美オヤジを誘って囲われて救われる話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
30分もしないうちに、ヴィクトルはあなたのアパートへ到着した。彼はいつも手土産を持ってきてくれるのだが、今日は特に自分たち好みのカクテル酒と洋菓子を選んでくれて、その心遣いに感謝した。
「わぁ可愛い、ありがとうね。ほんとに急に呼んじゃってごめんね」
「いやいや嬉しいよ。お友達は奥にいるの?」
「うん、結構酔っちゃってて」
玄関口で迎えたとき、スーツを着こなした彼に見惚れる。もう三度目なのにまだ慣れず、自分の家にいることがドキドキしてしまう。
靴を履き替えた際にかがみ、緩やかな黒髪がぱさりと落ちる横顔が素敵だ。
白シャツのネクタイを少しだけ緩め、こちらの視線に気づき微笑まれると、すぐに抱きつきたくなった。
「そうだ名無しちゃん」
「な、なにっ?」
「考えたらちょっと軽率だったかな? 夜に女性二人のいる家に来て」
「⋯⋯えっ、何言ってるの、ヴィクトルは私の彼氏なんだから、いつ来てもいいんだよ。今日はセリアちゃんがお客さんなんだからね?」
そんなことまで気にしてくれていた彼に、あなたは笑って語りかけた。するとヴィクトルも照れた様子でほっとしていた。
一緒にリビングへ行くと、案の定親友がテーブルに突っ伏していたため、あなたは焦って声をかける。
「ちょっとセリアちゃん、ヴィクトルが来たよ!」
「⋯⋯あぁ? はーい、こんばんは〜。セリアでーす」
ヘラっと笑いながら彼女は起き上がり、彼のことを見る。その途端、丸メガネの奥の瞳を大きく見張らせた。
「はじめまして、セリアさんっていうんだね。今日は声をかけて頂いてありがとう。俺はヴィクトル・ヘイズっていいます。見ての通りサラリーマンなんだけど、よろしくね」
「あっ、はぁ⋯⋯よろしくお願いしますぅ⋯! 私はセリア・マクレーン21才、劇団員の普通の女子です〜」
急にしゃきんと背筋を伸ばし、彼女は脚を閉じておしとやかに座りだした。
どうぞどうぞと、正面のあなたの隣席に座るよう促す。
あなたは不審に思ったものの、セリアはさっきまでの横柄な態度から一転してにこやかだった。
台所で彼への食事を準備していると、向こうからにぎやかな話し声が聞こえてくる。
「えっじゃあヴィクトルさんは一等地にあるビジネス街に勤めてるんですね。すっごぉ〜い。なんかもう違う世界の人って感じですよぉ」
「全然そんなことないよ。ちょっと仕事が忙しいだけの普通の男だからね。セリアさんはあの歴史的なシアターでキャストをしてるんでしょう? 凄いなぁ。俺も昔観劇したことあるんだけど、素晴らしかったよ。確か西部劇だったな」
「それ今もやってます、もう名物になっててロングランなんですよ! 私も出てるんです」
「本当に? ぜひ見てみたいな」
「うそ嬉しい、来てくださいよ、名無しと一緒に! じゃあ約束の乾杯しましょう、かんぱーい」
「うん、乾杯」
あなたがリビングに行くと二人は和気あいあいとしていて、一瞬呆気に取られたものの、かなり安心する。
さっきまで「中年男の裏を暴いてやる!」などと息巻いていた親友の姿はどこにもなかったのだ。
「はぁ〜よかった。セリアちゃん普通にしてくれて」
「へへへ、だってこんなにイケメンで素敵なおじさまだなんて思わないじゃん?」
「お兄さんね」
「ははは。大丈夫だよ、実際おじさんだしな」
ヴィクトルは苦笑いする。あなたも彼に出会った当初普通にそう呼んでいたため申し訳なくなった。
「あっでもねえヴィクトルさん。この子もめちゃくちゃ可愛いんですよ? わかります?」
「もちろん。每日感じてるよ」
「ふふふ、じゃあ面白い話教えてあげますね。私達が中等科1年生のとき、クラスで文化祭の劇があったんです。題材は人魚姫で私は総合演出、名無しは人魚の一人だったんですよ。恥ずかしがり屋で目立ちたくないタイプだったんですけど、メイクしてドレス着た姿がほんと可愛くて! 文化祭のあとすんごい男子にモテちゃったんです!」
「うわぁ〜、いやぁそれは完全に想像できるな。大変だったでしょう名無しちゃん。俺が男子の一人でも絶対告白してたと思う」
「や、やだ恥ずかしいって!」
二人とも何を言い出すのだろうとあなたは止めようとしたが、セリアもヴィクトルも前のめりだ。
「でもですね、それ以来名無しは引っ込み思案になって。二人とも演劇クラブだったんですけど私が演者で彼女は裏方に回るようになったんです。名無しは小道具作るのもうまくて、だから洋服にも興味もって洋服屋さんで働いてるんだよね〜」
「うん、そうそう。よかったそっちに話をまとめてくれて」
自分の職業のルーツ的な話はその通りだった。少し照れるけれど、ヴィクトルは感心して話を聞いてくれていた。
「素晴らしいな。二人とも自分の好きなことに今も一生懸命取り組んでるってことだよね。そういう姿に俺もすごく憧れるよ。なにより二人の友情がいいと思う、中々ないよ、こんなふうに互いを思いやって信頼関係を続けていけるっていうのは」
私達は大人の彼にそう認められて、二人してちょっと照れてしまった。ただの若い女子二人の思い出話なのだが、経験豊かな彼に褒められて、こそばゆくも嬉しく感じる。
「⋯⋯あっそうだ! ほらヴィクトルもお腹空いたでしょう、パスタ作ったんだけど食べる?」
「おお、ありがとう! すっごく美味しそうだ。君の手料理は全部食べるよ」
さっそく用意してたパスタとサラダ、ちょっとしたおかずも食卓に出し、夕飯を食べてもらった。
こんな時しか出来ないから、あなたは甲斐甲斐しく飲み物を出したり彼にでれっとした感じで寄り添う。
そんな風景を、セリアはニヤニヤした目つきで眺めていた。
「なんていうか、もう二人とも、夫婦みたいだなぁ」
「⋯⋯んっ!?」
綺麗な所作で口に運んでいたヴィクトルの手が止まり、あなたも水を吹き出しそうになる。
「もうセリアちゃんてば、何言ってんの! ふふふ」
「何喜んでんの名無し」
自分の気持ちは分かりやすいと思うが、ちらりと隣を見やると、彼も頬を緩ませながらそっと咳払いをしていた。
「そう見えるなら正直嬉しいんだけどな。一緒に生活してたからね、はは」
「先に同棲しちゃったみたいなもんですもんねえ、ヴィクトルさん」
「せ、セリアちゃん!」
「⋯⋯いや、そのとおりだね。なんというか、申し訳ない」
そう言う前に一瞬ギクッとした感じになった彼が気になった。
「どうして謝るの? 私が押しかけてたんだから」
「いいや、俺が引き止めてたんだよ」
「ヴィクトル⋯⋯」
二人で甘い雰囲気を醸し出し、譲り合っているとセリアがまたもツッコミをいれてくる。
「じゃあさぞ寂しいでしょう、今ひとりで」
彼女の意地悪そうな面白がる目つきに、あなたはハラハラした。
しかし彼はなんと、二人の前で素直に頷いたのだった。
「そうなんだ、とても寂しくてね。想像以上だったよ。今は土日に名無しちゃんに会えるのを生きがいに頑張ってるんだ」
そう吐露されてあなたはかぁっと赤くなったが、セリアは驚きに目を丸くしている。
「⋯⋯えっ? ヴィクトルさんって、もっと気取った人なのかと思ったけど⋯結構純情なんですね。私劇団員なんで芝居は見抜けるほうなのに、今ほんとに落ち込んでるように見えたんですけど」
「ははは、そうかい? だって本当に堪えてるからね」
ヴィクトルが苦笑する姿に、あなたの心は揺れていく。
「寂しいの? ヴィクトル。私なんか、土日占領しちゃって迷惑じゃないかなって思ってたのに。だって休めないでしょう? 仕事忙しいのに⋯」
「そんな風に思ってたのかい。仕事なんか全然大丈夫なんだ、ずっとそうやってきたし、以前から周りに少し休めって言われてる。自分もようやく最近そう思えてきてね。君に出会ったからなんだよ」
彼はそう言ってにこりと飾らない笑みを浮かべた。
「俺は每日一緒にいたいな。名無しちゃんと一緒のときが一番幸せで、心から休めるんだ」
言い聞かせるよう伝えてきて、深い愛情のこもった瞳で見つめられる。
あなたはふらふらと倒れそうになった。まさかこんな人前で彼の気持ちをまっすぐに語られてしまうとは。
二人きりだったら見つめ合ってキスされてそうな雰囲気である。
「⋯⋯あ、ありがとう。ヴィクトル。私も本当は每日一緒にいたいな。寂しさも最近痛感してて⋯でも自分から一人で暮らすって言った手前、そんなわがままも言えないし⋯」
「あぁ、名無しちゃん、そうだったのか。全くわがままじゃないからいつでも言って。すぐに飛んでくよ、だって俺のほうが会いたいんだから」
あなたは喜びに胸がじーんとして、いっぱいになっていく。思わず彼に手を伸ばしそうになったが、正面から凝視されていることに気づき、我に返った。
「あぁっ! ごめんねセリアちゃん、今違う世界に入ってたわ⋯!」
「ほんとだよ。後でやってくれる? そういう気持ちの再確認は。⋯⋯でもよかったじゃん、あんたが裏で思い悩んでそうなのは想像できたしさ。ふう、結局年齢じゃないんだよね、人間性なんだよ。思いやりをもつことが大事なのよカップルっていうのは」
彼女はグラスを持ちながらぼやき始める。
浮ついた目つきで、なんだか酔ってるみたいだ。
雰囲気が怪しくなってきたのをあなたは感じ取っていた。
ヴィクトルは微笑みながらも頷いている。
「でもねえ油断するのはまだ早いですよ、イケオジのヴィクトルさん。ふふふ⋯⋯。まだ聞きたいことがあるんです」
「な、なんだろう? よし。なんでもいいよ、セリアさん。遠慮しないでくれ」
「じゃあせっかくですし。⋯⋯ずばり、浮気の心配はないのかってことなんですよ。名無し、どうせあんたは心配してもうじうじして聞けないんだから、最初に私が聞いといてあげるよ」
内容は図星かもしれないが、あまりに横暴な切り口に腹立たしさが沸々とわいてきた。
「そんなの答えなくていいよ! ヴィクトルは誠実な人なんだから。ねっ」
「もちろん。浮気なんて絶対しないよ。名無しちゃんっていう素敵な恋人がいるのに」
彼はそう伝える時、怒るどころかやけに嬉しそうだった。潔い、惚れ惚れするような笑みだ。
でもまた横槍が入ってくる。
「そんなのわかんないじゃん。こんなに美しく性格もよく羽振りもよい経験豊富な男性よ? 絶対に遊びませんなんて男いるぅ?」
口をすぼめて尋ねる姿がやたらとムカつき、あなたはさすがに堪忍袋の緒が切れてしまった。いくらなんでも失礼すぎるだろうと。
「あのねえセリアちゃん。彼もあなたみたいな小娘にそんなこと言われたくないと思うんですけど」
「はぁ? あんたも小娘じゃん! うちら二人ともたいして恋愛経験ないんだから一緒でしょうよ! 仲良し小娘二人組だよ、ねえヴィクトルさん!」
「あ、ええっ? えっと、いやそう⋯なんて言えばいいんだ? 二人とも可愛らしい女性だしな⋯⋯とにかく喧嘩しないで、ね? いったん落ち着いて座ろう。ほら牛乳飲もうか。お酒も和らぐよ」
優しく先生のように声をかけてもらい、二人のグラスに丁寧に注がれる。
「はははっ、牛乳で乾杯いいね〜。おもしろい! 大丈夫ですよこんなの喧嘩に入らないし。ね、名無し!」
「はいはいそうだね⋯⋯もう。ごめんねヴィクトル。セリアちゃんは心配してくれてるだけなんだ。いつも助けてくれて、私もありがとうって思ってるんだ」
このまま悪い雰囲気にはなりたくないし、調子のいい親友のことを彼に謝る。
ヴィクトルはそんなあなたをいつもと変わらず寛大な心で受け止めてくれていた。
「うん。わかるよ。大丈夫。俺はね、君のことを本気でそうやって考えてくれてる友達がいるってことが、凄く嬉しく思う。俺みたいな年の男で、こんな感じだろう? もっと食ってかかってもいいぐらいだよ。そのほうが安心出来るしね」
食卓の上で手を組み、彼は低く優しい声音で語り始めた。
「だから、ありがとうねセリアさん。俺はまったく気にしてないから。むしろ自分の気持ちを表明できてよかったよ。俺は絶対名無しちゃんを悲しませることはしないから、そこだけは安心してほしいな。すぐに信用は出来ないかもしれないけど、彼女とはこれからも末永く、真剣にお付き合いをさせてもらいたいなって思ってるんだ」
そのまっすぐ熱い彼の想いが、心に刻まれていく。
ほんとうに、なんて誠実でいい人なんだろう。
あなたが感極まっていると、セリアも観念したようで、くしゃっとした表情で頷いた。
「⋯⋯よかった⋯⋯名無しに約束してくれて。うざい親友って思われてもいいんです。もう名無しが泣くとこ見たくないから」
「もう⋯⋯セリアちゃんてば⋯⋯ごめんね心配かけて。私、ちゃんとするからね」
あなたは立ち上がり、ほぼ突っ伏してる彼女を横からハグした。小さくお礼を言って。すると彼女も背中にぎゅっと腕を回してくる。
ダイレクトなやり方には怒ってしまったけれど、彼女の気持ちは確かに伝わった。
親友にも彼に対しても、自分は幸運なことに優しい人々が近くにいてくれるのだと実感する。
ほっと一息つき、グラスを手にとったその時だった。セリアがふと、ぼそっと呟いたのは。
「うぅっ⋯⋯本当は⋯⋯二人のことが、ちょっといいなって思ってぇ⋯⋯」
「えっ? ちょ、いきなりどうしたの。まさか泣いてるの」
あなたは焦って彼女の顔を覗きこむ。
セリアは酔いが回ると喜怒哀楽がさらに出るのである。
「名無し⋯⋯実は私も悩みがあって、今日相談しようと思ってたの。⋯⋯仲良くしてる人がいるんだけどさ⋯⋯全然進展なくて。もう向こうの気持ちがわかんなくて焦ってるんだよね⋯⋯」
彼女は情けない顔つきでもらし、酒をぐびっとあおった。
あなたはまるで立場が入れ替わったように、血相を変えて身を乗り出す。
「えぇ!? そんなの聞いてないよ! どんな人? いつから? どうやって出会ったの?」
そんな必死な姿に隣のヴィクトルもびっくりしただろう。
「えっとぉ⋯⋯半年前にネットで知り合って、そこからゲームのフレンドになってさぁ⋯。はは」
「半年ぃ!? ちょっと、なんで何も言わなかったの! 寝耳に水だよ!」
「ごめんごめん。最初はただのネット友達だと思ってたんだよ。でも自分だってヴィクトルさんのこと秘密にしてたでしょ!」
「いやそれは悪かったってば! でもその人、会ったことあるのっ?」
「ない⋯⋯でも会いたい。どうしよう。助けて名無し⋯⋯へへっ。あっそうだ、今呼んじゃう? 今なら二人の愛パワーでなんでもできそうな気がする!」
「出来ないよ!!」
赤らんだ目元でとんでもないことを言い出すセリアにあなたは叫び、今度こそふらっと後ろに倒れそうになったところをヴィクトルの頼もしい腕に支えられた。
「わぁ可愛い、ありがとうね。ほんとに急に呼んじゃってごめんね」
「いやいや嬉しいよ。お友達は奥にいるの?」
「うん、結構酔っちゃってて」
玄関口で迎えたとき、スーツを着こなした彼に見惚れる。もう三度目なのにまだ慣れず、自分の家にいることがドキドキしてしまう。
靴を履き替えた際にかがみ、緩やかな黒髪がぱさりと落ちる横顔が素敵だ。
白シャツのネクタイを少しだけ緩め、こちらの視線に気づき微笑まれると、すぐに抱きつきたくなった。
「そうだ名無しちゃん」
「な、なにっ?」
「考えたらちょっと軽率だったかな? 夜に女性二人のいる家に来て」
「⋯⋯えっ、何言ってるの、ヴィクトルは私の彼氏なんだから、いつ来てもいいんだよ。今日はセリアちゃんがお客さんなんだからね?」
そんなことまで気にしてくれていた彼に、あなたは笑って語りかけた。するとヴィクトルも照れた様子でほっとしていた。
一緒にリビングへ行くと、案の定親友がテーブルに突っ伏していたため、あなたは焦って声をかける。
「ちょっとセリアちゃん、ヴィクトルが来たよ!」
「⋯⋯あぁ? はーい、こんばんは〜。セリアでーす」
ヘラっと笑いながら彼女は起き上がり、彼のことを見る。その途端、丸メガネの奥の瞳を大きく見張らせた。
「はじめまして、セリアさんっていうんだね。今日は声をかけて頂いてありがとう。俺はヴィクトル・ヘイズっていいます。見ての通りサラリーマンなんだけど、よろしくね」
「あっ、はぁ⋯⋯よろしくお願いしますぅ⋯! 私はセリア・マクレーン21才、劇団員の普通の女子です〜」
急にしゃきんと背筋を伸ばし、彼女は脚を閉じておしとやかに座りだした。
どうぞどうぞと、正面のあなたの隣席に座るよう促す。
あなたは不審に思ったものの、セリアはさっきまでの横柄な態度から一転してにこやかだった。
台所で彼への食事を準備していると、向こうからにぎやかな話し声が聞こえてくる。
「えっじゃあヴィクトルさんは一等地にあるビジネス街に勤めてるんですね。すっごぉ〜い。なんかもう違う世界の人って感じですよぉ」
「全然そんなことないよ。ちょっと仕事が忙しいだけの普通の男だからね。セリアさんはあの歴史的なシアターでキャストをしてるんでしょう? 凄いなぁ。俺も昔観劇したことあるんだけど、素晴らしかったよ。確か西部劇だったな」
「それ今もやってます、もう名物になっててロングランなんですよ! 私も出てるんです」
「本当に? ぜひ見てみたいな」
「うそ嬉しい、来てくださいよ、名無しと一緒に! じゃあ約束の乾杯しましょう、かんぱーい」
「うん、乾杯」
あなたがリビングに行くと二人は和気あいあいとしていて、一瞬呆気に取られたものの、かなり安心する。
さっきまで「中年男の裏を暴いてやる!」などと息巻いていた親友の姿はどこにもなかったのだ。
「はぁ〜よかった。セリアちゃん普通にしてくれて」
「へへへ、だってこんなにイケメンで素敵なおじさまだなんて思わないじゃん?」
「お兄さんね」
「ははは。大丈夫だよ、実際おじさんだしな」
ヴィクトルは苦笑いする。あなたも彼に出会った当初普通にそう呼んでいたため申し訳なくなった。
「あっでもねえヴィクトルさん。この子もめちゃくちゃ可愛いんですよ? わかります?」
「もちろん。每日感じてるよ」
「ふふふ、じゃあ面白い話教えてあげますね。私達が中等科1年生のとき、クラスで文化祭の劇があったんです。題材は人魚姫で私は総合演出、名無しは人魚の一人だったんですよ。恥ずかしがり屋で目立ちたくないタイプだったんですけど、メイクしてドレス着た姿がほんと可愛くて! 文化祭のあとすんごい男子にモテちゃったんです!」
「うわぁ〜、いやぁそれは完全に想像できるな。大変だったでしょう名無しちゃん。俺が男子の一人でも絶対告白してたと思う」
「や、やだ恥ずかしいって!」
二人とも何を言い出すのだろうとあなたは止めようとしたが、セリアもヴィクトルも前のめりだ。
「でもですね、それ以来名無しは引っ込み思案になって。二人とも演劇クラブだったんですけど私が演者で彼女は裏方に回るようになったんです。名無しは小道具作るのもうまくて、だから洋服にも興味もって洋服屋さんで働いてるんだよね〜」
「うん、そうそう。よかったそっちに話をまとめてくれて」
自分の職業のルーツ的な話はその通りだった。少し照れるけれど、ヴィクトルは感心して話を聞いてくれていた。
「素晴らしいな。二人とも自分の好きなことに今も一生懸命取り組んでるってことだよね。そういう姿に俺もすごく憧れるよ。なにより二人の友情がいいと思う、中々ないよ、こんなふうに互いを思いやって信頼関係を続けていけるっていうのは」
私達は大人の彼にそう認められて、二人してちょっと照れてしまった。ただの若い女子二人の思い出話なのだが、経験豊かな彼に褒められて、こそばゆくも嬉しく感じる。
「⋯⋯あっそうだ! ほらヴィクトルもお腹空いたでしょう、パスタ作ったんだけど食べる?」
「おお、ありがとう! すっごく美味しそうだ。君の手料理は全部食べるよ」
さっそく用意してたパスタとサラダ、ちょっとしたおかずも食卓に出し、夕飯を食べてもらった。
こんな時しか出来ないから、あなたは甲斐甲斐しく飲み物を出したり彼にでれっとした感じで寄り添う。
そんな風景を、セリアはニヤニヤした目つきで眺めていた。
「なんていうか、もう二人とも、夫婦みたいだなぁ」
「⋯⋯んっ!?」
綺麗な所作で口に運んでいたヴィクトルの手が止まり、あなたも水を吹き出しそうになる。
「もうセリアちゃんてば、何言ってんの! ふふふ」
「何喜んでんの名無し」
自分の気持ちは分かりやすいと思うが、ちらりと隣を見やると、彼も頬を緩ませながらそっと咳払いをしていた。
「そう見えるなら正直嬉しいんだけどな。一緒に生活してたからね、はは」
「先に同棲しちゃったみたいなもんですもんねえ、ヴィクトルさん」
「せ、セリアちゃん!」
「⋯⋯いや、そのとおりだね。なんというか、申し訳ない」
そう言う前に一瞬ギクッとした感じになった彼が気になった。
「どうして謝るの? 私が押しかけてたんだから」
「いいや、俺が引き止めてたんだよ」
「ヴィクトル⋯⋯」
二人で甘い雰囲気を醸し出し、譲り合っているとセリアがまたもツッコミをいれてくる。
「じゃあさぞ寂しいでしょう、今ひとりで」
彼女の意地悪そうな面白がる目つきに、あなたはハラハラした。
しかし彼はなんと、二人の前で素直に頷いたのだった。
「そうなんだ、とても寂しくてね。想像以上だったよ。今は土日に名無しちゃんに会えるのを生きがいに頑張ってるんだ」
そう吐露されてあなたはかぁっと赤くなったが、セリアは驚きに目を丸くしている。
「⋯⋯えっ? ヴィクトルさんって、もっと気取った人なのかと思ったけど⋯結構純情なんですね。私劇団員なんで芝居は見抜けるほうなのに、今ほんとに落ち込んでるように見えたんですけど」
「ははは、そうかい? だって本当に堪えてるからね」
ヴィクトルが苦笑する姿に、あなたの心は揺れていく。
「寂しいの? ヴィクトル。私なんか、土日占領しちゃって迷惑じゃないかなって思ってたのに。だって休めないでしょう? 仕事忙しいのに⋯」
「そんな風に思ってたのかい。仕事なんか全然大丈夫なんだ、ずっとそうやってきたし、以前から周りに少し休めって言われてる。自分もようやく最近そう思えてきてね。君に出会ったからなんだよ」
彼はそう言ってにこりと飾らない笑みを浮かべた。
「俺は每日一緒にいたいな。名無しちゃんと一緒のときが一番幸せで、心から休めるんだ」
言い聞かせるよう伝えてきて、深い愛情のこもった瞳で見つめられる。
あなたはふらふらと倒れそうになった。まさかこんな人前で彼の気持ちをまっすぐに語られてしまうとは。
二人きりだったら見つめ合ってキスされてそうな雰囲気である。
「⋯⋯あ、ありがとう。ヴィクトル。私も本当は每日一緒にいたいな。寂しさも最近痛感してて⋯でも自分から一人で暮らすって言った手前、そんなわがままも言えないし⋯」
「あぁ、名無しちゃん、そうだったのか。全くわがままじゃないからいつでも言って。すぐに飛んでくよ、だって俺のほうが会いたいんだから」
あなたは喜びに胸がじーんとして、いっぱいになっていく。思わず彼に手を伸ばしそうになったが、正面から凝視されていることに気づき、我に返った。
「あぁっ! ごめんねセリアちゃん、今違う世界に入ってたわ⋯!」
「ほんとだよ。後でやってくれる? そういう気持ちの再確認は。⋯⋯でもよかったじゃん、あんたが裏で思い悩んでそうなのは想像できたしさ。ふう、結局年齢じゃないんだよね、人間性なんだよ。思いやりをもつことが大事なのよカップルっていうのは」
彼女はグラスを持ちながらぼやき始める。
浮ついた目つきで、なんだか酔ってるみたいだ。
雰囲気が怪しくなってきたのをあなたは感じ取っていた。
ヴィクトルは微笑みながらも頷いている。
「でもねえ油断するのはまだ早いですよ、イケオジのヴィクトルさん。ふふふ⋯⋯。まだ聞きたいことがあるんです」
「な、なんだろう? よし。なんでもいいよ、セリアさん。遠慮しないでくれ」
「じゃあせっかくですし。⋯⋯ずばり、浮気の心配はないのかってことなんですよ。名無し、どうせあんたは心配してもうじうじして聞けないんだから、最初に私が聞いといてあげるよ」
内容は図星かもしれないが、あまりに横暴な切り口に腹立たしさが沸々とわいてきた。
「そんなの答えなくていいよ! ヴィクトルは誠実な人なんだから。ねっ」
「もちろん。浮気なんて絶対しないよ。名無しちゃんっていう素敵な恋人がいるのに」
彼はそう伝える時、怒るどころかやけに嬉しそうだった。潔い、惚れ惚れするような笑みだ。
でもまた横槍が入ってくる。
「そんなのわかんないじゃん。こんなに美しく性格もよく羽振りもよい経験豊富な男性よ? 絶対に遊びませんなんて男いるぅ?」
口をすぼめて尋ねる姿がやたらとムカつき、あなたはさすがに堪忍袋の緒が切れてしまった。いくらなんでも失礼すぎるだろうと。
「あのねえセリアちゃん。彼もあなたみたいな小娘にそんなこと言われたくないと思うんですけど」
「はぁ? あんたも小娘じゃん! うちら二人ともたいして恋愛経験ないんだから一緒でしょうよ! 仲良し小娘二人組だよ、ねえヴィクトルさん!」
「あ、ええっ? えっと、いやそう⋯なんて言えばいいんだ? 二人とも可愛らしい女性だしな⋯⋯とにかく喧嘩しないで、ね? いったん落ち着いて座ろう。ほら牛乳飲もうか。お酒も和らぐよ」
優しく先生のように声をかけてもらい、二人のグラスに丁寧に注がれる。
「はははっ、牛乳で乾杯いいね〜。おもしろい! 大丈夫ですよこんなの喧嘩に入らないし。ね、名無し!」
「はいはいそうだね⋯⋯もう。ごめんねヴィクトル。セリアちゃんは心配してくれてるだけなんだ。いつも助けてくれて、私もありがとうって思ってるんだ」
このまま悪い雰囲気にはなりたくないし、調子のいい親友のことを彼に謝る。
ヴィクトルはそんなあなたをいつもと変わらず寛大な心で受け止めてくれていた。
「うん。わかるよ。大丈夫。俺はね、君のことを本気でそうやって考えてくれてる友達がいるってことが、凄く嬉しく思う。俺みたいな年の男で、こんな感じだろう? もっと食ってかかってもいいぐらいだよ。そのほうが安心出来るしね」
食卓の上で手を組み、彼は低く優しい声音で語り始めた。
「だから、ありがとうねセリアさん。俺はまったく気にしてないから。むしろ自分の気持ちを表明できてよかったよ。俺は絶対名無しちゃんを悲しませることはしないから、そこだけは安心してほしいな。すぐに信用は出来ないかもしれないけど、彼女とはこれからも末永く、真剣にお付き合いをさせてもらいたいなって思ってるんだ」
そのまっすぐ熱い彼の想いが、心に刻まれていく。
ほんとうに、なんて誠実でいい人なんだろう。
あなたが感極まっていると、セリアも観念したようで、くしゃっとした表情で頷いた。
「⋯⋯よかった⋯⋯名無しに約束してくれて。うざい親友って思われてもいいんです。もう名無しが泣くとこ見たくないから」
「もう⋯⋯セリアちゃんてば⋯⋯ごめんね心配かけて。私、ちゃんとするからね」
あなたは立ち上がり、ほぼ突っ伏してる彼女を横からハグした。小さくお礼を言って。すると彼女も背中にぎゅっと腕を回してくる。
ダイレクトなやり方には怒ってしまったけれど、彼女の気持ちは確かに伝わった。
親友にも彼に対しても、自分は幸運なことに優しい人々が近くにいてくれるのだと実感する。
ほっと一息つき、グラスを手にとったその時だった。セリアがふと、ぼそっと呟いたのは。
「うぅっ⋯⋯本当は⋯⋯二人のことが、ちょっといいなって思ってぇ⋯⋯」
「えっ? ちょ、いきなりどうしたの。まさか泣いてるの」
あなたは焦って彼女の顔を覗きこむ。
セリアは酔いが回ると喜怒哀楽がさらに出るのである。
「名無し⋯⋯実は私も悩みがあって、今日相談しようと思ってたの。⋯⋯仲良くしてる人がいるんだけどさ⋯⋯全然進展なくて。もう向こうの気持ちがわかんなくて焦ってるんだよね⋯⋯」
彼女は情けない顔つきでもらし、酒をぐびっとあおった。
あなたはまるで立場が入れ替わったように、血相を変えて身を乗り出す。
「えぇ!? そんなの聞いてないよ! どんな人? いつから? どうやって出会ったの?」
そんな必死な姿に隣のヴィクトルもびっくりしただろう。
「えっとぉ⋯⋯半年前にネットで知り合って、そこからゲームのフレンドになってさぁ⋯。はは」
「半年ぃ!? ちょっと、なんで何も言わなかったの! 寝耳に水だよ!」
「ごめんごめん。最初はただのネット友達だと思ってたんだよ。でも自分だってヴィクトルさんのこと秘密にしてたでしょ!」
「いやそれは悪かったってば! でもその人、会ったことあるのっ?」
「ない⋯⋯でも会いたい。どうしよう。助けて名無し⋯⋯へへっ。あっそうだ、今呼んじゃう? 今なら二人の愛パワーでなんでもできそうな気がする!」
「出来ないよ!!」
赤らんだ目元でとんでもないことを言い出すセリアにあなたは叫び、今度こそふらっと後ろに倒れそうになったところをヴィクトルの頼もしい腕に支えられた。
