ハイウェイを走っている最中、ジョルトから通信が入った。
彼からの通信となると沙夜に何かあったのではないかと一瞬、スパークが冷えた気がした。しかし通信の内容はそれとはまた違った意味でオプティマスのスパークを冷やした。
―サヤの容態が急変しました。そして彼女はメガトロンが復活したのを感じ取りました―
沙夜を疑っている訳ではない。しかしオプティマスは事実を確認すべくスピードを上げた。



「オプティマスに・・・連絡を・・・」
息も絶え絶えに訴えた沙夜を見てジョルトはブレインサーキットが今までにないおかしな起動音を立てたのをその身で感じ取った。
しかし彼にはやらねばならない事があった。沙夜の容態をしっかりと確認するという事が。
『サヤ、兎に角落ち着いて下さい。まずは貴女の身体を診察しなければ・・・』
「いいの。大丈夫」
『しかし、』
『ジョルト』
沙夜を心配するあまり彼女の話を後回しにしようとしているジョルトを止めたのはサイドスワイプだった。
ジョルトは隣にいる事をつい忘れてしまっていた彼を見るとサイドスワイプは沙夜に視線を遣っていた。
『サヤ、何があった？』
沙夜を落ち着ける様にゆっくりと問い掛けた。それに対して彼女は同じ様にゆっくりと答えた。
「感じるの・・・」
『？何をだ？』
「スパークを・・・」
『スパーク？誰の？』
その問いに沙夜は乱れた呼吸を一度整えると二体を見上げて、はっきりと言った。
「メガトロンのスパークを」
『なっ！？』
『何だと！？』
沙夜の口から出た名に二体は驚愕した。
二年前、自分達がこの地球に来る前にサムと沙夜の手によって倒された筈のメガトロンが蘇ったと言うのか。
『サヤ、それは・・・』
「お願いジョルト、オプティマスに連絡して。手遅れになる前に」
『連絡するのは良いですがメガトロンは今何処に？』
「遠い・・・うん、きっと地球の外。でもまた来る。早くオプティマスに連絡して合流を。私も・・・一緒に行く」
『何を言ってるんだ！それはいくらなんでも危険過ぎる』
『そうです。態々貴方を敵の元へ連れて行く事なんて出来ません！』
「この目で確かめたいの！」
必死に止める二体よりも更に必死に、大きな声で彼女は訴えた。
「連れて行って・・・お願い・・・」
声が震えていた。小さな手も震えていた。しかしその瞳は真っ直ぐに二体を見据えていた。沙夜がどんな思いでとか、何を考えてとか、正直彼ら金属生命体のブレインサーキットはその答えを弾き出す事は出来なかった。しかし彼女の言葉はしっかりと届いていた。
『・・・分かりました』
「ジョルト」
『しかし最終判断はオプティマスが下します。彼が許可しない限りは僕達だけでは無理です』
「うん。大丈夫」
『その辺はジョルトが上手く説明してくれる事を祈るんだな』
「もし駄目って言われたら、私にオプティマスと話をさせて」
『分かりました』
ジョルトは直ぐにオプティマスに通信を入れた。彼ら独自の、人間からすると只の電子音にしか聞こえない高度な言葉。
通信中、ジョルトは僅かに表情を曇らせた様な気がしたが、それでも沙夜は通信を続ける彼を見つめた。
『・・・サヤ』
暫くの後、ジョルトは名を呼び彼女を見下ろした。
『オプティマスは許可出来ない、と』
「・・・分かった。私の携帯からでも繋がる様に出来る？」
『一寸待って下さい』
沙夜の携帯はオートボット全員と連絡が取れる様にラチェットが以前改良していた。しかし先日ギャロウェイが来てからはその機能は完全に停止された状態になっていた。
ジョルトは人間で言う耳の部位から細いコードを伸ばすと沙夜の携帯へと接続した。
『サヤ、これで話せる筈です』
「ありがとう」
沙夜はジョルトから携帯を受け取ると耳に押し当てた。
「オプティマス」
『―サヤ、ジョルトから話は聞いた―』
「うん。それで、私も一緒に行きたいの」
『―それは許可出来ない―』
オプティマスははっきりと言った。彼自身、沙夜がただ理由もなく闇雲に一緒に行きたい等と言っている訳ではない事は分かっていた。しかしそれでも許可する訳にはいかなかった。
『―君は分かっている筈だ。今までにない位危険である事を―』
「分かってるよ。それでも行きたいの」
『―何故？―』
「彼のスパークを、命の鼓動を感じるから」
命の鼓動を感じる。それは沙夜の中にある命を産み出すオールスパークがそうさせているのか、又はそれとは違う、彼女自身の何かなのか。
論理的に言えば答えは確実に前者だろう。オプティマスはそう思った。しかし沙夜の場合はまた違うものの様な気がしてならなかった。
『―・・・サイドスワイプ、ジョルト、出動だ―』
「オプティマス・・・」
『―合流地の座標を送る。そこに到着するまでサヤを守れ―』
『将軍への報告は？』
『―私が伝えておこう―』
『了解しました』
『サヤの事は任せとけ』
許可が下りた。信じられない、嘘の様だった。しかし確かに彼は沙夜を連れて行く事を認可したのだ。
「オプティマス、ありがとう」



『―本当に大丈夫なんかよ？―』
移動中マッドフラップが言った。それはオプティマスとバンブルビー以外のオートボット全員と沙夜に伝わっていた。
『―何だよお前、オプティマスに文句つけんのか？―』
『―別にそんなんじゃねぇよ。だって危ないから今までずっとサヤは基地から出してもらえなかったんだろ？―』
『―そりゃそうだけどよ・・・―』
『―オプティマスが許可したんだ。それに従う他ない。任務を全うする事に専念しろ―』
ツインズが議論しているとアイアンハイドが通信でそれを強制的に終わらせた。今回の件では些か不安要素はある。それはアイアンハイドだけではなくこの場にいる全員が感じている事だった。
しかしオートボットの司令官は考えも無しにその様な事は決して言わない。それは十二分に理解している。だから従うのだ。反論する必要もない。ただ自分のやるべき事をやるだけだ。
「・・・ごめんなさい、無理言って・・・」
今まで黙り込んでいた沙夜がポツリと呟いた。それに対しラチェットとジョルトがすかさずフォローする。
『―気に病む事は無い。メガトロンが蘇った事は俄には信じられなかったが・・・君がそう感じ取ったのなら事実だろう。恐らくＮＥＳＴ基地の場所はディセプティコンに知られている。人間達を信頼していない訳ではないが下手にそこにいるよりは我々と行動を共にした方が得策である可能性が高い―』
『―先生の言う通りですよ。最初は僕も反対でしたが・・・メガトロンが蘇ったのならば僕達が基地を留守にする事が多くなる。それは反ってサヤを危険に晒してしまうかもしれない。それに、貴女がそう望んだのなら尚更です―』
「ラチェット、ジョルト・・・」
『安心しろ、俺達が守ってやる。何も心配するな』
「サイドスワイプ、ありがとう」

暫くするとオプティマスから指示された合流地点へと到着した。そこにはオプティマスとバンブルビーが待機していた。
「バンブルビー、久し振り」
サイドスワイプから降りた沙夜は直ぐにカマロに駆け寄った。
『”愛しのハニー会いたかったよ！、今は大変よ、こんな時にすまないね”』
「貴方が謝る様な事じゃないよ。会えて嬉しいよ、バンブルビー」
沙夜はバンブルビーと会うのは本当に久し振りであった。沙夜はＮＥＳＴ基地、バンブルビーはサムの自宅。とてもじゃないが頻繁に会える様な状況ではなかった。しかし、今も再会を喜ぶ時間さえ残されていなかった。
沙夜はバンブルビーのサイドミラーをそっと一撫ですると隣にいるトレーラートラックに向き直った。
「オプティマス、ありがとう」
『礼を言わなければならないのは私の方だ。メガトロンの事、よく報告してくれた』
オプティマスはそう言いながら助手席のドアを開いた。沙夜は車体の高い彼に苦戦しながらも乗り込み、オプティマスはそれを確認するとドアを静かに閉め走り出す。オートボットはそれに続いた。
『サヤ、先程の事を詳しく聞きたい。もう一度説明してほしい』
「うん。最初は・・・良く覚えていないけど何日か前、確か皆が上海に行っていた時に凄く遠くから二年前と同じ様に突然スパークの気配を感じたの。それは直ぐに消えて無くなっちゃったんだけど・・・それから暫くは何もなかったんだけど今日、さっき同じ様にスパークの気配を感じた。ただ今回は前感じていたスパークとは少し違ってて・・・前にも感じた事があるものだった。あの時、フーバーダムで・・・それがメガトロンだった」
『―野郎、どうやって復活したんだよ―』
『―俺に聞くなよ。何かやったんだろ？―』
『―上海の・・・あの時か・・・サヤ、今も気配は感じるか？―』
再びツインズが議論し始めた時ラチェットが割って通信を入れてきた。
「うん。凄く遠いけど、でも・・・さっきより近い」
『先程は地球外にいると言っていたな。と言う事はまたこの星に戻って来たという事か』
『―急がなくては、センサーに複数のディセプティコンの反応があるわ―』
『―恐らくメガトロンが蘇って活動が活発になったのね―』
『―奴ら、何かを始めるつもりだ―』
『このままでは狙い撃ちされる可能性もある。人間達のいる街中でそれは避けなければならない。二手に分かれよう。アイアンハイド、レノックス達に連絡を』
『―了解した―』
オプティマスが直ぐ様指示を出し各自二手に分かれて行動を開始する。その間にもどんどん気配が近付いて来るのを沙夜は感じていた。
自分で行きたいと言っておきながら不安で、恐ろしかった。またあの恐怖の対象と向き合うのか。
しかし今の沙夜にはもう一つの感情が芽生え始めていた。原因は分かる様で分からない。
分かりたくない、分かってはいけない。
メガトロンのスパークが懐かしく、愛おしいなどと。



後書

書き進めたいのに中々進んでくれなかった話でした。
一応自分の中ではオールスパークと、メガトロンと、沙夜さんがどういう関係になったのか考えてある様で考えてない様で・・・な感じです。
落ち着いて読み返して何か可笑しいなとか思ったら書き直す・・・かも・・・。

作成11,08,25
UP11,08,28