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短編

 同居人の左馬刻の様子が、何かおかしい。

 私よりも早起きしてなぜか朝食を準備していた。普段は朝が弱いと言って起きない男が。

 なぜか、部屋やお風呂の掃除をしたり、率先して買い出しに行ったりしていた。普段は絶対にやらないのに。
夜。左馬刻が準備してくれた夕食の後、食後に彼が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、買ってきてくれたケーキを食べている。彼は甘いものが得意な方ではないのに。

「今日さ、どうしたの」
「何がだよ」
「いや、なんかいつもより優しい、感じ」
 何が、と聞かれてもうまく言えず、つい口ごもってしまった。
 今日の左馬刻は様子がおかしい。少なくとも普段、こんなにかいがいしく家事などをこなしてくれる男ではない。そんな男に、母の日のお母さん、敬老の日のおばあちゃんのごとく世話をされると、ある種の気色悪さを感じてしまう。あまり考えたくはないが、何かやましいことをしでかしたのだろうか。嫌な汗が出てしまう。
 左馬刻はいつも通りの不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。そして少し目をそらしながらぽつりとつぶやいた。
「今日、ホワイトデーだろ」
「は」
「今日は、ホワイトデーだろうがカス」
 あ、そういうことですか。この母の日のような扱いは、彼なりのお返しというわけですか。
 肩の力が抜けた気がした。日ごろから、「高いもの貰うよりも一緒にいてくれるのが一番」と言っていた甲斐があったのだろうか。左馬刻は私の願いをかなえてくれていたのだった。

 そして一つ、思い出したことがあった。

「左馬刻、ホワイトデーは明日だよ」
「……うるせえよ、知ってるわそんなこと。明日までみっちりと『世話』してやるってことだよバカ」
 左馬刻の顔は真っ赤だった。日付、本当に勘違いしていたんだな。
「おら、こっち向け」
 照れ隠しなのか、そう言って左馬刻は覆いかぶさるように私にキスをした。彼のあたたかな手が、私の頬をつつみ、そしてだんだんと胸元へとさがっていった。
 本当に明日まで「お世話」してくれるらしい。

 ホワイトデーが終わるまであと26時間。左馬刻の贈り物はまだまだ続きそうだ。
 
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