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短編

 朝、スマホのアラームで目が覚めると、子宮からキリキリと収縮するような痛みを感じた。
 あ、生理キタコレ。寝ぼけていてもこの女の直感は外れない。
だるい体をベッドから落とし、そそくさとトイレで出血確認。はい、当たり。下着に血が付かなかったことにほっとしつつ、急ぎナプキンを装着した。



「今日から生理なのでなにもできませーん」
同居人の左馬刻にそう告げた私は、「お手上げ状態です」とソファにだらりと横になった。私の場合は動けないというわけではないが、体が鉛のように重く感じて、動くとどばっと生暖かい血が出てくる。気分もそんなに良くはない。
「血ぐらいで甘えんなよバカ女」
 そんな私に目もくれず彼はスマホをいじりながらコーヒーを飲んでいた。付き合いが長いので、私のこんな状況にも慣れてしまったのだった。最初のころは「何か飲むか」とか、「どうしたらいい」とかいちいち聞いてくれたのに。月日は怖いものだ。
「ねえ、合歓ちゃんにもそんなこと言ってるの、左馬刻。ひどーい」
「うるせえな。合歓は関係ねえだろが。あと合歓はそんな風にならねえ」
 この男は相変わらずシスコンをこじらせている。
傍目から見ても左馬刻の妹である合歓ちゃんは可愛い。けれど若干、彼は妹を神聖視している節がある。いつか彼女にすてきなパートナーができたとしても、左馬刻は鬼のような顔で追い払おうとするだろう。
「もう、合歓ちゃんだってそういう不調とかあるかもじゃん」
「ならねえよ。あいつも大体お前と同じタイミングだけどそんな風になったことねえ」
「え、キモ」
 妹の生理周期把握しているお兄ちゃんでいいのかな。仮に私が左馬刻の妹なら二度と口をきかないだろうな。
「毎月毎月ギャアギャア騒ぐんじゃねえよ」
 彼はそう言いながら私の下腹部に手を当ててきた。じんわりと彼の手のひらの熱がおなかに伝わってくる。左馬刻の手は少しごつごつしているけれど、とてもきれいな形をしていて、すごくあたたかい。
「そんなに酷いなら、さっさと医者に行って薬もらってこい」
 もう前みたいに、おそるおそる触れてはこない。労いの言葉もかけてはくれない。でも、確かにそこにあるのは変わらない左馬刻の優しさなのだ。私が生理だといって駄々をこねると、不機嫌そうではあるが、いつもこうやっておなかに触れてくれる。いつか病院でちゃんと診てもらう必要はあるかもしれないが、この手当が一番痛みに効くのは確かだ。
「左馬刻あったかい」
「そりゃよかったな」
 スマホをいじりながらも、左馬刻は私のおなかに触れ続けてくれる。
「左馬刻、ココア飲みたい」
「俺はコーヒーしか淹れねえ」
 そう言いながらも、きっと彼はあたたかいココアを作ってくれるだろう。

 今はこの不機嫌そうな男に甘えていよう。
 いつもお世話になっております。



「なあ、妊娠すると生理来ないらしいぜ」
「産むまでエッチできないよ、左馬刻」
「マジかよ」
記事には書いてねえぞ。なんて言いながらスマホの画面をスクロールしている。
どんな記事を読んでいたかは知らないけれど、一応心配はしてくれていたらしい。一応。
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