なんでもない3日間の出来事
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両手首、両足首、そして首。
それぞれを縛める金属製の輪が、床から伸びるチェーンに繋がれている。
チェーンの長さは、ほんの十センチほど。
これに繋がれれば、人は頭を垂れる屈辱的な姿勢を強いられる。
しかしリゾットは、表情ひとつ変えることなくこの屈辱を享受していた。
如何なる苦痛、拷問に対するメンタルコントロールをも心得た男は、苦痛を表に出すことなく不自然な姿勢を保っている。
リゾットの裸の背には、筋肉の筋が美しく波打つ。
飽きることなくそれを眺めるティッツァーノの瞳は悦楽に浸り、眠たげに細められている。
スクアーロは面白くもなさそうに、白昼夢に耽るティッツァーノを眺める。
三度のノック。
何を見るともなく開かれていたリゾットの眼の、眼球だけがドアの方へ動く。
返事より先に、鍵のかかっていなかったドアが開く。
「お邪魔しても?」
「来ると思っていましたよ、メローネ。『生きていれば』ね」
嫌らしいにやにや笑いを貼り付けたメローネが上げた軽やかな声に、リゾットは軽く息を吐いた。
メローネは足下のリゾットをチラと見る。
サディストが手持ちぶさたに付けたんだろう傷が、剥き出しの上半身のあちこちに赤く残る。
どれも浅く、命に関わるようなものではないことを認めてから、改めてスクアーロとティッツァーノに向き直った。
「運がいいな。…他はどうした?死んだか?」
メローネは笑いかけただけで、スクアーロの問いには答えない。
メローネの性質の得体の知れなさ、意味不明な態度の数々を目にしてきたスクアーロは、不気味な笑いから真意を汲めず、舌打ちした。
「……こまっしゃくれのガキが」
「リゾットと二人で話しがしたいなァ」
メローネは、スクアーロのあからさまな敵意を無視した。
ティッツァーノは顎に手を持って行き、形だけ少々どうしようかと考えるポーズをとった。
……リゾットを繋ぐ鎖は、三十センチ以上も床に突き刺されたネジによって固定されている。
それも、両手足と首、計五本。
鎖の輪ひとつひとつが、軽く三トンの加重に耐える。
丸腰の二人に、これらを破壊して逃げることなど、まず叶わないだろう。
ティッツァーノはメローネと寸分変わらぬ不気味な笑みを返した。
「……そうですね、いいですよ」
「やけに優しいね、気味が悪いや。……何か代償が欲しい?」
「水くさいこと言わないで下さいよ、旧知の仲じゃあありませんか。五分あげますよ」
五分。
辛うじて首の輪を外せたとしても、短時間では両手足の鎖まで切れないだろう。
手と足とを捨てて逃げる可能性は、ある。
―――あぁ。素晴らしくドラマティックだ。
血溜まりと千切れた両手首を残していく逃亡者。
両手、両足首から先を失って逃げるリゾットの狩り思い描き、スクアーロにも気付かれないよう、ティッツァーノはほくそ笑んだ。
スクアーロに話せば、「面倒ごとが起こる前に始末するべきだ」と、最も合理的な方法を提案するに決まっているのだから。
それぞれの思惑が交錯する中、ドアが閉まる。
「何で五分もやった?三分でも充分すぎる」
同時に、スクアーロが口火を切った。
睨む先のティッツァーノは、穏やかに笑う。
「三分でカフェを入れ直して、残りの二分はあなたとゆっくりおしゃべりしてもいいでしょう?」
本格的な料理が出来るほどではない簡素なキッチンへと消えるティッツァーノの背中を、スクアーロは黙って見送った。
まんまと言いくるめられたようだが、スクアーロにはそれ以上気に留めないように務めた。
ただの冗談かもしれないが、メローネに「旧知の仲」などと言ったことも気になる。
しかし、正直。
メローネとは関わり合いになりたくない。
口には出さないが 、隠しきれない態度でティッツァーノにもそれが伝わっているだろう。
勿論、付き合いの長いティッツァーノはそれを肌で感じ取るくらいしているが、あえて無視し続けた。
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