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宇宙が見る夢
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疑心
「ラチェット」
良く知った声に呼ばれ、オートボットの軍医は手を止めた。
振り返り、見下ろすとレノックスが自分を見上げていた。その表情は何処か沈んでいる様にも捉える事が出来た。
『レノックスか、如何した?』
念の為、聞いてみる。
「サヤの事なんだが・・・」
まぁ、そうだろうとは思った。
レノックスは眉間に皺を寄せ、言った。
「最近、酷く疲れてるようなんだ。正直、今に始まった事じゃないと言えばそうなんだが・・・。少し前に聞いた話じゃ、食事も、睡眠も碌にとってない状態だ」
『その様だ。命に別状はないが・・・精神的な疲労が著しいと思われる』
毎日顔を合わせていれば、嫌でも目に付く。
痩せこけたり、隈が酷く顔色が悪いという訳ではない。しかし、表情がどこか疲労困憊な気がしてならないのだ。
「なぁ、何かいい案はないか?」
『ふむ・・・』
軍医は顎に手を添えてブレインを働かせた。
その最中、一つの案が弾き出された。それは以前から考えていた事ではあったのだが・・・。
『あるにはあるが』
「本当か?」
『しかしあまりいい方法ではない。薬で強制的に休ませるものだが・・・』
「サヤは嫌がりそうだな・・・」
大丈夫だと、何時もの笑顔で言いそうだ。
「でもこのままだと本当に倒れそうだ。やってくれるか?」
『そうだな、他に方法がない』
「頼む」
『ああ。だが一つ、』
「何だ?」
ラチェットは膝を付き、屈み込んでレノックスにフェイスを近付け言った。
『他言無用だ。特に、オプティマスには』
「・・・ああ、分かった」
彼は、サヤが嫌がる事をするのを極端に嫌うからね。
夜。
自室のベッドへ横になり、目を閉じでいると脳裏には、自分の記憶には無い光景が浮かんでくる。
金属で出来た都市。そこに住まう者達。
炎が上がり、命が消えて行く。
目を開き、飛び起きる。息が乱れていた。頭も痛い。気が付けば全身に大量の汗を掻いていて気持ちが悪かった。
今回が初めてではなかった。眠らないが、体を休める為に目を閉じると今の様な光景が浮かんでは消えて行く。
以前は稀であったのに、最近ではほぼ毎日だ。休む為にとやっている事が逆に疲労を増加させている気がする。
沙夜は頭を振ると、シャワー室へと足を運んだ。
日が昇るまで後三時間。今日はもう休むまい。
これまでの検査だけでなく、怪我の治療が毎日の日課に加わってしまった。故に一日の大半をラチェットのラボで過ごす事も珍しくはない。しかしオールスパークのお蔭か、将又ラチェットとジョルトの尽力あってか、傷の治りは”通常”よりは早いらしく、車椅子生活からは脱する事が出来た。但し、傷の量と深さが災いして、未だに包帯は取れずにいるが。
今日も、ラボへいかなくては。
『昨日と変化はなしか・・・』
そう小さく呟いて、ラチェットは検査用のケーブルを収納した。そして診療台の上に仰向けに横たわる沙夜をちらりと見遣った。
矢張り表情が優れない。本人に自覚があるかどうかは別として、あまりよろしい状態とは言えなかった。
ラチェットは徐に検査とは別の、細い管を取り出した。先は鋭く尖っている。
「ラチェット・・・それ、何?」
今までになかった事をしようとした為か、沙夜が疑問に思い問い掛けて来た。
『今の君に必要な物だ。休むという事が』
ラチェットはそう言って針を近付ける。しかし沙夜は首を振った。
『如何した?』
「大丈夫。疲れてないし、平気」
案の定、彼女は言った。
『そうは見えんがな。レノックス達も心配していたぞ。いくら睡眠を必要としない身体になったとしても、休息は必要だ』
「でも・・・」
未だに渋る沙夜を不審に思い、ラチェットは問うた。
『他に何か理由があるのではないか?』
沙夜は言われると同時に視線を逸らし、暫く押し黙ってしまった。しかし、やがて口を開く。
「今・・・その、前と一緒で、眠る事はないんだけど・・・目を閉じると、何か・・・映像の様な物が見える様になって・・・」
『映像?どんな?』
「金属の街・・・多分、皆の、サイバトロン星だとは思うんだけど・・・穏やかな・・・物じゃなくて・・・」
『・・・』
「ごめんなさい・・・正直、耐えるのが・・・辛いの・・・」
穏やかではないサイバトロン星の映像。恐らく、戦争が始まってからの物だろう。戦争を経験していないこの小さな生命体には堪える筈だ。
『それは、何時からだ?』
「多分、エジプトの・・・あの時から・・・」
あの日、彼女が一度死んだ時から。
ラチェットは再びブレインを働かせた。沙夜へその光景を見せているのはオールスパークだろう。きっかけは、オールスパークと初代プライム達が彼女を甦らせたから。しかし理由が不明である。
何故、今それを見せる必要があるのか?彼女に何の関係が?知っておかなければならない理由があるのだろうか?
軍医のブレインは答えを出せなかった。
『サヤ』
「ラチェット?」
『すまないが、今の私ではまだ解決できそうにない。情報と、時間が必要だ』
「うん・・・大丈夫、分かってる」
沙夜沙夜はそう言いながら笑って、少しだけ目を伏せた。
ああ、またこの顔だ。
これが堪らなく、辛いのだ。
ラチェットは素早く先程の針を伸ばすと、沙夜の腕へをその先端を埋め込んだ。
「っ、ラチェット・・・!」
『すまない、サヤ。しかし、どんな理由があろうと、今の君には眠ってもらわなければならない』
「や、ラチェ・・・ト・・・」
『サヤ・・・』
必死に眠るまいと開いていた瞼が、ゆっくりと閉じられる。そしてライムイエローの腕に縋り付いていた小さな手も、落ちた。
ラチェットは針を収納すると、漸く眠りに就いた沙夜の額に冷たい、己の唇を静かに押し当てた。
『眠ってくれ。そしてどうか許してほしい。今の君を見ている事が出来ないこの私を』
次に目覚めた時には、その疲れが取れている事を切に願う。
後書
ラチェットメインのつもり。
投与したのは強力な睡眠剤。それでオールスパークの光景を観ずに済むかどうかは不明。夢ではないので、深い睡眠になればいいという問題でもない。多分普通の睡眠剤ではない筈です。だって作ったのラチェットだし。
沙夜さんが光景見るのが辛いと分かっていてもその姿を見るのが辛くて薬打っちゃう軍医。
作成14,08,25
UP14,08,25
「ラチェット」
良く知った声に呼ばれ、オートボットの軍医は手を止めた。
振り返り、見下ろすとレノックスが自分を見上げていた。その表情は何処か沈んでいる様にも捉える事が出来た。
『レノックスか、如何した?』
念の為、聞いてみる。
「サヤの事なんだが・・・」
まぁ、そうだろうとは思った。
レノックスは眉間に皺を寄せ、言った。
「最近、酷く疲れてるようなんだ。正直、今に始まった事じゃないと言えばそうなんだが・・・。少し前に聞いた話じゃ、食事も、睡眠も碌にとってない状態だ」
『その様だ。命に別状はないが・・・精神的な疲労が著しいと思われる』
毎日顔を合わせていれば、嫌でも目に付く。
痩せこけたり、隈が酷く顔色が悪いという訳ではない。しかし、表情がどこか疲労困憊な気がしてならないのだ。
「なぁ、何かいい案はないか?」
『ふむ・・・』
軍医は顎に手を添えてブレインを働かせた。
その最中、一つの案が弾き出された。それは以前から考えていた事ではあったのだが・・・。
『あるにはあるが』
「本当か?」
『しかしあまりいい方法ではない。薬で強制的に休ませるものだが・・・』
「サヤは嫌がりそうだな・・・」
大丈夫だと、何時もの笑顔で言いそうだ。
「でもこのままだと本当に倒れそうだ。やってくれるか?」
『そうだな、他に方法がない』
「頼む」
『ああ。だが一つ、』
「何だ?」
ラチェットは膝を付き、屈み込んでレノックスにフェイスを近付け言った。
『他言無用だ。特に、オプティマスには』
「・・・ああ、分かった」
彼は、サヤが嫌がる事をするのを極端に嫌うからね。
夜。
自室のベッドへ横になり、目を閉じでいると脳裏には、自分の記憶には無い光景が浮かんでくる。
金属で出来た都市。そこに住まう者達。
炎が上がり、命が消えて行く。
目を開き、飛び起きる。息が乱れていた。頭も痛い。気が付けば全身に大量の汗を掻いていて気持ちが悪かった。
今回が初めてではなかった。眠らないが、体を休める為に目を閉じると今の様な光景が浮かんでは消えて行く。
以前は稀であったのに、最近ではほぼ毎日だ。休む為にとやっている事が逆に疲労を増加させている気がする。
沙夜は頭を振ると、シャワー室へと足を運んだ。
日が昇るまで後三時間。今日はもう休むまい。
これまでの検査だけでなく、怪我の治療が毎日の日課に加わってしまった。故に一日の大半をラチェットのラボで過ごす事も珍しくはない。しかしオールスパークのお蔭か、将又ラチェットとジョルトの尽力あってか、傷の治りは”通常”よりは早いらしく、車椅子生活からは脱する事が出来た。但し、傷の量と深さが災いして、未だに包帯は取れずにいるが。
今日も、ラボへいかなくては。
『昨日と変化はなしか・・・』
そう小さく呟いて、ラチェットは検査用のケーブルを収納した。そして診療台の上に仰向けに横たわる沙夜をちらりと見遣った。
矢張り表情が優れない。本人に自覚があるかどうかは別として、あまりよろしい状態とは言えなかった。
ラチェットは徐に検査とは別の、細い管を取り出した。先は鋭く尖っている。
「ラチェット・・・それ、何?」
今までになかった事をしようとした為か、沙夜が疑問に思い問い掛けて来た。
『今の君に必要な物だ。休むという事が』
ラチェットはそう言って針を近付ける。しかし沙夜は首を振った。
『如何した?』
「大丈夫。疲れてないし、平気」
案の定、彼女は言った。
『そうは見えんがな。レノックス達も心配していたぞ。いくら睡眠を必要としない身体になったとしても、休息は必要だ』
「でも・・・」
未だに渋る沙夜を不審に思い、ラチェットは問うた。
『他に何か理由があるのではないか?』
沙夜は言われると同時に視線を逸らし、暫く押し黙ってしまった。しかし、やがて口を開く。
「今・・・その、前と一緒で、眠る事はないんだけど・・・目を閉じると、何か・・・映像の様な物が見える様になって・・・」
『映像?どんな?』
「金属の街・・・多分、皆の、サイバトロン星だとは思うんだけど・・・穏やかな・・・物じゃなくて・・・」
『・・・』
「ごめんなさい・・・正直、耐えるのが・・・辛いの・・・」
穏やかではないサイバトロン星の映像。恐らく、戦争が始まってからの物だろう。戦争を経験していないこの小さな生命体には堪える筈だ。
『それは、何時からだ?』
「多分、エジプトの・・・あの時から・・・」
あの日、彼女が一度死んだ時から。
ラチェットは再びブレインを働かせた。沙夜へその光景を見せているのはオールスパークだろう。きっかけは、オールスパークと初代プライム達が彼女を甦らせたから。しかし理由が不明である。
何故、今それを見せる必要があるのか?彼女に何の関係が?知っておかなければならない理由があるのだろうか?
軍医のブレインは答えを出せなかった。
『サヤ』
「ラチェット?」
『すまないが、今の私ではまだ解決できそうにない。情報と、時間が必要だ』
「うん・・・大丈夫、分かってる」
沙夜沙夜はそう言いながら笑って、少しだけ目を伏せた。
ああ、またこの顔だ。
これが堪らなく、辛いのだ。
ラチェットは素早く先程の針を伸ばすと、沙夜の腕へをその先端を埋め込んだ。
「っ、ラチェット・・・!」
『すまない、サヤ。しかし、どんな理由があろうと、今の君には眠ってもらわなければならない』
「や、ラチェ・・・ト・・・」
『サヤ・・・』
必死に眠るまいと開いていた瞼が、ゆっくりと閉じられる。そしてライムイエローの腕に縋り付いていた小さな手も、落ちた。
ラチェットは針を収納すると、漸く眠りに就いた沙夜の額に冷たい、己の唇を静かに押し当てた。
『眠ってくれ。そしてどうか許してほしい。今の君を見ている事が出来ないこの私を』
次に目覚めた時には、その疲れが取れている事を切に願う。
後書
ラチェットメインのつもり。
投与したのは強力な睡眠剤。それでオールスパークの光景を観ずに済むかどうかは不明。夢ではないので、深い睡眠になればいいという問題でもない。多分普通の睡眠剤ではない筈です。だって作ったのラチェットだし。
沙夜さんが光景見るのが辛いと分かっていてもその姿を見るのが辛くて薬打っちゃう軍医。
作成14,08,25
UP14,08,25
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