なんでもない3日間の出来事
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感染後の致死率、百パーセント。
様々な薬品を、自分の知らぬ間に投与されてきたナナシは、狂犬病の感染を免れていた。
数ヶ月をかけて行われる、普通ならば渡航に際して行われるような予防接種まで受けていたのかと思うと、今回のケースでは喜ばざるを得ないが……やはり不気味でしかない。
このたびの任務でついた大小の生傷を隠すための、長袖のソレイヤード柄ブラウス。
モスグリーンのスカートの下には厚いタイツを履き、赤いバッグを合わせた。
少々『変わり者』ではあるが、それでも人殺しを家業とする自分よりは一般的な生活を送っているであろう『ソリッド』と会うときには、つい浮き足立ってしまう。
まあまあなレベルのいい男ばかりが常に揃っているとはいえ、しょせん仕事仲間。
ひとからげにしてしまうのは心苦しいかぎりだが、その中の一人の口癖を借りていわせてもらえば「しょうがない」。
勿論、仕事の内容を話すつもりはないが、そいった事に干渉しないというのも『ソリッド』の良さだった。
それよりも、今日はどこへ行こう?
クレメリーア(アイスクリーム店)への道が今日は渋滞していないなら、甘いものも素敵だ。
どこへ行かなくっても、日が沈むまで本屋の二階でクラシックのボードゲームに興ずるのだっていい。
それから、ずっと反故にしてしまっていたチェーナ(夕食)の約束も忘れちゃあいけない。
待ち合わせは彼の経営する古本屋だが、いつも待ち合わせの時間より一時間は早く行く。
早すぎる到着に『ソリッド』のほうが申し訳なさそうな顔をするが、 凸版印刷の文字が次のページにまで滲む古い本の誘惑には負けてしまう。
日焼けした背表紙のタイトルは暗唱できるほど見ているのに、中身まで全部……と思うのは、何と欲深いんだろうと自分でも感じていた。
思った通り、三十分も前だというのに、支度を済ませた『ソリッド』が、彼の居住スペースである二階から階下の古書店へと降りてきた。
ナナシの姿を見つけると、『案の定』といった風なしたり顔に、ニヤリと笑いを浮かべた。
手には、銀色の仰々しいアタッシュケースをひとつ、携えている。
どこかで見た気もしたが、どこにでもあるタイプだ。
「今日は随分と大切そうなものをお持ちですね?」
「あぁ、貴重なものだ」
ナナシが聞くと、会計用のカウンターにガタンと乗せた。
「随分と長い間借りてしまっていたな」
中に入っていたのは、たった1冊の単行本。
いつか貸した、ジャッポーネの人気コミック『ピンク・ダークの少年』のイタリア語版だった。
「そんなに大切に持っていてくださったんですか?」
つい笑ってしまったナナシに、『ソリッド』は当然、と答えた。
「大事に、大事に持ってこさせたさ」
thee end!!!
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