なんでもない3日間の出来事
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アジトを出て、まる一日。
ローマから約二十五キロ、アルバーノ湖を眼下に見渡す、暗い暗いネミの森。
鬱蒼と茂る木々。高い山を二つに切り裂いて流れる谷間に、冷え冷えとした朝霧が満ちる。
突っ立っているだけでここの観光名所になってしまった、どこの郊外にもある巨大なテレビアンテナ。
こんなものでも『ウリ』になっていしまうのは、周辺に目に付くものが何もない、極度の退屈のせいだ。
任務とはいえ、海岸方面への遠征組は今頃、潮風をいっぱいに受けて波の上を滑る優雅な船旅の真っ最中だろう。
遙か彼方から点々と突っ立って送電線をたわませている鉄塔の天辺に、電線工事の作業員とは似ても似つかないブルーグレイのスーツの男が登り切り、脚をからませていた。
男は、しっとりと霧に濡れたスーツの胸の内ポケットから、カービン銃に付属するスコープを慎重に取り出し、片眼へと当てる。
「せっかちな奴らだな。十分も早いじゃあねぇか」
雫のついたレンズの先で、ヘッドライトがバウンドした。
近づいてくる車の気配を確認し、鉄塔に登っている男…プロシュートは、濡れた舌で下唇を舐めた。
「ようこそクソ野郎ども…ってな」
レンズの中に、えらく古いクーパーを一台捉える。
薄暗い霧の中でも、深緑のボディのボンネットから天井にかけて大きくユニオンジャックのペイントが施されているのが目立って解った。
夕闇に浮かび上がる満月を二つ並べたような、まん丸いライトの発光。
霧つぶに乱反射して、車体の前方がぼんやりと明るい。
車の進行方向、百メートルほど先で、赤い色がチカ、チカと光った。
相手に聞こえもしないだろう言葉は、独り言になる。
「いいぜ、イルーゾォ。タイミングを見計らって、『許可』だ」
手順の確認を口の中で繰り返し、集中したときの癖で、無意識に肺からできるだけ空気を追い出していた。
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