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宇宙が見る夢
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志操。
『話がある』
覚悟はしていた。何となく、気付いてはいた。
ディエゴガルシア島、NEST基地のラボ。
既に見慣れた高い天井を、硬い診察台の上に仰向けになりながら見ていた沙夜は漠然としていた。
エジプトからの帰還中、オプティマスから聞かされた言葉を思い返す。
『アーシーが殉職した』
小説でよくある、頭を鈍器で殴られた様な気がしたとはこの事かと思った。
砂漠で、皆が戦っていたあの場所で、撃たれたのだと。
女性でありながら、男性にも劣る事のない正義と、勇ましさを兼ね備えた美しい戦士はそのスパークの輝きを失ってしまったのだ。
「・・・アーシー・・・」
小さく、呟いた。擦れて消え掛けた声。返事はない。
その時、ラボのドアが開いた。この場の主だ。
「ラチェット」
『サヤ、気分は如何だ?』
「大丈夫、大分楽になったよ」
そう言って上体を起こそうとしたが止められた。沙夜は帰還後、直ぐにこのラボへと運ばれ治療を受けた。出血は治まってはいたが、オールスパークの力によって開かれた傷口はそのままだったからだ。応急処置だけでは心許ない。全身を包帯で覆われた沙夜は絶対安静を言い渡されているのだ。
「もうすぐ日が昇るのかな?」
『ああ、その様だ。多少は基地内も落ち着いて来た』
「そっか・・・今日、アーシーのお葬式やるんだね」
『・・・ああ』
ラチェットは小さく排気した。次に彼女の口から発せられる言葉を安易に予測出来ているからだ。
「私も出る」
ほら、矢張り。軍医は小さな体を見下ろして言った。
『サヤ、気持ちは分かる。だが今の君には無、』
「ラチェット」
沙夜はラチェットの言葉を遮って名を呼んだ。珍しい事だった。
「私、知らなかったの」
小さな彼女は、前を見ていた。冷たい壁しかないがそこを真っ直ぐに見ていた。でもどこか虚ろで、本当にそれが視界に入っているのかが、疑問であった。
「ジャズの時、知らなかったの」
『それは君が眠っていたからで、仕方の無い事だ』
「うん。分かってる。納得もしてる。でも今回は違う、ちゃんと起きてる。その事も知ってる。なのに別れの挨拶も出来ないなんて、絶対に嫌なの」
ラチェットは排気を漏らした。特別隠そうともしなかったし、思わなかった。先程も思っていた様に、彼はこの経緯を予測していた。だから答えも用意していた。
『分かった。良いだろう』
「ありがとう、ラチェット」
沙夜は軍医を見上げた。その顔は安堵に染まっていた。
包帯を全て交換した後、迎えに来てくれたグラハムに車椅子を押してもらい建物の外へと出て海岸に着いた。そこにはオートボットとNESTの隊員達、そして既にコンテナへと納棺されたアーシー達がいた。
沙夜の到着にいち早く気付いたレノックスが近付いて来た。彼は沙夜の少し困った様な、悲しい様な、兎にも角にも、複雑そうな表情を浮かべたまま頭を撫でた。そして手に持っていた花束を差し出す。
「ほら、用意しておいたぞ。自分の手で供えた方が良いだろう?」
どうやらこの面倒見の良い軍人は沙夜がここに来る事を百も承知であったようだ。
沙夜はその性格に感謝をしつつ、花束を受け取る。
車椅子を押され、コンテナの直ぐ横まで辿り着く。沙夜は花を手向け、コンテナに額を押し当てた。
「アーシー、クロミア、エリータ・・・」
彼女達は優しかった。時間を見つけては自分を捜し、話し相手になってくれた。励ましてくれた。ボディは冷たかったが、それでも彼女達のスパークは暖かかった。
きっと、最期の時が来るまで戦ったのだろう。怯む事無く、勇敢に。
二機の大きなヘリが来た。名称は分からないが、これらでコンテナを海へと沈める様だった。
ワイヤーを括り付け、ゆっくりと上昇する。コンテナは滞る事無く持ち上げられた。沖へと近付くにつれて沙夜達との距離が遠くなる。
ワイヤーが、外された。
数秒の後、大きな水飛沫と音を立ててコンテナは沈んで行った。その様を沙夜は微動だにせず見守っていた。
そしてその沙夜を、その場にいた者達は皆見ていた。その後姿は何と哀愁の漂う事だろうか。何と頼りない事だろうか。
数十秒か、数分か。定かではないが、暫くの後一体のオートボットが動いた。
『サヤ、そろそろ戻ろう。風も冷たくなって来た。このままでは傷に障る』
ラチェットは歩み寄ると片膝を付き、身を屈めて言った。しかし沙夜は直ぐに反応しなかった。出来ないのだろうと、誰もが理解していた。
その時、もう一体近付いて来て言った。
『サヤ』
漆黒の技術兵の声に、振り返ったのはラチェットだけだった。呼ばれた本人は未だ海を、あの姉妹達を見ている。
『サヤ、俺はアーシー達の最期の場にいた』
ほんの少し、沙夜の方が揺れた、気がした。
『あいつらは最期まで、お前の事を心配していた。確証はないが、今も見守っているはずだ。これ以上アーシー達に心配掛けさせたくないと思うなら、ラチェットの言う通りにした方が良い』
戦場で、事切れるまであの姉妹は沙夜を想っていた。それを伝えるのは自分の役目だとアイアンハイドは思った。
『そうすれば、あいつらも安心するだろう』
沙夜は久方振りにアイアンハイドを見上げた。そして直ぐに姉妹が逝った海を見た。
強く、手を握り締める。そして一度俯いた後、自分を見下ろしている者達を再び見上げて言った。
「そうだよね、心配掛けちゃったら休むに休めなくなっちゃうもんね」
傷がある為触れる事は叶わないが、その言葉を聞いてアイアンハイドは膝を付き、屈み込むと沙夜に顔を近付け、初めて聞くであろうとても穏やかな声で言った。
『そうしてやれ』
後書
アイアンハイドメインのつもり。
確かアメコミでエリータ達がコンテナを棺桶代わりに海に埋葬されていたので。ごめんね。
作成14,02,16
UP14,02,21
『話がある』
覚悟はしていた。何となく、気付いてはいた。
ディエゴガルシア島、NEST基地のラボ。
既に見慣れた高い天井を、硬い診察台の上に仰向けになりながら見ていた沙夜は漠然としていた。
エジプトからの帰還中、オプティマスから聞かされた言葉を思い返す。
『アーシーが殉職した』
小説でよくある、頭を鈍器で殴られた様な気がしたとはこの事かと思った。
砂漠で、皆が戦っていたあの場所で、撃たれたのだと。
女性でありながら、男性にも劣る事のない正義と、勇ましさを兼ね備えた美しい戦士はそのスパークの輝きを失ってしまったのだ。
「・・・アーシー・・・」
小さく、呟いた。擦れて消え掛けた声。返事はない。
その時、ラボのドアが開いた。この場の主だ。
「ラチェット」
『サヤ、気分は如何だ?』
「大丈夫、大分楽になったよ」
そう言って上体を起こそうとしたが止められた。沙夜は帰還後、直ぐにこのラボへと運ばれ治療を受けた。出血は治まってはいたが、オールスパークの力によって開かれた傷口はそのままだったからだ。応急処置だけでは心許ない。全身を包帯で覆われた沙夜は絶対安静を言い渡されているのだ。
「もうすぐ日が昇るのかな?」
『ああ、その様だ。多少は基地内も落ち着いて来た』
「そっか・・・今日、アーシーのお葬式やるんだね」
『・・・ああ』
ラチェットは小さく排気した。次に彼女の口から発せられる言葉を安易に予測出来ているからだ。
「私も出る」
ほら、矢張り。軍医は小さな体を見下ろして言った。
『サヤ、気持ちは分かる。だが今の君には無、』
「ラチェット」
沙夜はラチェットの言葉を遮って名を呼んだ。珍しい事だった。
「私、知らなかったの」
小さな彼女は、前を見ていた。冷たい壁しかないがそこを真っ直ぐに見ていた。でもどこか虚ろで、本当にそれが視界に入っているのかが、疑問であった。
「ジャズの時、知らなかったの」
『それは君が眠っていたからで、仕方の無い事だ』
「うん。分かってる。納得もしてる。でも今回は違う、ちゃんと起きてる。その事も知ってる。なのに別れの挨拶も出来ないなんて、絶対に嫌なの」
ラチェットは排気を漏らした。特別隠そうともしなかったし、思わなかった。先程も思っていた様に、彼はこの経緯を予測していた。だから答えも用意していた。
『分かった。良いだろう』
「ありがとう、ラチェット」
沙夜は軍医を見上げた。その顔は安堵に染まっていた。
包帯を全て交換した後、迎えに来てくれたグラハムに車椅子を押してもらい建物の外へと出て海岸に着いた。そこにはオートボットとNESTの隊員達、そして既にコンテナへと納棺されたアーシー達がいた。
沙夜の到着にいち早く気付いたレノックスが近付いて来た。彼は沙夜の少し困った様な、悲しい様な、兎にも角にも、複雑そうな表情を浮かべたまま頭を撫でた。そして手に持っていた花束を差し出す。
「ほら、用意しておいたぞ。自分の手で供えた方が良いだろう?」
どうやらこの面倒見の良い軍人は沙夜がここに来る事を百も承知であったようだ。
沙夜はその性格に感謝をしつつ、花束を受け取る。
車椅子を押され、コンテナの直ぐ横まで辿り着く。沙夜は花を手向け、コンテナに額を押し当てた。
「アーシー、クロミア、エリータ・・・」
彼女達は優しかった。時間を見つけては自分を捜し、話し相手になってくれた。励ましてくれた。ボディは冷たかったが、それでも彼女達のスパークは暖かかった。
きっと、最期の時が来るまで戦ったのだろう。怯む事無く、勇敢に。
二機の大きなヘリが来た。名称は分からないが、これらでコンテナを海へと沈める様だった。
ワイヤーを括り付け、ゆっくりと上昇する。コンテナは滞る事無く持ち上げられた。沖へと近付くにつれて沙夜達との距離が遠くなる。
ワイヤーが、外された。
数秒の後、大きな水飛沫と音を立ててコンテナは沈んで行った。その様を沙夜は微動だにせず見守っていた。
そしてその沙夜を、その場にいた者達は皆見ていた。その後姿は何と哀愁の漂う事だろうか。何と頼りない事だろうか。
数十秒か、数分か。定かではないが、暫くの後一体のオートボットが動いた。
『サヤ、そろそろ戻ろう。風も冷たくなって来た。このままでは傷に障る』
ラチェットは歩み寄ると片膝を付き、身を屈めて言った。しかし沙夜は直ぐに反応しなかった。出来ないのだろうと、誰もが理解していた。
その時、もう一体近付いて来て言った。
『サヤ』
漆黒の技術兵の声に、振り返ったのはラチェットだけだった。呼ばれた本人は未だ海を、あの姉妹達を見ている。
『サヤ、俺はアーシー達の最期の場にいた』
ほんの少し、沙夜の方が揺れた、気がした。
『あいつらは最期まで、お前の事を心配していた。確証はないが、今も見守っているはずだ。これ以上アーシー達に心配掛けさせたくないと思うなら、ラチェットの言う通りにした方が良い』
戦場で、事切れるまであの姉妹は沙夜を想っていた。それを伝えるのは自分の役目だとアイアンハイドは思った。
『そうすれば、あいつらも安心するだろう』
沙夜は久方振りにアイアンハイドを見上げた。そして直ぐに姉妹が逝った海を見た。
強く、手を握り締める。そして一度俯いた後、自分を見下ろしている者達を再び見上げて言った。
「そうだよね、心配掛けちゃったら休むに休めなくなっちゃうもんね」
傷がある為触れる事は叶わないが、その言葉を聞いてアイアンハイドは膝を付き、屈み込むと沙夜に顔を近付け、初めて聞くであろうとても穏やかな声で言った。
『そうしてやれ』
後書
アイアンハイドメインのつもり。
確かアメコミでエリータ達がコンテナを棺桶代わりに海に埋葬されていたので。ごめんね。
作成14,02,16
UP14,02,21
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