが垣間見えて、こちらまで良いものだと感じた。
二人を見送り、あなたとヴィクトルは住宅街から大通りまで歩き出す。時間はもう十一時を回っていたが、色んなことが一気に過ぎ去ってまだ興奮さめやらなかった。
そんなとき、隣のヴィクトルがあなたの手を握った。
「わぁっ、手が⋯!」
「うん。いい?」
「もちろん⋯っ」
人気はなかったがあなたは照れながら手を握られて寄り添う。
外は寒いのに彼の触れそうな肩は暖かく感じた。
「はぁ、色んなことがありすぎたね。自分一人じゃうまく対応できなかったと思う。ヴィクトルがいてくれて本当によかった⋯⋯ありがとう」
そう伝えて顔を上げると、彼が立ち止まった。背を少し曲げてあなたの顔に近づいてきて、口づけをする。
「⋯⋯!!」
「ふふ。お礼なんていいよ。そばにいられてよかった」
彼の微笑みに見とれてしまい、しばし時を忘れた。
今日の色んな感想を言おうと思ってたのだが、すべて吹っ飛んでしまった。
「ヴィクトル⋯⋯素敵⋯⋯」
「そうかい? 嬉しいな。君もとっても素敵だったよ、今日もね」
また手を握られて、ぽわぽわした雰囲気の中歩き出す。
今日は喜ばしいことがいっぱいあったが、もう彼のことしか考えられなくなってしまった。
でもヴィクトルはこんなことを言う。
「今日は楽しかったな。君の友達にも会えたし、予期せず若者の仲間にも入れてもらえたしな」
「はは、なにそれ。年は関係ないでしょう」
「そうかなぁ。俺浮いてなかった?」
「浮いてないよ、目立ってただけ。大人ですっごい格好良くて。皆最初緊張してたの分からなかった?」
「全然。俺も緊張してたよ」
「うそー! そんな風に見えなかったよ」
あなたが笑いながら肩でぽんと小突くと、彼も口元をあげてくつくつと笑う。
「あぁ、名無しちゃん。明日の約束忘れないでくれよ。悪いけど今度は俺が君を占領する番ね」
「うん。いいよ。私も楽しみだなぁ」
「よし、じゃあ今日は名残惜しいけど君を送り届けるか」
律儀な彼はそう言って、また手を引いて寄り添ってくれたのだった。
