なんでもない3日間の出来事
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光だ。
いや、そこまで強い力は持っていなかった。
しかし、ごくごく微かに、闇の濃淡がそこだけくっきりと違って見えた。
ナナシの尻を眺めながらホルマジオが這い進んできた埃っぽいダクトのデートも、ようやく終わる。
地図どおりに進んで来られていたなら、二人は建物のちょうど中心に位置する目的のフロアの真上に到達した。
自然と湧き上がる安堵感を押さえ、緊張を高めさせる。
建物の内部には思った以上に人の気配が無く、ほんの数人が決まった部屋を出入りする程度だった。
この部屋にも人が居ないことを願いつつ、プラスチックの格子の隙間から注意深く気配を伺う。
目視するかぎり、紫外線灯がほの暗く蒼い光を発している内部に人影はない。
時折、紙くずが風に吹かれて起こるような音もするが、ラボならば実験用の動物、またその生き餌となる虫やらが飼育されていてもおかしくはない。
ナナシとホルマジオがいる位置からでも、消毒用アルコールの臭気と、生き物のフンの臭いが感じ取れる。
埃とともにナナシの体が落下するのを見届けたホルマジオが、 帰路のための逃走用ロープを用意してフロアに降りた。
暗がりの中、同じサイズの黒く分厚いファイルがきっちりと詰まった棚を、小さなライトで照らし注意深く探り入れる。
ガラス扉の奥に並んだ黒っぽい薬品瓶の曲面が、マグライトの光を反射させる。
隣の棚には、同じ色、同じ形のファイルの群れ。
その下には専門書らしい、分厚い本たち。
細い光だけで、途方も無い数の背表紙を、ひとつひとつ、目で追っていく。
「pipi(おしっこ)…」
「何だァ?我慢してたのか?」
「ファイルのタイトルでしょ!それの、ナンバー三、一、零、四…あった、あそこ」
ファイル棚にも机の中にも見付からなかった目標物を目ざとく見つけたのは、ナナシが先だった。
『LABORATORY』と書かれたガラス扉に遮られた向こう、向かい合わせのデスクの上に、『pipi-3104-』。
目的とするナンバリングのファイルが、無造作に放られている。
「間違いねぇ。写真の方もよく見ると、ここに水でも零したみてぇな痕がある」
取り出した写真の中で男が持っているファイルのタイトルとナンバーを照合する。
ガラス扉の向こうの紙製のファイルも、写真に写っているものと同じく、片端が波打つように歪んでいた。
「割る?」
「猫の頭が入るくれェの穴で充分だからな」
少々乱暴かとは思ったが、机の引き出しをあさって出てきたガムテープを拝借し、なるべく静かにガラスを割った。
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