マンマ・ミーア!
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
……
イタリアの北に位置するとある街、ソルベとジェラートは任務の真っ最中だった。二つもカレンダーを捲る長い調査のうち、住み慣れてきてしまった安宿のソファに寝転び、ジェラートはキャンディが詰まったボトルのキャップを弄んでいた。
赤とピンクと濃いブルー、ソーダ色、チョコとクリームを渦巻かせたマーブル、夜みたいな紫。色数の多い色鉛筆のセットくらい様々な色の入った瓶を腹に乗せ、金属のキャップを時計回りに緩め、そして反時計回りに閉める。ジェラートの頬がまん丸く膨らむ。唇からはメロンソーダの匂いがしている。
二軒隣は朝食にうってつけのコルネ……ブリオシュとテイクアウトのコーヒーを売る店、朝になると隣人の太ったマダムの鼻歌が聞こえるこの部屋も、引き払う期日が来た。それは今日だ。一週間分の家賃以外は1リラも払っていないのだが、貸主は非常に懐の深い男らしく、『◯月◯日午前九時、超過の料金を受け取りに参ります』と、ばかに丁寧なメモ書きをポストに入れるにとどまった。
古めかしい家具はすべてアパルトに置き付けで、何を持ち出す必要もない。それでも、ネズミの一匹も侵入しなかったかのように、鮮やかに姿を消す必要がある。最初に払った賃料以外、督促に応じるつもりがないからだ。詐欺でどこぞの老人に契約させて使っていた電話番号ともサヨナラ。
部屋にたった一人、ジェラートは仰向けのまま甘い味のつばを飲み込み、砂糖に喉を焼かれて少しむせた。
メロンソーダの味の水滴が、瓶の蓋に飛ぶ。
ジェラートが朝のエスプレッソも口にせず、不機嫌に飴玉をしゃぶっている理由。恋人同士の間では、本当によくある事だ。したたか酒を飲んだ男が、ほんのささいなきっかけで、売り言葉に買い言葉。それで恋人を最上級の不機嫌にさせて、翌朝苦い思いをするアレだといえば、諸君にもだいたいの想像が付くだろう。男同士であっても同じだ。
お決まり通りのシナリオで、朝になって、ソルベは我に返った。恋人がか弱い女じゃあなかったので、ソルベは見慣れてしまったアパルトの脇の小路で、ゴミ捨てバケツの痕が背中に張り付いた形で、朝日のあたたかな手で瞼を撫でられて目を覚ました。
昨日の暴言、失言、衝動的な発言の数々の詳細は思い出せなかったが、それは酷い内容だった。と推測した。アパルトを追ン出され、こんなところに捨てられるくらいに。
頭から、出涸らしのコーヒー屑と生ごみの酸っぱい臭いがした。
「今日は肝心の木曜だぜ。荷物をまとめたら、九時には奴があのバールにコーヒーと取引をするかどうか、確かめなきゃあならない」
「一人でいけよ」
すげないジェラートの返事に、ソルベは焦り始めた。
「はやくしろ、昨日のことなら謝るから、な」
「真剣さが足らないんじゃあないか?昨日のことでハッキリしたのさ、お前なんかいらない」
任務もソルベもどうだっていい。投げやりな態度を隠しもしないジェラートはクリームソーダを舐め終わり、コスモス色とシャーベットブルーのマーブルに狙いを定めた。
「いま必要なのは、俺がお前に真剣に謝ることじゃあないだろ?お前こそ真剣に取り組めよ、仕事だぜ」
「ハッ!スパイ工作に取り組む奴の真剣ってのは、前後が無くなるまで酔っ払うことか」
ごちゃごちゃの色のが出てきたが、ジェラートは黙って口に放った。
「いい加減にしろ、ペッシの二の舞いは御免だぜ」
「ペッシに何の関係があるって?」
「だから!あのペッシだ、ノロマでぐずぐず野郎のマンモーニの話だよ!去年だったか───……
→
イタリアの北に位置するとある街、ソルベとジェラートは任務の真っ最中だった。二つもカレンダーを捲る長い調査のうち、住み慣れてきてしまった安宿のソファに寝転び、ジェラートはキャンディが詰まったボトルのキャップを弄んでいた。
赤とピンクと濃いブルー、ソーダ色、チョコとクリームを渦巻かせたマーブル、夜みたいな紫。色数の多い色鉛筆のセットくらい様々な色の入った瓶を腹に乗せ、金属のキャップを時計回りに緩め、そして反時計回りに閉める。ジェラートの頬がまん丸く膨らむ。唇からはメロンソーダの匂いがしている。
二軒隣は朝食にうってつけのコルネ……ブリオシュとテイクアウトのコーヒーを売る店、朝になると隣人の太ったマダムの鼻歌が聞こえるこの部屋も、引き払う期日が来た。それは今日だ。一週間分の家賃以外は1リラも払っていないのだが、貸主は非常に懐の深い男らしく、『◯月◯日午前九時、超過の料金を受け取りに参ります』と、ばかに丁寧なメモ書きをポストに入れるにとどまった。
古めかしい家具はすべてアパルトに置き付けで、何を持ち出す必要もない。それでも、ネズミの一匹も侵入しなかったかのように、鮮やかに姿を消す必要がある。最初に払った賃料以外、督促に応じるつもりがないからだ。詐欺でどこぞの老人に契約させて使っていた電話番号ともサヨナラ。
部屋にたった一人、ジェラートは仰向けのまま甘い味のつばを飲み込み、砂糖に喉を焼かれて少しむせた。
メロンソーダの味の水滴が、瓶の蓋に飛ぶ。
ジェラートが朝のエスプレッソも口にせず、不機嫌に飴玉をしゃぶっている理由。恋人同士の間では、本当によくある事だ。したたか酒を飲んだ男が、ほんのささいなきっかけで、売り言葉に買い言葉。それで恋人を最上級の不機嫌にさせて、翌朝苦い思いをするアレだといえば、諸君にもだいたいの想像が付くだろう。男同士であっても同じだ。
お決まり通りのシナリオで、朝になって、ソルベは我に返った。恋人がか弱い女じゃあなかったので、ソルベは見慣れてしまったアパルトの脇の小路で、ゴミ捨てバケツの痕が背中に張り付いた形で、朝日のあたたかな手で瞼を撫でられて目を覚ました。
昨日の暴言、失言、衝動的な発言の数々の詳細は思い出せなかったが、それは酷い内容だった。と推測した。アパルトを追ン出され、こんなところに捨てられるくらいに。
頭から、出涸らしのコーヒー屑と生ごみの酸っぱい臭いがした。
「今日は肝心の木曜だぜ。荷物をまとめたら、九時には奴があのバールにコーヒーと取引をするかどうか、確かめなきゃあならない」
「一人でいけよ」
すげないジェラートの返事に、ソルベは焦り始めた。
「はやくしろ、昨日のことなら謝るから、な」
「真剣さが足らないんじゃあないか?昨日のことでハッキリしたのさ、お前なんかいらない」
任務もソルベもどうだっていい。投げやりな態度を隠しもしないジェラートはクリームソーダを舐め終わり、コスモス色とシャーベットブルーのマーブルに狙いを定めた。
「いま必要なのは、俺がお前に真剣に謝ることじゃあないだろ?お前こそ真剣に取り組めよ、仕事だぜ」
「ハッ!スパイ工作に取り組む奴の真剣ってのは、前後が無くなるまで酔っ払うことか」
ごちゃごちゃの色のが出てきたが、ジェラートは黙って口に放った。
「いい加減にしろ、ペッシの二の舞いは御免だぜ」
「ペッシに何の関係があるって?」
「だから!あのペッシだ、ノロマでぐずぐず野郎のマンモーニの話だよ!去年だったか───……
→