なんでもない3日間の出来事
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と、それぞれの思惑を抱いて埃まみれの倉庫を出発したのが昨晩……いや、今日へと日付が変わった頃。
後ろでは、アタッシュケースを大事そうに抱えたペッシが、使いこまれてボヨボヨ跳ねるバックシートの上で眠ることも叶わず、酔いに顔を青くしている。
アタッシュケースの黒い取っ手には『私をここまで連れて行って』と言うように、住所と……バールで注文するようなメニューがひとつ記されたタグが、細いワイヤーでくくりつけられていた。
「この先、輸送ルートは大きく分けて2つ、陸路と水路。ヘリをチャーターするカネも無いし、目立つことも出来ない。空路は論外でいいよねー?」
古い本屋で拝借した地図を開くと、吐き出されたガムが一部分に張り付いて破れる。
メローネはわざわざ振り返ってペッシの額に一発、鋭く痛いデコピンで弾く。
ペッシは「オレじゃあねぇよォ!」と言いながら額を押さえ、メローネの指が示す道筋を目で追った。
「水路。鮒釣りのボートくらいはあるだろうけど、対岸はヒースの群生地で接岸が困難でーす。よって、」
大きな地図の上に置かれたポイントルーペの球面が、小さな端の名前を湾曲させて拡大する。
「このままこの道をまーっすぐ、ヨロシクねーェエ」
「回りくどいんだよテメェは!完結に言えクソ!!」
「ま、どんな道でも先は未知。死ぬときは死ぬしねぇ」
ギアッチョはスピードメーターのくぼみに置きっぱなしだったマッチに手を伸ばす。
プリントされたグラマー・ガールの脇腹で擦って火を付けると、ロイヤルハバナの仕舞われた胸ポケットへそれを拉致した。
メローネがシートの間からまた腕を伸ばしたので、また額を弾かれてはたまらないとペッシはアタッシュケースを盾に身構えた。
角張ったアルミ板の角を、メローネの指が撫でる。
「これの中身、いったい何だと思う?」
「…カネじゃあないのは確かだろ」
「クッソォ、随分信頼されてるもんだなァー」
スノー(白い粉)か、チョコか、グリーンの『乾燥煙草』か。
高額なものなら売り払って知らん顔するのに、と、固く鍵の閉じたケースをコンとこづく。
車体がまた大きくバウンドして、低い天井にペッシが頭をぶつけた。
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