マンマ・ミーア!
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数日前から雨が降り続いていた、ある日の午後のこと。感情の起伏を抑えるよう、恐ッそろしいプロシュート兄貴に日々躾けられているはずのあの娘が忙しなく動きまわっていた。キッチンの洗濯機の周りをぐるぐる、自分の部屋を出入りしてはまた、隙間もないような場所を覗き込む。雨が降り始めてからは誰も出入りしようと思わないアパルトの最上階、洗濯干し場のスペースに行ってずぶ濡れになり、また自室の中で何かを引っ掻き回している。
「なんだなんだ?コマネズミみたいに」
「聞いてギアッチョ、下着がないの」
彼女は間髪をいれずにホルマジオに問うた。一応、念のため、藁にもすがる思いという雰囲気が見て取れる。疑われていない証拠と悦ぶべきだが、必死の剣幕につい気圧される。
「またメローネあたりだろ?」
「違うと思うわ。『次にやったらアノ部分に切り込みを入れて、ゼブラ柄になるよう部分的に皮を剥ぐ』って誓約書を書かせたから」
ギアッチョは思わず引け越しに、内股になった。女とは、自分にないモノに対してかくも残酷で行き過ぎたペナルティを課すものか、と震え上がる。腰のあたりがザワザワ鳥肌立つのを感じながら、また探し始める彼女の様子を見て、ひとつ思い出したことがあった。
それはまだ天気の良かった週の始めころ。「大した用事ではない」と前置きされて呼び出されたアジトでの出来事だった。
呼び出した張本人、我がチームのリーダーであるリゾット・ネエロが、今の彼女のように落ち着きなくアジトをうろついている。
手に、白い糸か何かの塊のような、いわばボロ雑巾を持って。
「もう来たのか」
口先だけで返事をしたリゾットには、珍しく焦った様子がうかがえた。ギアッチョと目が合い、慌てて手の中のものが死角になるよう、背中の後ろに隠した。ギアッチョにしてみたら、なにを今更、だが。
「いったい何をしでかしたンだよ、アンタらしくもない」
悪さが見つかった子供のような振る舞いに、ギアッチョは思わず吹き出した。リゾットは決まり悪そうな顔をして、台所の戸棚を二、三ヶ所開け、お目当てのビニル袋をひとつ取り出して、手に握っていたのもを突っ込んだ。
ゴミに対して大きすぎた袋の口を縛り、自室へ放り込む。
「で、何だったんだ?」
隠蔽が済んで一段落といった様子のリゾットに、ギアッチョは蒸し返すように言った。
「いや、何でも。大したものじゃあない」
「ゲロっちまえよ、リーダー。楽になるぜ」
「そんなことより、呼び出した理由だが」
あくまで押し隠すつもりのリゾットが、半ば強制的に話の方向を変えた。ギアッチョが喉の奥に笑いを締まっておくのに苦労するのを、自分の行動を棚にあげたリゾットが「真面目に聞け」とたしなめる。
いくつか向こうの街のポストから封書をひとつ投函してこい、との簡単な作業だった。アリバイ工作か何かに使われる、日付や時間を証明するための簡単な小道具だと思われる。細かい行動に疑問を抱くのは懸命ではないので、ギアッチョの頭にはリゾットの行動のほうが余計に頭に残ったのだ。
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