なんでもない3日間の出来事
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「…ハァ、ハァ…ここ、は?」
「ちょっと待ってろ、今、明かりを」
投げ捨てることになったマグライトの代わりを探ろうと胸ポケットへ伸ばすホルマジオの手が、未だ震えていた。
深呼吸を一つして心を落ち着かせ、何度か握って開いた指でファスナーを摘み、引く。
「ヘヘ、喫煙者を邪険に扱うもんじゃあ無ぇよなァ」
メンタルコントロールの素早さに関心する。
ナナシもいちど大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。
外の音は、全く聞こえなくなった。
積み重なる紙の束から、真新しい札の臭いがぷんぷんする。
ホルマジオは小さく眩しいライターの火をかざしながら、オキシドールの蓋を捻り開ける。
引き裂かれた互いの真っ赤な傷口に消毒液を注ぎあい、お互いが痛みに呻いた。
こんな状況でもファイルをしっかり掴んで離さなかったのは、溺れる者が掴んだ藁だったのか、ただの職業病か。
ホルマジオより深く負った傷を消毒されながら、ナナシはファイルを開いた。
紐で綴じられた厚紙の一番上には、先ほどの襲ってきたものと同じ種だろうか、コウモリの写真。
ナンバリング、見慣れないスペルの専門用語、そして、シャーレで培養した黴を顕微鏡で覗いたような…
「オレ、これ見たことあるわ」
「この、カビみたいな写真?」
微かな光の中でホルマジオが頷く。
何の?と尋ねたナナシに、揺れるライターの炎に照らし出されたホルマジオは答えず、曖昧に笑う。
もしこれが、あの『ウィルス』なら。
その『ウィルス』に、先ほどのコウモリが『感染して』いるとしたら。
ありえる話だった。
あのコウモリ達は、簡単に出入りすることの出来ないラボの中に『監禁』されていたのだ。
そう、何らかの事故で飼育ケースから逃げたしたコウモリを、捕まえて元には戻さずに、研究室ごと封鎖した理由。
『元には戻せず』に、封鎖、密閉『しなければならなかった』理由があるはずだった。
『多発する狂犬病の驚異』
錆びたようにノイズの混じるテロップと、狂った犬のニュース映像が頭によぎる。
もしこれが『狂犬病ウィルス』なら。
その『狂犬病ウィルス』に、先ほどのコウモリが『感染して』いるとしたら。
コウモリの昂奮が治まる頃に出ていけば「任務失敗」は免れるだろうと思っていたが、安直だった。
一刻も早く、ここから脱出しなければならない。
出て……行くことが出来れば。
ホルマジオの心臓が、恐怖に鼓動を早めた。
逃げ込んだ『ここ』が鋼鉄製の金庫だということに……二人はとっくに、気が付いていた。
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