なんでもない3日間の出来事
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「ーーーイルーゾォ!」
現実世界からひとり入室したメローネの指示で、イルーゾォは鏡の世界から素早く部屋へと侵入した。
手にした鏡で反転した現実世界の室内を注意深く進む。
鏡の中の世界を映しだしてしまう壁掛け鏡が廊下や部屋に無かったことは、今回の場合だけに限り、幸いなことであった。
メローネの姿を認め、抜け出しだ先の部屋にいたのは。
見たこともない格好でいる、見知った男。
悪趣味にも両手足と首を繋がれ、這いつくばる形に固定された、みじめなチームのリーダー。
「プロシュート、やれよ」
「……うるせぇな、解ってらァ……」
メローネは身体ともに過度のダメージが蓄積されているプロシュートの腕を掴み、リゾットの傍らに投げ捨てるように放った。
プロシュートの手がリゾットを繋ぐ鎖にかけられる。
そこだけ力強く握りこまれた鋼鉄のチェーンが、深海のバクテリアに分解されていくように、みるみる腐食されはじめた。
経年劣化。
途方も無い年月をかければ、いくら頑丈に鋳られた鉄といえど疲労し、錆に喰われて崩れ落ちる。
その特殊な能力によって、霧状に散布した空間の全てに老化を与え、また『直に触れたほうが素早く強力に』老化現象を起こさせるとはいえ……
巨大な重機でさえ引きちぎれないだろう太い鉄の輪を、プロシュートは腐食によって破壊しようというのだ。
この、奇跡のような禍々しい光景を目にするのが二度目になったギアッチョとイルーゾォは、額に青筋を浮かせてグレイトフル・デッドの能力を発動させるプロシュートから思わず目を背けた。
「ボケボケすんなよ、あと四分十二秒。風船全部運び込め!!」
薬品と空気をつめ込まれてまん丸に膨れ上がった幾つもの風船を三人がかりで、鏡の中を何度も往復して運び込む。
そうするうち、リゾットの首を繋ぐ鎖がまず、水に沈んだ角砂糖のようにボロリと砕けた。
続いて、左手首を戒める鎖。
右手首の鎖。
プロシュートが這うように足の鎖のほうへ移動した時には、部屋には風船の山が出来ていた。
「時間がない、あと一分二十三秒」
プロシュートはついに、両手でそれぞれ残された鎖を掴んだ。
「ーーーーオォォオオオオォォォォオオオ!!」
上半身だけのケダモノじみたスタンド……グレイトフル・デッドが、体中についた目玉を血走らせて見開き、大きく口を開けて仰け反った。
メローネが、うず高く積まれた風船の上に砂糖をぶちまけた。
イルーゾォにもギアッチョにも、まだ這いつくばった姿勢のままのリゾットにも、額にパンクしそうな血管を浮かせてスタンドを発動させる極限状態のプロシュートの上にも、真っ白にべたつく砂糖が降りかかった。
プロシュートの手の中で最後の輪が錆の匂いになり、粘土質の土くれになる。
同時に倒れこんだ体を、戒めを解かれたばかりのリゾットが素早く抱きとめた。
「さ、帰ろう。用は済んだ」
そう、けろりと言ったメローネは鞄から黄色い手袋を取り出すと、小さい方の薬瓶から濃塩酸を中に注いで口をしっかりと結わえた。
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