マンマ・ミーア!
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昨日の空の空気が「そうだ」と指し示したとおり、今日は朝から快晴だった。この国のTVショウが時間ごとに告げる天気予報など、信じるだけ無駄、無駄。幼い頃からの経験がものをいう。
風はまだ少し冷たいが、日向に出れば暖かい。午前中も早い時間、どこかの部屋が、もうコンソメ・スープのような匂いを漂わせている。
中庭に一本植わった、かつてドイツ車の部品をたわわに実らせた『カマロの木』の根本には、雑草に混じって紫色のジキタリスが満開である。
鏡の中の世界から現実の世界へ、ぬるりと姿を現したイルーゾォは、さっと髪にブラシをかけただけの彼女に声をかけた。
「なぁ、くるみとレーズンが浸かった蜂蜜が欲しいんだが、買いに行かないか?」
彼女は化粧もしていなかったが、最近はこの顔も見慣れた。こざっぱりとして、年齢相応に見える。かえって気持ちがいいくらいだ。
「もう、さっきから出たり入ったりね。退屈?」
イルーゾォにカップを渡してずいぶん時間が経ったと思ったが、コーヒーはまだ半分も残っていた。さぞぬるくなっているんだろう、と嫌そうにそれを見て、彼女は空になった自分のカップだけを持って席を立つ。
手入れされていないことが許されない爪だけは、今しがた蜂蜜を落としたように濡れた艶がある。
夜に見せる厭らしさや艶かしさを白日に持ちだしたように思えて、イルーゾォはよこしまそうに目を細める。
「リーダーかプロシュートが、きっと何か仕事を持って帰ってくるわよ」
水を流し始めて聞き取りにくくなった声が色気なく言う。決めつけてかかった女に、イルーゾォは細い顎先を出口へ向けてしゃくった。
「なら、余計に決断は早くするべきだな。ソルベとジェラートのあの事件みたいになる前に」
「何、それ?」
自分のカップとコーヒーのジャグを洗い終えた彼女が、手を拭きながらこちらに戻ってくる。
イルーゾォは冷めたコーヒーで唇を湿し、意外そうな声で言った。
「知らないのか?あれは今年に入ってからだったかな……──────
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