短編
ここ最近は雨が続いていて憂鬱な気分だ。春が近づいているにもかかわらず、空はどんよりとしていて薄暗く、少し肌寒い。
同居人である左馬刻は今日も不機嫌そうな顔でコーヒーを淹れてくれた。いつものように、ありがとう、とカップを受け取り、撮りためておいたドラマを見るためにテレビをつける。
母親がお勧めしてくれた恋愛ドラマ。ベタな展開が一周回ってクセになってしまい、ついつい私もはまってしまった。主人公は独身一人暮らしのOLで、ある日路地裏でボロボロのイケメンを拾ったことから始まるラブストーリー。そのイケメンが少しだけ左馬刻に似ていて、彼が画面上で恥ずかしい台詞を言うたびについ笑ってしまうのであった。
「そんなに面白れえのかよ、コレ」
くだらない、とでも言いたげに左馬刻が話しかけてきた。
「イケメンがね、すごいウケる」
恋人に面影が似ている男が、絶対に口にしないような甘い言葉やしぐさで主人公をときめかせている。現実とのギャップがウケる。本人に言ったら絶対に怒られるけど。
「イケメンが、ねえ」
だるそうな声でそう言って、左馬刻がテレビの前にいる私の隣に移動してきた。そしておもむろに私のシャツの中に手を突っ込んできた。
「面白いの、これ」
「おう、面白れえからテメーは『イケメン』見てろや」
やる気のなさそうな調子と反して、シャツの中の手は何かを引き出すように上へ下へとじれったく動く。こちらのイケメンは甘い言葉はなかなか吐かないが、「そういう空気」を作り出すのがうまい。
ドラマの音量は変えていないはずなのに、どこか遠くに感じる。私たちの世界とそれ以外が切り離されていく。体が、心が、左馬刻を求めている。
熱を求めるように、隣にいる男を見つめた。そうすると、意地の悪い顔でにやりと笑い、「イケメンはいいのかよ」なんて言ってきた。
目の前にいるから、しばらくはいいかな。と答えたら、ウケる。と返された。
ついばむようなキスを何回か交わした後、ぐいぐいと舌が入り込む感覚がした。それを受け入れると、私と左馬刻の唾液が混ざり合い、口づけの音が部屋に響き始めた。
シャツの中で動いていた左馬刻の手は私の胸をとらえて、慣れた手つきで先端をもてあそぶ。待ってましたと言わんばかりに、体が反応した。何度目なのか分からないほど体を重ねた結果、左馬刻のいやらしい触り方に感じる体になってしまったらしい。
負けじと左馬刻の体を触っていく。趣味の悪いアロハシャツのボタンを外し、程よく引き締まった彼の体の輪郭をなぞる。胸板、脇腹、背中。キスをしながら、手のひらで私の好きな左馬刻の部分を堪能する。
もうどちらかの唾液なのかがわからなくなったころ、繋がっていた唇が離れ、貪りあうかのように互いの体に口づけをする。ぐちゃぐちゃにたくし上げられた私のシャツは脱がされ、床に置かれた。それに重なるように、彼のアロハシャツも脱ぎ捨てられた。
左馬刻が私の首筋にキスマークをつける。それに応えるように、私も彼の白い体に唇の跡をつける。しばらくの間そうしていたら、左馬刻とふと目が合った。
「おい。……ヤルぞ」
熱のこもった声でそう告げてきた。あえて触れていなかった部分が、悲鳴を上げそうなのだと感じた。私も、もう限界だ。
「もう、ヤッてるじゃん」
少しからかうように応えたら、うるせー、と鼻先を甘噛みされた。
左馬刻はズボンのベルトを外し、ごそごそと準備をはじめた。私も脱がされていなかった下をいそいそと脱いだ。この瞬間を客観的に見たらすごく間抜けだろうな、なんて考えつつ、左馬刻が再び私の体に戻ってくる瞬間を待つ。
「濡らす必要は、なさそうだな」
気を取り直すように、左馬刻はなにやらいやらしい言葉を耳元でささやき始めた。興奮させるためなのだろうけれど、それがひどく滑稽で、私はいつもにやけてしまう。
彼の指が、私の下腹部を刺激し始める。突起部分が感じやすいことを知っていて、彼の中指が執拗に責めたててくる。思わず声が出て、体が変な方向にはねてしまう。調子に乗った左馬刻は、指の動きを激しくしてきた。私は私で、左馬刻の大事なところをそっと握り、いじり始めた。男の体もわかりやすくていい。硬くなったそれの先端は濡れていて、少し強くこすると、電撃でも受けたかのようにびくりと反応する。私も調子に乗り、彼への愛撫を強める。
左馬刻がどこからかコンドームをとりだした。めんどくさそうに、それを装着する。
「いれるぞ」
一応、律儀に確認をしてくれる左馬刻に、脳が条件反射で「はやく、きて」と返していた。彼に貫かれる瞬間が、すきだ。
傍目に見ても美しい男が、一心不乱に、それも私の中で暴れている。彼の白い髪が、汗で肌に張り付いている。彼の赤い瞳が、ちらりと私を覗く。
「おい、ぼさっとしてる暇、あるのかよ」
そう言って、さらに私の深い場所へ潜っていった。
もう左馬刻を感じること以外、できない。
獣のような交わりを終えると、左馬刻は私をきつく抱きしめ、動かなくなった。
満たされた感覚が体中にあふれている。そっと彼の髪をなでてキスをした。
ふと目線を上にあげると、例のドラマは最終回を迎えていた。
そちらのイケメンは、また今度観るとしよう。
同居人である左馬刻は今日も不機嫌そうな顔でコーヒーを淹れてくれた。いつものように、ありがとう、とカップを受け取り、撮りためておいたドラマを見るためにテレビをつける。
母親がお勧めしてくれた恋愛ドラマ。ベタな展開が一周回ってクセになってしまい、ついつい私もはまってしまった。主人公は独身一人暮らしのOLで、ある日路地裏でボロボロのイケメンを拾ったことから始まるラブストーリー。そのイケメンが少しだけ左馬刻に似ていて、彼が画面上で恥ずかしい台詞を言うたびについ笑ってしまうのであった。
「そんなに面白れえのかよ、コレ」
くだらない、とでも言いたげに左馬刻が話しかけてきた。
「イケメンがね、すごいウケる」
恋人に面影が似ている男が、絶対に口にしないような甘い言葉やしぐさで主人公をときめかせている。現実とのギャップがウケる。本人に言ったら絶対に怒られるけど。
「イケメンが、ねえ」
だるそうな声でそう言って、左馬刻がテレビの前にいる私の隣に移動してきた。そしておもむろに私のシャツの中に手を突っ込んできた。
「面白いの、これ」
「おう、面白れえからテメーは『イケメン』見てろや」
やる気のなさそうな調子と反して、シャツの中の手は何かを引き出すように上へ下へとじれったく動く。こちらのイケメンは甘い言葉はなかなか吐かないが、「そういう空気」を作り出すのがうまい。
ドラマの音量は変えていないはずなのに、どこか遠くに感じる。私たちの世界とそれ以外が切り離されていく。体が、心が、左馬刻を求めている。
熱を求めるように、隣にいる男を見つめた。そうすると、意地の悪い顔でにやりと笑い、「イケメンはいいのかよ」なんて言ってきた。
目の前にいるから、しばらくはいいかな。と答えたら、ウケる。と返された。
ついばむようなキスを何回か交わした後、ぐいぐいと舌が入り込む感覚がした。それを受け入れると、私と左馬刻の唾液が混ざり合い、口づけの音が部屋に響き始めた。
シャツの中で動いていた左馬刻の手は私の胸をとらえて、慣れた手つきで先端をもてあそぶ。待ってましたと言わんばかりに、体が反応した。何度目なのか分からないほど体を重ねた結果、左馬刻のいやらしい触り方に感じる体になってしまったらしい。
負けじと左馬刻の体を触っていく。趣味の悪いアロハシャツのボタンを外し、程よく引き締まった彼の体の輪郭をなぞる。胸板、脇腹、背中。キスをしながら、手のひらで私の好きな左馬刻の部分を堪能する。
もうどちらかの唾液なのかがわからなくなったころ、繋がっていた唇が離れ、貪りあうかのように互いの体に口づけをする。ぐちゃぐちゃにたくし上げられた私のシャツは脱がされ、床に置かれた。それに重なるように、彼のアロハシャツも脱ぎ捨てられた。
左馬刻が私の首筋にキスマークをつける。それに応えるように、私も彼の白い体に唇の跡をつける。しばらくの間そうしていたら、左馬刻とふと目が合った。
「おい。……ヤルぞ」
熱のこもった声でそう告げてきた。あえて触れていなかった部分が、悲鳴を上げそうなのだと感じた。私も、もう限界だ。
「もう、ヤッてるじゃん」
少しからかうように応えたら、うるせー、と鼻先を甘噛みされた。
左馬刻はズボンのベルトを外し、ごそごそと準備をはじめた。私も脱がされていなかった下をいそいそと脱いだ。この瞬間を客観的に見たらすごく間抜けだろうな、なんて考えつつ、左馬刻が再び私の体に戻ってくる瞬間を待つ。
「濡らす必要は、なさそうだな」
気を取り直すように、左馬刻はなにやらいやらしい言葉を耳元でささやき始めた。興奮させるためなのだろうけれど、それがひどく滑稽で、私はいつもにやけてしまう。
彼の指が、私の下腹部を刺激し始める。突起部分が感じやすいことを知っていて、彼の中指が執拗に責めたててくる。思わず声が出て、体が変な方向にはねてしまう。調子に乗った左馬刻は、指の動きを激しくしてきた。私は私で、左馬刻の大事なところをそっと握り、いじり始めた。男の体もわかりやすくていい。硬くなったそれの先端は濡れていて、少し強くこすると、電撃でも受けたかのようにびくりと反応する。私も調子に乗り、彼への愛撫を強める。
左馬刻がどこからかコンドームをとりだした。めんどくさそうに、それを装着する。
「いれるぞ」
一応、律儀に確認をしてくれる左馬刻に、脳が条件反射で「はやく、きて」と返していた。彼に貫かれる瞬間が、すきだ。
傍目に見ても美しい男が、一心不乱に、それも私の中で暴れている。彼の白い髪が、汗で肌に張り付いている。彼の赤い瞳が、ちらりと私を覗く。
「おい、ぼさっとしてる暇、あるのかよ」
そう言って、さらに私の深い場所へ潜っていった。
もう左馬刻を感じること以外、できない。
獣のような交わりを終えると、左馬刻は私をきつく抱きしめ、動かなくなった。
満たされた感覚が体中にあふれている。そっと彼の髪をなでてキスをした。
ふと目線を上にあげると、例のドラマは最終回を迎えていた。
そちらのイケメンは、また今度観るとしよう。